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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

「創作同人2022年11月」レビュー

2022年11月18日に第20回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2022年11月」に今回は現時点(11月4日)で9名の作家さんによる11書籍がエントリーしています。  

togetter.com

 私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回「いっせい配信」のエントリー作品はこちらです。

創作同人電子書籍のススメ 2022年マンガ電子配信のはじめかた 多少の問題が起きても俺が責任をとる!」という大人はどこに行った?…を考える漫画 竜の飼い方教えます23 おうちねこじかん
画像クリックでサンプルページが見られます

今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

 

 

 

 

 

2022/11/04

<紹介>
「さぁ、次はどこにゆこう」

大木に落ちた落雷で木材ブロックを手にいれた羊のメアリーは旅に出る。ブロックは組み換えれば飛行機にも、船にも、車にもなる。

スクラップ&ビルドを繰り返しながら旅するメアリーの道中を描くロード漫画。2022年9月の開催のCOMITIA141にて「まり王」より発行の自主出版誌のフルカラーバージョンを日本語&英語併記で電子書籍化。5Pのアートイベント感想漫画「ブライアン・イーノ アンビエント京都」も収録。
2022年11月にKindleにて配信開始。2024年10月に他の電子書籍ストアへ配信拡大。

<レビュー>

乗り物をつぎつぎと作り変えながら旅を続けるメアリーさんの道中をみるだけで楽しい。加えてカラフルな画面構成と連続した場面展開で、漫画なの一本のアニメ作品を見たような感覚になる1冊。
船の帆を作るのに自らの体に生えた羊毛を紡いで糸を作り、布を作るという展開はなかなか衝撃的。

<蛇足>
風力で動く車を私は「風力発電で動く電気自動車」と思っていましたが、コミティアで作者さんに直接尋ねたら、これは風力で作った回転運動をクランクで直接車輪に伝えて走っている車だそうで、そんな発想もすごく楽しかったです。

羊のメアリー大冒険

2022/11/05

<紹介>
「全星皇 ジワソス陛下!やりました…」

ジワゾス軍の獣兵鬼 念力ナメクジはタイムコントローラーの時間停止で爆裂戦隊の動きを封じた。さらに巨大ロボ ビッグチャレンジャー にも深刻なダメージが。
しかし、その戦隊のピンチに飛び込んで来たのは誰も見たことがない飛龍型のロボット。

父母兄弟妹の家族5人が地球を守るために戦う戦隊ヒーロー・アクション漫画の第3巻。電子書籍描き下ろし作品。

<なかせ評>
乗鞍家の一同も存在を知らなかった新たなヒーローが登場。しかし、その正体は意外。
さらに彼がもたらした貴重な情報を敵側もなぜか同時に把握していて全星皇 ジワソスも自ら動き出す展開に。謎の解明と大波乱となるであろう次巻を期待させる伏線満載の巻。

<蛇足>

今回は表紙をカラーで描かれていて、ストアの販売画面や購入者のアプリ内書架の他の本と並んでも遜色ない感じでした。
乗鞍家の五人と巨大ロボがピンチに陥るまでのプロセスに父と母の夫婦喧嘩が絡んだ展開になっていますが、絡まり方が少々弱く、喧嘩の描写もかなり省略。作者がこの夫婦を喧嘩させた意図が伝わらないことが気になりました。

爆烈戦隊チャレンジャーズ3話

 

2022/11/06

<紹介>
「元の宇宙に戻る方法ならあるぞ」

並列する宇宙では物理法則までもが敵対する可能性に気付かされたニュート。美由の身を案じる彼にプロンテスの「涼子」は一つの提案を示す。

「無限工作社」の謎を追い宇宙を駆けるジャーナリスト鎹涼子を描く長編ハードSF「人類圏」シリーズの「氷の惑星」編の第18編。付録「古典とは何か」も収録。

2022年9月コミティア141にて「人類圏」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
シリーズを通して愛らしいバイプレイヤーに徹していた両生人類のニュートが主人公を勤める話は初めてではないだろうか?表題の「宇宙の騎士」もどうやら彼のことらしい。美由を守るために難しい考察を重ね、事態に立ち向かおうとする彼はなるほど、なかなか凛々しく頼もしい騎士だ。

<蛇足>
「超限窓」によって多元化する宇宙の「不一致」と未熟なAIの認識による「不一致」をからめて展開する話が興味深い。 昨今は流行りのAI作画により「ラーメンを手づかみで食べる女の子」が存在する宇宙が創出されたりしているので、とても実感できました。

宇宙の騎士

 

2022/11/07

<紹介>
「驚いた。お前 絵が書けるのね メアリ」
シェパード家の老夫妻は雇っている住み込みメイドのメアリに絵心があることに気づいた。メイドの才能を引き出すのは主(あるじ)の仕事と、彼らはメアリに画材や教本をあたえたら…。

ヴィクトリア朝時代の英国のお屋敷の主人たちとの交流をメイドの半生の物語でつづる短編読み切りマンガ。(40p)

2011年10月にエインターブレーンより発行の雑誌「Fellows!」20号にて発表の作品に「あとがきまんが」(4p)および村上リコ氏による解説文(2p)を加えて「突撃蝶々」より2022年8月のコミックマーケット100にて発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
メアリを思いやる老夫妻。老夫妻に感謝し、思いを返し、また絵に没頭するメアリ。そして、メアリが絵に描き出す空想的で優しい世界。それらをすべて包み込むように描く山名さんの優しい筆致とストーリーテリングが圧巻。

メイド好きな人はもちろん、とくにメイドに興味がない人たちにも手にとってもらいたい。読めば必ず優しい気持ちになれる一冊。

<蛇足>
ヴィクトリア朝時代研究の第一人者である村上リコさん(著書『図説 ヴィクトリア女王の生涯』)からアイデアと参考資料をいただいた上に巻末の解説まで寄せていただてるのは素敵。その観点から見ても貴重な一冊でもある。

34Pと35pを見開き表示するとページの「継ぎ目」に若干ズレが生じているが玉に瑕。技術的にこれを補正できるなら、ぜひここは直したいところ。

メアリのカンバス

 

2022/11/08

<紹介>
「アサギがいるならここだと思う」

始源竜の体内で穴に落ちたイサギはいくつもの宙晶が壁に嵌った空間に出た。宙晶の中に生き物が入っているようだが…。一方で漂流者たちとともに居住区の部屋に閉じ込められたライラは…。

どんな言語もすぐ習得してしまう能力の少年が流れ着いた見知らぬ宇宙域で双子の妹を探し求めるSF冒険漫画第7巻。 2022年4月3日に開催の名古屋コミティア60にて「空風館」より発行の自主出版本を電子書籍化。

<なかせ評>
デア・ヌゥル全星に宙脈の異常活動で退避指示が出る。その陰で暗躍する神官長とルールー。同じトカゲ頭なのに彼らとは別行動をはじめる「地上種」たち。一方でイサギは衝撃的なものと遭遇する。手に汗を握る展開で物語の謎は深まる。

<蛇足>
一つ前の巻ではこの先、イサギとライラの物語は分岐すると思ったが、2つ前の巻の最後のシーンでイサギが始源竜に入った時にプルートが残していた置き土産をライラが回収していることには気づきませんでした。それを足がかりに2人は意外に早く再び合流しそうです。

CHAOS×COSMOS - LOST CHILD in the ASTROVEIN 07

2022/11/09

<紹介>
「手がかりを落として行ったぞ この紋所は…」

野良乃介との斬り合いを不利と見るや逃げ出す曲者。刀を鞘におさめる野良乃介は足元に転がる印籠を手にするが…。

超展開の2ページ構成の時代劇(?)ショートギャグ漫画集の第5弾。 2021〜2022年のイベント参加ペーパーに掲載の8編と描き下ろし1編を収録。2022年8月に開催のコミケット100にて「電脳吟遊館」より発行の冊子を電子書籍化。

<なかせ評>
毎回、時代劇の重厚なシーンを思わせる1ページ目をめくると2ページ目には想像を超える別世界が広がる作品。 即落ち展開のペーパーまんがをイベント毎に新ネタで読ませてもらえるのは大変な楽しみでしたが、冊子にまとめるとテンポよくサクサク読めて心地よい。

<蛇足>

個人的には「印籠編」「起死回生篇」のネタが大好き。

素浪人・野良之介 巻之六

2022/11/10

 

<紹介>
「読んで私に聞かせてください」

妻を放ったらかしで参加した呑み会からの帰りの手土産に夫は妻が読みたがっていた本を持ち帰って。その本を夫が朗読するように妻は要求するが…。

「本」「読書」をテーマに描く短編マンガ集。 2021年〜2022年にかけての東京&新潟COMITIAのエア参加および「いっせい配信企画」の参加に伴いオンライン公開した作に書き下ろし作を加えた「読書子に寄す」シリーズ8編、および百合SF短編「有楽町で逢いましょう」(24p)&書き下ろし1pマンガ2編を収録。

<なかせ評>
「読書」というテーマに様々な切り口で、独特の物語や語りを見せる漫画集。切り口および表現の多様さから作者の「書物」に寄せる想いの深さが感じられ、圧倒されます。 タイトルを「pt1.」としているところを見ると、このシリーズは続く模様。この先、さらにどのようなバリーションが繰り出されるか、楽しみでしかない。

<蛇足>
私ごとですが、読書については、「AIと読書」のアッシュに私自身は近いんじゃないかな?と思いました。実際ここ数年、じっくりと書物を紐解く機会がこのレビュー書きのための読み込みぐらいしかありません。

33pの突発マンガについて…すみません、蝿の王は「ベル」ゼブブと覚えていたので「バアル」とはなんのことかちょっと気づきませんでした。

読書子に寄す pt.1

 

2022/11/13

<紹介>
「『オーロラ』 …こんなに美しいものが現実に存在するわけがない。」

人類最後の居場所のドームの金属天井に投影される記録を元に再現された『空』の立体映像を管理する職務のレオはドームの外の空を見たことがない。都市の外でオーロラが見れる噂を聞きつけたレオは実物を見に都市を離れ荒野を行進する団体と行動を共にするが…

「生命の定員」があるシェルター都市を舞台に描かれたSF・ジュブナイルデストピア小説集。「パレードが終わったら」「Butterfly aquarium」「廻送」「Vermillion」の4編を収録。 2022年10月に開催の第八回文学フリマ福岡にて「すとれいきゃっと」より発行の文庫本をPDF化。

<なかせ評>
ジュブナイルというカテゴライスは作者のあとがきから引用させていただきましたが、人の生き死にが物語の大きな要素で、なかなかハードな世界観の作品集でした。

限界世界での生命観を登場人物たちの等身大の目線で描く意欲作だと思いました。前回読ませていただいた「ハイドアンドシーク」に比べると、状況描写も幾分充実され、読みやすくなっていると感じましたが、まだ、「これはどういう状況?」「この者たちは何が目的で行動してるの?」と思う箇所も散見されました。

たとえば、表題の「パレード」とは市民権の「有効期限」が切れた後に安楽死を拒否した者たちがドームを離れてオーロラが見える場所に向かって行進している行列を指すのですが、どれくらいの規模の行列かの描写は見当たらず。オーロラが実際に見えることを信じている者もごく一部のようなので、死以外の結末がない集団で多くの者が何を目的に「行進」しているのか分からず仕舞いでした。

<蛇足>
巻末のあとがきによると4編で一まとまりの扱いのようですが全編とも登場人物の重複はなく、互いに干渉しない物語。一応、2話目は1話目にアイテムとして出てくる蝶のロボットについての製造秘話、3話目は1話目の「行進」とは真逆の「安楽死」についてのお話…という解釈はできましたが、…4話目はもしかして3話目に初登場しているAIについての話…ということでしょうか?

もしかすると4編を通して、もっと大きな関連性と物語構造を作者は提示したかったのかもしれませんが、すみません、私は読み取れませんでした。

あとがきによるとこの作品は「架空の小説家・春田穂稀(はるたほまれ)」の書いた小説…とのことですが、作家本人の作とするのではなく、架空の作家を立てている意図も今ひとつわかりませんでした。

前回の「ハイドアンドシーク」の時もそうでしたが、作品の配信手段はPDFデータですが、「縦書き」に読ませるために文章を一行ずつの文字を一個ずつ行列置換して並べ直したファイルになっています。もしかするとネット小説を書いている作家さんの間では普通に使われている形式かもしれませんが、文章作品を電子化する利点は文字サイズを変更したり、文中の特定の単語の意味や、他に同語が使われている箇所を検索したりできることがあると捉えている私にとっては、それを難しくするこの仕様の目的は謎です。

パレードが終わったら

2022/11/17

<紹介>
「寝ながらまんがが描けるのだ」

主人公「犬」(キャラ名)はガレージからガチなDIYに使える電動ジグソーなどを発掘。さっそく端材を使って作ったのは、寝そべった姿勢で胸の上でyPadを支えるフレーム。
漫画作業用ツールや本棚の制作の補強。バイクでの大荷物の運搬。漫画作画用の3DCG制作。窓用エアコンの修理。バイク用ヘッドライトを寸法の違う電球で玉替え。工夫と成り行きのDIYライフ。

妄想美少女と会話しながら身の回りの出来事をドット絵(ピクセルアート)描写(一部は3DCGで作画)と解説で綴るエッセイ漫画シリーズ第8集。漫画の手帖事務局より発行のフリーペーパー「漫画の手帖B6録」に2021年1月から2022年10月にかけて寄稿した原稿に各話解説をフルカラーで添えて総集電子書籍化。英訳版も収録。

<なかせ評>
寝た状態でタブレット作画ができるツールは面白い。どういう使いご心地かに興味がひかれる。(作者は腰を悪くしてらしたが、これで負担を軽減できるのだろうか?)
もっぱら「ありもの」の材料を使い、見た目や収納が二のつぎの工作の自由さがよい。

<蛇足>
窓エアコン擬人化少女が器内に溜まった水を漏らすシーンがなかなか癖が強くてよい。

[Jp/En]ピクセルデイズ8: Days of Drawing Pixel Days

2022/11/19

<紹介>
「失業中だし こんな薄っぺらい壁のシェアハウスで我慢するしかない」
隙間風の吹く狭い部屋で隣部屋の坊やの咳を聞きながら私は目覚める。いまは2050年。地球温暖化の対策が十分できなかった未来。

世の中が「循環社会」を築こうぜ!という流れになることを目標に制作された地球環境問題や未来のことをテーマに制作の一般公募マンガ同人誌。年2回ペースで紙&電子にて定期発行の「第4号」。執筆陣:秋元なおと , ハイムーン, つやまあきひこ , くりもとりゅう , はらだなおみ

電子書籍と紙本は発行。電子は売上の50%と紙は売上の10%を日本野鳥の会自然エネルギー問題対策」に寄付。
発行:「みらいみたいなマンガ集」制作部(http://hitotu.main.jp/MMM/) 

<なかせ評>
地球温暖化防止やSDGsについて多彩な観点を集積している点では評価は高く、意義のある試みだと思います。ただ、読者にアクションを起こさせつためにはもう一段踏み込んだ説明やリアルな情報の呈示が不足しいているように感じました。
秋元さんが手がけた地球温暖化対策ができた未来とできなかった未来の比較漫画も面白い試み。「対策できたらハッピーな未来がくる」という状況でないのはリアル感はありますが、「対策しよう」というモチベーションを鼓舞するのは難しいかもしれません。

<蛇足>
「循環社会」を目標に掲げている本ですが循環のプロセスに「消費」と「廃棄」があることがしばしば失念されている点が気になりました。随所に「大量消費」や「使い捨て」を一絡げに批判している記述が見られます。循環に寄与する「消費」や「廃棄」なら、奨励することがむしろ再生産業が発達等に寄与する観点は忘れてはならないと思います。

みらいみたいなマンガ集2022秋冬号

 

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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思う内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。