2022年3月21日に第18回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2022年3月」に今回は現時点(3月21日)で9名の作家さんによる10書籍がエントリーしています。
私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回「いっせい配信」のエントリー作品はこちらでした。
今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。
<紹介>
「そんなに頑張ってくれたの… ありがとう。」
映画内容の理解を阻む字幕の修正を手がけることになったエルカンと安樹。あやしげな2人を映画館職員の磯部紫乃は警戒しながらもその努力をねぎらう。
中東の映画の映画祭を開催する映画館に関わる人たちの4日間を描くシリーズの2日目。
2022年5月開催の新潟コミティア54にて発行予定の作品を電子で先行配信。
<なかせ評>
中東映画を特集する映画祭に関わる者たちの群像劇。
徐々に好転していく事態の中である者たちは理解を深め合い、他方である者たちの間には亀裂が生じる。
互いに異質と思っている者同士が文学や映画を介して共通の感覚を見い出し、距離を縮める流れが自然で心安らぎます。
終盤に登場した気の強そうな神西明菜の娘がこの集団にどのような化学反応を引き起こすかが楽しみです。
<蛇足>
26ページ目の1コマ目の吹き出し2個(中央高い目、右側低い目)のどちらを先に読むのが正しいのかが判断がつきませんでした。単純明快なセリフならその内容で判断がつきますが、ここは少し難解な話をしている場面なので、なるべく吹き出しは「右上&左下」に配置する方がよいように思います。
<紹介>
「この立方体が心だ そしてこれは私の心だ」
箱の形状をした心
城の入口を守る門番
ブレーキをかけ過ぎて熱を出した病人
能天気なダンスマン
半人半牛の九段(「件」にあらず)
死者の書を読む人
アルガン王国の王
宇宙の神秘と名乗る男
千年ぶりに会った獣人ウォーボー
一介の農夫のふりをした悪魔
魔法使いルーコは様々な空間を訪れ、多様な者と出会い、語り合い、そして踊る。各エピソードをフルカラーで、11本の4コマ漫画と1枚のイラストで構成して、10編を収録。
マンガボックス、ジャンプルーキー等にて連載のweb漫画シリーズをまとめた第10巻。シリーズ100編達成について書き下ろし5ページの短編モノクロ漫画も収録。日本語版と英訳版を合本。
<なかせ評>
日常的な心理から国や戦争にまで考察が及び、軽快な描画とポップな色彩で描かれた予想不能な展開の哲学漫画シリーズがついに100編に到達。おめでとうございます。
九段やアルガン国王のキャラデザインカッコよくて秀逸。
<蛇足>
(10編×(11本+1枚)を和英2揃え)+@で263pにも及ぶ分厚い構成なので、できれば「論理目次」がついていたらありがたかったなぁ…と思いました。
<紹介>
「あんな奴らでも ジワゾス帝国から守らないと… だめ?」
ジワゾス帝国と戦う乗鞍家(爆裂戦隊)次男(ブルー)の駆に学校で突っかかったくる連中がいる。彼らとのわだかまりを駆は抱えたまま、獣兵鬼(じゅうへいき)「爆撃カッコウ」の襲来で出動するが。
父母兄弟妹の家族5人が地球を守るために戦う戦隊ヒーロー・アクション漫画のシリーズ第2話。電子書籍描き下ろしオリジナル作品。
<なかせ評>
1話目にひきつづき作者の特撮ヒーロー愛を感じられる作品。人間サイズ「獣兵鬼」が戦いで追い詰められ、巨大化してロボと戦い、負ける…という行程を今回もきっちり踏襲しています。
今回は学校ではそりが合わない者たちのために戦うことに悩む次男(主人公)。母や兄の言葉が彼の悩みを軽減して、家族で戦隊を組んでいる設定が利いています。
<蛇足>
全般的に作者の意図は理解できましたが、ディテールの設定や描写が甘さが難になる部分がいくつかありました。前後の流れを見れば理解できるものもありましたが、読者が感情移入しづらい要因になるので、もう少し「情報」を伝えることを意識したほうがいいように感じます。
参考までに私が気になった部分を記します。
1.囚われた3人の状況
廃工場で気がついた主人公たちが縛られていましたが、その状況をはじめて描いた8ページ目の2コマ目は「縄」の存在に気付きにくい絵でした。その結果、6コマ目でイエローの縄が解かれるまで「縛られている」ことまで読者は気づきませんが、この絵もまた注意深く見ないと「縄」の存在に気付きにくい絵になっています。
2.「爆撃カッコウ」の攻撃
「メールッシュトロームアタック」がどういう「攻撃(アタック)」なのかがわかりませんでした。また2回目の「メールッシュトロームアタック」は撃たれたせいで使えなくなっていますが、問題なく使えた1回目と何が違ったのかが描かれていません。
3.主人公の悩み
2年前は「動かないロボット」のことで突っかかった連中と駆はその後もモメているという設定ですが、2話の終盤では彼らは「ロボットは動いていて、駆が搭乗してる」ことをもう知ってる様子でした。しかし、人質になる前の彼らが駆にどんな突っかかり方をしていのたかは描かれていません。
駆はロボットが「動いた後」も何か別のことを言われたのか、あるいは「動く前」の頃のことを根に持っているのか。どちらなのか読者は特定できないので、彼の悩みを共有しづらいです。
<紹介>
「久々の友人と会って 私は死んだ」
旧友と喫茶店で再会した私。彼女がカバンからうれしそうに取り出したのは高校時代の私の同人誌。彼女はずっと大事にそれを持っていた…。
大学デビューで一度封印して社会人で復帰した現役オタクの主人公が「なつかしい友」&「自分の過去」と再会する。16ページ&4ページの2編構成。
2022年2月のコミティア139にて「突撃蝶々」より発行の自主出版誌を電子書籍化。
<なかせ評>
長年オタクをやっている者にとってはありがちなシチュエーション?
若さの勢いで突っ走った過去の「推しごと」を友人につきつけられるオタな主人公。しかし、友人は非オタであるがゆえ、それを唯一無二のものとして扱っていた、…というギャップが生じているのが面白い。
長い時間のなかで変遷して忘れ去られていたものが、それでも自分の一部になっていると気づかされるのも感慨深い。
<蛇足>
山名さんの名作「結んで放して」のアナザーエピソードっぽい。さしずめ「結んで結び直して」かな?…とか思って確認し直してたら、気づきました。
今作14ページに描かれたビッグサイトは「結んで放して」の頃に使ってたのと同じ素材だ。…って、そりゃそうか。こういう絵は一度描いたら使い回すもんね。(笑)
<紹介>
「暗過ぎて何も見えないけど この先が『宙脈』の奥…?」
元来た道を辿ろうとイサギは竜の口に飛び込んだ。しかし、真っ暗で何も見えない空間に降り立ち途方に暮れてしまう。その一方、洞窟に取り残されたライラは冷静に宙脈の調査をつづけるが…。
どんな言語もすぐ習得してしまう能力の少年が流れ着いた見知らぬ宇宙域で双子の妹を探し求めるSF冒険漫画第6巻。 2021年11月28日に開催の名古屋コミティア59にて「空風館」より発行の自主出版本を電子書籍化。同イベントにて無料配布の小冊子も収録。
<なかせ評>
あとさきを考えない行動を悔いて膝を抱えたイサギが再び力強く足を踏み出すまでのプロセスを丁寧に描かれていて、好感でした。
ここで物語はイサギsideとライラsideに分岐するようですが、それぞれが辿る道がこの先どうのように結実するのか楽しみです。
<蛇足>
イサギは目的がはっきりしているのですが、思考や行動は衝動的。他方、ライラは思考や行動は理路整然としているものの、その目的は個人の意思によるものか任務的に背負ったものかが不明瞭。どちらも予想を立てることができず、先行きが読めないのでちょっと大変です。
<紹介>
"Welcome to Kaka Island Ward in the 22nd century"
The "Island Ward System" spreads all over the world In the 22nd century.Each ward is self-sufficient in a small area with local production for local consumption food and renewable energy .
This book Introduces fragments of daily life in "Kaka Island" ward located to the far east .
Science fiction manga written like an essay . A self-published magazine published by the circle "Metaparadigm" in 2007 containing 9 manga published in "2100 Journey to the City of the Future" (Gakken), "Bio City" (Bio City), and "Comic Fantasy" (Shiro Enomoto's private edition). Digitized in 2013 and translated to English in March 2022.
「ようこそ22世紀のカカ島区へ」
小さな地域で地産地消の食料や再生可能なエナルギーを自給自足する「島区制」が世界中に広がる22世紀。 その島区の中で極東に位置する「カカ島」での生活の断片を紹介。
エッセイ風SFマンガ。 『2100年未来の街への旅』(学研)、『Bio City』(ビオシティ)、『コミックFantasy』(榎本司郎私家版)に掲載のマンガ9編を収録た2007年にメタパラダイムより発行の自主出版誌を2013年に電子化、2022年3月に英訳版を配信。
<なかせ評>
「カカ島区生活読本」の英訳版
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00FC3CS82
上記の紹介文の英語を作成するのでさえ私はかなり苦労したので、これだけのページ数の英語訳は大変な労力だったと思います。
SDGsが声高に呼びかけられている昨今、それらのゴールが達成された状態をのどかな田園風景と日常描写で表現した作品のリプリゼントで見せることは大変に意義を感じました。
<蛇足>
ただ、英訳することで英語圏の人にとっつきやすいものができたか…というと、
実は私自身は読んで「日本語でもともとなにが書かれていたか」を考えないと話の流れがみえない部分が所々ありました。
「漢字」を使って文字数を少なくできる日本語と同じ内容を英語にすると文字だらけになります。また和文の直訳も英語表現的には冗長になりがち。漫画ネームを英語で作る際には日本語ネームを考える以上に「短い表現の端的な会話」を大胆な意訳で創作する必要があるように感じます。
例えば…
「ほーら フーちゃんのウンコや 食べ残しやでー」
「へいきや!くさくないやん 肥料やん」
…というセリフは
Here are your shits and leftovers.
So what?It doesn't smell at all. It's just fertilizer.
…と訳されてましたが、私なら…
Look at your poo!
Who cares? It's composted and doesn't smell.
…にしたと思います。
書籍全体が「左から右」のめくりなのに、各ページの読みが「右から左」なのも、ちょっととっつきにくく感じました。英語圏で読んでもらうにはさらに大変な作業になってしまいますが、コマの位置を入れ替えてでも「左から右」の流れで統一する必要があるように感じます。
<紹介>
「メモがあればこの箱は開く。メモはこの店に8つある」
父の長期の不在に探偵事務所を預かったジンガ。そこに住みついた人外の少女エレクトラはジンガあてのプレゼントの箱を発見。箱は8桁のナンバーを合わせないと開かない。箱を開くため2人は探偵事務所内の探索を開始する。
電子書籍のページリンク機能とハイライト機能を駆使したオリジナルゲームブック。読み切りシリーズ第2弾。クロ僕屋電書より2022年3月の第18回いっせい配信企画「創作同人2022年3月」にて書き下ろし。
<なかせ評>
まずは、すみません。4〜5時間かけたのですが私はこのゲームをクリアできませんでした。
8個のメモは集まり、エレクトラが作成した画像も確認できましたが、画面から8個の数字は読み取れませんでした。
ゲーム自体は鍵になるアイテムやスクリーンショットを集めながら、書籍の「ページの上を行き来」するシステム。リンクを選択肢の中から正しい順に選んでいくとゴールに至るというだけの話ですが、併記の文章等で、家屋内を探し回ったり、暗証番号でロックを解除したりしている気分になります。
また、ストーリーにも読者ごころをくすぐる要素がちらほら。
<蛇足>
クリアできなかったのでカタルシス前の泥沼にはまったままの気分ですが、クリアできていれば、もう少し印象が違ったように思います。
暗唱番号を入力する操作が面白くて、感心しました。ただ、リンクを選択した時のクリック音や手応えはないので、せめて「何個目」の入力待ちかの数字表示がもっと大きけれくばいいのにと感じました。
正解の数列にたどり着けなかったので、数回ためしに入力してみたのですが、「入力失敗から再入力」に至るまでのループがちょっと遠くて閉口しました。
<紹介>
「いい機会です美由 ちょっと見せておきたいものがあるのです」
惑星「デイジー」に残った美由に無限工作社の代理人たちが本を通じて会話を交わしてきた。とまどう美由にさらにコナスビが見せたのは評議会による哺乳人類の復元水槽だった。
「無限工作社」の謎を追い宇宙を駆けるジャーナリスト鎹涼子を描く長編ハードSF「人類圏」シリーズの「氷の惑星」編の第16編。付録「『強い』人工知能に関するメモ」も収録。
2021年9月コミティア137にて発行の自主出版誌を電子書籍化。
<なかせ評>
「デイジー美由」顛末編。本の中だからと「都合がいいことなんでもあり」で展開する代理人たちとのバトルが面白い。
呆然自失したり、策士になったり、戦士になったり。様々な表情をみせてかわいい美由だが、最後に最上の笑顔を見せてます。
何重にもメタ展開した物語が涼子たちの物語に収束していく展開も見もの。
<蛇足>
ほんとにまるっきりの「蛇足」ですが、このようにいくつもの平行世界が一つに収束した話を最近なにか別に読んでるなぁ…と思ったら、
ああ、そうか、「タコピーの原罪」だ。タコピーは昨日web連載が最終回を迎えましたが「人類圏」シリーズ「氷の惑星」編はこれから新たな山場を迎えそう。
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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。