2023年11月3日に第23回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2023年11月」に今回は15名の作家さん&編者さんによる19作品がエントリーしました。
私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回のエントリー作品はこちらです。
今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。
<紹介>
「小悪魔なワンコ小春ちゃんに翻弄される毎日です」
体重19Kg強の犬なのにラグや畳をひっかく、日向ぼっこやコタツが大好き、人の膝で丸くなる。もしかすると前世は猫だったのかもしれない。
ボーダーコリーの「小春」との暮らしを描いくシリーズの第4集。
2021年〜2022年にかけて小春が2歳半〜3歳半の話の1ページ漫画を10編収録。
2023年5月のCOMITIA144にてUMIN’S CLUBより発行の自主出版誌を電子書籍化。
<なかせ評>
愛犬との暮らしを絵日記風の1ページ漫画でつづる犬暮らしエッセイ。
温かみがあるスッキリした描画に作者が犬と家族とその日常に注ぐ愛が感じられます。先代の犬に比べて甘やかされてわがままに育っている小春ですが、家族に愛されてのびのび自由に過ごしている状況が微笑ましい。
<蛇足>
日常的なできごとを拾遺的に描写している作品。「漫画」として読むにはストーリー性やオチのインパクトに物足りなさもありますが、その分「作者をとりまくナマの日常」の感覚が伝わります。作者を他の作品で知ってる読者には作者当人の素の人となりを読み取ることができて、楽しみなシリーズなのではないかと感じます。
<紹介>
「楓先輩?幽霊か?ついこの前墓参りしたばかりだろ!」
登校中の一刀館高校の生徒たちにいきなり襲いかかる仮面の一団。斬り合い乱闘中に一団のリーダーと思しき剣客の仮面が落ちて正体が露わになるが…。
チャンバラシリーズ「ガールズ」「ヴァルキリー」の続編。女子高生剣客たちが斬り合うバトル漫画第3弾上巻。上中下巻の3巻構成予定。2023年11月5日サンクリ2023Autumnにて「電脳吟遊館」より発行の自主出版誌を先行して電子書籍配信。
<なかせ評>
登下校中も帯刀している女子高生がわりとカジュアルに刺客に襲われて乱闘する世界設定のマンガ。ストーリーの展開が早く、思いもしない方向へと転がる。
一部の者たちが持ち、彼らの強さに直結している「悟りの目」なるものがキーファクターとして物語は展開。多くの伏線を張り巡らせ、緊迫のあるシーンで締めくくって次巻への期待が煽られます。
<蛇足>
戦闘があることやクローンというものの存在があまりにもカジュアルなのでびっくり。刺客に襲われ散り散りになった翌朝の再会した仲間同士の会話は「無事だった?」「あれからどうなった?」となるであろうところ、「おはよう」→「その傷は昨日の?」→「(刺客たちの対処を)これからどうしよう」とほとんどクラブ活動のノリ。斬られて死んだ先輩(今回の話では生き返ってる?)もいる世界でこの日常感覚を保てているのがすごい。むしろ、この振り切れ具合がこの作品のいちばんの魅力かもしれない。
敵一団が正体を隠すため仮面の「目」をわざわざ縫い閉じているのは、「悟りの目」の持ち主であることを示唆いているように思えるのですが、そうしてる理由が気になります。本当に「悟りの目」を持つ者ばかりの集団なのか、あるいはそのように思わせるためのブラフなのか。
<紹介>
「オレを飼えばさみしくないぞ」
人語を解するフーテン風ののら犬「ちくワワ」。胴体が竹輪、尻尾は角切りきゅうり…「フード(食べ物)」と「犬(ドッグ)」が合わさった「フードッグ」だ。学校ではぼっちの内藤ケンジに通学路で「旅に疲れたから自分を飼え」と迫ってきた。
勝手に家の番犬となった「ちくワワ」が内藤家、おでん町の人々、そして他のフードッグたちとカンバセーションを繰り広げる4コマストーリーマンガ。
作者が新豊玉三郎の名義で広島の障害者向けB型作業所「サブカルビジネスセンター」のツイッターアカウントに掲載の連載作品の2022年7〜11月掲載分の10話を収録して電子書籍化。
<なかせ評>
「犬」と「食べ物」が合わさったキャラという設定インパクトは強いが、はじめはその要素を一切語らず、無関係な必殺技や会話のボケ&ツッコミで展開。しかし、他のフードクたちや町の伝説との関わりが加わり、徐々に「冒険アクション作品」へと変化していく。
「ブルきんちゃく」「ポメらーめん」「ドーベルまんじゅう」…フードクたちのダジャレ気味なネーミングとキャラデザインが楽しい。
<蛇足>
始終気になったのはフードックたちの「食べ物」部分。そこは実際に食べられるのか?美味しいのか?食べたらまた生えてくるのか?
会話ギャグの部分は「笑い」がちょっとあまい目。もっと強烈な笑いを持ってこれれば作品の読み応えがぐんと上がるはず。とくに「となみのちゅーりっぷばたけーっ!」というギャグは説明が必要。(掲載されていたツイッターアカウント上で流行っていたものなのか?)
当初は「高飛車なお嬢様」として登場する「鶴光路あやね」が意外にピュアな動機で行動していたことが判明する展開はなかなか泣かせてくれる。
<紹介>
「水は空から降ってきて沼湖川に流れ地面に染み込み草や木の根から葉っぱへ空気の中へぐるぐる♪」
初めての生き物と人類の地球会議で出会った生き物や自分の身の回りをみて作った「ぐるぐるの歌」をトラさんは披露する。
地球環境問題や未来のことをテーマに一般公募して制作された一般公募マンガ同人誌の「第6号」。年2回ペースで紙&電子にて定期発行。
発行:「みらいみたいなマンガ集」制作部会 http://hitotu.main.jp/MMM/
<なかせ評>
エコロジーやSDGsの問題は継続的に考えねばならない。なのでそれをテーマとした定期発行の「参加自由な一般公募マンガ誌」という立ち位置はとても大事だと思う。それは出版巻数を重ねることで重みも加わります。昨今ニュースに登る出来事が反映されているのもこのテーマの変遷記録を残すという意味でポイントが高い。
ただ連載の大部分が今回で最終回を迎えた模様で、それは同誌にこの後のどういう変化をもたらすか気になるところ。
<蛇足>
昨今のできごとについて取り上げているのはいいのですが、具体的な事象の「問題点」や受け手の側がとるべき「アクション」の示唆はなく、筆者の漠然とした「不安感」の吐露で終わっている部分が多く気になります。果たしてこれは筆者の意図する方向に作用するかどうか。
たとえば、原発事故の処理水の放出について「IAEAや国は安全だと説明しているが漁業者は反対しているから心配」だと書いてますが、受け取る人によっては「IAEAや国が言ってるのなら滅多なことはおきない。心配はいらないでしょう」と理解することもありえます。
共感と同意を得るにはもう少し論点を整理するか、とるべき具体的な行動を示した方がいいように思います。
Kindle版とB☆Wのスマホ版の二つを入手したけど、スマホ版のめくり方向が逆(左綴じ)になっているのは何か意図があるのだろうか?
<紹介>
「湊様がおいでになる限り檜山勢が攻め込めるわけがない」
城を占拠した豊島休心は湊城主を人質にとり油断していた。しかし、息子の勘十郎は四郎を湊様の影武者として残し、湊様を逃がし、ともに城を出ていた。
戦国時代の羽後国(秋田県)の郷土史をモチーフに描く創作歴史絵巻マンガ 「鎗留の城」シリーズの第5弾。元亀元年(1570年)のに勃発したお家騒動を描く「元亀湊騒動顛末」編第3巻。描き下ろし電子書籍。
<なかせ評>
戦国時代の16世紀に出羽の北部を治めていた安東氏が檜山安東家と湊安東家に別れて争った湊騒動をモチーフに描いた作品。
おそらく地元の学生以外は触れる機会のない日本史上の出来事に創作を加えてドラマ仕立てで作り込んでいます。地方史に熱意を注ぎの長編物語を描く作者の意欲に脱帽です。
敵役として描かれている休心入道が表情豊かで人間臭く、とても魅力的なキャラクターで読者としてはむしろこの人物目線で物語世界にひきこまれました。
<蛇足>
表紙に描かれているのはこの物語の主人公格の5人…勘十郎、湊様、四郎、喜介、安東太愛季。いずれの人物も生きた人間としての意思を持ち、個々の目的意識で動いて物語を構成することが作者の意図だと思われます。
ただ、これだけの人物構成を48pのマンガに込めるのは少々無理があるように感じました。このページ数で語れるのはせいぜい30分のドラマですが、この構成には2時間の映画くらいが必要だと思われます。
結果的にそれぞれの人物の置かれた状況やエピソードの描写が不足して、読者が個々の人物に感情移入するのに十分な情報が伝わりづらくなっています。
実際に私も何度も読み返し、湊騒動についてweb検索して情報を集めて、ようやく作者の意図を読み取れた感覚でした。もう少し読者にとっつきやすい作品にするには、物語全体をいずれかの人物の目線で見た内容にしぼるか、あるいは大増ページ覚悟でそれぞれの人物の物語を数十ページ以上ずつ描くかの選択が必要だと感じました。
<紹介>
「光輝、君をチームのリーダーとして任命する。君達のチームには実戦部隊として活動してもらう」
31連敗を喫した女聖騎士マルグレットの率いるチームにヴァルハラの管理者ハーディンが下した罰はリーダーをマルグレットから連敗原因の白河光輝(コーキ)に入れ替えることだった。
様々な別世界で死亡した英雄、勇者、達人、賢者たちが不死身の「エインヘルアル」として転生して集められたヴァルハラ。彼らはチームに別れて命がけの戦いを重ね、研鑽を積む。《二十一世紀の日本で最強の殺し屋》を自称する光輝はチームリーダーとしてこれまでにない困難なミッションに立ち向かう。
「殺し屋」「女騎士」「幼女賢者」「竜の巫女」「凶獣人化少年」がバトルを繰り広げる異世界ファンタジー読み切り小説。2019年8〜9月「小説家になろう」「ノベルアップ+」にて連載のWEB小説を電子書籍化。
<なかせ評>
小気味良い笑いも織り交ぜた会話文と血湧き肉躍る戦闘描写を連ねながら意外な展開を重ねた物語の娯楽小説。
死をも超越した戦士たちが繰り広げる肉弾戦と魔法と頭脳戦を通して、逆に主人公たちは不死のデメリットや彼らの不死にしている世界構造に迫る筋書きも見事。
物語構造は完成度が高く、とても力量のある作家による作品だと感じました。
<蛇足>
はじめの25ページを読むのがとてもつらかったです。
ストーリーが3つの時代を行き来しながら、それぞれの舞台設定や多数の登場人物設定の服飾に至るまでの説明が連なり、読者の記憶キャパシティを大幅に越える分量でした。(なので、私自身も実際に各章の要約メモを取りながら読み進めました。)
ディテールへの拘りはを読者に見せたい場合はストーリー展開で読者興味を引く流れを見せながらもうすこし小出しに織り込んでいく、あるいは挿絵イラストレーターに指示して絵図に描いてもらった方がいいように感じました。
ずっと《二十一世紀の日本で最強の殺し屋》を名乗る主人公はてっきり中二病の転生者の自分設定と思って読んでいたのですが、随分後でそうでないことが判明して少し混乱しました。ここらの説明はもっと前倒しに出してもよかったのではと思います。
<紹介>
「『地球文書』なら見せてもかまわんが」
入院中の涼子との合流を図る美由とニュートの前にはフル装備の戦闘ドローンが立ちはだかった。リカオンの協力でこれらを撃退できたが、訪ねた病室には涼子はおらず、三人を出迎えたのはインフェニット社のスティックス本部長だった。
「無限工作社」の謎を追い宇宙を駆けるジャーナリスト鎹涼子を描く長編ハードSF「人類圏」シリーズの「氷の惑星」編の第21編。
2023年9月コミティア145にて「人類圏」より発行の自主出版誌に付録解説「奇跡の一万年」も収録して電子書籍化。
<なかせ評>
前の第20巻では始終アタフタしていたリカオンが今刊の冒頭ではなんかかっこいい。涼子と無限工作社のそれぞれの思惑が絡み合い、反乱軍までが関わってくる緊迫の展開で続きが気になります。
「地球文書」と「確率操作装置」の関係性が見えてきましたが、巻末の付録解説とともに読むと一層興味深い。
<蛇足>
正直に言うと話全体が複雑で私も完全に理解できたとは言えず、ここ数刊の流れを何度も読み返してようやくおぼろげな全体像がつかめた感じですが、魅力的なキャラ描写と彼らの掛け合いやアクションが楽しくて、このシリーズからは目を離せません。
<紹介>
「あなたの人生を見てエンマ大王がお決めになったことだから」
ろくに働かず大酒飲んでギャンブル三昧で人生を全うした「五武力之介」。それでも生まれ変わって家族とともに過ごせることになった。ただし家の中を這い回るゴキブリとして。
ゴキブリに転生した爺さんが孫の命を救うべく奮闘するアクション・コメディー漫画。電子書籍描き下ろし作品。
<なかせ評>
自業自得で前世より厄介者だった爺さんが小さく非力で更に嫌われ者なゴキブリに転生。それでも家族を思い、孫を守るために奮闘する姿の共感力は高い。
ボディのデザインはちょっとスマートで、特に飛行モードのデザインは変身ヒーローみたいにかっこいい。嫌悪される小さな虫でもできることを見つけて問題解決していく展開には安心感があります。
物語はコンパクトで無駄がない構成。それでも、豆知識を披露しつつ意外な展開もはらみ、作者の持ち味の戦闘アクションと仏教的要素も織り交ぜてあって見事。
<蛇足>
完成度がとても高い作品なので口を挟む余地などないのですが、強いてなにか難を言うなら、息子の千太郎の言動が幾分都合が良すぎる点と、この物語のヒロインでもある孫娘の小花ちゃんの表情や動作の描写がステレオタイプなことが気になりました。双方とももう少し「生きた」の存在を感じるさせる工夫が欲しいところ。孫娘についてはより感情が込もった表情描写やゴキブリ目線のアングルといった工夫などが加われば、もっと「この孫を救わねばならない」という主人公へ感情移入しやすかったように思います。
<紹介>
「オレが地べたを這い回ってるうちに…」
労働者たちが相変わらずこき使われているギンガが初めにいた採掘場。 そこから「反逆者」が出たことを咎めて天府軍がは労働者たちを鞭打つ。しかし、空に投影された反天府軍の顔写真を目にした労働者たちには服従とは別の気持ちが湧き上がった。
天府側の「星霊」はさらに巨大化。「人類、動物、幽魔」連合の反天府軍はこれらを一体ずつ迎え撃つ。
天府が支配する死後の者たちが集まる世界で目覚めた少年 ギンガは反天府軍に加わり戦う。数話ごとのまとめ本を描き下ろし電子書籍配信にて展開するSFテイストの長編ファンタジー・バトル漫画シリーズ。今巻は第37話〜第42話を収録した第7弾。(全年齢向き:本文108p)
<なかせ評>
文字通り天文学的な勢いで攻勢をかける天府軍。しかし、反天府側はやや余裕を見せながら個々が持つ必殺の技でこれを退けていく。クールな八ヶ浦龍之介、ストイックなジョゼット・ベル、スタイリッシュなバネ足ジャック。それぞれの性格を前面に押し出す独創的な反撃で戦いは盛り上がる。そして、ついに彼らは天府側の最終兵器と対峙!
巻末で戦いはいよいよ終盤の様相を呈しているが、今巻の冒頭の労働者たちによる戦いへの関与はまだ披露されていない上に、今巻ではシリーズ全体の主人公であるはずのギンガがほとんど描かれていない。そのことが、おそらく最終巻となるであろう(?)次巻のクライマックスへの期待を膨らませます。
<蛇足>
あきらかに書き間違いだと思われますが、最終ページの次巻予告で「MYMYTH8をお楽しみに」と表記されるはずの文字が「MYMYTH7」になっていました。
<紹介>
「我、玉となりけり」
玉のように美しいグッドボーイのグローリー様は丸まり、転がり、万物に衝突してはじけさせる。
転がるアクションを軸に展開する「チェーンリアクション」スペクタクル漫画。2023年9月開催のCOMITIA145にて「まり王」より発行の日本語&英語併記の自主出版誌をフルカラー化して電子書籍化。本編(22P)と「サクラカー編」(5P)を収録。(全年齢向き:本文36p)
<なかせ評>
ストーリーと呼べるものは特にないのに物語性を感じさせる奇妙なマンガ。
とりとめのないアクションが連続するのみの展開なのに読者の目線をつかみ、最後のページまで離さない。「玉のように美しい」だから「転がる」と言い切る無理くりの理屈が逆に心地よく、読み手の心ににストンと収まる。
読み終えると一つの交響曲を聞かされてような気分になりました。
紙書籍版でも十分にこの楽しさを味わえましたが、カラー版で描かれる風景には更に魅了されました。
<蛇足>
宇宙の起源は自分であると言うグローリー。でも、はじめにグローリーを
投げて転がしたのはルーコなので、「万物の創造主」はむしろルーコかもしれない。
<紹介>
「その花束はアンタを想像しながら作ったなんて、口が裂けても言えない」
花屋に勤める田淵君に会いに加賀という男が訪ねるようになった。当初は加賀のことを「感じが悪い失礼な男」だと思う田淵君だったが、なぜか気にかかり、仕事中に彼のことを思い出す。そんな加賀は田淵君のことを前世から知っていると言い出した。
江戸時代に愛し合った二人が現代で再会するリンーカーネーションBLイチャラブ小説。(成人向け:性行描写あり 本文:140p)
<なかせ評>
花屋の店員とヤクザ者。別の時代から生まれ変わって再会する恋人たち(男同士)のストーリー。主人公は当初、相手のことを覚えておらず反発するが、思い出したら怒濤のように互いを求め合い愛し合う。
理性的には警戒しながらも何か気になる相手に徐々に心と体を奪われていき、最終的には身も心も許し合う状態に至るまでの過程がストーリーの中で段階的に描かれていて、二人が交わる描写は写実的で緻密。
自分はおそらくこの作家が意図した読者層からはずれていますが、本来の読者層にとってはとても娯楽性の強い一冊に仕上がっているように思います。
<蛇足>
ストーリー作品として見た場合、少々説明不足の点が気になりました。一番気になったのは過去から現代に生まれ変わって前世の記憶を持つ人間が複数いるにもかかわらず、主人公だけが前世の記憶が欠落していたこと。なぜそうなったかの説明は特になく、主人公は記憶を取り戻し、現世の心配事などを他所に時代を超えた交わりを再開しているのは少々腑に落ちませんでした。
また、過去と現代の人物設定(例えば主人公は元警察官だったとか、元女郎だった看護婦が登場する設定)で「これは後のストーリー展開のための作り込みか?」と思わせながら、最後まで特に活かされた風情がない内容がちらほらありました。なにやら履修していない作品の二次創作を読んでいる感じで私は読みましたが、あるいはこの作品の対象読者層にとってはありふれた「味付け」なのかもしれません。
<紹介>
「わたくしはあなたの最後の女 なんて優しい胆魂(きもたま)の味」
骨董屋の女主人の硝子(しょうこ)さんに引き取られた少年、玻璃(はり)に蔵の奥に仕舞われた生きていると見紛う美しい人形が話しかけてきた。人形に言われるままガラスケースから人形を解き放すと、人形は少年に口づけして胆魂を吸い取った。
骨董屋を舞台に繰り広げられる怪奇アクションバトル&グルメ(?)マンガ。シリーズ第1話。本編の日本語版40p&英語版40pを収録(全年齢向け:モノクロ91p)
<なかせ評>
前半は主に骨董屋の女主人と胆魂を食らう生き人形が繰り広げるオカルトバトルの展開ですが、後半は同じ二人がモツ焼きを食しながら酒を酌み交わす焼肉飲み会。また、全編通して食事描写の多い作品なので四捨五入するとこれは「グルメ漫画」に分類されるのではなかろうと思われます。
中二ごころをくすぐる設定、キャラデザ、画面校正で展開する意外とほのぼのとしたストーリーの新シリーズ。どのような軸でこれを今後展開するかが楽しみです。
<蛇足>
本当にグルメマンガとして描く意図であれば、もう少し食べ物描写に力を入れてほしいところ。作中で一番美味しそうに見えたのは玻璃君の胆魂でした。
英語力を鍛錬中の作者さんは今作も英訳版を収録していますが、今作で「胆魂」をどのように英訳するのかを確認しにわくわくして英語ページを開いてみたら、ローマ字で「Kimotama」と書かれていてちょっと拍子抜け。この言葉は作品の要でもあるので英語的にも素敵な表現を見つけていただきたいところです。
英訳は全体的にまだまだ2〜3ページに一つの割合で訳語選びの不自然さがあります。たとえば孤児となった玻璃君を「引き取る」という意味では「take charge」と訳してますが、これは担当や職務に就くことを意味する英語で、人間を含む生物の面倒を見る場合は「take care」と訳する方が適切です。全体的に、作品を一度ネイティブの方に見てもらって校正してもらう手順を経た方がよいように思います。
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「創作同人2023年11月」にエントリーした電子書籍のレビューをこのブログ記事に書かせていただきました。今回はエントリー期限ギリギリに間に合わせた自作の作業や、翌月予定の会場イベントの参加準備、更に私事ながら身内の急死が重なり、レビューを書き揃えるのに翌年の1月下旬までかかってしまいました。申し訳ありません。次回以降の「いっせい配信」ではもっと早くエントリー作品へのレスポンスを返していきたいと考えています。
私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章(=書誌)を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。