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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

「創作同人2021年11月」レビュー

2021年11月3日に第17回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2021年7月」に今回は現時点で16名の作家さん&編者さんによる24書籍がエントリーしました。 

togetter.com

私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回「いっせい配信」のエントリー作品はこちらでした。

吾妻こはるの日常2 こねこをひろっただけなのに 竜の飼い方教えます20
画像クリックでサンプルページが見られます

今回も他の作家さんによるエントリー本の紹介文とレビューを書いてみたいと思います。

2021/11/04

<紹介>

「ほう カフェをはじめるのか」
古本屋内で開かずの間になっていた部屋で見つかったコーヒーのパーコレーター。店先で試しにコーヒーを煎れてみると常連客が声をかけてきた。

AR(拡張現実技術)が発展した2064年に廻道巡くん(まわりみちめぐる)が高校卒業の3月から美大入学の9月までの「モラトリアム期間」を古い伝統が残る町「魔都継橋(まとつぎばし)」の古本屋でバイトしながら過ごし、様々な人たちと巡り会う。

漫画の手帖事務局より発行の「漫画の手帖特丸」にて2012年ごろより連載の6ページ読み切りシリーズの16話〜20話、および書き下ろしの20.5話および各話の解説を収録。 2021年9月20日コミティア137にて発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>

先進的なガジェットと昔の遺産を受け継ぐ町、そして「拡張現実めがね」を掛けた全登場人物が共有するAR情報が入り混じった近未来風景の中で日常的な物語が繰り広げられる。作者のユニークな画風とあいまって独特で完成度の高いフュージョンに仕上がってます。
物語は主人公の男の子がいろんな女の子と知り合って好かれる、いわゆる「ハーレム展開」だが、それぞれの女の子個性的で生き生きとしているので嫌味がない。

<蛇足>

古いARが一方向からしか見えなかったり、どこから見ても同じ面しか見えないARを作れたりするのが面白い。(漫画的表現としての古いARの見せ方もよかった)

デーツ(ナツメ)って中華街でよく見かけるけど、あんまり皆んな知らないものなの?

見開き状態でページを繰っていくと、いきなり現れる66-67pの見開き大画面に心を打たれる。反面40−41pの見開きは真ん中にコマ枠の太い柱が入ってちょっと残念な印象が残りました。 34& 36pの各話解説では34pの話内の絵を用いているが、同じ絵が色違いで同じ位置に(多分偶然)配置されていて、ページを繰っていくと「お!?」と目を引きました。こういうページの使い方を意識的に増やすと電子書籍の面白さが増すように思います。

対象年齢層のレーティングが違う「湯気増量版=全年齢向け」と「湯気薄版=15禁」の2種類が発行されていましたが、なるべくBOOK☆WALKERで買いたかった私は全年齢向けの方を方を選びました。

「魔都継橋4 雨中の沙漠」

 

2021/11/05

<紹介>

「兄さん…本当に戦うつもりなのかい?」 いつかジワゾス帝国が地球に迫る時に戦う予定の「ビッグ・チャレンジャー」。その巨大ロボットは搭乗予定の乗鞍一家の家に7年前から置かれていた。次男の乗鞍駆(14歳)は時を経て戦うことに疑問を呈するようになるが…。

父母兄弟妹の家族5人が地球を守るために戦う。戦隊ヒーロー・アクション漫画のシリーズ第1話。電子書籍描き下ろしオリジナル作品。

<なかせ評>

ヒューマンサイズの敵に変身戦隊ヒーローが直接戦い、敵が巨大化するとロボットに搭乗して戦う「ニチアサ特撮戦隊もの」を踏襲した展開。調べてみたら本作はどうやら作者が4年もかけて制作、漫画としては「はじめて一般読者の目に触れる形で公開する漫画」である模様。作者が特撮ヒーローに向ける愛の深さを伺えます。

<蛇足>

敵がやられるシーンはコメディ調なので、作品全体の狙いがシリアスな特撮戦隊ストーリー描写なのか、あるいは特撮ものに根ざしたギャグなのか判別に悩みます。シリアスだとするなら銃や剣で敵の戦闘員を容赦無くなぎ倒す一家(年齢50〜13歳)の存在はなかなか物騒です。

父の乗鞍斬馬は白衣姿だが、巨大ロボは彼1人で制作したものなのか?
次男駆は7歳、妹あぶみは6歳という幼い時期からロボの搭乗員としてカウントされていたのか?
7年間の待機の間に長男は鍛錬励む一方で、次男は戦いに疑問を持ち始めるが、その差はなぜ生じたのか?
普段は普通に暮らしている一家のようだが、巨大ロボットを保管できるということはどんな家に住んでいるのか?
…細かいところにいろいろ疑問をはさんでしまいます。

「爆烈戦隊チャレンジャーズ」

 

2021/11/06

<紹介>
「どうか…泊めてください!」
スプリング・フィールド島の星祭の夜に夢で死んだ人に遭えるとの伝説がある。ホテルマグノーリアはその伝説が本当になる場所だった。

心優しい女主人メリッサの一夜をホテルの「看板猫」の視点で描く。 スプリング・フィールド島のに住む魔女と竜のコメディシリーズファンタジーのスピンオフ読み切り短編。

2021年9月21日のCOIMITIA137にてUMIN'S CLUBより発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>

シリーズの他の巻で星祭や夢見草のジャムについて読めば更に奥深い物語に感じられそうそうですが、他の巻を未読で、この一作を単体で読んで十分にほっこりできます。まとまりがよく、完成度の高いお話。

<蛇足>

夜半に訪れた小さな女性客の様相がとてもいじらしい。 メリッサはとても心優しいが、そうでなくてみこの来客にはほだされ、その要望を無下には断れないと思う。

「ホテルマグノーリアの黒猫」

 

2021/11/07

<紹介>

「ところでお客さん 幽霊って信じますか?」
雨の中で女性客を乗せたタクシーの運転手。 行き先は青山墓地と指示されるが…。
各話4〜6ページの短編怪談漫画オムニバス。

1998年〜2000年にかけて大学漫画研究会の会誌に掲載された13編に描き下ろしの1編を加えて構成。
2021年9月20日のCOMITIA137にて電脳吟遊館より発行の冊子を電子書籍化。

<なかせ評>

よく知られている怪談設定でミスデレクションした上で意外性のある結末やオチに流れるように導く展開の連続が読んでてクセになります。
主に大学時代に描かれた作品とのことで、徐々に派手な「アクション」や「見せ絵」そして、ほとんど何もしない「ヒーロー」などが加わり、現在の同作者の「野良之介」シリーズに通じる作風が確立する過程が伺えます。
漫画を描く上で作者さんが元来から何を目指し、何を獲得してきたかを見ることができて興味深いです。

<蛇足>

「満月の夜の惨劇」では状況説明の描写の「やっつけ感」がすごい。ただ、ここまでのスピード感を出すにはこの描写はむしろ「正解」のようにも思えます。

てらてら - Teller of Terror -」

 

2021/11/08

<紹介>

「でも伝えたいことが一杯ある。」
コミティア(オリジナル同人誌即売会)に参加する前日にフリーペーパーをコピー刷りするためにいつも行くコンビニには『天使』がいるが…。
2〜6ページのショート漫画8編とその解説を収録。
2015〜16年に「千秋小梅うめしゃち支店」より発行のペーパー漫画&友人発行合同誌の寄稿漫画を集めた総集本の第1弾。

<なかせ評>

甘酸っぱい気持ちになれるライト恋愛ドラマ&同人作家ドラマと、プチ旅行記と、音楽イメージ漫画が詰め合わされた一冊。
無料配布ペーパー用に作成されたもの中心の作品集とは思えないほど満足感が得られました。 端的な作品を集めてあるので、作者の人となりをよく表しているように感じました。直に交友のある私としては「作者のうめさんって会うとどんな人?」と聞かれたらこの1冊を見せるのが一番早い気がします。

<蛇足>

12p目の一番下のコマを読んでの2人の「面映さ」はすごいですね。似たシチュエーションの恋愛漫画はいろんな作家が様々描いてますが、この2人ほど気持ちが伝わってくる漫画はなかなかない。

うめしゃち丼

 

2021/11/09

 

<紹介>

「頭の中に浮かんだイメージを絵にかけるように…」
「ひすいろうかん」さんは高校生の頃からさかんに絵を描いていたが難しかった。 そこで、まず既成のものマネからはじめることにした。

一般公募で年刊発行の短編叙情マンガ集。
2001年創刊で21冊目の今年号にコマ漫画で22名、イラスト&文章で4名、計26名の作家が参加。 コマ漫画は1〜12Pの短編を28編収録。
2021年10月に関西コミティア62にて「メタ・パラダイム」より発行の紙書籍の電子書籍版。
(参加作家) コマ漫画…はらだなおみ、おがわさとし、よこやまぺん、五月病、鶴弥なこみん、em[真紀]、いちのへみのる、摘草春菜、まのこ魚、ひすいろうかん、秋元なおと、なかせよしみ、くりもとりゅう、驢馬、大樹、田井亮子、小野カロン、つやまあきひこ、小津端うめ、つばめ・ろまん、下里亜紀子、ゆ~すけ イラスト&文章…イタガキノブオ、Vivian Lee、Rita Lee、つるはらかおり

<なかせ評>

今回は「創作家の主人公」もしくは「作者自身」が「自分と創作」について振り返る作品が多い目。 コロナで作家が自らの創作姿勢を問い直す機会が増えたことを改めて伺えました。
昨年号から作品の直後に「作者自身のコメントと近況」そして「編集サイドの感想トーク」が収録されてる編成。 今読んだ作品を複数の視点ですぐ読み直せるので、作品のみを連ねて載せる雑誌とは一味違う読み心地を楽しめました。
私自身も参加作家だったで紙本の献本をいただいて、紙版とB☆W入手した電子版をとっかえひっかえ読みました。
特筆すべだったのは、作品後コメントページを見て作品ページを繰り直す時はコメントページにひょいと指を挟んで作品ページをパラパラできる紙本の方が便利だと思ったこと。そして、まずはモノクロ版の紙本で読んだ作品が電書ではフルカラーだと気づいてあわてて開いたひすいろうかんさんの色鉛筆使いが綺麗で感激したこと。

<蛇足>

私の作品についての感想トークで、主人公がお茶を注ぐシーン2つの「ポットの高さの違い」が指摘されていましたが、実は2シーン目は私の「描き間違え」で、本来、お茶を注ぐ時は「ポットの蓋に手を添えている」はずでした。
ただ、そのことを私自身が忘れていて、途中で気がついたものの「まあ、このままでもいいか…」と放置して原稿を完成させたのには、もしかすると私自身も気づかなかった「感想トーク」通りの心情が自分の中にもあったのかもしれない、と考えさせられました。

叙情派ひとつ2021

 

2021/11/10


<紹介>
「人間はごみを造る動物である。」
猿から進化した人は道具を使うようになり、火を獲得し、文明を築いた。
しかし、その進化とともに人が捨てるゴミ(塵芥)は驚異的な量となった。
…塵類(じんるい)誕生。
環境問題について描いた1コマ漫画に解説を加えてテーマごとにまとめた作品集。
1982年に開始された月刊雑誌「廃棄物」(日報)に連載の「ゴミック」から厳選した作品を収録。

(テーマ)
1.ゴミック名作集 2.温暖化問題 3.ごみ問題 4.生態系の保全 5.水問題 6.プラスチック問題 7.食品ロス問題 8.環境教育・学習 9.ライフスタイル 10.コロナ禍

<なかせ評>
親しみやすい描画でカラフルに描かれた社会派1コマ漫画集。
表紙には「面白くって、わかりやすい!」と銘打たれてますが、
…申し訳ありません、この電子書籍を一冊の本として通して読むのは私にとっては大変な苦痛でした。

苦痛になった理由を考えましたところ、以下の通りです。
1.厳密に見ると必ずしも正しくない記述、現代人の生活や産業活動に対する過度な批判、リサイクル活動を否定する内容の作が含まれていました。
2.解説ページを読んでも読者のどういうリアクションを期待しているのか読み取れない作がいくつかありました。また、解決の糸口を示唆されない問題や、そもそも解決しようがない問題の提起が含まれていました。
3.テーマカテゴリーが複数ある作品については該当するテーマ章に重複収録されていました。一見、300ページ=漫画150作の書籍ですが、重複を除けば漫画は100作以下ではないかと思われます。ページを繰ると何度も同じ作が表示されるので「くどい」と感じました。

確認するとこの本は作者のサイト上ではリンク分岐で紹介されているデータ集でしたが、そちらの方が見やすかったです。この本はサイトの掲載データを1冊の本に綴じ直した仕様のようですが、パソコンでのサイト閲覧ができる方にはそちらの方をむしろおすすめします。電子書籍にするなら内容や解説を電子書籍の読者視線でもう少し練り直し、整理しなおすべきだと思います。

<蛇足>
作者ハイムーン(本名:高月)氏は元・京エコロジーセンターの館長であり、京都大学の名誉教授とのことで、長年この分野に携わってきた方だとお見受けします。しかし、多分これらの一コマ漫画は難しい問題を論じるページがつづく雑誌の中に掲載され、読者にとってはユーモアと安堵感を与える「箸休め」として有用な役割を果たしたのではないかと思われます。
雑誌で読んで共感した読者、あるいは作者に興味を持った読者がまとめて読むのであればこの本はその目には楽しい作品集に映ると思われます。しかし、これらの作品がこの本で初見で、環境問題について必ずしも作者と同意見ではない読者にとってはこの本は一方的な考えの羅列、しかも何度も同じ話の繰り返しにしか見えません。 タイトルは「環境問題を学ぼう」となっていますが、このままの形で単体の教科書として一人歩きさせる内容としては難があると思いました。

私が気になった「必ずしも正しくない」部分
1.コロナ禍でもゴミ分別が必要という論
リサイクル目的の分別よりウイルス汚染の可能性の有無による分別が優先されます。一見ゴミが分別されていないように見えても感染拡大防止のためなら問題はないはずです。
2.使い捨てカメラを否定している部分
「使い捨てカメラ」は古い呼称で、いまは「レンズ付きフィルム」と呼称されます。本体は回収の上で再利用されます。廃棄物の発生量はデジタルカメラに比べれば多いですが、フィルムカメラとの差はほとんどありません。

一番気になった部分
本作では「自動車」や「エスカレーター」等を「人が楽するためだけの非エコロジカルなもの」として痛烈に批判しています。しかし、それはあくまで普通の生活を送れる健常者の視点です。そのような機械の助力等があってはじめて社会参加できる人は世の中にはかなりいて、「そういう人の足がかりになり、また健常者の生活を楽にできる」システムとして視ればそこまで批判できないのではないかと思います。

マンガで環境問題を学ぼう!

 

2021/11/11

<紹介>

「科学者は自然を愛し その心(真理)の探求に命をささげる者だそうですね」
稀代の天才青年:関サダハルは今世紀最大の科学者。そんな彼が取り組んでいた難問を初対面で年下の女の子があっさり解き明かすが…。

ボーイミーツガールで科学の苦悩を描くコンバセーションSFファンタジー読み切り短編マンガ。

2021年9月のコミティア137にてサークル「す」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
ライトな恋愛ドラマかと思って読み進めるとズブズブと深みに引き込まれました。
…え?これは哲学書!?(困惑)

難解ですが、これはこれで幸せな物語です。(多分)

「過去現在未来全宇宙のすべての事象を知りそれを自在に操ることができる女の子」の性格がこんなにほわほわしてていいのか?いいや!だからこそいいのだ!(自己完結)

<蛇足>
彼女がペテン師でないことを確認するために「パソコンで生成したUUIDを3回連続であてさせる」という手段が独特。そんな小ネタを交えつつ、可愛らしい描画でこんな奥深い掌編を作り上げる作者さんはすごい。

philo-

 

2021/11/12

  • <紹介>

「この惑星のあなたが作ったこの文明について何か妙だと思ったことはありませんか?」

涼子たちが宇宙船の修理のために文明を急ごしらえで作り上げた惑星「デイジー」。 その後も美由は惑星に止まったが、彼女らが作った両性人類たちは宇宙を目指しはじめた。

「無限工作社」の謎を追い宇宙を駆けるジャーナリスト鎹涼子を描く長編ハードSF「人類圏」シリーズの「氷の惑星」編の第15編。付録「惑星デイジー地形図」「雑草とは何か」も収録。

2021年6月コミティア136にて発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
「50年の休暇」の惑星にとどまった(もう一人の?)美由のお話。 これを起点に涼子たちにもう一波乱が起きそうですが、果たして…?

すみません…シリーズにいくつもの分岐が生じ、なかなか難解なお話なので、私も全体像がつかめているとはとうてい言えません。ただ、美由が手に取った本から別の世界につながっていく流れと「想像の外側」についての講釈がとても面白かったです。また、巻末の「雑草」のお話もとても興味深かったです。

<蛇足>
せっかくですので「カントール対角線論法」についても紐解いてみました。これは本来は「実数が自然数よりも多く存在する」と証明する論理なんですね。ただ、この話の例を借りて言えば、美由が「無限」に続く数字をすべて「書き終えた」時点でそれは「無限」ではないですよね。カントールへの反証を示すとするなら、そういうアプローチになるのではないかと思いました。

雑草のごとくに

 

2021/11/13

<紹介>
「火星あたりがピカッと光ったら俺が戦ってるって思って下さい」

クラスメイトの穂積君はそう言い残して「戦争」に行った。
「戦争」には中学生たちが何人も呼ばれ、帰ってこないらしい。
そして、わたしにも呼び出しが来た。

現代の普通な中学生たちが謎の戦争に駆り出される世界の少女を描いたシチュエーション短編少女漫画。

2021年9月のコミティア137にて「突撃蝶々」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
具体的なことは何も伝えられない、しかし、逃れることができない「戦争」に少年少女たちは絶望するのではなく、視線を「火星」にむけて立ち向かう…。
ん…?何かいつもの山名作品のポップ&リリカル路線とちょっと違います。しかし、画面を通して文学の香りが漂います。

<蛇足>
商業掲載を念頭に起こしたがお蔵入りしていたネームを20年越しに描き上げた作品とのこと。もしかして、いまこれを掘り起こしたのは新型コロナで「現在の死と隣り合わせた世界」を山名さんも垣間見たからでは?…などと邪推しました。

火星

 

2021/11/14

<紹介>
「ていう感じで幽霊になったんでした」

熱を出して寝込んでいた枕元に天井から蜘蛛が垂れ下がっていた。
蜘蛛に指を触れた瞬間「しきみ」は…。

女子高校生の幽体離脱体験の半日を描く読切短編マンガ。

道教室を営む凪(なぎ)と高校生の樒(しきみ)の二人姉妹を描く『calm』シリーズ番外編。電子書籍書き下ろしオリジナル作品。

<なかせ評>
夢か現実か定かでない不思議な体験を描いたお話。
幽霊になった主人公目線で描く世界の空気感がリアルで面白い。周りのとの関わり合いの中で生きていることを再認識できた感がある。

友人1名を除いては誰にも見えない姿がカラスの目には映っている描写が秀逸でちょっと楽しげ。

<蛇足>
必ずしも「calm」シリーズで描く必要はない話のようにも思えるが、この作品の空気感が面白いと思った方は是非とも「calm」及び、作者さんの他の作品に手を伸ばしてほしい。

Ghost in the World

2021/11/15

<紹介>
「ぼくたち、『四人』だった。もう一人いたんだよ。」

数日前に忍び込んだ廃屋にヨダカを置き去りにしていたことを急に思い出したカナリア
その時一緒だったクロウ、カケスと一緒に3人で再び廃屋を訪ねるが…。

孤児院の少年たちが森の奥の洋館屋敷で繰り広げる怪奇サスペンスを描く短編小説。

2021年10月に開催の第七回文学フリマ福岡にて「すとれいきゃっと」より発行の文庫本をPDF化。

<なかせ評>
「幽霊屋敷に置き去りにした仲間のことを数日後に思い出したので迎えに行く」というシチュエーションではじまるホラー。 それぞれの過去を抱えながら鳥の名前で呼び合う少年たち。黄昏れた陽光が常に差し込む洋館廃屋。焼け焦げた白いドレスを介して少年に憑依する少女の霊。
多くの読者の琴線に触れそう要素をからめた「オカルトかくれんぼ」ストーリー。

<蛇足>
シチュエーションを楽しむ読み物としては面白いですが、数多く散りばめられた謎の答えが明確にはでないまま終わることを気にする読者も多いのではないかな?
描写の記述が少々足りないため具体的に何が起きたか、その台詞を誰が言ったかを読者的に断定できない部分もありました。たとえば、玄関扉が台詞途中に開くシーンは「誰も触れてない扉が勝手に開いた」とも「他の子の制止を聞かずにクロウが開いた」とも取れます。取りようによってどの時点で屋敷での超自然現象が始まったかを読み違えることになるので、物語全体に大きくかかわってきます。

ハイドアンドシーク

 

2021/11/16

<紹介>
「私は先輩だから。大事な後輩君が困ってたら助けないと、ね」

マネキン人形アンドレ君殺人事件に解決の決め手がなく、推理に窮した橘川君。彼に手を差し伸べてたのはさっきまで「本当の殺人事件じゃない」と言って意気消沈していた鷹城部長だった。

連続殺人が校内で起きることを声高に切望する発作を時々起こす「凶事渇望症候群」のミステリー同好会(みすど)部長が黒咲高校の事件や謎の解決に乗り出す推理コメディ小説の第2巻。

第2章の解決編、第3章の導入編、おまけイラストを収録。 「小説家になろう」にて2016年2月より連載開始のweb小説を編集して電子書籍化。

<なかせ評>
物語描写が主人公の橘川(きっかわ)君の視線で一貫され、軽快なトークのキャッチボール中心に進む物語が読んでいてとても快適でした。声を出して笑ってしまう場面も多々ありました。
登場人物が意外に多いので巻頭に主要人物一覧があるのがとても助かりました。要所々々に解説図を挿入している配慮もよかったです。
ただ「かっこ書き」がない橘川君の心理描写までが会話の中に含まれている場面がかなりの頻度(2ページに一度のピッチ)であり、ときどき首をひねりました。直後に橘川君自身が「思ったことを口に出してしまっていた」と付け加えられている場合もありましたが、ほとんど場合がセリフとして発した風情は一切なし、「顔にでていた」という解釈も難しい場面がほとんど。
2冊目の終わりまで読んだころには「まあ、これはそういう小説なんだ」と慣れましたが、読者にとってはちょっと「とっつきにくさ」になってしまうのが惜しい気がします。

<蛇足>
橘川君はうだつの上がらない主人公のように描かれているが、どうも彼は彼のことを気にかけてくれる大勢の女子に囲まれすぎてはいないか?しかも、どの女子も一癖二癖あってちょっと魅力的。
「解決編」を次巻に回すという出版形態がなかなか上手い。2巻の導入編では主人公たちが何を見落としたか、何が正解かは私は多分わかったので、その答えあわせに3巻目を読むこと来年の楽しみにしてしまいました。

鷹城先輩はある意味、不治の病におかされている2

 

2021/11/17

 

<紹介>
「小さな立方体 これが我が国の領土の全てだ!」

国土は宙に浮く50センチ角の立方体。国の王はアルガン。国民はアルガン。
完璧なる国家…アルガン王国。

魔法使いのルーコが様々な人々と出会って対話する連続4コマ漫画シリーズ「魔法使いのお時間よ」の第97話。

2021年1月に開催の関西コミティア60にて「まり王」より発行の自主出版誌「魔法使いのお時間よ9798」の収録作を電子書籍化。 

<なかせ評>
様々な価値観の者との対話を繰り広げられる魔法使いルーコの物語。今回出会ったのは「修身斉家治国平天下」を地でいく国王アルガン。自らの足元の国土をしっかり治めることから世界とかかわる彼女の姿勢は好ましい。その上に可愛らしい。
「戦争」をはじめる展開で一瞬ハラハラするが、すぐに終結する理由が…なるほど?

<蛇足>
巻末に作者さんは国について小さくして考えてみたと書かれているが、その考え方、考えの展開のしかたが毎度々々独特で面白い。表紙のカラー使いもポップで美しい。

魔法使いとアルガン王国

 

2021/11/19

<紹介>
「しかし、噂に聞いていたが ここまで人が多いとわ」

主人公「犬」(キャラ名)は新型コロナのワクチン接種の予約を取るためにインターネットの中にダイブする。 しかし、そこは想像以上に苛烈な戦場だった。

接種予約の獲得から接種後の副作用までの「犬」の日々を「俺好み電波のじゃロリババア」(キャラ名)と「yPadさん(タブレット)」が見守る。

妄想美少女と会話しながら身の回りの出来事を綴るドット絵(ピクセルアート)描写のエッセイ漫画シリーズ第6話。英訳版も収録。電子書籍書き下ろしオリジナル作品。2021年11月に開催のコミティア138にて発行予定の自主出版誌を先行配信

<なかせ評>
予約が取れた先は主人公が子供の頃に世話になったいた医院。その思い出と、医院の変化に対する感慨、その医院の老医師(思いかけずの名医)との邂逅が面白い。
副作用で主人公が倒れている間は彼の体内に妄想美少女たちがダイブしてワクチンの作用原理を解き明かすメディカル教養漫画仕立て。接種した人の大部分は理解していないであろうワクチンが作用する仕組みが簡単には説明できない複雑難解な防疫システムであることが分かります。
副作用で倒れた主人公の不調を同時期に重なったバイクの不具合と重ね合わせて語る総括も見事。

<蛇足>
2021年の夏から秋口にかけて日本は新型コロナのワクチン接種が一気に進みましたが、感染拡大の第5波ピークに間に合わなかったのは接種に対する主に若い世代の意識不足のように報道されていました。しかし、実際にはこの漫画が描いたような「接種したくても簡単に予約が取れない」という実態がありました。そのことをちゃんと漫画の形で残していることは大変な偉業だと思います。

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2021/11/19

<紹介>
「今日もアルマのリング(心)は静かだ」

何もない星の上で宙を見あげる二人の少女「アルマ」と「私」。 昔はあふれんばかりの感情をもてあましていたが、いつしか退屈がアルマから感情を奪ってしまった。

SF、ファンタジー、日常等様々なテーマで1p〜25pの作品を9編収録した読み切り短編マンガ集。

2021年6月のコミティア136にてサークル「す」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>
どの話もほっこりできる作品集。読んでいてすこし微笑んだり、ちょっと考え込んでうなずいたり。 一番の長作(25p)「ヴォイドたゆたう」の「アルマ」と「私」の「輪っか」が秀逸。
感情によって変化したり、溶け合ったりしながら物語の終わりをビジュアルに昇華させる設定には驚くばかりでした。

<蛇足>
コロナ禍で不定期になったイベント開催の中でもコンスタントにこの読み心地と分量の作品集を発信しつづける作者さんは「すごい」と思う。どの本もチェックからはずせません。

珊瑚樹

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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思った内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。