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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

「創作同人2023年7月」レビュー

2023年7月17日に第22回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2023年7月」に今回は12名の作家さんによる15書籍がエントリーしました。 

togetter.com

 私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回のエントリー作品はこちらです。

徒歩で5分の別世界2 金魚と暮らす タバコはなぜ20歳から? 竜の飼い方教えます25
画像クリックで作品詳細が見られます

今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

2023/7/20

<紹介> 
「お前らが戦い勝った者に… 我らの力を貸してやろうわい!」
ビッグチャレンジャーに代わりうる戦力を求めて戦隊の5人はゴールドチャレンジャーに連れられて五聖山へ。しかしそこでは全星皇ジワゾスとその配下たちが待ち構えていた。互いに一歩も譲らない両者がにらみあう最中に五体の聖獣の一つ聖麒麟が現れ…。

父母兄弟妹の家族5人が地球を守るために戦う戦隊ヒーロー・アクション漫画の第4巻。電子書籍描き下ろし作品。

<なかせ評>
乗鞍家の家族は五人。全星皇ジワゾスとその配下はあわせて五人。五聖山の聖獣も五つ。そして、聖獣を取り合う5つの戦いがはじまる。5つの戦いの展開や新たに登場した3人のジワゾス配下たちのバリーエーションは豊かで面白い。

どうやらこの両者の主要な戦闘はこの巻で山場を迎えた模様。しかし、前巻から引き継ぐ謎はまだ解明されていません。一方で読者が第1巻より気になっていた伏線がこの巻の最後で取りざたされました。これらが解明される次巻(おそらく最終巻)への期待が大きくふくらみます。

<蛇足>
毎回このシリーズは作者の「特撮戦隊モノ」に寄せる思いがよくつたわってきます。ただ反面、どうしても登場人物が多くなる分、短いページ数の中での展開は難しい作品で、この巻は特に描写の不足感が出ていました。5つの戦いの顛末は本来はもっと多くのページ数を費やすストーリーとして見せる方が、読者的にも満足が得られ、作者的にも目的に添ったように思います。

シリーズを通して個人的に気になっている点は以下の3つ
1)ヒーロー側と敵側の双方が披露する「戦う理由」。言葉の上で考えると敵側の方が「まっとうな目的」を持っている感じがします。
2)このシリーズの初期は戦闘ロボットの「ビッグチャレンジャー」の存在がコアいなっている展開でしたが、前巻で壊れたままで終盤を迎えるのか。
3)作者はこの作品の中で5という数字へのこだわりを隠そうともしてませんが、5という数字になにか大きな意味が込められているのか。

これらの気がかりが次回の第5巻(あ…これも「5」か)で解消解明されれば、シリーズ全体はすごい作品として完成するように思います。

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爆烈戦隊チャレンジャーズ4話

 

2023/7/21

<紹介> 
「さあ…私にお命じください 王様。雨を降らせろと」
ただ一つの仕事が国に雨を降らせることの王の座についた新王。言われた通り彼は「祈りの塔」を登ると頂部で待っていたのは泣くことで雨を降らせられる人魚とその番人だった。

人魚に苦痛を与えずに雨を降らせようと画策する若き王の顛末を描く読み切りファンタジー漫画。王の視点で描く「Sweet」編と番人の視点で描く「Bitter」編の2編で構成。

 2015年8月のコミックマーケット88にて「UMIN'S CLUB」より発行の自主出版誌を電子書籍化。(全年齢向け:微エロ)

<なかせ評>
「王の視点」編で一番疑問に残る部分をちゃっかり「番人の視点」編で補完している構成で、読者としては見事に「やられた感」を味わいました。

巻末に「ある日突然降りて来たこの物語を鮮度の落ちないうちに描きました」とありますが、言われてみればいくぶん構成に荒削りさを見せながらも、40ページに及ぶ美麗な物語絵巻に仕立て上げる作者の技量には舌を巻くばかりです。

<蛇足>
欲を言うと、更に「人魚の視点」で描かれた第3話を読みたいところですが、なにせ3人の中で最も長命なので、それを描き切るには「葬送のフリーレン」ばりの大長編が必要かもしれません。

「番人」編の物語は番人本人にとっては救いでしたが、この結末を王や人魚が知ったら…と考えると、ちょっと複雑な気持ちになりました。

人魚と王と番人と

2023/7/22

<紹介> 
「いつまでこんな望みもしないものを見なくてならないのか」
ノートをコピーするために学生が列をなすコピー機はその繰り返しに飽き飽きいていた。空の光景に憧れた彼は小さな反乱をひきおこし、プリント出力に空模様を写し込んだ。

日常的な生活感の中にふと幻影のような光景が入り混じる。作者が学生時代や商業連載以前に同人誌で描いた作品中心にまとめた短編マンガ作品集。各作品に作者のコメントリーを添付。

2022年9  月に開催の関西コミティア65にて「メタ・パラダイム」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

収録作品初出一覧
「あぶくのゆくえ」(同人誌「ドラマティックねこまんま」vol.1 1985年)
「記憶喪失」(個人誌『アクアリウム』1986年)
「コピーマシン」(京都市立芸術大学漫研誌『黑煮达13』/1987年)
「touch」 第1〜5話/展覧会はひとりで/予算折衝( 「ノンストーリーマンが集ひとつ|詩情編」1997-99年)
「思い出話」( 「ノンストーリーマンガ集ひとつ16号」 2000年)
「赤んぼ遠近法」( 「叙情派ひとつ1号」 2001年)
「アクア」( 「叙情派ひとつ3号」 2003年)
「目と目を」( 「叙情派ひとつ2013」)
「タイム・レコーダー」( 「叙情派ひとつ12号」 2002年)
「プロジェクトの終わり」( 「叙情派ひとつ14号」 2004年)
「レング飛行物体」( 「ガールズジャンプ(Gジャン)」1号 2010年)
「盆にかえる」( 「叙情派ひとつ2012」)
「いちじくジャム」( 「叙情派ひとつ2016」)

 

<なかせ評>
白井さんは日常的な空気感とダイナミックな幻影的光景の双方を描ける作家さんで、その2つの対比とその双方を流れるように行き交う演出に読者は圧倒されます。表題作の「赤んぼ遠近法」は特にその持ち味を余すところなく駆使した快作です。

これらの作品のほとんどが掲載された「ひとつ」誌に私も参加したいたので、懐かしく読み返しましたが、どの作品もまだ新鮮な味わいでした。特に「touch」 の連載は白井さんがCGを駆使して今の独特な作画手法を獲得していった頃の作品として記憶しているのですが、鮮度は保たれたままに感じました。

 

<蛇足>
2010年に小学館より発行された「白井弓子初期短篇集」と「touch」 第1〜5話/予算折衝、「赤んぼ遠近法」「アクア」「タイム・レコーダー」「プロジェクトの終わり」が重複に収録されており、双方の本ともこれらのページ数が過半数になっている。重複に気づかず双方を買った読者は損したと感じる可能性もあるので書誌には十分な注意喚起と、双方書籍の違いを明確に示した方がいいように思います。

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赤んぼ遠近法: 白井弓子短編集2

2023/07/23

<紹介> 
「キミは忘れてしまったのか?ミケロスピリットを!」
窮地に追い込まれた総理大臣に語りかけてきたのは執務机の横に飾っていた子供の頃から好きだった玩具「ミケロマン」だった。

70年代に玩具メーカーサクラが販売したアクションフィギュアシリーズ「ミケロマン」にまつわる空想ストーリー短編マンガ集。2023年5月にマンガ投稿サイトおよびKindleインディーズ(無料マンガ)にて公開の作品を総集。「ミケロマン総理」「ミケロマンを作った男」「小さな友人ミケロマン」の3編収録。フルカラー設定イラスト(5p)およびマンガ制作過程のネーム(11p)を巻末に添付。

<なかせ評>
1970年代にブームを起こした玩具…という設定の「ミケロマン」を題材にしている3編の漫画。しかし内容や方向性はそれぞれが違う。

「ミケロマン総理」は子供のころの玩具に思いを馳せるうちに空想と現実の境界が崩れるファンタジー
「ミケロマンを作った男」は「プロジェクトX」的な玩具の開発秘話紹介。
「小さな友人ミケロマン」はミケロマンたちが玩具の設定世界内で活躍する冒険アクション漫画。

特に3編目の「小さな友人…」は玩具会社が玩具の対象年齢層の読者に提供した販促用漫画のように描かれている。扉絵の作家名は「藤森ひろよし」(今木先生の別名義?)になっていて「大人気連載!」という触れ込みも書き添えた演出になっている。

実在はしなかった玩具にあたかも「昔あって、一大ブームだった」ような演出をあらゆる方面から繰り広げる様相は、NHKが「タローマン」を作るのにとった戦略をマンガ作家が1人で展開している感があって、なかなか愉快です。

<蛇足>
私は今木先生と同じ世代なので、これはタカラ玩具の「小さな巨人ミクロマン』」のパロディだとすぐわかりました。ただその原典の紹介は一切なく、電子書籍の読者にはこれを知らない世代も多いので、予備知識なしで読む読者には幾分不親切ではないかと心配になりました。

開発秘話については「ミクロマン」にまつわるエピソードをそのまま移し替えたようで、当時のブームを知る者としては面白かったです。ただ、置き換え前の原型がわからない部分が幾つかあるのが気になりました。…開発者「賀間アキオ」の本名は何?今年の3月に亡くなったというのは本当?「ミクロマン」の改名前の名前は何?
(「雷神サイノーツ」はもとは「変身サイボーグ」だということはネット検索でなんとか調べる子ことができましたが、他の疑問は謎のままです)

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ミケロマン物語

2023/07/24

<紹介> 
「おかえりくださいごしゅじんさま」「え?帰れ?俺は知らずに迷惑ムーブをしていたのか?」

VR空間の「英語を学びたい日本人と日本語を学びたい海外の人が」集まる学習ワールドで開催される英会話イベント。訪れた主人公「犬」(キャラ名)を出迎える案内役のメイドは思いもよらない第一声をかけてきた。

妄想美少女と会話しながら身の回りの出来事を漫画描写と解説で綴るエッセイ漫画シリーズ第9集。 2023年5月5日に電子書籍にて描き下ろし。英訳版も収録。
(これまでこのシリーズの漫画絵はドット絵(ピクセルアート)での描写がメインでしたが、今巻は全編3DCG描写となっています。) 

<なかせ評>
(作画)「デジタル手書」→「3DCG」
(他者との交流)「イベント会場」→「VRイベント」
(翻訳)「手翻訳」→「多言語生成AI」
時代の変化が漫画の題材にもなり、同時に作品の表現手段自体にも反映。今ここでしか生まれない題材が時代の変化を如実に盛り込んで繰り出される状況はエッセイ漫画として最上の形ではないかと思います。

以前から気になっていた作者の「英語」に対する取り組みやスタンスがつぶさに分かり、「表現者」として必要な英語を改めて考えさせられました。

VRイベントの参加にはなかなか踏み出せない自分ですが、その気になったなら揃えるべき機材やそれらの使用上の注意などがこの漫画を通してよく分かり、将来的に有用な知識を仕入れられたように感じます。

<蛇足>
今回の「いっせい配信企画」で配信された本はこの「ピクセルデイズ」シリーズの総集本(上下2巻)でしたが、私自身はこれまでこのシリーズの電子書籍はバラで入手していたので、これを期にいままで入手しいていなかった巻を選んでコレクションをコンプさせて(3、7、9を購入)、最新の第9巻のレビューを書くことにしました。

総集編を出したのは、もしかして漫画表現が「ドット絵(ピクセル)でなくなった」ことを機にシリーズを畳むつもりなのか?…と危惧を抱いてますが、「ピクセルデイズ」という名称はもはや「表現手段」よりは「作品内容」の名称として定着した趣もあるので、気にせずに今後もこのタイトルで続投されることを一読者としては望みます。

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ピクセルデイズ Pixel days 9

2023/07/25

<紹介> 
「奇妙な言葉は世界を救うぜ 奇妙なリズムは大地にとどろけ」
「労働」「マリトッツオ」「果肉エキス」…様々な題材で歌い踊るいちごちゃん。
いちごちゃんが歌い踊ればなんでもあり。

言葉のリズムで展開するギャグ短編マンガ集。
2023年5月関西コミティア67にて「まり王」より発行の自主出版誌を中心に電子書籍化。2022年11月〜2023年6月にかけてTwitter、Pixiv、ブログ等でWeb連載の漫画をカラー化収録。

<なかせ評>
リズミカルな言葉の繰り出しとポップな描画のコマ運びで、時には哲学的に、時には不条理に展開。先が読めないのにリズムに乗ってどんどん引き込まれる感覚は絶妙。そして、ときおりドキッとするようなセリフや超展開に出くわすのでたまりません。

作者の「動作に富んだアートセンス」「音楽的な言葉のリズムセンス」「奇特な道徳哲学センス」の3つが集大成されたシリーズが新たに生まれたように感じます。


<蛇足>
「マリトッツオ」の自己紹介や「たったひとりでは取り残される」への反論にはめちゃめちゃ不意を突かれて笑ってしまいました。

「青雲」や「デビルマン」は自分はすぐにわかりましたが、Z世代の読者はこれを見てすぐにメロディが脳内再生されるかどうか、ちょっと気になります。

あと、活躍が少ないけど35ページ目で生まれた新たなキャラがめちゃめちゃかわいい。

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アルファンベルトいちごちゃん 1

2023/07/26

<紹介> 
他人の血でダイモンを呼ぶのが正しいやり方と思ってんすか?」
召喚の儀式中に現れたのは物憂げな雰囲気の美少女だった。彼女は生贄の血で描いた魔法円にケチャップをかけ散らして儀式を妨害しはじめた。

鳥のダイモンとの契約で黒い翼と鉤爪を持つ女子高生ウイッチ:烏丸町子(からすまるまちこ)がダイモンを悪用する者を成敗。オカルト・バトルアクション・マンガ。
Twitter、LINEマンガ、PIxiv、PIxiv FANBOXにて連載のマンガを2023年前半公開の第1〜7話まで収録。巻末にキャラクター作成時の設定資料メモを6p添付。

<なかせ評>
ペンネームを「粉骨堂」と改めた斉所さんの真骨頂のオカルトアクション漫画の新シリーズ始動。
ストーリー構成、キャラクター配置に無駄がなく、転がるように物語は進行して読者をぐいぐい作品世界内へと引き込んでいく。全体的にシリアス展開な中で随所に笑いの要素が盛り込まれ、エンタメ性の高い作品に仕上がってます。
蜘蛛のダイモンのヤソメ様が恐ろしい外見と裏腹にキュートなリアクションを時折見せて、キャラクターとして魅力的。
ストーリーの流れはダイモンと契約した二人の女子高生ウィッチ(鳥ダイモンの烏丸町子と蜘蛛ダイモンの四ッ辻吟子)の出会いの話という感じなので、今後の二人の活躍に期待。

<蛇足>
いままでオカルトアクションものをいく通りか展開してきたこの作家さんですが、この作品ではどこかしら今までより商業ベースでも成り立ちうる領域へ一歩前進したように感じました。何が功を奏しているかを考えて見ると、どうも四ッ辻吟子がこの系統の作品ではこれまで以上に感情移入しやすいキャラに仕上がっていることのように思います。
彼女は読者もよく知ってる世界で足場を固めて、そこからの観点で烏丸町子に導かれて新しい世界に一歩踏み出したところ。これからの彼女たちの物語へ期待を膨らませずにはいられません。

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Daemon in the Witch World

2023/07/27

<紹介> 
「落ち着け… 動いてはいけない…」
寺にこもって座禅を組む野良之介は真剣に瞑想しようとしている。
しかし、寺を外から見ている群衆の目に映ったのは…。

主人公が「野良之介」であること以外は一切ルール不要の2ページ構成の時代劇(?)ショートギャグ漫画集の第4弾。
2017〜2018年のイベントにて無料配布ペーパーに掲載の8編と描き下ろし1編を収録。
2019年1月に「電脳吟遊館」より発行の冊子を電子書籍化。


<なかせ評>
毎回荒削りながらもひらめいたネタを即時に読者に提供している新鮮味が感じられるシリーズ。「試し斬り編」のオチの表現など斬新さが光ります。

なんらか支障が生じて決闘を取りやめるネタが2編ありましたが、個人的には「寸止め編」の優しい落ちも「睨み合い編」の超展開も双方とも最後のコマが好きです。


<蛇足>
今回の「いっせい配信企画」で配信された本はこの「野良之介」シリーズの総集本「総集編二」でしたが、私自身はこれまでこのシリーズの電子書籍はバラで入手しているので、「総集編二」に収録の中でまだレビューしていなかった2019年3月配信の第4巻のレビューを書くことにしました。

改めて読み直すと「まだ決闘ネタが多かったころの野良之介」という印象でした。

素浪人・野良之介 巻之四

2023/07/28

<紹介> 
「きれいな顔してるでしょ」「死んでないもんな」「ちょっと笑ってるし」
オポッさんのとくぎは死んだフリだが、じぶんの能力を過信しているためうすら笑いですぐバレてしまう。

死んだフリ状態のオポッさんに遭遇した森の動物たちが繰り広げる会話コメディ漫画シリーズ第一弾。8コマ漫画2本を縦スクロールで展開。KindleFliptoon描き下ろし作品。

<なかせ評>
「きれいな顔してるでしょ」という誰もが知ってる漫画の名台詞で始まる作品。
「でも安心してください!生きてますから!」と切り返すのが「明るい藤村」さんの流儀。

星柄の青いナイトキャップをかぶって笑いながら死んでるオポッさんのビジュアルはこの上なくコミカル。遭遇した森の動物たちも困惑するが、オポッさんが死んでないことはとうにに知っていて、むしろ幸せな会話を繰り広げる。

ついつい口元がほころんでしまうようなショート漫画2本。シリーズはまだ続くとのことで、エピソードを重ねることでさらに光を放つ作品に仕上がることに読者としては期待せずにはいられない。

<蛇足>
Amazon KIndleが最近力を入れて展開している「縦スクロール漫画:Fliptoon」にて投稿の作品です。アマゾンが「Fliptoon」投稿作に分配金として配るため毎月用意してる総額は最近好調で2000万前後で推移している「Kindle無料マンガ(インディーズ)」の分配金総額をも上回っているので、その力の入れようもうかがえます。
ただ実のところ、「いっせい配信」の企画運営側としてこれを「電子書籍」「データ配信」に含めていいかどうか迷いました。Fliptoonには読者が気に入った作品を自分が後々読み直せるように永久にキープできる機能はない模様で、もし作者がネット上でこの作品を削除してしまうと読者はその後作品を読む機会を永久に失います。これは「電子書籍」「データ配信」よりむしろ「LINEインディーズ」「ジャンプルーキ!」「COMICO」などと同じ「電子投稿」の系統に入ります。
ただ、今回は以前から「電子書籍」「データ配信」の活動をされている作家さんが「いっせい配信」企画の配信日にあわせて投稿されたうえで、ご本人から企画参加の意図が発信されたのが確認できましたので、エントリー作品に加えさせていただきました。この後のFliptoonの扱いは今後の状況を見て改めて考えたいと思います。

オポッさんは死んでない

2023/07/29

<紹介> 
「この時代 じゃんけんの勝者はすべてを得るが敗者は何も得られなかった」
環境の変動により生存競争がじゃんけん勝負に置き換わった第三紀から第四紀。
あらゆる生物がじゃんけんに勝つための器官「じゃんけん器官」を発達させ、それに適応できない生物は絶滅した。しかし「じゃんけん期」が終わると…

特殊な生存法則の期間が地球史に存在した仮定で描かれた空想進化論マンガ。
2023年7月にKIndle無料マンガ(インディーズ)にて描き下ろし電子配信。

<なかせ評>
「じゃんけん期」の存在によって塗り変わった地球史。カニのハサミは5本指を獲得した「じゃんけん器官」へと変貌し、「じゃんけん期」が終わると別の目的に転用されてカニ文明を創出する。他方で人類は…。

「『ぱー』を獲得したカニ」という設定からその背景とその後の影響へと想像を膨らませ、科学解説の体裁をとりながら散文的に情報を連ねて構成された空想科学マンガ読本。
作画労力を軽減する一方でカラー彩色を部分的に導入して、作者としては短期間作成の実験作品だったようですが、奇想天外な設定のSFを作者が創造する着想メソッドの一端を見るような感覚で読ませていただきました。

<蛇足>
もっと詳細な情報が欲しいような箇所や時折首をかしげる記述を発見。
たとえばクモについての言及で「『クモ』と呼ばれる昆虫」との記述が。「クモ」は「昆虫(胴体が3節で6つ足の生物)」ではないことを知らない作者ではないはず。あるいは、そのような記述を気にする読者に対して「そのレベルの情報が気にならないくらい軽く読むように」と促すためにわざと置かれた「つまずきやすい石」なのか?…などと想像を掻き立てられました。

パーが出せるカニ

2023/07/30

<紹介> 
「何か…見える… 子供の手…」
真上に来た半月村が宗一郎の腕から「返しの魔獣」を引き起こした。魔獣を木久屋君が魔道義手でなんとか抑え込んだが、宗一郎は遠のく意識の中でフォースの記憶をたどる。

異形の人々や魔法が入り混じった日常空間で展開する長編ファンタジーの第25話。2018年2月11日のCOMITIA123にて「乱痴気事虫所」より発行の自主出版誌を電子書籍化。(全年齢向け)

<なかせ評>
全体的にかなり入り組んだ設定のファンタジーです。

空中都市「半月村」の機能維持のために生み出された13人のホムンクルスの「ムーンチャイルド」たち。彼らの生命の核でもある「引力の卵」はムーンチャイルドが死ぬと大爆発の後に彼らの肉体を再生させるため、彼らは「とても物騒な不死者」である。
「引力の卵」を体から分離すればムーンチャイルドも「死ぬ」か「普通の人間になる」ことを選べるが、分離するには別の「引力の卵」保持者が必要。13人目のムーンチャイルドである「宗一郎(ラスト)」はファーストを除く11人の「引力の卵」を分離させる役割を担ったが、サードを除く10人は全員が普通の人間になることより死ぬこと選んだ。
残された宗一郎は「半月村の維持」を最優先とするファーストと反目しあいながら、普通の人間になるため単独で自分の「引力の卵」を分離する方策を探り続ける。そんな中で、すでに死んでいるフォースが死後もなんらかのパワーソースを残していることに気づく。それが何かを探るべく、フォースが残したメッセージに従い宗一郎たちは彼らの父の墓所に赴くが、ファーストと半月村もそれを察知して接近してきた。

これが前回までの概要。

今回はファーストが仕掛けた術の反動で宗一郎が昏倒し、その意識がフォースの記憶を辿ります。そして、後に半月村を崩壊させるであろう、フォースが残した仕掛けの存在を宗一郎は知る…というお話。

かなり時系列が前後しているので読者にはちょっととっつきにくいかもしれないですが、内容が理解できれば今回は派手なアクションもあり、すごいデザインの魔獣なども登場するので楽しめるお話になっています。また、徐々に明かされるムーンチャイルドたちの性格や言動、そして彼ら同士の人間関係や軋轢が物語を味わい深くしています。

<蛇足>
これまで、このシリーズについては私自身は配信する側なのでレビューは控えていましたが、実際のところ私は完成した作品の誤字脱字を校閲したり、たまに話の筋が通りにくい部分を指摘して改善を提案するレベルで、制作にはほとんどタッチしていません。ほとんど、電子書籍でシリーズを追っている読者の皆さまと同じ目線で見ているので、今回はレビューを書いてみることにしました。
実はシリーズの紙版は2019年に出た26巻以降まだ出ていませんので、次回の電子化配信ではいよいよシリーズ最新話に追いつくと思われます。これでいまのところ世の中に存在する「竜飼い」ワールドの全貌を知ることができるので、私も一読者として楽しみです。

竜の飼い方教えます25


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創作同人2023年7月のレビューあとがき


創作同人電子書籍の「いっせい配信」企画にエントリーした作品のレビューをこのブログで書く活動は2020年の3月のコロナ禍初期の頃からはじめました。実はそれ以前は「いっせい配信」企画の広報チラシを刷ってコミティアなどのイベントのチラシ置き場で配布していましたが、コロナでその機会がなくなりました。

そのロスを補う広報手段はないかと思ってはじめたのがこのレビュー活動です。実はチラシを印刷するために少々の経費を費やしてましたが、その頃は同じ金額でいっせい配信にエントリーしている作品を全購入して読むことも可能だと気付いたのがきっかけでした。
読んだならレビューは書けるし、それを順次ネットに公開していけばその作品に興味を持って読んだ人は同時に「いっせい配信」企画の存在を知ってくれるチャンスになるかもしれない。


「いっせい配信」企画の設立意図については私が書いてきたものを読んでご存知の方も多いと思いますが、もともとは「自分の本を売るための広報力をアップする」ためでした。つまり、自分が電子書籍を配信するタイミングにあわせて他の作家さんにも各々の本を配信していただき、一緒に広報すれば互助的に広報力をアップできる。そんな目的の企画に参加いただいている作家の皆さんには日頃より感謝の意は絶えないので、エントリーした作品はちゃんと読んで、レビューを返すことがせめてものお礼にもなるのではないか、という思いもあります。


ちなみにレビューを書く際には作品を読んだ上での観点で、その作家さんの今後の活動への期待を伝えることが大事だと思っています。ただ、その際には、どこまで作品に立ち入るべきか毎度迷いもあります。作家自身が意図しない方向への期待を過度にアピールしてしまうと、今後の作品を歪めてしまうのではないか、という危惧を抱きながら、実は毎回おっかなびっくりでレビューを書かせていただいてます。


そんなわけで、1日1作品に向き合ってレビューを書くのがやっとで、エントリーした全作家さんの分の作品を網羅するには長い期間かかってしまいます。ただ、その期間は「いっせい配信」企画の広報をいろんな情報を交えて長い期間続ける形にもなるので、それはそれでいいのかもしれません。そして、どうやらこのレビューを書く活動を始めたら、それを楽しみにあえて「いっせい配信」企画参加用に書籍を用意してくださる作家も出てきた模様です。


この活動をやっていて思い出したのは今は亡き、創作同人オンリーイベントの「そうさく畑」の武田圭史代表のイベントパンフでした。彼も毎回「そうさく畑」で提出される見本誌に目を通し、全ての作品にひとことでもコメントをつけて次回のパンフに載せる活動にこだわっていました。時折その活動はパンフ印刷に間に合わず、発行した追加チラシをパンフに織り込む作業が発生して、イベント当日にスタッフの手を煩わせることが度々ありました。しかし、そういういった活動が多くの参加者を魅了して当時の「そうさく畑」の愛される空気感を作っていたように思います。


いろいろ結果がかみ合っているようでもありますので、今後とも私はこのレビュー活動はなるべく続けたいと思っています。(企画へのエントリー作品数が今後多くなった場合は難しくなるかもしれませんが、その時はその時で考えます。)

 

私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章(=書誌)を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。