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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

「創作同人2021年7月」レビュー

2021年7月22日に第16回目の創作同人電子書籍いっせい配信企画「創作同人2021年7月」に今回は現時点で12名の作家による25書籍がエントリーしました。今回も紹介文とレビューを書いてみます。

 企画の詳細についてはTogetterのまとめもありますので、よければご参照ください。

togetter.com
 私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回「いっせい配信」のエントリー作品はこちらでした。 

奈々の夏休み 吾妻こはるの日常1 まいにちねこまみれ 竜の飼い方教えます19
画像クリックでサンプルページが見られます

 

以下が他の作家さんによるエントリー本の紹介です。

2021/07/23                                                                                                                              

<紹介>

「郵便ポストを動かしてみました」

突如出現した郵便ポストは地平を駆け抜け、段差で転がり、宙を舞う。
リズミカルなアクションで展開するフルカラー漫画。
日本語に英訳を併記した仕様で2ヶ国語対応。

「まり王」より2021年7月の描き下ろし作品。

<なかせ評>

本来動かないはずの郵便ポストのアクション(?!)漫画。
動きの流れが楽しく、演出が華やかで最後まで飽きない。
無生物を主人公に据えた作品で読者を46ページもの漫画の最後まで導く内海まりおさんの力量はなかなか類を見ないと思います。

<蛇足>

今回も英語の表現に少々違和感を感じました。
国際的に通用すると思われるコンテンツだけに、ここは他人に頼ってでも改善を検討していただきたく思います。

「ポスモダ: 前世紀のポストモダン

 

2021/07/24                                                                                                                              

<紹介>

「まるまるふくふくのトリさん」

ヤマガラさん、エナガさん、カワセミさん、メジロさん、ジョウビタキさん、スズメさん。冬の山でぷくぷくまるまるになっている鳥たちを描いた着彩イラスト集。

2018年1月21日のMGM2.20にて「三月館」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>

淡水彩イラストに定評あるさえぐさ先生が冬の山で出会う鳥たちを可愛いらしく、コミカルに描く。冬の到来を告げるポストカードを受け取る感覚で読める小編。

「ことりだんご」

2021/07/25                                                                                                                      

<紹介>

「私 さかなを さがしてるの」

フリルドレスをまとった少女はさかなをもとめて畑を訪れ、樹海に導かれ、
同様にさかなを求めていた若者と出会う。
シュールでポエジックなボーイミーツガール漫画。

1994年8月7日のコミックマーケット46にて「卓上噴水」より発行の自主出版誌「水素」掲載作を電子書籍化。

<なかせ評>

北原白秋の詩の引用からはじまり、ファンタジカルなキャラクターたちとのシュールな会話で進み、山村暮鳥の詩の引用でしめくくられている。25年前にはじめて読んだ時にこの謎展開ストーリーと画面の白黒のコントラストやポップなトーン使いにたまらなく痺れた感覚を思い出しました。

<蛇足>

紹介に書きました「シュールでポエジックなボーイミーツガール漫画」の一文は山名さんが書いたこの本の書誌からの引用。…え、ボーイミーツガール漫画!?うん、まあ言われてみれば。25年目にしてはじめて気づくのはちょっと衝撃でした。(^^;)

「さかな」

 

2021/07/25_2                                                                                           

<紹介>

「今はネットとかで売れるんでしょう」

不用になった金のブレスレットを売るよう母親に依頼され、メルベイに初挑戦するた主人公「犬」(キャラ名)。
発生する思わぬ困難や必要な買い出しに立ち向かう。
お供は「yPadさん(タブレット)」「SACHSちゃん(バイク)」 そして、メルベイ出店の二段階認証で必要になって入手した「らくらくモバイルさん(スマホ)」。

妄想美少女と会話しながら身の回りの出来事を綴るドット絵(ピクセルアート)描写のエッセイ漫画シリーズ第5話。英訳版も収録。
2021年4月23日〜7月3日twitterで1日1p公開のウェブ連載漫画に書き下ろしエピソードを加えて電子書籍化。

<なかせ評>

「らくらくモバイルさん」に加えて今回は「メルベイのオクさん」や「配送ポストのBUDOさん」などの新たな妄想キャラも加わってにぎやか。

フリマアプリでの販売の大まかな流れが理解できる上、販売、梱包、発送に必要なマメ知識やアイデアを知ることができる、なかなかの実用書。

「yPadちゃん」とテザリングしたり、財布を忘れた「犬」に「ペリペリ」決済を提案したりと「らくらくモバイルさん」がなかなか有能。一方でスマホスタンドをせがむ時は奥ゆかしかったりと2面性を見せて可愛い。(「犬」もお大尽になって可愛がっている)

<蛇足>

右綴じ漫画なのに吹き出しは横文字なので読む順に迷う部分もあったりしますが、妄想キャラたちとの会話が心地よく、最後まで楽しく読めました。
ところでなぜBUDOさんは関西弁なんだろう? 

ピクセルデイズ5 Pixel days 5」

2021/07/26                                                                                           

<紹介>

「その言葉は私のプライドを傷つけた」

「可愛い」を代名詞のように聞かされ育った無邪気な少女「まゆ」。
親戚の会社が主催する美少女コンテストに出るよう頼まれた彼女はそこで自分とは正反対な美少女と出会う。

徐々に高慢な闘争心を目覚めさせいく少女の変貌を描く短編。

2001年に宙出版より発行の月刊誌「いちばん怖くて綺麗な童話」に掲載の後、2009年に「藍色劇場」より発行の自主出版誌「クロコキアイ」に収録の作品を電子化。

<なかせ評>

黒い少女が身につけている首輪のようなチョーカーをキーアイテムとして展開する流れが面白い。
一見、白い少女が黒い少女と出会って黒く染まっていく物語。しかし、実はその黒さはもともと白い少女の内面にくすぶっていて、黒い少女はそれを燃え上がらせたにすぎないことがわかる。

<蛇足>

作者は温室育ちの少女がオンナに変わる瞬間を描きたかったように思えるが、黒い少女のバックグラウンドやその後が気になりました。この後、この2人が関わり合いながら展開するような物語があれば読んでみたい。

「美少女コンテスト」

2021/07/26_2                                                                                           

<紹介>

「この映画は現地の人にはわかるんですか?」

中東の映画を特集した映画祭を主催した映画館。
しかし映画の内容が観客たちは伝わらず大荒れ。
騒ぎに乗じて一方的な取材をはじめたテレビクルーがカメラを向けたのは 通りがかりのアラブ人のエルカン、そして同行していた青年、瀬川安樹だった。

トラブル続出の映画祭をとりまく人間たちの4日間を描くシリーズの1日目。

2021年3月開催予定だった新潟コミティア53(開催延期)あわせの作品を電子書籍にて先行配信。

<なかせ評>

異文化や異国人への不理解がうずまき、まとまりに欠けた現場に居合わせた者たち。 それをなんとかしようと力を振り絞って立ち上がった青年たちを取り巻いて事態は動き始める。 弱々しいながらも希望をつなごうとする青年2人と彼らを騒々しく力強く後押しする館長たちの対比が面白い。
双方がこの先、どう絡んでこの事態を収拾していくかが楽しみ。

<蛇足>

アナウンサーや映画館の手伝いの方の異質な者に対する露骨で失礼な言動に少し難を感じました。その方が話が分かりやすいのは理解できるのですが、それらの言動に作品全体の印象を引っ張られる感じが否めず、もう少し控えめな表現でもよかったのではと感じました。

「東の果ての映画祭 Day1」

 

2021/07/27                                                              

<紹介>

「K02b 電脳吟遊館」

同人誌即売会のスペースでのサークル「電脳吟遊館」のスケッチブック看板。
「本日のお品書き」看板と「準備中」看板の2枚1セットでイベント毎にイラストつきで書き起こし。

2018/9/9~2021/6/6までの合計23イベント分をまとめたシリーズ第3巻。
2021年6月6日のCOMITIA136にて「電脳吟遊館」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>

看板を毎回書き下ろす習慣をつけてイベント参加を続ければ自然にたまるタイプのイラスト集。本人にとってはただの活動記録ですが、データをまとめればこれも立派に冊子として公開できるという好例。

自主出版のイラスト集はこういう気軽なものでもいいと思います。

野良之介は描き慣れているせいもあるのかポージングがかっこいい。

<蛇足>

開催中止になった2020年3月のサンクリの分までありますが、看板はイベント開催のかなり前から用意してるのかな?

さらに個々のイベントの印象やイラストの自己評価などが書き添えられていれば、サークル側としてのイベントに参加しつづける感覚を伝えるよいレポートにもなりそうだと思いました。

「スケブポップス vol3」

2021/07/28                                             

<紹介>

「彩花がこんなふうになる前に、どうして助けてやらなかったの」

次元跳躍艦[ハイブラゼル]のロールアウトを見届けに伊月は奈月の体で外出。その足で八坂本家に出向いた。目的は妹の彩花および弥姉弟をひきとり、方舟学園に入学させることだった。

9歳の少女の伊月と彼女を前世から溺愛する最強の吸血鬼のキリエ。2人を中心に皇国の守護たち、自動人形たち、異能者たちが繰り広げるアクション・ファンタジー・ストーリー。

WEB連載の長編小説「ろくでなしの花嫁とひとでなしの吸血鬼」の第117〜134話でまとめた第6巻。成人後の伊月とキリエ、黒姫奈とキリエのエピソード(性交描写あり)およびキリエの点描エピソード、計3編の書き下ろしも収録。

<なかせ評>

今回の話は伊月の視点(半分以上は奈月に入った状態)で描かれた「1日」。1日とは思えないほど次から次にタスクをこなす伊月の八面六臂ぶりがすごい。伊月の体でキリエの発情を誘うことに始まり、彩花たちのためのアミュレットと眷属「日嗣」を作り出すに至るまでの過程と描写が奇抜。

9歳の少女が大の男をいたぶる描写が悩ましい一方で、その後に彼女にふりかかる災とそれを献身的にケアする彼の描写はハラハラさせる。 

<蛇足>

初期に比べて状況説明に「主語」がわかりやすい表記で増えたので読み易すくなっていると感じました。ただ一方で、起こる事象の因果関係や理由づけの説明がまだまだ不足気味。いろいろ推測するか、「そういうものだ」と無視しないと読み進めない部分も多々。

はじめの山場はハイゼブラルのロールアウトですが、なんのための行事なのか、このイベントが伊月たちや方舟学園にとってどういう意味を持つのか、またなぜ鏡夜はそれを『僕たちの艦』と呼称するのか、説明が見当たりませんでした。一応、流れとして、何故かハイゼブラルが出現した後でないと奈月は八坂への転属がかなわなかったと解釈しましたが、この理解で正しいのかどうか。
また物語の後半はキリエの迂闊な振る舞いで伊月に降りかかった災が描かれているものの、その「迂闊な行動」はそもそも伊月がいいようにキリエをいたぶった反動だった、という理解で正しいのかどうか。
物語の要となると思われる情報説明はもっと増やした方がいいと感じました。

「プライベイト・ヴァンパイア RE117-134」

2021/07/29                             

<紹介>

「私は子供の頃から何かおかしかった」

お嬢様育ちの真咲は友人の美雪とともに女2人で雪山を訪れ、カマクラを作って2人とも入り、入り口を雪で塞いだ。2人はここで死ぬつもりだ。

自らの性的志向と境遇の不一致を理由に死に急ぐお嬢様と行動をともにする幼なじみが繰り広げる短編百合漫画。(微エロ表現あり)

2020年4月の名古屋コミティア56にて「でんでんむしむし」より発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>

どこかノホホンとしたお嬢様と彼女のことが好きでどこまでもついていく忠実な友のコンビが微笑ましい。
ちょっと間抜けな心中の顛末が笑える。 

巻末には次回予告があるのでシリーズ展開する予定だろうか?次巻が出た際は是非入手したい。

<蛇足>

BOOK☆WALKERでは全年齢向け扱い、Amazonでは成人向けの18禁扱いになっているこの作品。これはなんらか作者自身の意図によるものか、あるいは微エロな描写あるいは「主人公が自殺する」という設定のせいでAmazon側が勝手に分類したものか、ちょっと興味が湧くところです。

「お嬢様と心中」

 

2021/07/29_2                      

<紹介>

「彼らにとって私たちは物語の中の登場人物にすぎないけど それでも勝手に動かせるわけではない」

惑星スカラブラエにいるもう一人の自分との合流を果たし、自分たちの行動が「確率操作装置」の影響下にあることを理解した涼子。彼女が次にとった行動は彼女たちを追っていたキネロックスとの通信回線を開くことだった。

「無限工作社」の謎を追い宇宙を駆けるジャーナリスト鎹涼子を描く長編ハードSF「人類圏」シリーズの「氷の惑星」編の第14編。資料メモ「『中越戦争』〜ただ一人のための戦争〜」も収録。  

2021年3月7日のサンシャインクリエイション2021Springにて発行の自主出版誌を電子書籍化。

<なかせ評>

「何もしない」で1対数千万の戦力差をひっくり返して「箴言執行者キネロックス」と「ドラコーの血法団」を撃退する涼子の策が奇天烈。

「確率操作装置」については半信半疑ながらも、その操作を自ら直接行い、結果にビビってるリカオンがかわいい。

<蛇足>

今回は「もう一人の涼子」が全然出てこなかったのですが、どうしてたんだろう?

この前の巻の「非思考ゲーム」から作者さんは巻末にシリーズの一覧リストを掲載されていました。(昨年11月に 私が書いたリストには一部誤りがありました)

「人類圏」シリーズの「氷の惑星」編は「氷の惑星にて」以後のこちらだそうです。

01氷の惑星にて
02 生物粘土
03 自由機械
04 漂流船ステアパイク
05 人工大陸にて
06 50年の休暇
07 人類の品種改良事業団
08 星間地政学
09 宗教デザイナー
10 惑星スカラブラエ
11 第2の入口
12 地中式太陽光発電所
13 非思考ゲーム
14 保護領域
15 雑草のごとく(近日刊行予定)

「「保護領域」

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私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思った内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。