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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

「創作同人2025年11月」レビュー

2025年11月3日に第29回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2025年11月」に今回は11名の作家さん&編者さんによる14作品がエントリーしました。

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私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回のエントリー作品はこちらです。

エッチなのはいけないことか?  秘密基地

画像クリックで作品詳細が見られます

 

今回も他の作家さんによるエントリー作品の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

2025/11/04

<紹介>
いわみゆうこさんの個人誌「銀花シリーズ」の4冊目。 家庭料理店「どんぐり亭」を営む姉妹マーリ&ココを描く「どんぐり亭シリーズ」の第19話「flower smile」、近況のトークやカラーイラスト、2019年にうどん会に寄稿のレポ漫「タコvsイカ」「真冬のほぼ貸切BBQ♪」「2019年ラグビーワールドカップ観戦記at熊谷」の3編を収録。2025年8月のコミケ106にて「雪待月」より発行の冊子を電子書籍化。
(全年齢向け/本文フルカラー(漫画部分モノクロ)/24p)

<なかせ評>
「どんぐり亭」はニナとマーリの開店準備時間のおしゃべりエピソード。テーブルを飾るお花を話題にガールズトーク。マーリの期待に応えようとはりきるニナがかわいらしい。
BBQ回のレポ漫に出てくる材料とレシピが別人に任された「ハンガリー料理」の味がとても気になりました。
淡い色使いのイラストともども、ほっこりしながら読める一冊でした。

<蛇足>
うどん会に寄稿のレポ漫の話題はいずれもコロナ以前のお話でしたが、コロナ以降のアウトドアライフには変化があったのか、相変わらずなのかが気になりました。

銀花4

 

2025/11/05

<紹介>
「どうだ 私の術は強さまで写し取れるのだ!」
野良之介が対峙する二人の忍び。片方が変わり身の術で野良之介に変身し、野良之介と互角に戦って見せているところで、もう片方も変わり身の術を用いるが…。

主人公が「野良之介」であること以外は一切ルール不要の超展開2ページ構成の時代劇(?)ショートギャグ漫画集の第5弾。 2023〜2025年のイベント参加ペーパーに掲載の8編と描き下ろし1編(第62〜70話)を収録。2025年9月に開催のコミティア153にて「電脳吟遊館」より発行の冊子を電子書籍化。

<なかせ評>
毎回、2ページ構成なので1ページ目をみてその先の展開を予想するが8割くらいは予想を覆される。イベントで会う度にいただける無料ペーパー配布で新作を読むのを楽しみにしていますが、まとめ本で読むとテンポのいいコメディ集として再度楽しめます。

<蛇足>
個人的に特に好みなのは第62話「変わり身の術」編のようなロジカル展開のネタ。またスマホアプリや偽サイトのネタを時代劇に落とし込んでいる描写も楽しい。

素浪人・野良之介 巻之八

2025/11/06

<紹介>
「なんで巨大化してるんだ!?」「ちょっと怪獣退治してて…」
平凡な高校1年生の鎧 直樹(よろい・なおき)君。彼の朝は2階の窓をたたいて彼を起こす幼なじみの巨大ヒロイン「ジャン子ちゃん」の目覚ましではじまる。

幼なじみが巨大化して怪獣や宇宙人と戦って自分を守ってくれる戦闘と生活が交錯する日常を描く特撮バトルマンガ。2025年10月にPixiv及びジャンプ・ルーキー!にて発表の読み切り短編マンガを電子書籍化。(全年齢向け/本文:モノクロ/16p)

<なかせ評>
ウルトラマンを彷彿させるカラーデザインの変身ヒロインがバトル。細かい説明をいっさい省略でシンプルなストーリーを構成しているため、作者の特撮愛とマンガでやりたかったことがより際立って、読者にびしびし伝わってくる快作。

<蛇足>
細かく見るといろいろ疑問が生じる点がありますが、(直樹が宇宙人になぜ狙われているのか?宇宙人と怪獣はどういう関係なのか?ジャン子の頭のヒーローパーツは取れないのか?)そこらはあまり気にならず作品を楽しめました。
ただ、コスモアーマーが直樹の愛の力で装着できるのは理解できたのですが、そのアーマーが直樹自身であることには2度目に読んではじめてきづきました。てっきり、カプセルから直樹がいなくなったのは、ジャン子がダイナマイト・ターックル(「タックール」ではなく「ターックル」なのね)の際に救出したのだと思いました。ここらは誤解が生じないよう、もう少し描き方を工夫した方がよかったです。
Pixivとジャンプルーキー!ではトーン貼り電子書籍はグレースケールで登録されていましたが、グレースケールの方が目に優しい感じなので、そちらに統一した方がいいように思いました。

おっきなスーパーヒロインジャン子ちゃん

2025/11/07

<紹介>
「じゃあ お前に任せる お手柔らかに頼むよ」
人魚の漣は「人魚の番」となった朔に抱かれることによって人間の姿になる。その人魚の番としての役目に踏み切れない朔を見かねた玉響は二人を部屋に閉じこめたが…。

漣と朔。不老長寿の人魚とその眷属である「人魚の番」を描いた「人魚泡沫奇譚」シリーズの番外編第3弾。シリーズ第5巻「漂泊の果て」の初夜エピソードを漣の視点で詳しく描く。 2025年3月のJ.GARDEN57にて「UMIN’S CLUB」より発行の自主出版誌を電子書籍化。(女性向けBL/表紙フルカラー:本文モノクロ/16p)

<なかせ評>
タイトル通りのエピソードを緻密に描いたBL「絡み」マンガ。BL絡みだが華奢な漣と骨太な朔の組み合わせは普通に男女のような絵面になるし、漣のびびってるシーンなども納得の自然な流れなので、BLに興味がない読者にも普通にエロとして読めます。

巻末の2ページエピソードはエモい話と思って読んでたら、最後のキャプションで笑い。「判明」したということは、それまで3年、二人とも気づいてなかった…ってことですよね?

<蛇足>
細かなツッコミですが、人魚の姿で下半身が魚の漣は排泄孔が前後のどちらについてるのかが気になりました。実は「クジラは体の構造上、後尾の際には正常位になる」という記事を最近読んだばかりだったので。

初夜

2025/11/08

<紹介>
「さて 買ってからが本番だ」
身長が同じ150cmの二人の女の子、百花(ももか)と五十羅(いそら)は恋をした。服のお買い物に行くのも二人一緒。そして二人で市販服を買った後は…。

創作同人漫画即売会「コミティア」の開催150回を記念に発行した「150」がテーマの合同誌。
執筆陣:山名沢湖、水寺葛、ほしのゆりか、片倉あおい、石井美凛、zama36、二条都、村上リコ、李えるざ、さまこ、しましま
2024年11月のコミティア150にて「突撃蝶々」より発行の冊子を電子書籍化。
(全年齢向け/本文モノクロ/52p)

<なかせ評>
「150」という難しい数字のテーマに挑む11人(?)のコミティア作家によりストーリー漫画、4コマ漫画、短編小説、旅行記、イラストを詰め合わせた合同誌。テーマに沿わせるため参加作家さんたちが150をどう解釈するか苦労して頭を捻った形跡がうかがえて面白い。結果として作家さん各自が自分の作風にあわせて150を年数にしたり、回数にしたり、身長にしたり、テストの点数にしたり、語呂合わせにしたりと工夫を凝らした作品が出揃っている。

個人的にとくにすごい、この人ならでは!と思ったのは「150年前のイギリス」がテーマのフォトエッセーを寄せた村上リコさん(英国執事やメイドなどについての解説著書を出されているライター)でした。

<蛇足>
自分がこのテーマを振られたら「150」という数字をどう使うか考えて「…温度150°はどうだろう?摂氏?華氏?…華氏150°なら摂氏65°で低温サウナくらいの温度になるが」などと想像を巡らせれました。

150

2025/11/09

<紹介>
「亀 なんだよ」
商店街で人間くらいの大きさの二本足で歩く亀を見かけた男は、妻に教えてやろうと走って帰った。しかし、妻は…。

小説家の北野勇作氏がTwitter(現X)で毎日発表のマイクロノベルより選り抜きで構成の「ほぼ百字小説」シリーズの各話を内海まりお氏が1話1ページでコミカライズ。2025年9月のコミティア153にて「まり王」より発行の冊子を電子書籍化。収録全30話(全年齢向け/本文モノクロ/40p)

原作出典
ありふれた金庫 (シリーズ百字劇場)
納戸のスナイパー (シリーズ百字劇場)
ねこラジオ (シリーズ百字劇場)
かめたいむ (シリーズ百字劇場)
交差点の天使 (シリーズ百字劇場)

<なかせ評>
わずか100文字前後で、なにげない日常描写や状況描写から書き出した文章がで不思議な世界へと読者を導いたり、予想を裏切って笑わせたりする北野氏の原作。その感覚をそのままに1作1ページ(2ページ、4ページのものもあり)で無国籍画風の内海氏がマンガ形式にビジュアライズ。そのシリーズを30作まとめて綴じたこの冊子は高密度な哲学書とも呼べる重みを訴えかける。
北野氏の原作は最後の一言で世界観をひっくり返す展開のものが多いですが、それを時にはダイナミックに、時にはするっと最後のコマにまとめる内海氏の采配に唸らされます。

<蛇足>
個人的には私は内海さんが描く狸や亀といった動物が大好き。人間とは別の価値観で生きている雰囲気を漂わせながら、どこか人懐っこさを感じられるコミカルな描写が秀逸です。

ワンページSF: 狸と猫と亀と天使

2025/11/10

<紹介>
「コレクションノートも実際に作りました!」
2023年2月に東京卸売りセンターにて開催の第2回文具マーケットに出展者として参加した作者。文具づくしの自スペースに並べたオリジナル文具にはずっと作りたかった「入手した文具とかをメモしていく専門ノート」も加えた。

もと文房具店員でもある作者が思い出や昨今の文具界の動向をつづる文具コミックエッセイ。Webマガジン「文具のとびら」にて毎月3ページ連載のシリーズの選集(2020.12.5〜2025.9.5)第4弾。「メルプのお部屋」より2025年11月に開催の「おもしろ同人誌バザール@神保町2025秋」に発行の自主出版誌を電子書籍化。
(全年齢向け/本文一部フルカラー/44p)

(収録リスト)
#58 「手描きで工夫してまんがを描こう!」
#40 「年末は文房具の整理整頓をしたい!」
#61「「本」が作りたい子ども時代!」
#66「イベントにオリジナル文具を出品したいぞ!」
#67「文具マーケットに参加したぞ!」
#71「ペンケースを求めて行列に並ぶ!」
#96「山形駅・文具店めぐりの旅」
#97「無くしたノート、戻ってきて!」
【描きおろし】無くしたノートの手がかりを求めてネットで検索したら……
#88「ひとつの電卓が冬の時代を暖かくする!」
#94「やりたいことを100個書くぞ!」
#90「完売していた年賀スタンプとは?」
#89「2025年はこの手帳といっしょにがんばる!」
【描きおろし】2025年の手帳、その後……

<なかせ評>
「喜怒哀楽」満載の文具コレクションライフを送る作者の日々を存分に詰め込んだ第4巻。
ただのコレクターではなく、さらにアクティブに活動を広げている様子が伺えます。特に今回は文具コレクターの痒いところに手が届く記録用のオリジナルノートを作成したという話がかわいい表紙デザインと相まって興味深い。またコレクターとしての収納の悩みも興味深く、その悩みの解決をやはり文具で図っているのは「さすが」だと思いました。

<蛇足>
思い入れのあるノートを無くし、それを取り戻したというエピソードでも作者の心情描写が心に響きました。描き下ろしページに書かれたその途中のエピソードにも大笑いしました。

お楽しみは文房具 4巻

2025/11/11

<紹介>
「もう300年ほど前だけど化石燃料時代の終わりを象徴するビルなんだよ」
21世紀の「過去」から来たトスカ姫とジョーカーを連れてトキ、フーちゃん、サリさんが訪れた「循環ビル」。そこは雨水と生活廃水を循環させて下階では魚を養殖し、上階では反射板で太陽光を取り入れた畑や田んぼの作物を育てている。ここでは家畜も養われ、温室ではバナナやコーヒーまでもが栽培されている。

地球環境問題や未来のことをテーマに一般公募して制作された一般公募マンガ同人誌の「第10号」。年2回ペースで紙&電子にて定期発行。
発行:「みらいみたいなマンガ集」制作部会 http://hitotu.main.jp/MMM/ 
(全年齢向け/本文:フルカラー&2色カラー/101p)

収録作品:執筆者
どすこい未来!: 秋元なおと
ハロー!未来風景 (1)星を継ぐ生き物 :いくろん
ハロー!未来風景 (2)未来ヨガ :いくろん
カカ島区物語 9話 循環ビル :秋元なおと
ゴミック新作集18-1~12 :ハイムーン
里山どんぐり 鏡開き編 :つやまあきひこ
終末時計から地球時間へ :くりもとりゅう
ああ憂鬱なる環境漫画家 03 さあ賞レースへ :秋元なおと
天皇陛下の1.5℃ :秋元なおと
可視化する気候変動 1~2 :秋元なおと
気候変動ニュースピックアップ:秋元なおと
音楽アルバム「KIKO=KIKI」:秋元なおと
本の紹介:秋元なおと
再生環境カレンダー2026の紹介:ハイムーン 

<なかせ評>
エコロジカルでサステナブルな世界に変貌した未来を描く「カカ島区物語」シリーズに今回描かれたのは田畑が何層も重なるビル。外部からの資源供給を必要とせず、ビル内に住む住民によって維持管理され、あらゆる食料を自給で賄うことができる。その屋上ではビル オリジナルの土産物が売られ、来客からの現金収入も得られる…と微に入り細にわたる設定の作り込みに唸らされました。

タワーのようにそびえ立つビルの周辺は一面の緑が広がる平野の中を低層の建物が点在するエリア。一つ気になったのは、もとともそのような周辺エリアの中でこのビルは象徴として目立つよう、際立った構造で作られたのか、あるいはもとは高い建物に囲まれててなんらかの災害で唯一残されたのか。それによってこのビルの印象は大きく変わるように思いました。

<蛇足>
継続的に考えねばならない「エコロジー」や「SDGs」の問題に対してこの定期発行誌がちゃくちゃくと活動を続けているのは大変意義深いです。これを通じて現代社会に潜む危機感が読者に共有されれるのは望ましいと思います。ただ、一方で危機感を共有した読者がその不安を解消するための具体的アクションへの示唆などがあまりないことが気に掛かります。
その点については、最近私も自身のマンガ表現で取り組みはじめたものがあるので、もしかすると次回以降のこの誌にまた関わるかもしれません。

みらいみたいなマンガ集2021春号

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これから数日かけて、他のエントリー作品の紹介とレビューをこのブログ記事に書き足していく予定です。

私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章(=書誌)を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。

 

 

第29回いっせい配信企画「創作同人2025年11月」

第29回いっせい配信

2025年11月3日(文化の日)に創作同人電子書籍の第29回「いっせい配信企画」=イベント名「 創作同人2025年11月」が実施されます。この企画は配信する電子書籍ストアを問わず、作品を自主配信してる作家さんが配信日を揃えて、配信情報を互いに広め合うオンラインのイベントです。

https://64.media.tumblr.com/318c9c13716c540890c43a7dfcdc6955/7565566b72dfdffa-29/s500x750/0dac5910f75309b70e9f17325a663826858534ad.pnj

「いっせい配信」企画は配信日より1〜2日の誤差内の期間(11月1日〜5日)は随時「飛び入り」可能です。まだ「電子書籍ストア」や「電子データDLストア」でいっさい配信されていなかった自作のオリジナル作品があれば参加費無料、事前申請不要、「漫画」「小説」「イラスト集」「全年齢向け」「成人向け」等々のジャンルは不問なので、興味のある作家さんは企画サイトをご覧ください。

今回のいっせい配信では11月1日午前の時点では10人の作家さん&編者さんによる12作品がエントリーしています。

私(なかせよしみ)と砂虫さんの本を配信する「まるかふぇ電書」はあわせて以下の2冊の本を配信します。

砂虫さんの「秘密基地」は自分専用の「隠れ家」的な居場所を題材にまとめた思い出エッセイ。砂虫さんが9月のコミティア153にて描き下ろした新作です。
私の「エッチなのはいけないことか?」は一昨年の「原爆はなぜ日本に落とされた」以降に続けています様々な物事に関する私自身の考え方をまとめた「そもそもからの簡単かいせつマンガ」シリーズの第5弾。今回はかなりキャッチーなテーマとして「エロス」をとりあげましたが、短いページ数ながらタイトルに即した話を描き上げることができたのでは、と思っています。

どちらの作品も先日の10月17日の関西コミティアで紙冊子版が完売し、ちょうど入れ替わる形で全ての電子書籍ストア(全124ストア)販売が手配できましたので、日頃お使いのサイトでご確認ください。

 

「創作同人2025年7月」レビュー

2025年7月21日に第28回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2025年7月」に今回は10名の作家さんによる13作品がエントリーしました。

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私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回のエントリー作品はこちらです。

りるのベッドタウンQUEST 台所 竜の飼い方教えます27

画像クリックで作品詳細が見られます

今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

 

 

2025/07/23

<紹介>

「わたしの実家 黄金野家は...何十年か前ジワゾス帝国から落ち延びた一族なの!」
新戦力「聖獣王」を得て全星皇ジワゾスを退けた乗鞍家は安息のひと時をすごす。その中で母のたづなは自身の半生と全星皇が長男の天馬と同じ顔である理由を明かす。

父母兄弟妹の家族5人が地球を守るために戦う戦隊ヒーロー・アクション漫画第6巻。電子書籍描き下ろし作品。

 

<なかせ評>
乗鞍家の夫婦とジワゾス本星との因縁の関係、そして巨大ロボ「ビッグチャレンジャー」の謎の一部が解き明かされる今巻。ビッグチャレンジャーは第2巻で壊れたままで新戦力が導入されたので、もう活躍はないのか?と心配してましたが、まだまだ物語にからみそうで安心しました。

 

<蛇足>
今回の注目キャラだったのは意外に武闘派な過去の活躍を見せた乗鞍家の父:斬馬。巨大ロボはどうやら彼が1から作ったわけではなかったみたいだし、「ブラックチャレンジャー」としても戦ってるし、本来はそっち側の人だったのか?…とも思ったが、敵に囚われて「強制労働」をさせられている時も、肉体労働ではなく何やらモニターの前に座らせられている。もしかすると文武両道のバランスが取れた人なのかもしれない。

「爆烈戦隊チャレンジャーズ6話」

 

2025/07/24

<紹介>
「絶対に許さん!今夜こそやっと朝まで眠れるところだったのだぞ!」
国王を長く苦しめていた「不眠症」をようやく快方に向かわせたのは隣国の姫君が献上した夜啼鳥だった。しかし、王の寝入りばな、彼の枕元に刺客の手がせまった。

中世欧風の小さな王国を舞台に展開するお伽噺のようなラブロマンス・ファンタジー読切マンガ。2018年8月に開催のコミックマーケット94にて「UMIN’S CLUB」より発行の自主出版誌を電子書籍化。
(表紙&裏表紙フルカラー:本文モノクロ/32p)

 

<なかせ評>
童話のような設定ながらも、つぎつぎと読者の意表をつく展開の傑作ショートストーリー。
シリアスな描画で時には少しエロチックに主人公たちは描かれているが、言動や時折見せる表情がなんとも可愛らしく、愛しい。一回の短編で使い捨てるには惜しいキャラたちなので、続編が作れるなら是非とも読ませていただきたい。

 

<蛇足>
最後のページに2人の傍に子供が描かれているが、もしかして2人の間にできた子?

「眠れぬ王に囀る鳥は」

 

2025/07/25

<紹介>
「これが軍隊なら敵前逃亡は銃殺刑もありえるぞ」
人類は群れて暮らす生き物。みんなが逃げ出したら社会が成り立たなくなる。逃げた者は各人が負う責任を放棄したことへの倫理性を問われる。

天使の「魅伽(みか)」と悪魔の「瑠姫(るき)」が「辛かったら逃げてもいい?」というテーマを考えながら解説。天使と悪魔が一般的に正しい・悪いとされていた道徳論を不道徳に反証するシリーズ第2弾。2025年6月に開催のCOMITIA152 にて「電脳吟遊館」より発行の自主出版誌を電子書籍化。(全年齢向け/本文モノクロ/20p)

 

<なかせ評>
前回の「ソーシャルサービスの未成年者利用禁止法案」に続き、倫理的な問題について作者の思うところを描き連ねたマンガシリーズの第2弾。
ダイヤの乱れへの抗議に詰め寄る乗客らから逃げた駅員、バスジャック犯に逃亡したら他の乗客を殺すと言われていたのに逃げた乗客、「退職代行サービス」の活用…等々「逃げた」具体例を出しながら、考えを広げていく。

 

<蛇足>
責任を「負う側」がそれを放棄することのリスクや倫理的問題を中心に話が展開する一方で、責任を「負わせる側」の倫理性についてはあまり焦点があてられていないのが気になりました。
逃げた側は追われることを覚悟しないといけない、と語られていますが、逃げられた側は負うための余力がない場合も多く、
たとえば闇バイトの実行犯などに関しては集められた者たちが追っ手になる者を含めて全員で逃亡した方がいい場合などもあります。「逃げちゃダメだ」は90年代のロボットアニメの主人公の代表セリフでしたが、「逃げる」ことで解決する場合も意外と多い。

「天使と悪魔が学ぶ不道徳の授業 2時間目」

 

2025/07/26

<紹介>
「大丈夫?」「北里さんの音はやさしい」
映画の残り3作の字幕翻訳が行き詰まったところに駆けつけてくれたのは、ゲイである龍のパートナーの北里圭教授、そして、安寿がずっと会えなかった幼なじみの倉木恵。恵は救いを求める安寿の連絡に応えてくれた。初対面同士が意気投合しながら翻訳作業は進み、そして映画祭は最終日を迎える。

中東の映画の映画祭を開催する映画館に関わる人たちの4日間を描くシリーズの第5巻(完結)。「3日目」(全3部)の第3部「3日目・夜」と「4日目早朝」「4日目」の3編を収録。2024年6月の新潟コミティア58及び2024年12月の新潟コミティア59にて「千秋小梅うめしゃち支店」より自主発行の冊子を合本して電子書籍化。(全年齢向け/本文71p)


<なかせ評>
4年ごしの大作が完結。地方の小さな映画館を舞台に個性豊かな人物たちが集まり、関わり合い、理解しあう過程を描きながら、難民の入管問題を中核に、差別、マイノリティ、DV等の社会問題に切り込む社会派ドラマでした。
4日間の映画祭を完走した面々がそれぞれの解決を得て全員笑顔で迎えたエンデイングにジンときました。


<蛇足>
物語の冒頭よりその存在を伏線として置かれていた倉木恵。マンガが長編化するにつれ、その存在への期待値がどんどん増して、今巻にてようやく登場。「果たして、膨れ上がった読者の期待にこのキャラクターを応えられるのか?」とちょっと心配でしたが、杞憂でした。
とても魅力的なキャラクターが物語を大きく牽引し、そしてフィナーレを飾ってくれました。

「東の果ての映画祭3日目夜~4日目」

 

2025/07/27

<紹介>
「空を覆い尽くす敵を退けても次は十倍、その次は百倍の敵が来る」
ペテルギウス星霊を驚異の戦法でギンガが打ち破った。太陽系を奪還し、その防衛に力を注ぐ反天府軍をよそにギンガは自らの心身の限界を超えた力を得て突き進む。彼の後をゴリラ少年のガルガンチュアと超能力使いの幽魔ジーナフォイロが追う。

天府が支配する死後の者たちが集まる世界で目覚めた少年 ギンガは反天府軍に加わり戦うが。数話ごとのまとめ本を描き下ろし電子書籍配信にて展開するSFテイストの長編ファンタジー・バトル漫画シリーズ。今巻は第49話〜第53話を収録した第9弾。(全年齢向き:本文117p)

<なかせ評>
太陽系の覇権を巡る戦いの後に自らの限界を打ち破ったギンガ。更に強大な「おいぬ座VY」の星霊を打ち倒したギンガは彼の後を負ってきたガルガンやジーナとともに「超黒河ペダン星雲」の星霊に挑む。

星霊たちの背後の「宇宙の元凶」に挑むギンガの戦いは反天府軍を離れた。天井知らずのインフレバトル・ストーリーは新たな次元に突入する。

<蛇足>
冒頭にギンガ自分の枷になっているものを把握し、それを打開する一幕がある。ビジュアルなインパクトが強いシーンだが、具体的に何をどう打開したのかが読者に伝わりにくい点が気になりました。もう少し言語化した説明が必要かもしれません。

「MYMYTH 9」

 

2025/07/28

<紹介>
「1回のバイト中にバルタン星人に出会えるかどうかで今日の運勢が決まる」
コンビニのレジで店員がレシートを渡す時のお客さんの対応は様々。チョキの2本指でレシートを受け取る「バルタン星人」スタイルのお客さんは少しレア。

○ァミリーマート店員のF美さんの日常と仕事中に思っていること。
2017年よりコンビニでバイトをはじめた作者が同人イベントにて配布のペーパーに掲載の1ページのコンビニ漫画にエッセイページを加えて総集。2025年6月に開催のCOMITIA152にて発行の自主出版誌を電子書籍化。(全年齢向け/本文44p)

<なかせ評>
コンビニ店員経験者ならではの感覚で綴った、業務の日常で驚いたこと、困ったこと、うれしくなったことの漫画。同系列店舗に勤めた人なら絶対ひざを打つであろうと思われるネタも満載。競合店の名称でもある「711」の数字並びを見た時の反応などが面白い。

<蛇足>
コンビニの店員は「バイトという概念」っぽい仕事だと書いている作者に激しく共感。異世界に行ったら「ギルドに登録のパーティのメンバー」になりたいと思うのと同レベルに現代の日本にいるならついてみたいバイト。
実はうちの妻も昔Lが頭文字の店の方でバイトを経験しているが、その時の経験談を聞くと羨ましく思う一方で、なかなか大変な仕事であると思い知らされます。

「コンビニのF美さん」

 

2025/07/29

<紹介>
「ブブー!大不正解!そういう奴は後で大体独裁者になる」
ルーコが出会った「宇宙の意志」を名乗るうさんくせぇ人物は困った世の中を正す「新しい指導者」を選ぶと言う。そして、どんな人がそれに相応しいかをルーコに尋ねる。

魔法使いのルーコが様々な人々と出会って対話する連続4コマ漫画シリーズ「魔法使いのお時間よ」第109話。2025年5月に開催の関西COMITIA73 にて「まり王」より発行の自主出版誌「魔法使いのお時間よ百八百九〜毒人間と指導者〜」の後編を電子書籍化。(紙版は前編の第108話も収録)
(全年齢向け/表紙フルカラー・本文モノクロ    16p)

 

<なかせ評>
様々な哲学的テーマに切り込む「魔法使いのお時間よ」シリーズの今回のテーマは「理想的な指導者像」。カラー化して総集版に収録する前に時折モノクロのままKindle無料漫画に1編ずつ公開する流れの中で、今回この1編を公開したのは時期的に参議院選挙の投票日が近かったからではないかと推察。
多くの人がこれを読んで、選挙後の政治の行方を確認し、さらに一考されることを私も切に願います。

 

<蛇足>
「宇宙の意志」の人選はなかなか的確だと思います。そして、その基準で選ばれた者の行動は当たり前のようにこうですよね。

巻末のあとがきに書かれていた「内海さん」とは誰なのか、実は初見ではピンとこなかったのですが、レビュー用に読み直した際に気づきました。パトレーバーに出てくる黒幕の「内海さん」か。
9ページ3コマ目のセリフ「国民(同)動員で考えさせます」は「総動員」の誤植ではないかと思います。(←8月1日 修正済み)

「魔法使いと指導者」

 

2025/07/30

<紹介>
しろばんばだっけ?」「なにそれ?」「国語で習わんかった?」
自転車で通学中に川沿いを走ると顔に当たる虫に悩まされた。それを母に報告すると母は耳慣れない言葉を返してきた。

昭和36年生まれの作者の子供の頃、そして大人になって経験してきた虫との思い出を綴った短編漫画10編。合同誌「叙情派ひとつ」2017〜23年号に掲載の「虫と私」シリーズ中心に描き下ろし作も加えて収録。(全年齢向け/本文モノクロ&フルカラー54p)

 

<なかせ評>
街中や野山を舞台に昆虫の存在で展開する一幕をマンガで描く「虫マンガ本」。昆虫の存在がむしろ日常の中の人間の生き生きした姿を際立たせます。人と虫の双方が共存しているこの世界をコンパクトに表現しているように感じました。

 

<蛇足>
しろばんば」は多分「ワタムシ」だと思いますが、どこかの地方にユスリカのような蚊柱が発生するということなのだろうか?もう少し情報が知りたいと思いました。

縦長のフルカラー漫画がページによってコマの読み順が違う(横順と縦順が混在)のが気になりました。また、もともとはスマホ画面で見る絵をレイアウトされたものではないかと推測します。紙冊子の台割りとしては理解できますが、スマホで読むには写植が小さくなりすぎる難がありました。ページ数が大幅に増えますが、むしろこれは1ページ4画面ではなく、1ページ1画面にした方が電子書籍の読み勝手がよくなるのでは、と感じました。

「虫と私と」

 

2025/07/31

<紹介>
「ほら、両手を腰の後ろに組んで。今日は、260発の往復ビンタでお仕置きだよ」
主人公(マゾ奴隷ちゃん)は会社の女性上司に呼び出され、彼女に罵倒されながら、彼女の社内結婚相手と営業成績を比べられ、その差の数値分「お仕置き」されることを宣言される。そして終わりのしれないビンタがはじまる。

POV視点の「主人公:自分」をマゾ化調教した女性とさまざまなシチュエーションで対峙する際に、投げかけてくるセリフを実態調査の上で立ち絵イラストとテキストで再現。「寝取られ調教」をテーマに2018年3月より月刊オンライン発行のNTRマゾ専門ビジュアルブックの2025年7月号。

4編を収録
「往復ビンタのお仕置き」
「マゾ税と童貞税」
「W金蹴りプール」
「夏祭りは、別々の撮影会」
(成人向き/本文:フルカラー/73p)

<なかせ評>
「痛い」あるいは「不衛生」な表現に抵抗のある読者にはおすすめできませんのでご注意ください。

基本的には立ち姿の女性のイラスト画像に主人公を罵倒するセリフを添えて様々のマゾヒスティクなシチュエーションを演出するシリーズ。総ページ数70p以上になってますが、基本画像は全部で7枚くらいで、人物レイアウトを変えたり、口パク&表情の差分をつけたり、効果グラフィックとセリフの写植文字をつけて構成。

執筆には以前の24年8月号で拝見したsasAIchi 、 BUBU-Kの2名に加えて Kaikaとおそらくこの本の企画担当と思われる「M小説同盟」が イラスト陣として参加。おそらく「往復ビンタのお仕置き」はこの「M小説同盟」の作画で、他の3作に比べるとアクション表現が多い構成の試みが面白い。

<蛇足>
やはり私自身はこの作品のターゲット読者層から外れるようで、これを需要する層のニーズがつかめません。ただ、かなりの省力で作られているように見えるにもかかわらず、この値段設定で毎号それなりの購買数を得てる模様なので、参考にすべき作品群であるようにも受けとれます。

気になる点としては「実態調査&再現」との記載が書誌にありますが、相変わらず内容としてはあまりその感覚が得られないこと。
また添付文字の内容で状況のバリエーションをつける工夫を練られている点は理解できますが、セリフとして見ると「性格破綻した人物が落とし所なくエスカレートする一方の罵詈雑言」としか読み取れないこと。
また前作に比べてさらにストーリーとイラスト内容のギャップが大きくなっていること。自分としては、せめて下に添付のイラストのようなアングルの絵でも加えねば作品としては不安になりますが、

現状でも需要する層の支持が得られている様子なので、これは私の方が気にしすぎな点かもしれません。

「月刊CUCKOLD 25年7月号」

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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章(=書誌)を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。

 

--【付記事項】----------------

今回の第28回いっせい配信「創作同人2025年7月」についても、DLsiteに登録の各エントリー作品にレビューコメントがかなり多く寄せられました。多人数からいただく作品についてのご意見、ご感想は作家としては大変参考になり、今後の活動の励みにもんりますので、これは大変ありがたいことです。

「DLsiteのエントリー書籍一覧」

この現象がこの先も続くかどうかはわかりませんが、一応、このさき「いっせい配信」企画に参加されるかたで、読者からのレビューを要望される場合は配信先にDLsiteを加えることも検討の価値があるのではないかと思います。

第28回いっせい配信企画「創作同人2025年7月」

第28回いっせい配信

2025年7月21日(海の日)に創作同人電子書籍の第28回「いっせい配信企画」=イベント名「 創作同人2025年7月」が実施されます。この企画は配信する電子書籍ストアを問わず、作品を自主配信してる作家さんが配信日を揃えて、配信情報を互いに広め合うオンラインのイベントです。

https://64.media.tumblr.com/7281de95fd597f367e31829bfcc032c7/97ab2f57d5dae1a4-da/s540x810/b377594b2c30b746b7562d98ffd22300fa4b65f8.pnj

「いっせい配信」企画は配信日より1〜2日の誤差内の期間(7月19日〜23日)は随時「飛び入り」可能です。まだ「電子書籍ストア」「電子データDLストア」で配信されていない自作のオリジナル作品があれば参加費無料、事前申請不要、「漫画」「小説」「イラスト集」「全年齢向け」「成人向け」等々のジャンルは不問なので、興味のある作家さんは企画サイトをご覧ください。

今回のいっせい配信では7月18日午前の時点では6人の作家さんによる8作品がエントリーしています。

 

私(なかせよしみ)と砂虫さんの本を配信する「まるかふぇ電書」はあわせて以下の2冊の本を配信します。

砂虫さんの「台所」は厨房を題材にまとめた食エッセイ。砂虫さんが6月のコミティア152にて描き下ろした新作です。思い出のレシピなども記載してありますので、料理に興味のある方はぜひ作って食べてみてください。
私の「りるのベッドタウンQUEST」はSFドタバタコメディ「夢見が丘のりる」シリーズの新作。2月のコミティア151と6月のコミティア152にて前後編で書き下ろした60ページのお話です。有栖川りるの3人目の友人の倉澤京子との関係に焦点をあてたお話になっています。

 

<7/21追記>

さらにもう一冊、砂虫さんの本がいっせい配信に間に合いました。

こちらは長編マンガの「竜の飼い方教えます」の2023年以来2年ぶりの新刊となります。こちらでは公務員:平公平(たいらこうへい)が4人目のMC(ムーンチャイルド)「フォース」が遺した「術式」の真相にせまります。なにぶん久しぶりの続編ですので、これまでの数冊を読み返した上での購読をおすすめします。
こちらは「いっせい配信日」が迫った時点で原稿が完成しましたので、作家の手で自主配信できるストアの一部のみでの配信開始となります。
実は今回のこの本はイベント販売の紙冊子発行より先行販売ですので、これまでの巻に収録されていた紙冊子版の表紙絵&裏表紙絵はまだ収録されていません。紙冊子版が発行された段階でそれらを含む電子書籍に差し替え予定ですので、それ以前に買われた方はお手数ですが改訂版データをその時点でご入手ください。(その際の追加料金等は発生しません)
またBLIC出版経由での配信はこの改訂データが制作された後に予定していますので、今回配信のストア以外で入手予定の方は、それまでしばらくお待ちください。

「創作同人2025年3月」レビュー

2025年3月20日に第27回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2025年3月」に今回は9名の作家さんによる13作品がエントリーしました。

 posfie.com

 

私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回のエントリー作品はこちらです。

僕の彼女は左利きのマイノリティ 僕の彼女は左利きのマイノリティ

なにおもうねことひと レンタサイクルクル
画像クリックで作品詳細が見られます

今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

 

2025/03/26

<紹介>
「これ以上はダメ!人魚と契ると命を落とす…」
「人魚」の漣と「人魚の番」の朔の2人の1000年前に遡る物語。平安の世で漣は高貴な男 惟雪の寵愛を受けていた。美しい漣と過ごす安らぎの中で命尽きることを願う惟雪だが、政敵の左大臣の手の者により闇討ち遭った惟雪は突如現れた朔の助太刀で命拾いする。

漣と朔。不老長寿の人魚とその眷属である「人魚の番」を描いた「人魚泡沫奇譚」シリーズの第4弾上巻。漣が朔を番にするシリーズの原点エピソード。上下の2巻の構成。この2巻セットだけで単体作品として購読可能。 2024年8月コミックマーケット104にて「UMIN’S CLUB」より発行の自主出版誌を電子書籍化。
(女性向けBL/表紙&口絵フルカラー:本文モノクロ/36p)

<なかせ評>
シリーズ全体は主に大正時代を舞台に描かれている模様ですが、この上下2冊は平安時代を舞台に朔を漣が不老不死にするまでの顛末を描いた、いわば「人魚泡沫奇譚 ザ・ビギニング」。下巻の巻末に昨年の大河ドラマ「光る君へ」についての言及がありますが、ちょうどのタイミングに有用な映像資料に恵まれたようで、美麗な筆致で見事な平安絵巻が描き上げられています。特に惟雪が漣に快適に過ごせるよう用意した水上の屋敷のシーンが、建物造形ともどもとても美しい。

シリーズ全体は「BL作品」として括られていますが、この2巻に関しては漣が裸体をさらすシーンを除けばほとんどそのことを忘れて「全年齢向け作品」として楽しめるように思いました。

<蛇足>
上巻での惟雪はとても温厚で好ましい人物で、漣とも仲睦まじく描かれていたので、下巻の展開にはかなり驚きました。巻末解説では朔は惟雪の死を引きずると書かれており、また、漣が朔を「人魚の番」にした際の2人の関係はかなり複雑になっていたので、その後の1000年間を2人はどうのようなバランス感覚でともに過ごしていたのが気になりましたが、
…いかんせん、このシリーズの販売は同人価格で、興味本意で全巻揃えに乗り出すのは少々難しいと感じました。
あるいは、その値段設定で「不用意に買う読者」は増やさないよう、防衛線を張られているのかもしれません。

可惜夜の月 上弦

2025/03/28

<紹介>
「世界で最も厳しい法律らしい」
2024年11月オーストラリアで16歳未満のSNSの利用を禁止する法案が可決された。違反した事業者の罰金は最大5000万豪ドル(約48億8300万円)。

天使の「魅伽(みか)」と悪魔の「瑠姫(るき)」が最近制定された海外の未成年者保護法案の問題点を考えながら解説。天使と悪魔が一般的に正しい・悪いとされていた道徳論を不道徳に反証するシリーズ第1弾。2025年2月に開催のCOMITIA151 にて「電脳吟遊館」より発行の自主出版誌を電子書籍化。(全年齢向け/本文モノクロ/20p)

<なかせ評>
昨年オーストラリアで可決されたソーシャルサービスの未成年者利用禁止法案について、法案の道徳性を問うマンガ。法案はまだ施行されてはいないが、施行された場合どのようことがおきるかを想定して、また法案の制定プロセス自体に注目して、どのような問題があるのかを論じてます。
子供が「大人」の「論理」と「都合」で振り回されることへの作者の怒りが読み取れました。

<蛇足>
法案は施行されていないので、施行後に想定通りの事態に発展するかどうかは不確定です。(子供だけによるSNS発信は禁止されても、実際は大人が管理するアカウントを通じての子供の発信は継続されるのではないかと思っています。)また、日本と海外では「児童の安全」を取り巻く環境が違うので、海外の法制定をそれに至る経緯を抜きに日本人が自国で制定されたように論じることには少々危険を感じます。
ただ、本来は事業者を律する想定の規制が大人の都合によって歪められ、児童ばかりに不利益が増大する傾向があるというのは大事な観点だと思いました。
私個人的としては、大人がSNSの利用価値と危険性をきっちり理解し、将来それとは無縁では生きられない次世代をちゃんと見守って育てられる社会になるのが一番いいように思います。

天使と悪魔が学ぶ不道徳の授業 1時間目

2025/03/29

<紹介>
「ぐるりと巡り、少しの間、旅を楽しんでください」
何処までも続く通路。暗闇のトンネル。荒野の向こうには黒い巨人達が待ち受ける。魔法使いルーコはどこに至るとも知れぬ回廊をひたすら突き進む。

神殿の入り口から延々と続く通路をただひたすら辿っていくシークエンス漫画。2025年1月開催の関西コミティア72にて「まり王」より発行の日本語&英語併記の自主出版誌をフルカラー化して電子書籍化。(全年齢向き/本文:フルカラー/45p)

<なかせ評>
「前に進む漫画シリーズ」の第7弾とのこと。ふりかえって見ると意外にも魔法使いルーコが単独で「進む」はじめてのエピソード。ルーコは途上で車を召喚し、分かれ道で分裂、合流点で融合、沿道にそびえる巨人の攻撃をかわす、…などとミラクルを起こしつつひたすら「進む」。極彩色で描かれたその道のりは迫力があり、ポップで美しい。

<蛇足>
苦難の後にルーコが行き着いた先は、これまでのシリーズと一味違い、なにやら神々しい。もしかしてルーコは何かレベルアップしたのだろうか?…と思えるような印象でした。

【前に進む漫画シリーズ】
太陽の塔内部見学」魔王
「魔王のホライゾンシネマ4:教済の技法」
「ポスモダ」
「羊のメアリー大冒険」
「ファイアー・スパーカー」
「地下帝国」       

秘仏回廊

 

2025/03/31

<紹介>
「何人殺されたんだよ!ちくしょう!ざっけんな!ざっけんなよ!あたしの部下だ!一」
独断専行したせいでモンスター「樹魂」と対峙して全滅寸前に陥った西浦隊。その窮地に割って入ったのは子供の甲高い声で悪態を撒き散らす背の丈2メートルで全身黄土色の西洋甲冑のような巨人だった。

西暦1999年。オティーリエとマルギットはこの春から日本の高校に通うことになった留学生…は、あくまで表向きの顔。彼女たちは「巨大甲冑」を操り、地球の戦力では倒せない「人を食らう異形達」を狩る第四八殲滅支援隊所属の近衛騎士見習い。異世界から派遣された女子高生達の日常と闘いを描くバトルファンジー小説。

AI生成画像を添付したキャラクター紹介10p及び設定解説63pも収録。(楽天Kobo版のみAI生成画像を削除) 2024年9月より「ノベルアップ+」にて連載開始のWEB小説を一部先行発表で電子書籍化。(全年齢向き:一部グロ表現あり/全209p )

 

<なかせ評>
シリーズ第1巻とのこと。「オテマル」は主役の2人オティーリエとマルギットをまとめた略称のようですが、この巻ではまだ2人は戦っていません。主に戦闘で活躍するのは2人より外見が年下ながら、2人のコマンダーであるズザンネ。また、第1巻本編の前半部分は彼女たちではなく、待機命令無視で攻め入った部下の地球人部隊の顛末に焦点が当てられます。

軽快な会話の応酬とつぎつぎと展開するアクション、そして魅力的なビジュアルな描写で物語世界にぐいぐい引き込む力強い文章です。また生成AI画像を駆使し、会話調の解説を加えて読者と情報共有する工夫が好印象。本文中から解説文へ飛べるリンクが貼られ、解説文の終わりにもとの本文ページに戻れる仕組みは電子書籍の機能がうまく活用された親切設計でした。

 

<蛇足>
以前の作品を読んでタイトルから軽快なお話を想像しましたが、思いのほかハードな内容でびびりました。モンスター「樹魂」の外見や言動の凶悪な描写には震えるほどの凄みを感じます。ただ「樹魂」という名称は第3章でようやく出てきましたが、もう少し早く出して読者に覚えてもらった方がいいように感じました。

中盤ではオティーリエとマルギットの生活風景が描写されていますが、彼女たちの設定と言動がどうもチグハグな感があり、実は私は読みながらどちらがどちらなのか混乱することが多々ありました。
また、2人が表向きは女子高生であるという設定の必要性があまり見えず、そのため今巻では2人の学校の教諭とのやりとりにかなりのページが割り振られているのには違和感がありました。

戦闘を含めての2人の活躍描写が増えれば解消されていく問題だと思えますので、次巻以降の展開に期待します。

-1999 異世界女子高生- オテマル①

2025/04/01

<紹介>
「ごめんなさい。訳せる自信がありません」
中東の映画の字幕修正を手伝うエルカンだったがヘブライ語は習ったことがなく、イスラエル制作の映画にはお手上げだった。それなら不法移民のエルカンにはここにいる理由はもうないと妙(たえ)は指摘するが。

中東の映画の映画祭を開催する映画館に関わる人たちの4日間を描くシリーズの第4巻。「3日目」(全3部)の第2部。2023年7月開催の新潟コミティア56にて「千秋小梅うめしゃち支店」より自主発行の冊子を加筆して電子書籍化。(全年齢向け/本文62p)

<なかせ評>
シリーズ全般もそうですが今巻は特に、映画作品や映画館を通じて登場人物の各人が自分の過去と現状を見つめ直し、人との新たな関わり方に舵をきっていくお話。個性豊かな登場人物がそれぞれ抱えた背景をもとにそれぞれの言葉を掛け合って複雑な人間ドラマが織り成されていくさまが圧巻。
特にはきはきとした物言いの妙ちゃんが(時にはわざと意地悪を言って)物語を動かしていく状況が小気味良くて、個人的にもお気に入り。
「中東」と一括りに言っても、そこにはいくつもの国があり歴史があり、現在を生きる者の経歴にまで影響を及ぼしている状況も描かれているのがリアルでよかったです。

<蛇足>
作中で紹介されている映画「フィラデルフィア」は私は未見ですが、これは見ておくべき映画のように思いました。深みのある映画作品としてはもちろん、この巻での龍太郎が安寿を落ち着けた言葉を本当に理解する意味でも見る必要があると感じました。

東の果ての映画祭3日目PM

2025/04/03

<紹介>
「私の名は紫式部 …本当は違うケド…」
紫式部が自身が仕える主の彰子さま、弟の惟規、亡き夫の藤原宣孝、娘の賢子、父の藤原為時について4コマのギャグ漫画で紹介。

紫式部藤原道長藤原彰子清少納言赤染衛門和泉式部伊勢大輔平安時代の文化人たちをモチーフに描く短編マンガ集(ギャグ多め)。過去の同人誌に収録の平安時代マンガを再編集。2019年11月開催のコミティア130にて「丸ゆべし愛好会」より自主発行の冊子を電子書籍化。(全年齢向け/本文45p)

 

<なかせ評>
作者が思い描く平安時代の文化人たちの言動や対話や日常の虚実織り交ぜた短編歴史マンガ集。「平安クラスタ」を自称する作者のその時代に寄せる情念を感じられる一冊でした。
この時代についてあまり詳しくない自分としては、当時の事物や時代の推移、ひいては令和元年の即位礼正殿の儀がこのような方々に熱い眼差しを向けられていたことに驚きました。

 

<蛇足>
私は「歴史系同人」という括りは知ってましたが、「平安クラスタ」という括りを見たのは本書がはじめてでした。
2024年に平安時代を舞台とした大河ドラマ「光る君へ」が放送され、それを私は全話見ていたので当時の文化人たちの人物名や相互の関係を把握できてましたが、それ以前に本書を手にしていたなら書いてる内容がほとんど理解できなかったと思います。
おそらく本書は前述の「平安クラスタ」をターゲット読者と想定して作られたものと想像します。

大河ドラマでは藤原道長紫式部の恋仲が描かれていて、賢子が実は道長の子というトンデモ設定に私は鼻白んでましたが、道長が式部に想いを寄せていたとの記述が「紫式部日記」にあることを本書で知り、大変驚きました。

注)本書は創作同人電子書籍の第27回いっせい配信企画「創作同人2025年3月」へのエントリー書籍となっていますが、同書の電子版はメロンブックスで2020年4月より配信が開始されており、本来はエントリー規準要件を満たしません。今回はこの先行配信の発見が遅かったため、エントリー書籍としてそのまま扱う形をとらせていただきました。今後、同企画についてはエントリーする書籍についてはチェックを強化し、要件規準をきびしく運用させていただきますのでご注意願います。

平安乙女草子-歴史創作短編集-

2025/04/04

<紹介>
「我々は『起きてる』とどんどんリン酸化していきます」
80種類のタンパク質からなるタンパク質群SNIPPs(Sleep-Need-Index-Phosphoproteins:睡眠要求指標リン酸化蛋白質)。眠気は脳の中での彼らSNIPPsのリン酸化によっておこり、眠るとリン酸化が減ります。(2018.06.14筑波大学チーム発表

科学的な世界に住むアリスと仲間たち(ゾウリムシ、ミドリムシ、悪魔、アンドロイド、胃袋、赤血球=作者)が日々報道される科学ニュースの話題を紹介する4コママンガ集。ブログにて2018〜19年に発表の作をまとめて2023年8月に開催のコミックマーケット102にて発行の自主出版誌を電子書籍化。
(全年齢向け/本文59p)

 

<なかせ評>
体裁は4コマ漫画集ですが、個々のマンガの後に記される題材の科学ニュース見出しを含めてひとつのネタ。ニュース内容を確認して「あ!なるほど」とひざを打つネタも多い。
科学に多少詳しい読者でないとなかなか難解なネタの取り扱いも多いですが、風合いのある画面とかわいいキャラたちの対話や活躍は見ていて飽きません。

 

<蛇足>
「ペテルギウスに超新星化の兆候が見られる」のネタを見て「もう5年前(2019年)の話だったのか!」と驚いてしまいました。その後、大幅な進化を遂げてるBD(ボストン・ダイナミックス)のロボットもスペースXも、この頃はこのレベルの報道で盛り上がっていたなぁと、懐かしく読みました。
このシリーズの源流を確認しに作者のブログを覗いてみたら、もともとはモノクロではなくグレースケールは単色カラーで塗り込まれていたのを発見。雰囲気が増すので電子書籍版にはそちらで収録した方がいいように思いました。
最新作を確認しようと思った見ると2020年2月に新型コロナのネタを描かれたのを最後に更新がありませんでした。できればまた連載を再開して、これから著しい躍進を遂げそうなAIや宇宙開発について描き止めていただきたい気持ちでいっぱいです。

サイエンスの国のありす(2018・19)

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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章(=書誌)を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。

 

--【付記事項】----------------

今回の第27回いっせい配信「創作同人2025年3月」について、ちょっと特筆すべきことは、今回はじめての現象ですがDLsiteに登録の各エントリー作品にレビューコメントがかなり多く寄せられました。

DLsiteのエントリー書籍一覧

 

 

多人数からいただく作品についてのご意見、ご感想は作家としては大変参考になり、今後の活動の励みにもなりますので、これは大変ありがたいことです。

レビューがつかなかった作品もありますし、この現象は今回かぎりの現象かもしれませんが、一応、このさき「いっせい配信」企画に参加される作家さんで、読者からのレビューを要望される場合は配信先にDLsiteを加えることも検討の価値があるのではないかと思います。

第27回いっせい配信企画「創作同人2025年3月」

第27回いっせい配信

2025年3月20日春分の日)に創作同人電子書籍の第27回「いっせい配信企画」=イベント名「 創作同人2025年3月」が実施されます。この企画は配信する電子書籍ストアを問わず、作品を自主配信してる作家さんが配信日を揃えて、配信情報を互いに広め合うオンラインのイベントです。

 

https://64.media.tumblr.com/b7ab373a8cd1c7cd74db092f0b4ef703/34c387cdb80bdac0-3a/s500x750/a83ff572ad00a8f8c2df0c6f2934bdb62f1ffe94.pnj

「いっせい配信」企画は配信日より1〜2日の誤差内の期間(3月18日〜22日)は随時「飛び入り」可能です。まだ「電子書籍ストア」「電子データDLストア」で配信されていない自作のオリジナル作品があれば参加費無料、事前申請不要、「漫画」「小説」「イラスト集」「全年齢向け」「成人向け」等々のジャンルは不問なので、興味のある作家さんは企画サイトをご覧ください。

今回のいっせい配信では3月17日午前の時点では6人の作家さんによる9作品がエントリーしています。

「まるかふぇ電書」の新刊は…

私(なかせよしみ)と砂虫さんの本を配信する「まるかふぇ電書」はあわせて以下の3冊の本を配信します。

 

 

砂虫さんの「なにおもうねことひと」は2年ぶりの猫エッセイです。その期間の間に更に進化した猫の描写や、描き溜められた猫水彩画で飾る裏表紙をお見逃しなく。
砂虫さんの「レンタサイクルクル」は遠出の旅先や日帰り旅行で活用したレンタサイクルの思い出と、日常的に活用しているマイ自転車に関わる近況などを綴ったサイクリング・エッセイです。
私の「僕の彼女は左利きのマイノリティ」は「左利き」を題材に描いたラブコメですが、同時に「マイノリティ」という存在がおかれている社会的位置あいを考える材料になれば、と思ってまとめた一冊です。「左利き」の不便さを他のマイノリティに置き換えた場合で考えながらお読みいただければと思っています。

以上3冊は私と砂虫さんが昨年11月と今年2月のコミティア150〜151で新刊として出した本の電子書籍化で、いずれも早い目にデータを揃えられましたので、クロスフォリオ出版(BLIC出版)の代行配信にも間に合い、3月20日に100以上のストアで入手可能となります。

このほかに、あと1冊、私が昨年コミケで出しました本を今回のいっせい配信あわせで、現在、紙版分に加える増ページ分の原稿を鋭意すすめています。なんとか3月20日にはいくつかのストアでの配信開始にこぎつけたいと考えています。

 

<3月23日付記>
1日遅れでの3月21日の配信になりましたが、予定していました「創作同人電子書籍のススメ 2025年「配信代行」活用のススメ」が間に合いました。

 
 
 

「創作同人2024年11月」レビュー

2024年11月3日に第26回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2024年11月」に今回は10名の作家さん&編者さんによる12作品がエントリーしました。

togetter.com

私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回のエントリー作品はこちらです。

表現規制は無くすべきか?  水彩あそび

画像クリックで作品詳細が見られます

 

今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

 

2024/11/20

<紹介>
「女だ 居もるはずのない女が視える…今もそこに。」
人体リサイクル法が施行されて50年。不具合を起こした体のパーツを簡単に取り替えられる時代。男は左目を正規に移植する前のかりそめに冷凍保存の目を移植したが、その目で視えたのは…。

移植した左目に映る幻の女に報われない恋をした男の物語のSF恋愛読み切りマンガ。 2024年5月COMITIA148にて「UMIN’S CLUB」より発行の自主出版誌を電子書籍化。
(全年齢向け/表紙2色カラー:本文モノクロ/14p)

<なかせ評>
当初は煩わしく思っていた虚像に徐々に焦がれるようになる男の経緯を描く抒情詩的マンガ。
恋する対象は実在ぜず、その対象が恋する相手は決して自分ではないことを承知の上で、その悲恋を愛しむ心情は理解しづらいながら、そのもの悲しさがダイレクトに伝わる掌編。

<蛇足>
「移植された目で見知らぬ人の像を見て、その人物に恋をする」という話は、実は手塚治虫先生が「ブラックジャック」の「春一番」というエピソードで描いてます。そちらの話では、主人公はその人物と実際に出会った後に失恋する顛末までが描かれてました。UMINさんのこの作品はその中の「恋に落ちていく過程」、あるいは初めから悲恋を覚悟して落ちていく者にスポットをあてたものとも言えます。男の最後のシーンで諦観した表情で虚像を眺める眼差しが切ない。

左目に宿る恋

 

2024/11/21

<紹介>
「私はココと一緒だったらどこでも楽しいな」
はじめての遠足に参加する初等部のココ。でも目的地は行ったことがある湖なのが残念だと言うと、クラスメイトのフィーは…

いわみゆうこさんの個人誌「銀花シリーズ」の3冊目。 家庭料理店「どんぐり亭」を営む姉妹マーリ&ココを描く「どんぐり亭シリーズ」の第18話「遠足」、2018年〜2024年に掛けて描いたカラーイラスト多数、うどん会参加のレポ漫「三匹たちと侍」「辛い!カライ!うどんの日 からくないのもあるよ」の2編を収録。2024年8月のコミケ104にて「雪待月」より発行の冊子を電子書籍化。
(全年齢向け/本文フルカラー(漫画部分モノクロ)/22p)

 

<なかせ評>
「どんぐり亭」は初等部に通うココとクラスメイトのフィーの友エピソード。ココの旺盛な食欲が物語の鍵になっているのが面白い。ココの性格を見越した上で案内役を買って出るフィーが賢く、頼もしい。でもココと一緒に夢中になって、同じ失敗をやらかしてしまうあたりがなんとも可愛らしい。

 

<蛇足>
MGM2-30のエア参加で描かれたスケブイラストを多数収録。私がリクエストした「ブックウォーカーちゃん」も載ってます。可愛らしい絵で描いていただき、その節は大変ありがとうございます。

銀花3

 

2024/11/23

 

<紹介>
「わりと運動バカだと思ってたけど こんな世界も知ってたんだ」
夏休みのひびきの朝の日課はお花の水やり。彼女とつきあってる彼氏わたるの日課はジョギング。
つきあってるからって、なんでも一緒でなくてもいいと思うひびきだったが、ある朝なりゆきで一緒にジョギングするはめになり…。

お互いの違いを尊重しながらも、彼氏に自分の気持ちを共有してもらいたい女の子のアクティブ恋愛ストーリー読切マンガ。講談社なかよしラブリー」2003年夏号に掲載の表題作(16p)に、同誌2004年夏号に掲載「花の香りと小さなオバケ」(8p)も収録。2024年8月に開催のCOMITIA149にて「突撃蝶々」より発行ので自主出版誌を電子書籍化。
(全年齢向け/本文モノクロ/32p)

<なかせ評>
自分の価値観を無理強いせず、恋人にそれでも理解してもらおうと思案、そして相手にあわせた創意工夫を考え出すヒロインのメンタリティがとても好印象。小学生用の少女誌に掲載されたマンガでしたが、当時の読者たちがこれを恋愛の指南書として心にとめ、20年後の今も時折ふりかえっていればいいなぁ、などと夢想します。

<蛇足>
広範に収録の「花の香り…」は大勢の女の子とマスコットキャラみたいなオバケがわちゃわちゃしてて、楽しいメルヘンちっくなお化け話。「アロマキャンドルで百物語」という発想から生まれたとのことですが、「夏休み」の季節感もふんだんに取り入れて癒されます。

ナツノカケアシ

2024/11/29

 

<紹介>
「おじいちゃん もう三日目だよ… 何を待ってるの」
大きなリンゴの木と小さな小屋しかない小島にやってきた老人と孫娘。来島してから水面にリンゴを投げ入れるだけの祖父に孫娘はしびれを切らすが…。(「APPLE TREE ISLE」12p  ASAKURA)

一般公募で年刊発行の短編叙情マンガ集。
2001年創刊で24冊目の今年号には作家21名による2〜12Pの短編漫画を24編収録。
2024年10月に関西コミティア71にて「メタ・パラダイム」より発行の紙冊子の電子書籍版。
電子版は「ここに在る」「冬の空」「二月の高台」(秋元なおと)、「無限労働者」(ひすいろうかん)、「ゆめいろ宝箱」(早川イチ)をフルカラーで収録。
(全年齢向け/145p)

(参加作家) ASAKURA、 なかせよしみ、くりもとりゅう、つやまあきひこ、 よこやまぺん、ほしのゆりか、白井弓子、おがわさとし、イタガキノブオ、秋元なおと、小津端うめ、 驢馬、くらたかな、まのこ魚、小野カロン、ひすいろうかん、重森まさみ、大樹、早川イチ、つばめ・ろまん、山名沢湖

 

<なかせ評>
今刊は日常的に思ってることや、ふと思いついたことをダイレクトに漫画として表現している作品が多い目。
微細な筆致のASAKURAさんの新作をここで見れたのは眼福でした。 よこやまぺんさんの画風が少し変わったと思ったら、どうやら「デジタル作画に初挑戦」の作とのことのようで、貴重な転換期に立ち会えた気持ちになりました。絵の雰囲気が変わっても味わい深さは以前のままなのが面白いです。
カラー収録の5作品は紙冊子版のモノクロ版と印象がかなり違うので、紙版をお持ちの方は電子版と読み比べることをおすすめします。

 

<蛇足>
私自身も参加しているこの年刊誌が次巻で四半世紀を迎えることにちょっと驚愕。(確か私は全刊参加を一応しているはず)私自身は「叙情マンガとは何か」をずっと手探りしながらの参加でしたが、なんとなく、他の作家さんも同様の疑問に向き合いながら、それでも粘り強くこの雑誌に食らいつこうとしている姿勢がうかがえて、興味深いです。

叙情派ひとつ2024

2024/12/03

 

<紹介>
「人類、動物、幽魔」連合の反天府軍が太陽精霊を倒して終結したように思われた太陽系戦争。
しかし、20光年のかなたよりペテルギウス星霊が侵攻。一方で、気に入らない民衆を黙らせるために天府の星系長が続けさまに放つ火球に晒された気環に降り立ったフィーネは…

天府が支配する死後の者たちが集まる世界で目覚めた少年 ギンガは反天府軍に加わり戦う。数話ごとのまとめ本を描き下ろし電子書籍配信にて展開するSFテイストの長編ファンタジー・バトル漫画シリーズ。今巻は第43話〜第48話を収録した第8弾。

(全年齢向き:本文98p)

 

<なかせ評>
天府側の最終兵器と思われた「太陽精霊」を打ち破った反天府軍の勝利と思いきや。外宇宙より更に巨大な星霊を繰り出して天府は更なる攻撃を加える。想像を絶する規模の敵の攻勢に味方側が苦戦する中、ヒロインのフィーネ、そして主人公のギンガがついに新たに得たチカラを発揮。

民衆たちも加わり、闘争はさらに激しく広大に進展し、まだまだ続く模様の物語は「神話(MYTH )」呼ぶにふさわしい規模に拡大していきます。

 

<蛇足>
毎巻をコンスタントにこの分量を描きためて一気に発表する作者の力量に今回もまた圧倒されました。

敵の巨大さおよび、それから導かれる味方側の絶望感が描き方がすごい。その絶望の頂点で主人公がここ2巻ほど存在感がむしろなかった状態を一気に覆す「少年漫画」の醍醐味を味わえる今巻でした。

MYMYTH 8

2024/12/04

<紹介>
「いえ、正確には 人間だったと言うべきでしょうか?」
ルーコが出会った異形の人物(?)の正体を問うと、その者は「人間」だ答えた。その者はかつて対人関係にストレスを抱え、その解消法を模索していた。

魔法使いのルーコが様々な人々と出会って対話する連続4コマ漫画シリーズ「魔法使いのお時間よ」第107話。2024年8月に開催のCOMITIA149 にて「まり王」より発行の自主出版誌「魔法使いのお時間よ百七百八〜人生の行列と魂の形〜」の後編を電子書籍化。(紙版は前編の第106話も収録)
(全年齢向け/本文モノクロ(一部フルカラー)17p)

 

<なかせ評>
対人関係のストレスをどう対処したらいいかを丁寧に教えてくれる今回のキャラクター。とても建設的な対処法に思えるのですが、途中から「これは何をどうしてるの?」となるのが玉に瑕。しかし、彼の最終の解脱の瞬間がとても気持ちよさそう。あまりにもうらやましい姿なので模写したくなりました(笑)。

 

<蛇足>
ストレスをテーマとした今作。また、同時出されました「懲役二秒」もどうやらストレスがからむ作品の模様。作者自身が日常的なストレスに向き合ってる様相を伺えます。実は2024年は私自身も結構ストレスフルな1年でしたのですが、これらの作品がとても励みになりました。

魔法使いと魂の形

2024/12/07

<紹介>
「納品だん」「納品…しました」「のうひんしました」「納品しまし」
仕事で絵を描くと仕事じゃない絵を描きたくてしょうがなくなる作者。だから、仕事の絵や漫画を納品した直後に「納品しました!」と宣言するイラストを描いている。

ラフあり、フルカラー漫画あり、ミステリーや推理モノのように普段かかないジャンルの1ページまんがまで。完成した仕事絵の送信に添える通信用らくがきで2017年〜2024年に描いたものを集めたイラスト集。
(全年齢向け/本文 白黒・鉛筆ラフ・フルカラー/50p)

 

<なかせ評>
とりとめのない絵の集合体ながらも、本当に絵を描くのが好きでたまらないという作者、藤村さんの思いがあふれんばかりつまっている一冊。
これ一枚を描くのにかかるのは「小一時間」どころではないでしょう!と思う描き込みの絵もあり、なかなかの驚愕ですが、見る人をとにかく楽しませたいとする心意気は傍で見る立場からでもびしびし伝わってきます。
「紹介」の中の「仕事絵の送信に添える通信用らくがき」という説明は確たる説明がどこにも見当たらず、私が想像で記述したものですが、この想像通りだとすると、こういういうものを仕事に添えられる藤村さんの仕事での人間関係はなんとも微笑ましく、うらやましく思います。
とてもいいものを見させていただけました。

 

<蛇足>
「ノーヒン大好き藤村さん」の元ネタを昨今の話題で「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」だと勘違いしましたが「ラーメン大好き小泉さん」ですね(2018年に描かれてますし)。描かれているキャラクターが4人とも藤村さんになっていて笑えました。

「納品しました」イラスト集

2024/12/11

<紹介>
「どこまでも、どこまでも遠くに行きたい。カンパネルラに会いたい」
大学での論文の代理キーボード入力仕事や牛乳と新聞の配達仕事。失踪した父の代わりに一家を支える労働に明け暮れる高校生のジョバンニは、その生活から抜け出したくなり、旅行鞄を手に夜行列車に乗った。

AIやホログラムが溶け込んだ近未来設定で宮沢賢治銀河鉄道の夜」をモチーフに描いた高校生の記憶と思いをたどるロードノベル。 2024年10月に開催の第十回文学フリマ福岡にて「すとれいきゃっと」より発行の文庫本をPDF化。

 

<なかせ評>
「実在人物をトレースしたAIは違法だ」といった設定が繰り込まれた近未来SF。しかし、登場する人物名はジョバンニ、カンパネルラ、ザネリ…宮沢賢治の作をそのまま踏襲。ただ、ジョバンニはカンパネルラと一緒に列車に乗るのではなく、彼が引っ越したサウザンクロスに向かい、彼に会いに行く。車中では鳥かごを抱えた男に出会ったり、一般公開されているアルビオレ観測所に立ち寄ったりといった道中エピソードがふんだんに織り込まれ、さらにかつてカンパネルラより渡されたジョバンニが旅の友としてカバンに入れて本が「銀河鉄道の夜」だったり。そして、旅の先に行きついた先もある意味で…。
銀河鉄道の夜」という作品の存在を意識し、それをSFという窯でリベイクした感のある怪作。

 

<蛇足>
さしあたって、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」という小説の存在さえ知らない、という読者に向けて書かれた作品ではないことだけは確か。そういう意味では「オマージュ」や「パロディ」と称される類の小説になります。
反面、どこまで原典の方の作を知ってる前提の読者に向けて書かれているかも定かではない感じがしました。かく言う私自身は、原典は読んだことはなく、ストーリーや作中のフレーズをアニメ映画版で知って覚えたレベルでしたが、
これを読みながら、青空文庫でオリジナルの方の冒頭を開いて読み比べてみたものの、途中でやめました。思ったほど原典の構成をなぞっておらず、原典には全く目見当たらないエピソードもいくつあるのですが、作品の空気感だけは原典のものをかなり正確に再現している印象をうけました。

ちなみに作者の白架さんは、この小説は「春田穂稀」という作家が書いたもの、と装って本を構成しています。春田穂稀という作家はどうやら30代の男性という設定のようですが、おそらく白架さんとは性別も年齢も違っているのではないかと想像します。なぜ、そのような仮面をかぶってこの本を構成しているかは謎です。

序盤に「伊達(いたち)」という人物が出てきて、かなり印象的なエピソードを展開してましたが、どうも、その伏線が回収されないまま話が終わってしまったようで、ちょっと気に掛かりました。

列車がいってしまったあと

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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章(=書誌)を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。