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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

「創作同人2021年3月」レビュー

2021年3月20日に第15回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2020年11月」に今回は13名の作家による17書籍がエントリーしました。今回も紹介文とレビューを書いてみます。

 企画の詳細についてはTogetterのまとめもありますので、よければご参照ください。

togetter.com

 私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回「いっせい配信」のエントリー作品はこちらでした。

なぞかれ 創作同人電子書籍のススメ 2021年手探り電子配信放浪記 竜の飼い方教えます18

画像クリックでサンプルページが見られます

 

以下が他の作家さんによるエントリー本の紹介です。

2021/03/21                                                                                                              

<紹介>
「野良乃介 覚悟!」

今日も襲い来る刺客を野良乃介は迎え撃つ。
主人公が「野良乃介」であること以外は一切ルール不要。
2ページ構成の時代劇(?)ショートギャグ漫画集の第5弾。

2019〜2020年のイベント参加ペーパーに掲載の8編と描き下ろし1編を収録。
2021年1月に「電脳吟遊館」より発行の冊子をイベント販売に先行して電子書籍化。

<なかせ評>

作者の日常的な思いつきをストレートに漫画に落とし込んだ感がいい。

「素浪人」のはずの主人公はこの巻では岡っ引きや切腹介錯といった役職についていたりしている。そもそも侍なのに内容が「時代劇」でないこともある(銀魂?)。毎回ネタもオチも自由奔放でなどんな展開になるか予測不能
その分「漫画の面白さ」の純度が高いとも言えるシリーズ。

<蛇足>
描画的にオチがわかりづらい回もあるが、頭をひねって作者の意図を読み解けば、「ふふ」と笑えるのがこの漫画のすごいところ。
MGM2.0(参加者50人くらいの小さい即売会)でほぼ毎回新作が出されるが、私にとっては実はMGM2.0に参加する際の大きな楽しみの一つ。参加せずに留守番している砂虫さんもこのお土産を楽しみにしています。

「素浪人・野良之介 巻之五」

 2021/03/22                                        

<紹介>
「悟りは開けませんでした」

水上を滑って遊ぶ魔王と魔法使い。
魔王使いに衝突され、サーフボード扱いされた魔王は勢い余って空のかなたへと飛ばされる。

現実とも夢ともつかない世界を掛け回る魔王たちを描くリズミカルなアクション漫画シリーズのフルカラー版集の第4弾。

「まり王」より2020年5月エアコミティアにて発行の「魔王の予言」(本編モノクロ)、2020年9月関西コミティア59にて発行の「マオーフカシギ〜救済の技法〜」(本編モノクロ)の2編を収録。2021年2月に発行のフルカラー版冊子を電子書籍化。

前半は日本語版、後半は同内容の英訳版で2ヶ国語対応。

<なかせ評>
絵画としての鑑賞にも耐えるページも多し。コミカルでテンポよく、ビビッドな色使いで、読めば確実に楽しくなれる一冊。「マオーフカシギ」に登場する怪獣のデザインは「コワ美しい」。

「魔王の予言」のモノクロ版は昨年5月にKindle無料マンガにて公開されてましたが、そちらを読んだ読者も今回のカラー版は必見の完成度。

<蛇足>
後半に英訳版を入れてますが、微妙に英語圏の人間には伝わりづらい。
「彼は言ったよ …明日は晴天なり」が「He said that …Fine Tomorrow」となってますが「He said …Tomorrow will be a fine day」「…Tomorrow’s gonna be fine」「…Tomorrow’s weather is fine」の方がいい。
また急停止で「ザザー」という擬音が書かれているコマにはカタカナ表記の横に「Brake」と書かれているが、それよりカタカナ表記の横に「Screech」と書くか、あるいはカタカナ表記の横には「Zazar」と書いて欄外の注釈として「Brake」と書いた方が伝わりやすい。
海外の読者も読めば絶対納得する作品だと思うので、ここらの拙さをとても惜しく感じました。

「魔王のホライゾンシネマ 4: 救済の技法」

 

 2021/03/23                                          

<紹介>
「僕と彼女は森の中にいた」

異様な静けさの森をさまよう2人が行き着いた先は…。
少女の思考を閉じこめた世界を描く短編漫画集。

「卓上噴水」より1994年8月のコミティア29に発行された自主出版誌「水素」の「コップ」と「突撃蝶々」より1995年4月のコミティア32に発行された自主出版誌「カルピス」の「バレリイナ」の2編を収録。

<なかせ評>

とらえどころのない少女の思考のような描写を連ねた作品2編。パッキリと描かれた画面構成と散文のようなストーリーが読者を独特な世界に引き込む。

本編の絵と四半世紀後である現在の描き下ろしの表紙&巻末イラストとの対比も面白い。

<蛇足>

正直言うと、この2編の漫画を個々に読んで山名さんが読者に何を伝えたいのかを読み解く能力は私にはありませんでした。ただ、確か私が1996年の新潟コミティア13で手にしたCOMITIA実行委員会制作の山名沢湖作品集「ミズタマ」が私にとっての山名作品との出会いでした。「コップ」と「バレリイナ」は2編ともこの本に収録されていました。多分、その気になれば山名さんはこの「ミズタマ」と同じ構成、あるいは原本の「水素」「カルピス」と同じ構成で電子書籍を出すことも可能だったと思われます。
それなのに、この2編のみで1冊の本にまとめられました。その2編の共通点を考えて私が導き出した答えが上記の<紹介>で書いた「少女の思考を閉じこめた世界」です。これが正解かどうか…、全然自信がありません。
ただ、ページ数が自由に組める電子書籍を「どう構成するか」も作家の裁量で自由にできることも自主配信の魅力であることに、改めて気づかされました。

「コップとバレリイナ」

 2021/03/24                                            

<紹介>

「…中学の時の後輩よ。ものすごく仲が良かったわ。」

世奈が態度を少しずつ和らげ、仲良くなってくれたれたことを雪姫は喜ぶ。
しかし、ソユンと会っている時に雪姫が世奈の名を出すと、ソユンの顔色は変わった。

クラスメイトの白幡雪姫と氷川世奈、雪姫の弟の白幡恵斗、雪姫と恵斗が街中で知り合ったイ・ソユン。「差別意識」が存在する学校や社会の中で「自らの過去」と向き合いつつ「これからの自分」を模索する4人の若者たちの群像劇の後篇。

2020年9月の新潟COMITIA52にて「千秋小梅うめしゃち支店」より発行の自主出版本を電子書籍化。

<なかせ評>

「社会的な差別」や「学内の不和」と向き合う若者たちが同時に「自らの性格」や「過去の行い」に悩み葛藤する描写がリアル。自分の力ではどうしようもないことや取り返しのつかないことに突き当たりながらも、前向きに明るい未来を目指す姿勢に好感。

<蛇足>

後編ではじめて雪姫が昔の事故で足に後遺症があるという情報がでて、びっくりしました。改めて前編を読み直すと随所に足の動きに「ひょこひょこ」と書かれていましたが、これは「引っ込み思案」な雪姫の性格を表すものだと思って読み流していました。この情報は物語を動かすキーのひとつでもあるので、もっと前に出すか、情報として伏せたい場合は足の不自然さをもっと読者に印象付けた方がよかったように思います。

また、前編を読んだ時点ではまだ出会っていないソユンと世奈が後編でこの大きな問題にどう絡み合って行くのだろう?と想像していましたが、後編冒頭からソユンの元「友人」が世奈だったと明かされ、物語の主軸がこの2人の関係性に修まってしまったのが少々拍子抜けでした。若者たち葛藤のドラマとして申しぶんない仕上がりですが、問題の核の在処を前編のうちに明かしておいた方がよかったように思いました。

「Relation and Bountary 結び目と境い目 前編」

 2021/03/25                                        

<紹介>

「あと一日だけ預けておくわ 明日時間がある?」

よほろ の旦那のバイクのネジをもらうわけにはいかないと、返そうとする こばこ。しかし、よほろ はあと一日ツーリングに付き合うよう こばこ にお願いする。よほろ が案内する先は…。

10年間放置していたバイクを修理する男(こばこ)と作業に付き合う10年前の女友達(よほろ)の物語第6話。

「クロ墨屋」より2021年3月のMGM2−33にて発行の冊子を電子書籍で先行配信。

<なかせ評>

バイクの修理過程が中心の漫画なのにわくわく。主人公が面倒に思っていた修理作業も気付けばそれ自体が楽しく、終わらせたくなくなる気持ちがよく伝わる。 物語はいよいよ佳境で、人間ドラマとしても読み入れる展開。

<蛇足>

過去の行程をたどる道中の描写で、現在と過去を同じコマ内に描く表現が面白い。過去の心理にどんどんシンクロする感覚が伝わり、いいアイデア。ただ、読んでいて混乱する箇所も多々あり、過去と現在を見分けやすくする工夫を何か加えた方がよかったのでは、と思いました。

ロイヤリティを統一するためと思われる各ストアの値段設定がまちまち。最高値はDLSiteの220円、最安値はBOOTHの154円。私自身はいっせい配信エントリー作品をなるべく少数の電書本棚に揃えたくてBWの187円で買いました。

モペットを直す男6」

 2021/03/26                                    

<紹介>

「あそこでホッチキスを買ったよ 誕生プレゼントとして…」

帰省した作者が父親とともに昔は文具屋だった店舗跡を見て思い出す。 小学生の頃に作者が欲しがったのはゲームソフトより高価な「事務用ホッチキス」だった。

もと文房具店員でもある作者が思い出や昨今の文具界の動向をつづる文具コミックエッセイ。
Webマガジン「文具のとびら」にて毎月3ページ連載のシリーズの選集第2弾。
「メルプのお部屋」より2021年3月に発行予定の冊子を電子書籍で先行配信。

(収録リスト)
#14「文房具セールで売れたのは人気の"アレ"!?」
#17「同人誌は『文房具』で作る!」
#18「子どものころ憧れた文房具!」
#20「国会図書館で文房具の本を探してみる!」
#21「ハーバリウムボールペン作りに挑戦!」
#22「試し書きにも個性が出る?」
#27「いちばん欲しかったペン立てはこれ!」
#30「漫画の道具は文具店でそろう!」
#32「閉店セールで買った文具、買えなかった文具」
#37「『名入れ筆記具』にあこがれる!」
#38 「オリジナル文房具づくりはほどほどに!」
#13「鉄道文具の記事に便乗しちゃうよ!」
#39 「令和2年、昭和の文具を買いに行く!
書き下ろし・こことこのわたし

<なかせ評>

選ぶ!探す!試す!集める!売る!作る!本を出す!
ありとあらゆる角度から文具にせまる文具愛あふれるエッセイ漫画。
ペン立ての紹介では様々な魅力アイテムを紹介しながら、それより作者が欲しがったの文具販売用に店舗におかれた什器、という展開は…うん、わかる!

<蛇足>

勢いのある漫画で作者の情熱がよく伝わる一方で、情報漫画としてはもうすこし説明があった方がいいのではと感じる部分が方々に。(「ニーモシネ」とは?3本の「メトロのはさみ」はどう違う?)

また、この本のepubデータはクリスタで制作された模様で目次がありません。「選集」のようなので、どの話を収録したかわかるリストがある方がよいと思いました。(なのでこのレビューで収録リストを作りました)

ところで、銀座駅で「銀座線」のハサミだけ買わなかったことを駅員さんはどう思ったか、作者さんは気にしていましたが、多分、駅員さんは「前に銀座線を買った人が他の2つも欲しくなって再訪してくれた」と思ったんじゃないでしょうか?

「お楽しみは文房具 2巻」

 

 2021/03/27                                    

<紹介>

「オレにはずっと嘘をついていたの…?」

アサギが通り抜けてくるはずの竜は、小さい竜のアサを吐き出してからは倒れたままだった。漂着者はもう訪れないかもしれないことを世話役のルールーがずっと黙っていたことに気づいたイサギは…。

どんな言語もすぐ習得してしまう能力の少年が流れ着いた見知らぬ宇宙域で双子の妹を探し求めるSF冒険漫画第5巻。 2021年に「空風館」より発行予定の自主出版本を電子書籍にて先行配信。

<なかせ評>

周りが発する言葉が「日本語」ではないはずなのに日本語に聞こえていることにイサギは気づき、謎はさらに深まる。

「宙脈」のつながりを推察したイサギは思い切った行動にでるが、その結果は…。 

イサギの心を落ち着かせるためにライラが用意した「遊歩道」が魅力的。

<蛇足>

宙脈の謎に迫るイサギだが、彼とライラたちの行動目的とどう絡んで来るか気になる。

物語の時間軸が前後しているので、前回までの状況を思い出すのに2〜4巻までを読み直しました。

「CHAOS×COSMOS - LOST CHILD in the ASTROVEIN 05」

 2021/03/28                                           

<紹介>

「つらいときは食って寝ちまうことさ」

鍛冶屋で邪険にされていた幼子のカイを魔女のラナは買取った。しかし、ラナは王国に対して恨みを抱いている魔女。彼女は恨みを晴らすためにカイをたくましく育てあげる。

3章構成で計14編のショート漫画をつらねた絵巻ファンタジー漫画。

「魔女が子供を拾い、成長後の子供が魔女を愛する」という題材で2018年2月にSNStwitter、pixiv)で流行したハッシュタグ「#魔女集会で会いましょう」にあわせてツイッター公開の漫画をリライトして電子書籍化。

<なかせ評>

「魔女集会」でもあり「眠りの森の美女(マレフィセント?)」でもある。たくましい青年のカイ、4姉妹の魔女たち、優しい国王、聡明な姫、使い魔の犬たちが60ページのストーリーで互いに絡み合い2時間の映画作品にも匹敵する重厚なストーリーを構成。

意外なセリフが物語のキーとなっているのが面白い。

モノクロ漫画だが刷り色をセピア、藍色、深緑と場面の切り替えごとに変えることでわかりやすくする工夫がうまい。紙なら印刷費に響くが、デジタルなら手軽にできるのでもっとこの手法を使う作家が増えてもいいと思いました。

<蛇足>

「#魔女集会で会いましょう」の流行に対してその解釈を後発的に投じた作品と作者自身は評しているようですが、言われなければ「魔女集会」作品であったことも気づかなかったかもしれない。

ハッシュタグは流行当時に私も興味をもっていろいろチェックしてましたが、この本を読んではじめて舞村さんも参加されていたことに気づきました。ツイッター掲載だけで「公開済み」として放置されていたら、舞村さんと結構交流のある私でさえこんな力作を知らずに終わったかもしれないと思うので、感慨深い。

ツイッター掲載当時の絵と見比べるとかなり手間をかけてリライトされているのがわかります。(無料にしてるけど、これ有料販売にしてもいいヤツだよ!)

「百年の眠り」

 2021/03/29                        

<紹介>

「奴らの薄汚さを甘く見てたよ」

反天府組織の人類勢は都市部での爆発の濡れ衣を着せられた。
さらに続く爆発を止めるためにギンガたちは宇宙へと向かうが。

天府が支配する死後の者たちが集まる世界で目覚めた少年 ギンガは反天府軍に加わり戦う。
電子書籍配信にて描き下ろしのSFテイストの長編ファンタジー・バトル漫画の第4巻。

<なかせ評>

反天府組織の人類勢、動物勢、幽魔勢が全集合。
この巻ではこの大勢の個性豊かな面々が一人一人紹介されます。
「人類派のルーキー」ギンガがこの中でどんな活躍を見せるかがたのしみ。

<蛇足>

この作者はKindleでのこのシリーズをの公開以外は創作活動をされている様子が一切見当たらないが、今回の「いっせい配信」で各巻100ページ以上の3巻と4巻をまとめて配信されている。会社勤め傍らの創作活動のようだが、作者のツイッターを確認すると4巻の終盤のコマを昨年4月ごろに制作されていた模様。

5巻も本年中に配信されのではないかと思われます。ストイックに一つの作品をハイペースで制作されている様子が伺えて、その情念に頭が下がります。

「MYMYTH 4 ーマイミス 4ー」

 

 

 2021/03/30                        

<紹介>

「100年先、1000年先に思いをはせる」

90年代よりエコロジーは社会問題として注目されてきたものの、大きな社会変化はなし。昨今、ようやく地球環境に踏み込んだ国内外政府からの発言がでるように。いまこそ日本と世界は持続可能な循環型社会に向けて大きく舵を切るべき。

地球の温暖化防止と生態系との共存への気運を高めるべく制作された「自由闊達に未来に思いをはせた」マンガ作品集。年1~2回ペースで紙&電子にて定期発行予定の一般公募誌「第1号」。

執筆陣:つやまあきひこ、ハイムーン、なかせよしみ、はらだなおみ、wyocka、秋元なおと
発行:「みらいみたいなマンガ集」制作部会 http://hitotu.main.jp/MMM/ 

<なかせ評>

私自身も「にぎやかし」として参加させていただきました。
「ちょっとだけ未来が出てくる漫画をいま描いてるけど、この原稿使います?」と秋元さんに尋ねたら、二つ返事で収録が決まりましたが、…まさか巻頭とは(^^;)。

大変な題目と目的意識で作成された本ですが、肩肘はらず楽しむ読み物として手軽に読んでみるといいと思います。

<蛇足>

秋元さんの縦スクロース漫画のコマを読む順番に迷いました。(縦スクロールと頭でわかってもつい横に視線がいく)ページの真ん中に白い太線を入れた方がいいかもしれません。

秋元なおとさんが「叙情派『ひとつ』」に続いて新たに出された2つ目マンガ集企画。「ひとつ」は2001年に「叙情派って何?」と「よくわからない」まま年1刊行誌として創刊され、20年たった今も「よくわからい」ままながらそれなりにまとまりのある作品集として定着しました。 この「みらいみたいなマンガ集」もどのように成長していくのか見るのが楽しみです。

「みらいみたいなマンガ集2021春号」

 

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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思った内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。