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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

第21回いっせい配信企画「創作同人2023年3月」

第21回いっせい配信

2023年3月21日(春分の日)に創作同人電子書籍の第20回「いっせい配信企画」=イベント名「創作同人2023年3月」が実施されています。この企画は配信する電子書籍ストアを問わず、作品を自主配信してる作家さんが配信日を揃えて、配信情報を互いに広め合うオンラインのイベントです。

 

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本日3月21日の午前の現時点で10人の作家さんによる11作品がエントリーしています。

 

「いっせい配信」企画は配信日より1〜2日の誤差内の期間(3月19日〜23日)は随時「飛び入り」可能です。まだ「電子書籍ストア」「電子データDLストア」で配信されていない自作のオリジナル作品があれば参加費無料、事前申請不要、「漫画」「小説」「イラスト集」「全年齢向け」「成人向け」等々のジャンルは不問なので、興味のある作家さんは企画サイトをご覧ください。

「まるかふぇ電書」の新刊は…

私(なかせよしみ)と砂虫さんの本を配信する「まるかふぇ電書」はあわせて以下の4冊の本が配信開始です。

砂虫さんの最新の本は先月の2月開催Comitiaの公式カタログ「ティアズマガジン」誌上での作家持ち回り漫画コラム「東京・好奇心・散歩」の執筆依頼が来て、その題材で「いちご狩り」に行ったこと機に「いちご」についてまとめたエッセイ漫画です。これまでテーマごとに食べ物について描いてきた「もぐもぐ」シリーズとはちがい、特定の食材に絞って語る形となったので、「『もぐもぐ』姉妹版」というシリーズ名の「第一弾」としました。
「竜飼い」シリーズの24話は、フォースの術の謎を探りに宗一郎たちが父親の墓所を訪ねに行くエピソード。半月村が術を仕掛けてその行く手を阻み、物語はさながら「冒険クエスト」の様相を呈します。また一方では、宗一郎と「竜」との関わりや、公平の札師として開眼など、新たな面が表出される回でもあります。

私の方の新作も2点で、一つは昨年末のコミケで発行した「科学部部長のエリカさん」の「外伝」と銘打ってる読み切り短編のSF漫画。一つの発明品の発達が現代社会の中でたどる経緯を描いたお話です。
もう一つは砂虫さんの「竜飼い」シリーズについて私がまとめた「解説漫画」…つまりガイドブックです。今年の1〜2月にツイッターに投稿した連作を2月のコミティアで1冊の「コピー本」としてまとめまて、それを電子書籍化したものです。「竜飼い」シリーズを未見の読者のみならず、これまでシリーズを購読されてきた読者も、物語内世界をより深く理解できる一助になるだろうと手前味噌ながら思う一冊です。

配信ストアの拡大

うちの書籍の配信先については、お気づきかもしれませんが、
これまで作家が直にデータ登録することで作品配信できるところ以外のストアにも手を広げました。これは「配信代行業者」として活動しているBookLiveの「BLIC出版」の力を借りたものですが、あいにく4冊中の「いちごばたけでもぐもぐ」と「竜飼いの読み方教えます」しかBLIC経由での「3月21日配信」のスケジュールに載せることができませんでした。しかし、最終的には4冊すべてが全部で125のストアでの配信される予定です。

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実は「配信代行業者」の利用については以前より興味を持っていたのですが、Kindle等には自分の手で直に配信するほうがいろいろ都合がよいので、そちらとの兼ね合わせに頭を悩ませていました。
代行業者で最も活発に活動されている「ナンバーナイン」にも一度問い合わせたのですが、「特定のストアでの配信を除外するには、そのストアへの『取次ぎ』を他のストアを含めて除外をする必要がある」との回答でした。
ところが昨年の9月のコミティアで「BLIC出版では個々のストアごとに除外指定した上で配信代行がお願いできる」という情報を入手。(実は「最近のナンバーナインもそういう体制に変わった」という話を一昨日MGMで知りましたが…)
それが可能なら、いま配信している電子書籍もすべてそのまま配信先ストア数の拡大ができる。それをやって損なことは何一つないわけで、その9月のコミティアの会場でさっそくBLIC出版とコンタクトをとり、話をすすめました。

その結果、うちの電子書籍のBLIC出版配信は10月の末からはじまり、

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11月半ばから毎週7作品ずつのペースですすみ、明けて今年の昨日3月20日には成人向けの4作品を除いて、私と砂虫さんが電子化した全作品が日本の主だった電子ストアのほぼ全てで見られるようになりました。

残った「成人向けの4作品」については、BLIC側との調整で少し時間がかかりますが同様に配信拡大予定です。そこらの話を含めて今回の配信拡大については今年中に「創作同人電子書籍のススメ」のシリーズでまとめてレポートしたいと思いますので、詳しい話はしばらくお待ちください。

電子自主配信と自主出版にまつわる昨今

このところ毎回このブログに記してます「Kindle無料マンガ(インディーズマンガ)」の分配金の話ですが、昨年夏に臨時に一月2000万円の分配がアナウンスされて以来「月額2000万円」が頻発されるようになり、今年に入ってからは「2200万円」や「2500万円」といった数字が天井知らずの登り調子のように聞こえてきます。
以前から私はこの「分配金」を「出所不明な」と述べていましたが、実はこれはamazonアフリエイトプログラムの一環とみなすことで捻出されているお金だと…うすうす気づいていました。
とはいえ、「いくら捻出されるか、いつまでやるか」はアマゾン自身も公言してはばからないように「アマゾンの胸先三寸で決まる仕組み」であり、また総額が大金でもその恩恵に預かれる作家とそうでない作家の落差は大きい。「大金獲得を夢見て挑戦したい」あるいは「収入は得られなくてもなるべく多くの読者に読んでもらいたい」という作家さんでない場合は、諸手をあげてのおすすめができる配信システムではない、…といった評価はいまも続く状況です。

ちなみに、アマゾンは最近「縦スクロール漫画」専用のページ「Fliptoon」というものをはじめましたが、

「縦スクロースなら『FLIP(めくる動作)』はしないから、名前をつけるならむしろ『scrolltoon』じゃないの?」…というツッコミはともかく、
どうやらアマゾンは「日本漫画での流行なら「なんでも取り入れる!」という姿勢にあって、そのうち「ボイスコミック」もやりかねないなぁ〜、などと想像する次第です。

一方で、同人誌イベントの方の昨今ですが…
コロナの影響をうけて規模が縮小した会場イベントにあわせ、出品側としては持ち込み部数を絞っての参加を心がけてはいるものの、
昨年末のコミケでの売り数はその絞った数字を大幅に下回りました。ところが逆に今年2月のコミティアでは予想を大きく超えたものの、まだまだコロナ前には届かず。
まだまだ読みにくい状況が続く中で、来たる5月にコロナの感染症分類が5類移行するのに合間って、まだしばらく見通しがつきにくい期間が続くと思われます。

 

「創作同人2022年11月」レビュー

2022年11月18日に第20回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2022年11月」に今回は現時点(11月4日)で9名の作家さんによる11書籍がエントリーしています。  

togetter.com

 私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回「いっせい配信」のエントリー作品はこちらです。

創作同人電子書籍のススメ 2022年マンガ電子配信のはじめかた 多少の問題が起きても俺が責任をとる!」という大人はどこに行った?…を考える漫画 竜の飼い方教えます23 おうちねこじかん
画像クリックでサンプルページが見られます

今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

2022/11/04

<紹介>
「さぁ、次はどこにゆこう」

大木にのんびり腰をかけていた羊のメアリーはその大木に雷が落ちたのを機に、木の幹をブロック材に変え、ブロックで組み立てた飛行機に乗って空を飛んでいく。

スクラップ&ビルドを繰り返いながら旅するメアリーの道中を描くロード漫画。2022年9月の開催のCOMITIA141にて「まり王」より発行の自主出版誌のフルカラーバージョンを日本語&英語併記で電子書籍化。5Pのアートイベント感想漫画「ブライアン・イーノ アンビエント京都」も収録。

<レビュー>

乗り物をつぎつぎと作り変えながら旅を続けるメアリーさんの道中をみるだけで楽しい。加えてカラフルな画面構成と連続した場面展開で、漫画なの一本のアニメ作品を見たような感覚になる1冊。
船の帆を作るのに自らの体に生えた羊毛を紡いで糸を作り、布を作るという展開はなかなか衝撃的。

<蛇足>
風力で動く車を私は「風力発電で動く電気自動車」と思っていましたが、コミティアで作者さんに直接尋ねたら、これは風力で作った回転運動をクランクで直接車輪に伝えて走っている車だそうで、そんな発想もすごく楽しかったです。

羊のメアリー大冒険

2022/11/05

<紹介>
「全星皇 ジワソス陛下!やりました…」

ジワゾス軍の獣兵鬼 念力ナメクジはタイムコントローラーの時間停止で爆裂戦隊の動きを封じた。さらに巨大ロボ ビッグチャレンジャー にも深刻なダメージが。
しかし、その戦隊のピンチに飛び込んで来たのは誰も見たことがない飛龍型のロボット。

父母兄弟妹の家族5人が地球を守るために戦う戦隊ヒーロー・アクション漫画の第3巻。電子書籍描き下ろし作品。

<なかせ評>
乗鞍家の一同も存在を知らなかった新たなヒーローが登場。しかし、その正体は意外。
さらに彼がもたらした貴重な情報を敵側もなぜか同時に把握していて全星皇 ジワソスも自ら動き出す展開に。謎の解明と大波乱となるであろう次巻を期待させる伏線満載の巻。

<蛇足>

今回は表紙をカラーで描かれていて、ストアの販売画面や購入者のアプリ内書架の他の本と並んでも遜色ない感じでした。
乗鞍家の五人と巨大ロボがピンチに陥るまでのプロセスに父と母の夫婦喧嘩が絡んだ展開になっていますが、絡まり方が少々弱く、喧嘩の描写もかなり省略。作者がこの夫婦を喧嘩させた意図が伝わらないことが気になりました。

爆烈戦隊チャレンジャーズ3話

 

2022/11/06

<紹介>
「元の宇宙に戻る方法ならあるぞ」

並列する宇宙では物理法則までもが敵対する可能性に気付かされたニュート。美由の身を案じる彼にプロンテスの「涼子」は一つの提案を示す。

「無限工作社」の謎を追い宇宙を駆けるジャーナリスト鎹涼子を描く長編ハードSF「人類圏」シリーズの「氷の惑星」編の第18編。付録「古典とは何か」も収録。

2022年9月コミティア141にて「人類圏」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
シリーズを通して愛らしいバイプレイヤーに徹していた両生人類のニュートが主人公を勤める話は初めてではないだろうか?表題の「宇宙の騎士」もどうやら彼のことらしい。美由を守るために難しい考察を重ね、事態に立ち向かおうとする彼はなるほど、なかなか凛々しく頼もしい騎士だ。

<蛇足>
「超限窓」によって多元化する宇宙の「不一致」と未熟なAIの認識による「不一致」をからめて展開する話が興味深い。 昨今は流行りのAI作画により「ラーメンを手づかみで食べる女の子」が存在する宇宙が創出されたりしているので、とても実感できました。

宇宙の騎士

 

2022/11/07

<紹介>
「驚いた。お前 絵が書けるのね メアリ」
シェパード家の老夫妻は雇っている住み込みメイドのメアリに絵心があることに気づいた。メイドの才能を引き出すのは主(あるじ)の仕事と、彼らはメアリに画材や教本をあたえたら…。

ヴィクトリア朝時代の英国のお屋敷の主人たちとの交流をメイドの半生の物語でつづる短編読み切りマンガ。(40p)

2011年10月にエインターブレーンより発行の雑誌「Fellows!」20号にて発表の作品に「あとがきまんが」(4p)および村上リコ氏による解説文(2p)を加えて「突撃蝶々」より2022年8月のコミックマーケット100にて発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
メアリを思いやる老夫妻。老夫妻に感謝し、思いを返し、また絵に没頭するメアリ。そして、メアリが絵に描き出す空想的で優しい世界。それらをすべて包み込むように描く山名さんの優しい筆致とストーリーテリングが圧巻。

メイド好きな人はもちろん、とくにメイドに興味がない人たちにも手にとってもらいたい。読めば必ず優しい気持ちになれる一冊。

<蛇足>
ヴィクトリア朝時代研究の第一人者である村上リコさん(著書『図説 ヴィクトリア女王の生涯』)からアイデアと参考資料をいただいた上に巻末の解説まで寄せていただてるのは素敵。その観点から見ても貴重な一冊でもある。

34Pと35pを見開き表示するとページの「継ぎ目」に若干ズレが生じているが玉に瑕。技術的にこれを補正できるなら、ぜひここは直したいところ。

メアリのカンバス

 

2022/11/08

<紹介>
「アサギがいるならここだと思う」

始源竜の体内で穴に落ちたイサギはいくつもの宙晶が壁に嵌った空間に出た。宙晶の中に生き物が入っているようだが…。一方で漂流者たちとともに居住区の部屋に閉じ込められたライラは…。

どんな言語もすぐ習得してしまう能力の少年が流れ着いた見知らぬ宇宙域で双子の妹を探し求めるSF冒険漫画第7巻。 2022年4月3日に開催の名古屋コミティア60にて「空風館」より発行の自主出版本を電子書籍化。

<なかせ評>
デア・ヌゥル全星に宙脈の異常活動で退避指示が出る。その陰で暗躍する神官長とルールー。同じトカゲ頭なのに彼らとは別行動をはじめる「地上種」たち。一方でイサギは衝撃的なものと遭遇する。手に汗を握る展開で物語の謎は深まる。

<蛇足>
一つ前の巻ではこの先、イサギとライラの物語は分岐すると思ったが、2つ前の巻の最後のシーンでイサギが始源竜に入った時にプルートが残していた置き土産をライラが回収していることには気づきませんでした。それを足がかりに2人は意外に早く再び合流しそうです。

CHAOS×COSMOS - LOST CHILD in the ASTROVEIN 07

2022/11/09

<紹介>
「手がかりを落として行ったぞ この紋所は…」

野良乃介との斬り合いを不利と見るや逃げ出す曲者。刀を鞘におさめる野良乃介は足元に転がる印籠を手にするが…。

超展開の2ページ構成の時代劇(?)ショートギャグ漫画集の第5弾。 2021〜2022年のイベント参加ペーパーに掲載の8編と描き下ろし1編を収録。2022年8月に開催のコミケット100にて「電脳吟遊館」より発行の冊子を電子書籍化。

<なかせ評>
毎回、時代劇の重厚なシーンを思わせる1ページ目をめくると2ページ目には想像を超える別世界が広がる作品。 即落ち展開のペーパーまんがをイベント毎に新ネタで読ませてもらえるのは大変な楽しみでしたが、冊子にまとめるとテンポよくサクサク読めて心地よい。

<蛇足>

個人的には「印籠編」「起死回生篇」のネタが大好き。

素浪人・野良之介 巻之六

2022/11/10

 

<紹介>
「読んで私に聞かせてください」

妻を放ったらかしで参加した呑み会からの帰りの手土産に夫は妻が読みたがっていた本を持ち帰って。その本を夫が朗読するように妻は要求するが…。

「本」「読書」をテーマに描く短編マンガ集。 2021年〜2022年にかけての東京&新潟COMITIAのエア参加および「いっせい配信企画」の参加に伴いオンライン公開した作に書き下ろし作を加えた「読書子に寄す」シリーズ8編、および百合SF短編「有楽町で逢いましょう」(24p)&書き下ろし1pマンガ2編を収録。

<なかせ評>
「読書」というテーマに様々な切り口で、独特の物語や語りを見せる漫画集。切り口および表現の多様さから作者の「書物」に寄せる想いの深さが感じられ、圧倒されます。 タイトルを「pt1.」としているところを見ると、このシリーズは続く模様。この先、さらにどのようなバリーションが繰り出されるか、楽しみでしかない。

<蛇足>
私ごとですが、読書については、「AIと読書」のアッシュに私自身は近いんじゃないかな?と思いました。実際ここ数年、じっくりと書物を紐解く機会がこのレビュー書きのための読み込みぐらいしかありません。

33pの突発マンガについて…すみません、蝿の王は「ベル」ゼブブと覚えていたので「バアル」とはなんのことかちょっと気づきませんでした。

読書子に寄す pt.1

 

2022/11/13

<紹介>
「『オーロラ』 …こんなに美しいものが現実に存在するわけがない。」

人類最後の居場所のドームの金属天井に投影される記録を元に再現された『空』の立体映像を管理する職務のレオはドームの外の空を見たことがない。都市の外でオーロラが見れる噂を聞きつけたレオは実物を見に都市を離れ荒野を行進する団体と行動を共にするが…

「生命の定員」があるシェルター都市を舞台に描かれたSF・ジュブナイルデストピア小説集。「パレードが終わったら」「Butterfly aquarium」「廻送」「Vermillion」の4編を収録。 2022年10月に開催の第八回文学フリマ福岡にて「すとれいきゃっと」より発行の文庫本をPDF化。

<なかせ評>
ジュブナイルというカテゴライスは作者のあとがきから引用させていただきましたが、人の生き死にが物語の大きな要素で、なかなかハードな世界観の作品集でした。

限界世界での生命観を登場人物たちの等身大の目線で描く意欲作だと思いました。前回読ませていただいた「ハイドアンドシーク」に比べると、状況描写も幾分充実され、読みやすくなっていると感じましたが、まだ、「これはどういう状況?」「この者たちは何が目的で行動してるの?」と思う箇所も散見されました。

たとえば、表題の「パレード」とは市民権の「有効期限」が切れた後に安楽死を拒否した者たちがドームを離れてオーロラが見える場所に向かって行進している行列を指すのですが、どれくらいの規模の行列かの描写は見当たらず。オーロラが実際に見えることを信じている者もごく一部のようなので、死以外の結末がない集団で多くの者が何を目的に「行進」しているのか分からず仕舞いでした。

<蛇足>
巻末のあとがきによると4編で一まとまりの扱いのようですが全編とも登場人物の重複はなく、互いに干渉しない物語。一応、2話目は1話目にアイテムとして出てくる蝶のロボットについての製造秘話、3話目は1話目の「行進」とは真逆の「安楽死」についてのお話…という解釈はできましたが、…4話目はもしかして3話目に初登場しているAIについての話…ということでしょうか?

もしかすると4編を通して、もっと大きな関連性と物語構造を作者は提示したかったのかもしれませんが、すみません、私は読み取れませんでした。

あとがきによるとこの作品は「架空の小説家・春田穂稀(はるたほまれ)」の書いた小説…とのことですが、作家本人の作とするのではなく、架空の作家を立てている意図も今ひとつわかりませんでした。

前回の「ハイドアンドシーク」の時もそうでしたが、作品の配信手段はPDFデータですが、「縦書き」に読ませるために文章を一行ずつの文字を一個ずつ行列置換して並べ直したファイルになっています。もしかするとネット小説を書いている作家さんの間では普通に使われている形式かもしれませんが、文章作品を電子化する利点は文字サイズを変更したり、文中の特定の単語の意味や、他に同語が使われている箇所を検索したりできることがあると捉えている私にとっては、それを難しくするこの仕様の目的は謎です。

パレードが終わったら

2022/11/17

<紹介>
「寝ながらまんがが描けるのだ」

主人公「犬」(キャラ名)はガレージからガチなDIYに使える電動ジグソーなどを発掘。さっそく端材を使って作ったのは、寝そべった姿勢で胸の上でyPadを支えるフレーム。
漫画作業用ツールや本棚の制作の補強。バイクでの大荷物の運搬。漫画作画用の3DCG制作。窓用エアコンの修理。バイク用ヘッドライトを寸法の違う電球で玉替え。工夫と成り行きのDIYライフ。

妄想美少女と会話しながら身の回りの出来事をドット絵(ピクセルアート)描写(一部は3DCGで作画)と解説で綴るエッセイ漫画シリーズ第8集。漫画の手帖事務局より発行のフリーペーパー「漫画の手帖B6録」に2021年1月から2022年10月にかけて寄稿した原稿に各話解説をフルカラーで添えて総集電子書籍化。英訳版も収録。

<なかせ評>
寝た状態でタブレット作画ができるツールは面白い。どういう使いご心地かに興味がひかれる。(作者は腰を悪くしてらしたが、これで負担を軽減できるのだろうか?)
もっぱら「ありもの」の材料を使い、見た目や収納が二のつぎの工作の自由さがよい。

<蛇足>
窓エアコン擬人化少女が器内に溜まった水を漏らすシーンがなかなか癖が強くてよい。

[Jp/En]ピクセルデイズ8: Days of Drawing Pixel Days

2022/11/19

<紹介>
「失業中だし こんな薄っぺらい壁のシェアハウスで我慢するしかない」
隙間風の吹く狭い部屋で隣部屋の坊やの咳を聞きながら私は目覚める。いまは2050年。地球温暖化の対策が十分できなかった未来。

世の中が「循環社会」を築こうぜ!という流れになることを目標に制作された地球環境問題や未来のことをテーマに制作の一般公募マンガ同人誌。年2回ペースで紙&電子にて定期発行の「第4号」。執筆陣:秋元なおと , ハイムーン, つやまあきひこ , くりもとりゅう , はらだなおみ

電子書籍と紙本は発行。電子は売上の50%と紙は売上の10%を日本野鳥の会自然エネルギー問題対策」に寄付。
発行:「みらいみたいなマンガ集」制作部(http://hitotu.main.jp/MMM/) 

<なかせ評>
地球温暖化防止やSDGsについて多彩な観点を集積している点では評価は高く、意義のある試みだと思います。ただ、読者にアクションを起こさせつためにはもう一段踏み込んだ説明やリアルな情報の呈示が不足しいているように感じました。
秋元さんが手がけた地球温暖化対策ができた未来とできなかった未来の比較漫画も面白い試み。「対策できたらハッピーな未来がくる」という状況でないのはリアル感はありますが、「対策しよう」というモチベーションを鼓舞するのは難しいかもしれません。

<蛇足>
「循環社会」を目標に掲げている本ですが循環のプロセスに「消費」と「廃棄」があることがしばしば失念されている点が気になりました。随所に「大量消費」や「使い捨て」を一絡げに批判している記述が見られます。循環に寄与する「消費」や「廃棄」なら、奨励することがむしろ再生産業が発達等に寄与する観点は忘れてはならないと思います。

みらいみたいなマンガ集2022秋冬号

 

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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。

第20回いっせい配信企画「創作同人2022年11月」

第20回いっせい配信

2022年11月3日(文化の日)に創作同人電子書籍の第20回「いっせい配信企画」=イベント名「創作同人2022年11月」が実施されています。この企画は配信する電子書籍ストアを問わず、作品を自主配信してる作家さんが配信日を揃えて、配信情報を互いに広め合うオンラインのイベントです。

 

https://64.media.tumblr.com/2dc36317cf02f3dc28293ba3ad71f5d4/d37429860dc88c5e-cd/s1280x1920/10eb53a3d5adf2fcc8741ec92bae1a0558e5c7f0.png

本日11月2日の現時点で8人の作家さんによる9作品がエントリーしています。

「いっせい配信」企画は配信日より1〜2日の誤差内の期間(11月1日〜5日)は随時「飛び入り」可能です。まだ電子配信されていない自作のオリジナル作品があれば参加費無料、事前申請不要、「漫画」「小説」「イラスト集」「全年齢向け」「成人向け」等々のジャンルは不問なので、興味のある作家さんは企画サイトをご覧ください。

「まるかふぇ電書」の新刊は…

私(なかせよしみ)と砂虫さんの本を配信する「まるかふぇ電書」はあわせて以下の4冊の本が配信開始です。

砂虫さんの猫本はコロナで変わった「ねこと人間」の「うちで過ごす時間」を題材に9月のコミティアで出したコピー本を軸に、新作を加筆してまとめた11月コミティア用のオフセット印刷本を先行して電子配信したものです。猫本を出すのは1年振りですが、さらに緻密になった砂虫さんの猫描写にご注目ください。

私は一年半ぶりの「創作同人電子書籍のススメ」シリーズ。以前から、現在の事情に合った「電子配信ビギナーズ案内」を作成したいと思っていたのですが、電子配信活動を通して作家が求めるものは様々なので一つの「入門」にまとめるのは至難のわざ。そこで、多くの作家がすでに用いている配信方法で特筆すべき方法を6つならべて解説しました。
これに、さらに9月のコミティアでコピー誌で発行した前回7月の際に遭遇したKindleからリジェクトされた話の漫画も合本しましたので、今日びの電子自主配信事情のアウトラインを確認できる一冊になっていると思います。

もう一冊、Kindleインディーズのみにて配信の本はツイッターで連投したマンガのまとめ本。ツイッターでの活動こみに実験色の強い書籍ですが、自分としてはまじめに書いている内容で、この先この形式で描く漫画も一ジャンルとして開拓したいと思っています。

電子自主配信と自主出版にまつわる昨今

電子自主配信をとりまく状況のここ3ヶ月の大きなできごとを毎回このブログに記してますが、
前回のブログでは7月時点で1300万円に達したと書いた「Kindle無料マンガ(インディーズマンガ)」の出所不明な「分配金」が、その直後の8月に700万円も増額され、その話を私もツイッター漫画に描きました。

このツイート漫画は該当の作家さんご本人のリツイートもあったため大きくバズり、「Kindleインディーズ無料マンガ」は突如として大きな夢の舞台という認識が広まったように思われます。それついては「いや、ここで稼ぐことはそれほど簡単なことではないよ」という内容の漫画を今回の「創作同人電子書籍のススメ」にも書いたのですが…
この該当の作家さんはその後もKindleインディーズでの読者数を増やしている模様で、先日はついにDL数が200万を突破したと報告されていたのを見かけました。その数量から推定される収入は2000万円を超えるので、その金額と、それを「無料マンガ」で「個人」が習得したという情報は間違いなく、今年のこの方面での最大のセンセーションでしょう。

同人誌イベントの方の動向としては、コロナの感染者数の波が来たり引いたりは繰り返していますが、それに伴うイベントの「急な中止」といった事態は耳にしなくなりました。
私自身も8月にコミケ、9月に東京のコミティアに参加しましたが、入場時の検温プロセスと会場内でのマスク着用の義務付け(それとコミケのスタッフによるサークルチェック代わりの封筒提出)以外はコロナ以前となんら代わりない、穏やかな開催となっていました。

ただし、参加者の人数は大幅に減っている模様で、新刊の売れ行きは想像するほど落ち込まなかったものの、以前の数量には到底及ばず。以前の賑わいを取り戻すには年単位で待つ必要性があるように感じました。
当分の間は電子配信の軸足をおいての創作活動にはげみ、紙の本は刷り数と早期入稿での印刷費を抑えつつ活動していくことになると思います。

 

「創作同人2022年7月」レビュー

2022年7月18日に第19回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2022年7月」に今回は現時点(7月18日)で10名の作家さんによる11書籍がエントリーしています。 

togetter.com

私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回「いっせい配信」のエントリー作品はこちらでした。

睡眠時空での加賀理さん 竜の飼い方教えます22
画像クリックでサンプルページが見られます

 

今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

2022/07/18

<紹介>
「あーっ知ってる!わざとぶつかってくるオッサンでしょ」

三途川獄(さんずがわたけ)はどこにでもいる時代に取り残された普通の「バーバ(お婆ちゃん)」。彼女の大事な孫娘とその友達たちが「ダンガンマン」と名乗る自分勝手な大人が引き起こす事件に巻き込まれた。
孫に救いの手を差し延べる祖母だが、しかしてバーバの正体は…。

仏教神話の地獄伝説を交えた変身ダークヒーロー(ヒロイン?)が悪をこらしめる、アクションオカルト読み切り漫画。
第19回いっせい配信「創作同人2022年7月」合わせの電子書籍書き下ろし作品。

<なかせ評>
話の流れは単純明快な勧善懲悪ストーリー。しかし、ヒーローアクションものとして必要なポイントがしっかり押さえられている。悪役の懲罰シーンは悪事に見合う凄惨さが描かれていました。
バーバはお経を唱えて変身し、変身後はお経が書かれた全身タイツ姿という微妙なとりあわせ…それなのに変身シーンもバトルアクションも凄くかっこいい。
表紙絵は作中のバーバの顔アップシーンを着彩しただけの絵ですが、画面構成もあいまってとてつもないインパクトを醸し出しています。電子配信ストアのサイトでは同日に配信された作品の表紙絵が一覧表示されますが、その中で群を抜いてひときわ目を引きました。

仏教を題材にした漫画を多く手がけてられる作者さんで、この作品でもそれをヒーロー設定に大きく盛り込んでいます。悪役の設定も自分を「正義」と思い込み、ヒーロー名を名乗ってヒーローソングを歌いながら悪事を働く、という予断がない作り込み。
作者の熱い思い入れが伝わる作品です。

<蛇足>
あえて一点だけ難を言うなら、パワーバランス的にヒーローが悪役に少し勝りすぎていました。
超常的な力で悪役の悪事をすべて帳消しにしている点は良かったのですが、悪役との直接戦闘が一瞬すぎてちょっと残念。もう少し、ヒーローと悪役の力量が拮抗させて、両者のつばぜり合いを見せてほしいと感じました。その方が多分ドラマ的に盛り上がり、悪役の懲罰シーンを読者も身近に感じられたように思います。

バーバ

2022/07/19

<紹介>
「うちの犬はでかすぎてもはや身動きも取れない」

お絵描きをしていると猫のように膝に乗って邪魔しにくるコハちゃん。
しかし、その体重は18.5kg。

ボーダーコリーの「小春」との暮らしを描いたシリーズの第3集。
2020年〜2021年にかけて小春が1歳〜2歳3ヶ月の話を1〜2ページ漫画で9編収録。
2022年5月のCOMITIA140にてUMIN’S CLUBより発行の自主出版誌を一部カラーページ化して電子書籍化。

<なかせ評>
丁寧な描画で愛犬との暮らしの日常、気づき、事件を描くペット漫画集。
すっきりした描線の絵にも小春に寄せる作者の愛情が宿っている。
犬の距離感と体温と重量がダイレクトに読者に伝わります。

<蛇足>
もう少し客観的な情報も記載した方がいいのではないかと思う箇所も。
例えば最後のページの肛門腺の世話で、ほぼ毎日やっていたら獣医に「やりすぎ」と指摘された件。「やりすぎる」とどういう「弊害」がおきるのかを欄外の文字書きででもいいので、一言説明があれば読者の知的好奇心も満たせる漫画になるだろうな、と思いました。

本日も小春日和。

2022/07/20

<紹介>
「聴いても良さを理解できないまま通り過ぎてしまいそうで」

高校生の彼はCD屋でジャケットが気に入っても購入する勇気が湧かなかったCDがあった。しかし、クラスにそのジャケットを手にしてCDに聞き入っている女子がいた。 数年後、成長したその女性と再会した彼は付き合うようようになり、2人一緒に初めてそのCDの音楽を耳にする。

2〜6pの短編漫画集。 新潟・東京・みちのくのコミティア参加の際のサークル「千秋小梅うめしゃち支店」無用配布ペーパー用に描き下ろし、および、新潟コミティアの50回開催記念本や合同誌「叙情派ひとつ(発行:メタパラダイム)」に寄稿の作品を7編収録。

<なかせ評>
実在のCDや漫画をベースに想像を広げたエピソードや会話の作品も数点あり、どちらかと言うと作者の個人的な心象風景中心に描かれたような作品集ですが、読者の共感も呼びおこします。
特に同人イベントのサークル参加者が主人公で、「サークルスペースからビッグサイトの天井を見上げる」という設定のお話「天井」はサークル参加経験者なら100%共感できるでしょう。

作家さんが自身のインナーワールドをどのように読者に伝えるかという試みが様々展開されていて、まとめて読むのは面白かったです。

<蛇足>
本の冒頭の「肌になじむ場所」は、2015年に発行された「A FROZEN GIRL A BOY IN LOVE」をみちのくコミティアで販売時にペーパーに載せた漫画とのことで、実は「A FROZEN GIRL…」を読んでいないと理解が難しい。
「A FROZEN GIRL…」は2017年に配信された電子書籍「Long Long Journey」に収録されているので、あわせて読むことをオススメします。

うめしゃち握り

2022/07/21

<紹介>
「人間はおろかだ 砂丘のデコポコリンのためにバスに片道40分揺られるとはな」

位置情報連動アプリゲームのレアキャラを求めて砂丘に訪れた「さらこ」と同行する一見人間だが実は干物の化身「するめさん」が繰り広げるカンバセーション漫画。

本編15ページ&オマケ漫画4ページの2編構成。 2022年5月のコミティア140にて「突撃蝶々」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
さらこさんの酒のアテだったスルメイカが超常現象で人の姿になり、さらこさんにつっこみを入れながら2人でアプリゲームで砂丘をウロウロする不思議なお話。

なんで、こんな漫画がが生まれたんだろうと思ったら巻末のあとがきの「もともとこれはレポート漫画」という説明で謎は氷解。
なるほど、「さらこさん」とはすなわち「沢湖さん」。スルメもまたイカを自画像に描き、イベントでサークルから発行する「するめ速報」とタイトル書きする作者さんご本人。これはゲームアプリにつられて砂丘に行きながらアレコレ考える自分とそれを冷めた目線で客観視している自分という二人連れ道中記なんですね。

<蛇足>
実は私もいま、頭の中に湧いた「対話」のネタを一つ抱えていて、これをどうすれば漫画にできるか頭を捻っているところですが、その優良解の一つを山名さんにしかできない形で見せ付けられているようで、感服しました。

砂丘するめさん

2022/07/22

<紹介>
"Flat rate 100 yen , without regard to distance"

"Kaka Island" is a ward of the "Island Ward System" in the 22nd century , self-sufficient inside with local production for local consumption food and renewable energy . This book Introduces the vehicles used for transportation in this ward.

Science fiction manga written like an essay .
A self-published magazine published by the circle "Metaparadigm" in 2011 containing 7 manga published in "Comic Fantasy" (Shiro Enomoto's private edition) and other drawings .
Digitized in 2015 and translated to English in July 2022.

「この乗り物は距離に関係なく1日百円程度です」

22世紀に地産地消の食料や再生可能なエナルギーを自給自足する「島区」のひとつ「カカ島」。ここで移動手段として用いられる乗り物を紹介。

エッセイ風SFマンガ。『コミックFantasy』(榎本司郎私家版)に掲載のマンガ7編にイラスト絵を交えて収録した2011年2月にメタパラダイムより発行の自主出版誌を2015年に電子化、2022年7月に英訳版を配信。

<なかせ評>
「カカ島区乗り物ファイル」の英訳版

https://m.media-amazon.com/images/I/51bQCTrcvgL._SY346_.jpg 

https://www.amazon.co.jp/dp/B00V7KCU82

 

人力と再生可能エネルギーで中距離および遠距離の移動をこなすため、様々な装置を考案されている作者さん。更にそれを彩り豊かなストーリー仕立ての漫画で披露されていて、底知れない情熱が伝わってきます。

効率的なエネルギー活用と情報機器の連動による将来的な可能性を示唆するアイデアも多く、考えさせられます。また、少しの「不便さ」を受け入れることで持続可能なシステムが構築できる面も示しているのも評価が高いです。

<蛇足>
耐久性とかメンテナンス面を考えると幾分「これは大丈夫?」と思えるアイデアもあり、ちょっとファンタジー成分強い目の作品のように感じる読者も多いのではないかと思います。
でも、実はこの作中に出ている異様な形状の自転車を一台、この作者さんは実際に作られて使っていることを私は知っています。それだけでこの本に示されているアイデアの「現実味」が大分違って見えてくるので、そういう情報も盛り込んだ方が作者さんの意図に沿うのではと思いました。

英訳については前作の「生活読本」と同様に「日本語でもともとなにが書かれていたか」を考えないと話の流れがみえない部分が所々ありましたが、今回は比較的読みやすくなっている気がします。

一点、改めた方がいいと思ったのは「鉄」の英訳。「Iron」と書かれていますが、これは鋳物などに使う炭素含有量がひくくて脆い鉄のことです。乗り物やレールを作る際に使う鉄は炭素含有量が多くて強靭な「Steel(鋼)」です。

(このレビューをご覧になった作者さんは7/23日に「iron」を「steel」に修正した改定バージョンが登録された模様です)

Eco-friendly Vehicles in Kaka Island in the 22nd century (English Edition)

 

 

2022/07/23

<紹介>
「スティクスと無限工作社の間で交わされた契約の中身を知りたいの」

2人の涼子と2人の美由たちの会合がはじまった。 スティクスと対抗するためプロンテンスの涼子は自分の持っている無限工作社の情報を提示するというが…。

「無限工作社」の謎を追い宇宙を駆けるジャーナリスト鎹涼子を描く長編ハードSF「人類圏」シリーズの「氷の惑星」編の第17編。付録「歴史の読み方」も収録。
2022年2月コミティア139にて「人類圏」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
同じ顔同士で2ペアの会合がはじまる。
その裏でリカオン、プシュケそしてニュートがそれぞれ別個に暗躍する。個々のキャラクターを追って心情や行動目的の伏線を敷きまくる回で、続刊の展開への期待が大いに高まります。

「デート」と称して2人で温泉につかっているプシュケとニュートの絵面がかわいい。

タバコの「禁煙」というものが成立した背景を論じた巻末付録の「歴史の読み方」の文章も大変興味深かい。

<蛇足>
タバコと健康の論議については実は私も述べたい話があります。
日本では20歳未満の喫煙が法的に禁止されていますが、実のところ喫煙による身体的ダメージは20歳の前を後ではなんら変わりはない。ただ、タバコには依存性があり、これに打ち勝つには強い自我が必要で、それが育つ前の20歳はタバコから遠ざけるべき…という論で決められた法です。 しかし、ご存知の通り昨今、日本ではその「成人年齢」は引き下げられ、自らを律することができる自我は18歳で確立するとされています。それなのに喫煙年齢は20歳のまま。
この決まりには「健康」などという論理的な理由より歴史的な経緯の方が働いていることは明確で、この結論ではこの本の作者さんと同じではないかと思います。

地球文書

2022/07/24

<紹介>

「なんだそれ?」「これは抗体です。ワクチンビーム」
感染症の波に流されそうになっていた魔王は魔法使いルーコよりワクチンを受け、波より一段高い足場(抗体)を手に入れた。

コロナおよびワクチンを題材に描いた漫画を中心にあつめた作品集。
収録タイトル
1,毒と薬 6p
2,涅槃旅行 11p
3,抗体台地 12p
4,子供時代 4p
5,わく珍師匠 10p

2021年にマンガ投稿サイトに掲載の作品、2022年5月の関西コミティア64にて「まり王」より発行の自主出版誌収録作品を全ページカラー化して収録。日本語版と英訳版を合本。

<なかせ評>
独特の解釈と表現でワクチンや抗体を解説した作品中心に構成された作品集。 細かい説明はないので「これは一体何を表現してるの?」と首をかしげる部分もありますが、全体的に彩りが豊かで、ページを繰っていくだけで楽しい気分になれます。

魔王が友人の亡き後、その幽霊とともに旅行して49日間をすごす「涅槃旅行」は風景描写が細やかで美しく、心にしみました。

「抗体台地」ではワクチンを拒む反ワクチン派が知らなうちにワクチンを打っている者に助けられる(知らないから恩も感じてない)状況が描かれていますが、それを見て「よかったね」と微笑む魔王が好印象。

<蛇足>
「毒と薬」を構成する3つの2p漫画はマンガ投稿サイトではそれぞれ見開きに表示されていましたが、Kindle版ではページ繰りを跨いだ形になっています。見開き3枚の方が3作を対比しやすかったので、台割りを調整したほうがよかったんじゃないかな?…と思いました。

魔王のホライゾンシネマ 5: 混乱世界

2022/07/25

<紹介>
「なんだあのバケモンは!!あの円盤は直径200kmあるんだぞ!!」

1000km級の軍艦が発着する天府の航宙基地で暇をもて余していた兵士たちが目にしたのは自軍の円盤を軽々と鼻で握りつぶすマンモス。これが太陽系戦争の開戦だった。

天府が支配する死後の者たちが集まる世界で目覚めた少年 ギンガは反天府軍に加わり戦う。電子書籍配信にて描き下ろしのSFテイストの長編ファンタジー・バトル漫画の第5巻。

<なかせ評>
天府組織と「人類、動物、幽魔」連合軍が全面的に太陽系をまたにかけての対決。

動物たちは巨大化して天府の軍事拠点を次々に襲撃。天府は惑星などの天体に潜む「天体星霊」を繰り出して反撃。反天府側もこれに負けず応戦。
天体より生み出される星霊のデザインや出現シーンの描画が独特で創造的でした。

この漫画の主人公「ギンガ」の存在感が少し薄かった今回の巻。それだけにこの先どのよう活躍が見られるかに期待が集中します。

<蛇足>
昨年の3月に配信された4巻まではKindleでの有料配信で描き下ろし公開でしたが、 1〜4巻を先月の2022年6月にKindle無料マンガに移行された模様。

www.amazon.co.jp今回の第5巻はKindle無料マンガにて描き下ろし公開となっています。

描き下ろしのシリーズが毎巻6話(各話16〜18p)ずつの総集で配信になっていますが、 この分量を書き溜めるモチベーションをこの作家さんはよく維持されているなぁ、と驚嘆します。
各話ごとに分割して公開された方が読者へのアピールチャンスが増えるようにも思いますが、作品の発表形態は作家さんの専権事項ですし、このスタイルでの執筆が実際に粘り強く継続されているわけなので、他者が口を挟むべきことではないかもしれません。

MYMYTH 5

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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。

 

第19回いっせい配信企画「創作同人2022年7月」

第19回いっせい配信



2022年7月18日(海の日)に創作同人電子書籍の第19回「いっせい配信企画」=イベント名「創作同人2022年7月」が実施されています。この企画は配信する電子書籍ストアを問わず、作品を自主配信してる作家さんが配信日を揃えて、配信情報を互いに広め合うオンラインのイベントです。

 

https://64.media.tumblr.com/e1d67d5c4a66c78723f603a35afd501c/d37429860dc88c5e-6c/s540x810/228c0b5d0dd530ded137a02f4880253004ad2040.pnj

本日7月17日の現時点で10人の作家さんによる11作品がエントリーしています。

 

「いっせい配信」企画は配信日より1〜2日の誤差内の期間(7月16日〜20日)は随時「飛び入り」可能です。まだ電子配信されていない自作のオリジナル作品があれば参加費無料、事前申請不要、「漫画」「小説」「イラスト集」「全年齢向け」「成人向け」等々のジャンルは不問なので、興味のある作家さんは企画サイトをご覧ください。 

「まるかふぇ電書」の新刊は2冊

私(なかせよしみ)と砂虫さんの本を配信する「まるかふぇ電書」はあわせて2冊の本を配信します。

 

「竜飼い」シリーズの22巻目は前巻のアクション編が一段落ついて一息ついているお話。久しぶりにわが家に戻れた公平の妻子との対話が微笑ましい巻です。三平くん(公平の子)を描いた紙冊子版には未収録の2pの描き下ろしオマケマンガも収録されています。

私の新作は描き下ろしで、成人向け作品としてははじめて描くSF設定のお話。人類の4割が睡眠時のフルダイブで訪れる「睡眠時空(レムバース)」を舞台にして、デフォルメの強いデザインのキャラで描いた読み切り短編です。 

Kindleのリジェクト

昨年よりうちの電子書籍は13の電子配信ストアに登録して、全てのストアから「いっせい配信日」ちょうどに配信が始まるよう手配しているのですが、今回は私の本でちょっと異例の事態が。

配信予定日指定の締め切りが一番早い「一週間前」となっているB☆Wへの登録を7月11日に済ませ、その他の12ストアへは締め切りが早い順に登録作業を進めていたのですが、7月13日に見慣れない通知がAmazonから…。
内容は 「配信申し込みの本はAmazonガイドラインに違反するため公開されません」というものでした。
Amazonの「ガイドライン」というものはこちらのページで確認できます。
kdp.amazon.co.jp

しかし、ここにはいくつかの項目が並行に列挙されていて、それぞれの項目がどのような基準で判断されるかは記されてません。だから「どの項目に何故ひっかかったか」はこの通知文では分かりません。

違反理由をいたずらに想像するのもなんだと思い、まず私は「どの項目でひっかかったのでしょうか?」という疑問をAmazonのサポートに投げかけてみました。しかし、これには翌日、頓珍漢な回答が戻ってきて、その後往復10通ぐらいのメールのやりとりになり、得られた結論は「『ガイドライン違反である』以外の情報をAmazon側は提供できない」でした。

こうなると「違反理由」は「想像」するしかないのですが…

昨年出した18禁本を含め、これまで100冊以上Kindleで配信していることから「著作権」関係の項目や「読者体験を損なう本」といった項目はまずあり得ません。「違法なコンテンツ」や「ヘイトやテロに関わる内容」の項目はまずない。特に「児童ポルノ」に類する項目には細心の注意をはらい、「どうみても大人」なキャラクターのデザインに私も腐心してきました。

ただ一点、これまでの作品に比べて違うとするなら、「エロさの度合い」。実は昨年からアダルトなコンテンツに挑戦しているものの、DlsiteFANZAなどでの売れ行きが思うほど伸びず、よりエロい表現を多用して前面にだした作品づくりに努めていました。
多分その結果としてAmazonが「わいせつ」と判断するポイントを超え、今回のリジェクトとなったのではないかと想像されます。

 

考えて見ると、Kindleがエロ表現については「独自の基準」を設けていることは以前から耳にしていました。そういえば、最近私がエロ表現の参考に購入した成人向けの商業単行本も、紙単行本はAmazonで通販されているのに電子版がKindleになかったので、私は何の気なしにB☆W入手していました。今回そのKindleの独自基準を私自身が実体験したということになります。

そんなわけで、これまで私の作品をKindleで入手していた読者さんには申し訳ありませんが、今回の本はKindleを覗く12のストアのみでの配信になります。

裏を返せば「このレベルのエロ表現になるとKindleでは出せなくなる」という実例が一つできたわけなので、「どれほどのものか」を確認されたい方は12ストアのいずれかでご入手ください。

ちなみに今回の作品はFANZAからも一度リジェクトされました。しかし、FANZAは再提出するために「隠蔽修正すべきページと対象物(女性器、男性器の亀頭)」の具体的な指示添付で連絡をくれました。
しかも、私はその修正を行ってデータを再登録したのですが、その再登録を待たずにFANZAは早々と作品の販売予告ページの公開を済ましてくれていました。

電子自主配信と自主出版にまつわる昨今

電子自主配信をとりまく状況については、前回の3月以降は大きな変化は耳にしていません。

毎回記してる「Kindle無料マンガ(インディーズマンガ)」の出所不明な「分配金」が7月時点で1300万円になっていること以外、大きなニュースは電子書籍配信支援の老舗企業の「ボイジャー」が提供しているデジタル出版ツールの「ロマンサー」をこの秋に全面リニューアルすることアナウンスしたことぐらいしか思い当たりません。

romancer.voyager.co.jp

一方では自主出版全体の状況を見ると昨年12月に無事の開催をこなしたコミケが数週間後に8月開催と迫ってきています。(私自身もスペースをいただけたので、ようやくの会場イベントに復帰を予定しています)
しかし、ここにきてコロナの第7波の感染者数がここ数日で異様な伸びとなっており、どうも開催や参加者の来訪が油断ならない状態になっています。
結果として「まだまだコロナに振り回されている会場イベント」と「大きな変化なく安定期を迎えている電子書籍市場」を図らずも見並べることを否めない感覚があります。

「創作同人2022年3月」レビュー

2022年3月21日に第18回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2022年3月」に今回は現時点(3月21日)で9名の作家さんによる10書籍がエントリーしています。 

togetter.com

私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回「いっせい配信」のエントリー作品はこちらでした。

吾妻こはるの日常3 空樹幻想 竜の飼い方教えます21
画像クリックでサンプルページが見られます

今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

2022/03/21_1

 

<紹介>
「そんなに頑張ってくれたの…  ありがとう。」

映画内容の理解を阻む字幕の修正を手がけることになったエルカンと安樹。あやしげな2人を映画館職員の磯部紫乃は警戒しながらもその努力をねぎらう。

中東の映画の映画祭を開催する映画館に関わる人たちの4日間を描くシリーズの2日目。

2022年5月開催の新潟コミティア54にて発行予定の作品を電子で先行配信。

<なかせ評>
東映画を特集する映画祭に関わる者たちの群像劇。
徐々に好転していく事態の中である者たちは理解を深め合い、他方である者たちの間には亀裂が生じる。

互いに異質と思っている者同士が文学や映画を介して共通の感覚を見い出し、距離を縮める流れが自然で心安らぎます。
終盤に登場した気の強そうな神西明菜の娘がこの集団にどのような化学反応を引き起こすかが楽しみです。

<蛇足>
26ページ目の1コマ目の吹き出し2個(中央高い目、右側低い目)のどちらを先に読むのが正しいのかが判断がつきませんでした。単純明快なセリフならその内容で判断がつきますが、ここは少し難解な話をしている場面なので、なるべく吹き出しは「右上&左下」に配置する方がよいように思います。

東の果ての映画祭 2日目

2022/03/21_2

<紹介>

「この立方体が心だ そしてこれは私の心だ」

箱の形状をした心
城の入口を守る門番
ブレーキをかけ過ぎて熱を出した病人
能天気なダンスマン
半人半牛の九段(「件」にあらず)
死者の書を読む人
アルガン王国の王
宇宙の神秘と名乗る男
千年ぶりに会った獣人ウォーボー
一介の農夫のふりをした悪魔

魔法使いルーコは様々な空間を訪れ、多様な者と出会い、語り合い、そして踊る。各エピソードをフルカラーで、11本の4コマ漫画と1枚のイラストで構成して、10編を収録

マンガボックス、ジャンプルーキー等にて連載のweb漫画シリーズをまとめた第10巻。シリーズ100編達成について書き下ろし5ページの短編モノクロ漫画も収録。日本語版と英訳版を合本。 

<なかせ評>
日常的な心理から国や戦争にまで考察が及び、軽快な描画とポップな色彩で描かれた予想不能な展開の哲学漫画シリーズがついに100編に到達。おめでとうございます。

九段やアルガン国王のキャラデザインカッコよくて秀逸。

<蛇足>
(10編×(11本+1枚)を和英2揃え)+@で263pにも及ぶ分厚い構成なので、できれば「論理目次」がついていたらありがたかったなぁ…と思いました。

魔法使いのお時間よ 10

2022/03/22_1

<紹介>

「あんな奴らでも ジワゾス帝国から守らないと… だめ?」

ジワゾス帝国と戦う乗鞍家(爆裂戦隊)次男(ブルー)の駆に学校で突っかかったくる連中がいる。彼らとのわだかまりを駆は抱えたまま、獣兵鬼(じゅうへいき)「爆撃カッコウ」の襲来で出動するが。

父母兄弟妹の家族5人が地球を守るために戦う戦隊ヒーロー・アクション漫画のシリーズ第2話。電子書籍描き下ろしオリジナル作品。

<なかせ評>

1話目にひきつづき作者の特撮ヒーロー愛を感じられる作品。人間サイズ「獣兵鬼」が戦いで追い詰められ、巨大化してロボと戦い、負ける…という行程を今回もきっちり踏襲しています。

今回は学校ではそりが合わない者たちのために戦うことに悩む次男(主人公)。母や兄の言葉が彼の悩みを軽減して、家族で戦隊を組んでいる設定が利いています。

<蛇足>

全般的に作者の意図は理解できましたが、ディテールの設定や描写が甘さが難になる部分がいくつかありました。前後の流れを見れば理解できるものもありましたが、読者が感情移入しづらい要因になるので、もう少し「情報」を伝えることを意識したほうがいいように感じます。

爆烈戦隊チャレンジャーズ2話

参考までに私が気になった部分を記します。

1.囚われた3人の状況
廃工場で気がついた主人公たちが縛られていましたが、その状況をはじめて描いた8ページ目の2コマ目は「縄」の存在に気付きにくい絵でした。その結果、6コマ目でイエローの縄が解かれるまで「縛られている」ことまで読者は気づきませんが、この絵もまた注意深く見ないと「縄」の存在に気付きにくい絵になっています。

2.「爆撃カッコウ」の攻撃
「メールッシュトロームアタック」がどういう「攻撃(アタック)」なのかがわかりませんでした。また2回目の「メールッシュトロームアタック」は撃たれたせいで使えなくなっていますが、問題なく使えた1回目と何が違ったのかが描かれていません。

3.主人公の悩み
2年前は「動かないロボット」のことで突っかかった連中と駆はその後もモメているという設定ですが、2話の終盤では彼らは「ロボットは動いていて、駆が搭乗してる」ことをもう知ってる様子でした。しかし、人質になる前の彼らが駆にどんな突っかかり方をしていのたかは描かれていません。
駆はロボットが「動いた後」も何か別のことを言われたのか、あるいは「動く前」の頃のことを根に持っているのか。どちらなのか読者は特定できないので、彼の悩みを共有しづらいです。

 

2022/3/23_1

<紹介>
「久々の友人と会って 私は死んだ」

旧友と喫茶店で再会した私。彼女がカバンからうれしそうに取り出したのは高校時代の私の同人誌。彼女はずっと大事にそれを持っていた…。

大学デビューで一度封印して社会人で復帰した現役オタクの主人公が「なつかしい友」&「自分の過去」と再会する。16ページ&4ページの2編構成。

2022年2月のコミティア139にて「突撃蝶々」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
長年オタクをやっている者にとってはありがちなシチュエーション?
若さの勢いで突っ走った過去の「推しごと」を友人につきつけられるオタな主人公。しかし、友人は非オタであるがゆえ、それを唯一無二のものとして扱っていた、…というギャップが生じているのが面白い。
長い時間のなかで変遷して忘れ去られていたものが、それでも自分の一部になっていると気づかされるのも感慨深い。

<蛇足>
山名さんの名作「結んで放して」のアナザーエピソードっぽい。さしずめ「結んで結び直して」かな?…とか思って確認し直してたら、気づきました。
今作14ページに描かれたビッグサイトは「結んで放して」の頃に使ってたのと同じ素材だ。…って、そりゃそうか。こういう絵は一度描いたら使い回すもんね。(笑)

くろきしってなにかしら

 

2022/3/24_1

<紹介>
「暗過ぎて何も見えないけど この先が『宙脈』の奥…?」

元来た道を辿ろうとイサギは竜の口に飛び込んだ。しかし、真っ暗で何も見えない空間に降り立ち途方に暮れてしまう。その一方、洞窟に取り残されたライラは冷静に宙脈の調査をつづけるが…。

どんな言語もすぐ習得してしまう能力の少年が流れ着いた見知らぬ宇宙域で双子の妹を探し求めるSF冒険漫画第6巻。 2021年11月28日に開催の名古屋コミティア59にて「空風館」より発行の自主出版本を電子書籍化。同イベントにて無料配布の小冊子も収録。

<なかせ評>
あとさきを考えない行動を悔いて膝を抱えたイサギが再び力強く足を踏み出すまでのプロセスを丁寧に描かれていて、好感でした。

ここで物語はイサギsideとライラsideに分岐するようですが、それぞれが辿る道がこの先どうのように結実するのか楽しみです。

<蛇足>
イサギは目的がはっきりしているのですが、思考や行動は衝動的。他方、ライラは思考や行動は理路整然としているものの、その目的は個人の意思によるものか任務的に背負ったものかが不明瞭。どちらも予想を立てることができず、先行きが読めないのでちょっと大変です。

CHAOS×COSMOS - LOST CHILD in the ASTROVEIN 06

2022/3/25_1

<紹介>

"Welcome to Kaka Island Ward in the 22nd century"

The "Island Ward System" spreads all over the world In the 22nd century.Each ward is self-sufficient in a small area with local production for local consumption food and renewable energy .
This book Introduces fragments of daily life in "Kaka Island" ward located to the far east .

Science fiction manga written like an essay . A self-published magazine published by the circle "Metaparadigm" in 2007 containing 9 manga published in "2100 Journey to the City of the Future" (Gakken), "Bio City" (Bio City), and "Comic Fantasy" (Shiro Enomoto's private edition).  Digitized in 2013 and translated to English in March 2022.

「ようこそ22世紀のカカ島区へ」

小さな地域で地産地消の食料や再生可能なエナルギーを自給自足する「島区制」が世界中に広がる22世紀。 その島区の中で極東に位置する「カカ島」での生活の断片を紹介。

エッセイ風SFマンガ。 『2100年未来の街への旅』(学研)、『Bio City』(ビオシティ)、『コミックFantasy』(榎本司郎私家版)に掲載のマンガ9編を収録た2007年にメタパラダイムより発行の自主出版誌を2013年に電子化、2022年3月に英訳版を配信。

 

<なかせ評>
「カカ島区生活読本」の英訳版

https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00FC3CS82

上記の紹介文の英語を作成するのでさえ私はかなり苦労したので、これだけのページ数の英語訳は大変な労力だったと思います。

SDGsが声高に呼びかけられている昨今、それらのゴールが達成された状態をのどかな田園風景と日常描写で表現した作品のリプリゼントで見せることは大変に意義を感じました。

Eco-friendly Life in Kaka Island in the 22nd century (English Edition)

<蛇足>
ただ、英訳することで英語圏の人にとっつきやすいものができたか…というと、
実は私自身は読んで「日本語でもともとなにが書かれていたか」を考えないと話の流れがみえない部分が所々ありました。

「漢字」を使って文字数を少なくできる日本語と同じ内容を英語にすると文字だらけになります。また和文の直訳も英語表現的には冗長になりがち。漫画ネームを英語で作る際には日本語ネームを考える以上に「短い表現の端的な会話」を大胆な意訳で創作する必要があるように感じます。

例えば…
「ほーら フーちゃんのウンコや 食べ残しやでー」
「へいきや!くさくないやん 肥料やん」

…というセリフは
Here are your shits and leftovers.
So what?It doesn't smell at all. It's just fertilizer.

…と訳されてましたが、私なら…
Look at your poo!
Who cares? It's composted and doesn't smell.

…にしたと思います。

書籍全体が「左から右」のめくりなのに、各ページの読みが「右から左」なのも、ちょっととっつきにくく感じました。英語圏で読んでもらうにはさらに大変な作業になってしまいますが、コマの位置を入れ替えてでも「左から右」の流れで統一する必要があるように感じます。

 

2022/3/26_1

<紹介>
「メモがあればこの箱は開く。メモはこの店に8つある」

父の長期の不在に探偵事務所を預かったジンガ。そこに住みついた人外の少女エレクトラはジンガあてのプレゼントの箱を発見。箱は8桁のナンバーを合わせないと開かない。箱を開くため2人は探偵事務所内の探索を開始する。

電子書籍のページリンク機能とハイライト機能を駆使したオリジナルゲームブック。読み切りシリーズ第2弾。クロ僕屋電書より2022年3月の第18回いっせい配信企画「創作同人2022年3月」にて書き下ろし。

<なかせ評>
まずは、すみません。4〜5時間かけたのですが私はこのゲームをクリアできませんでした。
8個のメモは集まり、エレクトラが作成した画像も確認できましたが、画面から8個の数字は読み取れませんでした。

ゲーム自体は鍵になるアイテムやスクリーンショットを集めながら、書籍の「ページの上を行き来」するシステム。リンクを選択肢の中から正しい順に選んでいくとゴールに至るというだけの話ですが、併記の文章等で、家屋内を探し回ったり、暗証番号でロックを解除したりしている気分になります。

また、ストーリーにも読者ごころをくすぐる要素がちらほら。

<蛇足>
クリアできなかったのでカタルシス前の泥沼にはまったままの気分ですが、クリアできていれば、もう少し印象が違ったように思います。

暗唱番号を入力する操作が面白くて、感心しました。ただ、リンクを選択した時のクリック音や手応えはないので、せめて「何個目」の入力待ちかの数字表示がもっと大きけれくばいいのにと感じました。

正解の数列にたどり着けなかったので、数回ためしに入力してみたのですが、「入力失敗から再入力」に至るまでのループがちょっと遠くて閉口しました。

ジンキド探偵事務所事件簿 親父の箱

 

2022/3/27_1

<紹介>
「いい機会です美由 ちょっと見せておきたいものがあるのです」

惑星「デイジー」に残った美由に無限工作社の代理人たちが本を通じて会話を交わしてきた。とまどう美由にさらにコナスビが見せたのは評議会による哺乳人類の復元水槽だった。

「無限工作社」の謎を追い宇宙を駆けるジャーナリスト鎹涼子を描く長編ハードSF「人類圏」シリーズの「氷の惑星」編の第16編。付録「『強い』人工知能に関するメモ」も収録。
2021年9月コミティア137にて発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
「デイジー美由」顛末編。本の中だからと「都合がいいことなんでもあり」で展開する代理人たちとのバトルが面白い。

呆然自失したり、策士になったり、戦士になったり。様々な表情をみせてかわいい美由だが、最後に最上の笑顔を見せてます。

何重にもメタ展開した物語が涼子たちの物語に収束していく展開も見もの。

<蛇足>
ほんとにまるっきりの「蛇足」ですが、このようにいくつもの平行世界が一つに収束した話を最近なにか別に読んでるなぁ…と思ったら、
ああ、そうか、「タコピーの原罪」だ。タコピーは昨日web連載が最終回を迎えましたが「人類圏」シリーズ「氷の惑星」編はこれから新たな山場を迎えそう。

敗北する権利をやろう

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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。

 

 

 

第18回いっせい配信企画「創作同人2022年3月」

第18回いっせい配信

2022年3月21日春分の日)に創作同人電子書籍の第18回「いっせい配信企画」=イベント名「創作同人2022年3月」が実施されています。この企画は配信する電子書籍ストアを問わず、作品を自主配信してる作家さんが配信日を揃えて、配信情報を互いに広め合うオンラインのイベントです。

 

https://64.media.tumblr.com/8c9296f0dfc322aaa669c48c67dd3677/d37429860dc88c5e-4b/s540x810/19c83dada0cda113209dc30bbab654314452f5fb.png

本日3月19日の現時点で9人の作家さんによる10作品がエントリーしています。

「いっせい配信」企画は配信日より1〜2日の誤差内の期間(3月19日〜23日)は随時「飛び入り」可能です。まだ電子配信されていない自作のオリジナル作品があれば参加費無料、事前申請不要、「漫画」「小説」「イラスト集」「全年齢向け」「成人向け」等々のジャンルは不問なので、興味のある作家さんは企画サイトをご覧ください。 

「まるかふぇ電書」の新刊は3冊

私(なかせよしみ)と砂虫さんの本を配信する「まるかふぇ電書」は今回計3冊の本を配信します。

「竜飼い」シリーズの21巻目はアクション編。19巻でファーストが仕掛けたトラップと対峙する宗一郎。ファーストの目をあざむきながら自動追尾する触手とのバトル。助太刀する公平やサードたちにもご注目ください。

私は新作の描き下ろしは「吾妻こはる」シリーズの3作目。日常の中のエロチズムを追求するシリーズですが、今回はちょっと変わった趣向で主人公たちの「日常」を切り取ってみました。どのような趣向かは言葉で説明するより、サンプルページを開けば一目瞭然かと思います。

また10年前に紙版を発行した「スカイツリー本」を、電子書籍化しました。この本は創作同人漫画即売会コミティアのイベントカタログ「ティアズマガジン」誌上の作家持ち回り企画「東京好奇心・散歩」の執筆依頼を私が受けた時の取材の副産物。
実はその「東京好奇心・散歩」掲載の号のティアズマガジン101」がBOOTHの「COMITIA公式ショップ」で配信されているのに気付き、「そういえばこの本の電子書籍化がまだだった!」…と今回出すことにしたのでした。

comitia.booth.pm
余談ながらこの本は紙版発行当時、アキバBLOGでも紹介いただきました。今回の電子化で本の書誌説明を考える際には迷わずこのブログ記事のタイトルに使われた作中文を採用しました。

blog.livedoor.jp

 

成人向け作品の模索

昨年よりのDLsiteやFANZA等の「同人ダウンロード」系サイトの読者層を主なターゲットに手がけています「成人向け」作品。
前々回の7月は「成人向け」需要に明らかに達してなかった第1作で足りない要素を思いつくかぎり盛り込んで第2作を前回の11月に配信。その甲斐あって、2作目は1作目より好調な売れ行きで、逆に1作目の売り上げにもつながりました。今回の本は更に2作目でも「足りない」部分を考えた3作目の配信ですが…

実は成人向けのエロを描く際には、「陰部」の描写は過剰にならないよう注意していました。描写があまりリアルだとストア側から「消去」「墨塗り」が指示される可能性があり、それは配信登録時の手間だけでなく、最適に仕上げたつもりの作品に手を加える結果になるからです。

「何もストア側がOKを出すどうかのボーダーラインを狙わずともエロ表現は勝負できるはず」なので、そこに挑むことをむしろ避けていました。
ところが今回、書籍データを配信登録したところFANZAから思わぬ差し戻しがきました。曰く「11〜12ページ目の女性器の描写に隠蔽がないので修正してください」…とのこと。

「え?そんな攻めてる絵を今回描いたっけ?」と思いながら指摘の画像ファイルを開いてみると、そこにあったのは「説明コマ」に用いた陰部の「模式図」。「緻密描写」からは程遠く、自分としては一切のエロを排除して描いたつもりで描いた「幾何学的な線の図画」でした。

唖然としながらもFANZAでこの作品を配信しないことは本位ではないので、指定された箇所にはなるべく必要な情報は伝わるように修正を加え、再登録したらOKでした。そんなわけで、今回はFANZAだけの「特別版」ができましたが…

どのようなような修正でOKが出るのか確認されたい方はこの本をFANZAでご入手ください。余談ですが、残り12ストアはいずれも「模式図」のままで配信登録してOKのようです。

電子自主配信と自主出版にまつわる昨今

電子自主配信をとりまく状況については、前回の11月以降は大きな変化は聞こえてきません。

強いて言うなら、前回記しました「Kindle無料マンガ(インディーズマンガ)」の出所不明な「分配金」の総額が毎月1000万円になったのが、今年の3月時点では1100万円になっていることぐらい。

そのせいではないと思いますが「Kindle無料マンガ(インディーズマンガ)」は相変わらず好調で、話題をよくSNSで見かけます。

中でも川尻こだま先生の「川尻こだまのただれた生活」が深夜アニメで放送されたことや、 雷句誠先生が「金色のガッシュ!! 2」の配信を開始されたことあたりがここ4ヶ月の大きな話題でした。「金色のガッシュ!! 2」正確には「自主配信」というより出版社: BIRGDIN BOARD Corp.を立ち上げての出版ですが。)

  

自主出版をとりまく状況でここ4ヶ月の間にあった大きい出来事は、やはり11月と2月のコミティアと年末のコミケの開催ではないかと思います。年末以降はコロナ第6波の新感染者数の増加を睨みながらでしたが、なんとか無事開催できた模様です。

参加人数規模はコロナ前の規模には遠く及んでいないようですが、ひとまずコロナ時代のイベントのあり方が示されたようで、私自身も夏のコミケのサークル参加は申請しました。

もう一つ、大きな注目を集めた出来事としては2月のコミティアと同日併催の形でPIXIVが主催したオンライン即売会「NEOKET2」の開始がありました。VR空間に時を同じくして大勢が集まり開催するイベントですが、「同時期性を強調することで参加者を集めて作品を頒布」という狙いには「いっせい配信」と同じ方向性を感じました。

www.pixiv.net

このようなVRイベントや各電子配信ストアが掲げるストア内イベントが「参加型」の開催をどれだけ実際の「作品頒布」に繋げられるかについては、これからも注視したいと思います。