なかせっとHatena

漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

「創作同人2024年3月」レビュー

2024年3月20日に第24回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2023年11月」に今回は8名の作家さんによる11作品がエントリーしました。

togetter.com

私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回のエントリー作品はこちらです。

うさみみロール1ぐ選挙はなにがなんでも行くべきか? 茶店活 もっとも清潔なもの
画像クリックで作品詳細が見られます

 

今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

2024/3/23

<紹介>
「私が出した課題はペットにしたいアニマルタイプのロボットだ」
スプラウト教授に居残るよう言われたマイオ、ソイ、パダンの3人。教授は彼らが提出したロボットの問題点を指摘する。

少年とネコ(?)型ロボットのほのぼのレトロフューチャーファンタジーマンガ第2弾。2023年12月のコミケット103にてUMIN’S CLUBより発行の自主出版コピー誌を電子書籍化。(16p)

<なかせ評>
アニマルタイプではなくヒューマノイドタイプである証拠にビスケットは教授に衣服をひん剥かれる。しかし、裸にされたことより、知らなかった自分自身の体の作りに驚いて喜ぶビスケットがかわいい。

<蛇足>
話が短く、アニマルタイプとヒューマノイドタイプの線引きや教授がビスケットを欲しがる理由など少々の不明事項が保留で取り残された感がありました。発表は最近ながらも制作は2020年頃の作品とのこと。しかし、続きが描かれることを期待させる引きなのでこの後の展開が待たれます。

裏表紙には「episode.2 ソイとパダンと魔術師」とありますが、表紙には記載がないので、アプリの本棚にならべた時、どっちが1巻でどちらが2巻かちょっと混乱するデザインになっています。

ビスケット・プラネット

2024/3/25

 

<紹介>
"Aren't these a bit too nerdy for you age?"
The pawnshop was said to be run by a yokai . A samurai brought there a Shunga he heritaged from his father . He had it exchanged with a quarter koban he was going to use to celebrate his wedding , but ,,,

A collection of eight samurai drama manga works made for Comiket and Comitia from 2014 to 2016.
----Contents----
"Mujinaya, the Pawnshop in Edo"
"Call of Soba"
"A Saury of Meguro"
"I fear you."
"From Iroha"
"Watermelon"
"A Midnight Soba Stand"
"Kinuta Private Detective Agency: The Orge of the end of Edo"

 A digital published English translation of a self-published magazine by Kurobokuya at Comitia 115 in January 2016.
(131 pages/monochrome/right-to-left)

「お主 若いわりに数寄者さなぁ」
妖怪が営むという噂のある質屋に侍は一分の金と引き換えに父の形見の春画を預けた。その金で祝言をあげた侍は…。
2014〜2016年にコミケコミティアにて発表の時代劇マンガ作品を8編収録。
----収録作品----
「江戸の質屋 むじなや」
「蕎麦の呼び声」
「めぐろのさんま」
まんじゅうこわい
「てならひ」
「西瓜」
「蕎麦斬り」
「砧私立探偵社 幕末の鬼」

2016年1月COMITIA115にてクロ僕屋より発行の自主出版誌を英訳して電子書籍化。(131P/モノクロ/右綴り)

<なかせ評>
古典落語やお馴染みの妖怪噺のベースを自在な発想で拡張展開して情緒豊かな人情噺などを繰り広げる作品集。黒ベタとトーンの用法が独特で特徴的な作者の描画が物語にアート色と深い奥行きを加えています。

多分、海外の読者にとってもとても目をひき、読めば印象に残る作品群なので、この英訳への挑戦は意義深いものと思います。特に個人出版ベースでこのクオリティの作品が出されていることを海外の漫画ファンには是非知ってもらいたい。

<蛇足>
ただその分、日本のマンガを英訳するむずかしさを改めて認識させられました。
作者は英語をかなり勉強した上で、AI翻訳などを駆使してこの英訳をなされたと思いますが、英語的なニュアンスで作者の意図が多分通じない箇所が散見されました。
たとえば、辛味大根で蕎麦を食べる侍が顔を歪めて「辛い」という大事なシーンでは「Spicy」と訳されていましたが、ここは本来「Too hot」「Hot」等にしたいところ。Spicyは嗅覚的で受容的な言い回し、Hotの方が味覚的で拒絶的な言い回しですが、ここらはネイティブな英語圏の人間でないと分かりづらい感覚かもしれません。
できれば、そのような者に英訳の校閲をしてもらうことをお勧めしたいところ。作中の会話セリフももう少し端的でテンポのいい英訳ができると思います。

ちなみに「時代劇」を作者はHistorical Dramaと訳されていましたが、これは主に「大河ドラマ」みたいな歴史ドラマを指しますので、「Samurai Drama」(侍の時代のドラマ)という表現の方が通りがいいです。

Seventy-seven Nights of Edo:

2024/3/30

 

<紹介> 
「そういえばレッドがいない!何故?」
仮面がとれた全星皇ジワゾスが自分と同じ顔だったことに天馬(レッド)は動揺。ジワゾス軍と爆裂戦隊の戦いは遺跡の外に舞台を移していたが、全星皇を取り逃したレッドは参戦できずにいた。大詰めとなる五聖山での戦いに聖獣たちが加わり…。

父母兄弟妹の家族5人が地球を守るために戦う戦隊ヒーロー・アクション漫画の第5巻。電子書籍描き下ろし作品。

 

<なかせ評>
混戦と混乱を極めた五聖山での戦いが大詰めとなる中、五聖獣の力が合わさった爆烈戦隊の新戦力となるロボ「聖獣王」が登場。その演出描写にはあいかわらずの作者の「特撮戦隊モノ」愛があふれています。

全星皇ジワゾスと乗鞍家の謎の関係が今巻で解明されると思ったのですが、次巻に持ち越しました。終盤で謎の解明にむけて大きく前振りしている分、次巻の展開が大きく期待されます。

 

<蛇足>
今回のストーリー展開は天馬の内心の動きが大きく影響していますが、彼の迷いや決意に読者としてシンクロするのは少々難しく感じました。天馬はこれまで読者が感情移入する対象として演出されていなかったので(シリーズ初期ではむしろ弟の駆の方が主人公だった)、この流れにするならもっと天馬の心情を掘り下げて見せた方がよかったように思います。

登場人物や戦闘アイテム数が大幅に増えましたので、この内容を短いページ数でまとめるのは難しかったでしょう。それでも、個々の場面描写のかっこいい演出で読者を引っ張っていくことはできるはずですので、今後もさらなる「かっこよさ」を追求していっていただきたい。

爆烈戦隊チャレンジャーズ5話

2024/4/4

 

<紹介>
「…シャレイ姉さん。元気そうだね。」
空槽では12歳になると子供たちの多くが人魚になる手術を受ける。5年前に適応手術を受けた姉は月に1度、弟のゼニスに会いに来る。

地上と隔絶された海底施設を舞台に4編の短いエピソード描写で綴るSF読み切り小説。2024年3月に開催の九州コミティア8にて「すとれいきゃっと」より発行の自主出版文庫本をPDF化。(全年齢向け/本文30P)

 

<なかせ評>
「ゼニス」「アザー」「ホリゾン」「ナイル」4人の少年少女たちの短いエピソードを連ねて構成された作品。個々のエピソードの文章は読みやすく、美的で読者を物語世界に引き込みます。その技量と練り込まれた企みには高い作家性が感じられます。文章の構成から装丁に至るまで「青」色にまとめている配慮は美しく、ポイントが高い。200円という値段に見合う「読むべき1冊」に思えました。

 

<蛇足>
いくつかの謎をはらんだ設定のSF小説ですが、その謎は解明されずに終わりました。もしかしてこれはより大きな物語の冒頭部かパイロット版かと思いましたが、最後にエピローグがつけられていたので、どうやらこれで完成作品のようです。
冒頭に海底の「都市」という表現がありますが、以降この物語の舞台は「空槽」(空気で満たされた槽)の名で統一されています。ただ、この「空槽」に関わる空間描写の記述が「ガラスに囲まれている」こと以外まったくないので、都市内のどのような場所のことを指すのか読者には伝わりづらいことを難に感じました。私ははじめは「空槽」を小さな牢獄みたいな空間として想像してましたが、終盤になってこの都市機構全体を指す言葉だと理解しました。
作者の意図が小さな空間から徐々に大きな都市の存在に読者の視点を誘導することだったなら、その企みは成功しているとも言えますが、その過程での言葉の定義の変容は読者を苦しめます。

海底空槽のエチュード


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

このブログ記事にはしばらく数日間にわたり「創作同人2024年3月」エントリー作品のレビューを書き足していきます。

 

 私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章(=書誌)を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。