2020年7月23日に第13回目となります、創作同人電子書籍の「いっせい配信」企画が無事に執り行われました。企画の詳細についてはTogetterのまとめもありますので、よければご参照ください。
私と砂虫さんの今回のエントリー作品はこちら。
7月23日の「第13回いっせい配信」に合わせて「竜の飼い方教えます16」の電子書籍を配信予定。
— 砂虫隼 乱痴気事虫所 (@sunamushij) 2020年7月21日
詳細はこちら↓https://t.co/vErSOcKDOj
改めてこのシリーズの電子書籍版16巻分の表紙絵を並べてみた。
いっぱい描いたなー。 #創作同人電子書籍 pic.twitter.com/7iU0nrJacT
これらを含めて今回の「いっせい配信」では14人の作家による21の作品が新たに電子配信となっています。今回もまたこれらのエントリー本のいくつかについて紹介文を書いてみようと思います。
<紹介>
「もう4年も経つんだ あいつはもう死んでるんだ」
斎に想いを寄せる妹の花耶。その兄は今は亡き友人の市ヶ谷隆行にいまだに想いを寄せている。兄妹と友人同士の想いが三角関係に重なり合った現代物恋愛譚。2編で構成。
「ダイヤモンドの針」…隆行の亡き後に残された2人の風景を描くショートマンガ。
「フラジャイル」…斎、花耶、隆行の3人が互いの想いを重ねるに至る顛末を描くストーリーマンガ。
2008年8月のコミックマーケット74にて「UMIN'S CLUB」より発行の冊子を電子書籍化。
<なかせ評>
BL vs 近親恋愛の漫画。難解な恋愛関係の成立が妹の花耶の視点で分かりやすく描かれている。話を語るキーアイテムとして用いられているアナログレコードにちなんだ表現が詩的で味わい深い。
個人的には最後まで花耶が隆行へ言葉の上では否定しながらも寄せている想いを深読みしてしまいます。
<紹介>
「おお 怖い怖い ヒュドラ姉の男嫌い発動」
異性同士で組む冒険者パーティでは相手との肉体関係を持つ習慣がある世界。男嫌いの女剣士ヒュドラは優男の重戦士ヤマタとパーティを組む。ヒュドラを異性と意識しつつも適度な距離を保つヤマタだが…。
RPG冒険ファンタジー世界観で展開するエロストーリー漫画。
2020年7月にイベント販売用のコピー本として作成した上下2巻作品を電子配信にて先行販売。
<なかせ評>
世間的な風習にどっぷり浸る2人と風習をよそに距離をとる2人の合計4人パーティという構成で状況がわかりやすい。
互いに適切な距離感を維持していた2人が惹かれ合うという展開は読者の期待を裏切らない。
露出度の高い「戦闘装束」の設定は疑問を呼ぶが、そのデザインは意欲的で面白い。
<紹介>
「コマとコマにの関係性には『瞬間』『行動』『被写体変更』『場面転換』『空気感』『メタ割』の6つの分類がある」
マンガをシーケンシャル・アート(連続した芸術)ととらえるスコット・マクラウドの著書「まんが学」を解説するとともに、作者自身の漫画表現に関する学術視点の研究を紹介。
2014年頃より公民館等にて実施のまんが講座での配布資料や、同人イベントにて「クロ僕屋」より配布のペーパーで発表のまんが研究記事を編成して電子書籍化。
<なかせ評>
漫画家が普段なにげなく用いているコマ運び等の意味論追求が興味深い。
「より読者の誤解を招かない表現」「ついつい単調で凡庸に陥りがちな表現からの逸脱」を求めて漫画に向き合う作者の真摯な姿勢が伺える研究本。
大元となっている書籍「まんが学」は滅多に手にできないもののようで、図解付きで解説してくれる本書はありがたい。
<蛇足>
用語が所々「?」。演劇での「演者=キャラクター、役柄=ペルソナ」と書いているが、私なら逆にする。
文章が中心の書籍だが、画像文字なので読者が「拡大機能」に慣れているリーダーを使えるストアで購入することをオススメ。
<紹介>
「勝手に連れてくなよ そいつはオレの妹だぞ」
アサギとイサギは軌道衛星都市「オリンピア」での研究に参加するため宇宙へと旅立つ。しかし、到着目前にオリンピアは爆発、2人が乗っていたシャトルも大破。瓦礫のなかでイサギが気付くと、異形の者がアサギを連れ去ろうとしていた。
どんな言語もすぐ習得してしまう天才双生児が宇宙と異世界で繰り広げるSF冒険漫画。 2017年8月のコミックマーケット92にて「空風館」より発行の自主出版誌を電子書籍化。
<なかせ評>
人類以外の描写は「ファンタジー」に近いが、宇宙の描写や2人が天才的な言語能力を習得する設定は文句なしの「SF」。
物語の時系列が前後していてとっつきづらく、1巻は事態がようやくはじまったところで切れている感があるが、重厚な物語展開を予感させる作り込みです。
<紹介>
「世界があまりに悲しいので ホッキョクグマと一緒に凍えてしまいたくなる」
地球を温暖化に追いやり、感染症拡大の困難を弱者にしわ寄せる「人類」の1人として作者は流氷の上で北極熊と対話する。
新型コロナ禍中の2020年4月〜7月にかけて作者が描いたweb投稿作&サークル「Rimland」のエアイベント用ペーパー用&書き下ろしの漫画集。百合モノ多目。1p〜12pの短編を計13編綴って電子書籍化。
<なかせ評>
百合漫画はいつも通り。コロナに言及する作品はちょっと悲壮感を入れるが笑いの方向に転換。いまの状況下でも割といつも通りに(息を吐くように)漫画を描いている作者はすごいと思う。
<蛇足>
「ストレートに行こうぜ」の「漫画はこんなものでいい」論に説得力がある。チラシ裏書き絵のスマホ撮り画像でも電子書籍になる。
<紹介>
「あんたに『やっぱり結婚っていいかも♪』って思わせてあげる!」
友人の結婚式で気持ちが盛り上がる麻梨は、DV夫との別れを引きずる咲夜と温度差を感じる。妹がこんどこそ幸せな結婚を夢見れるよう麻梨は姉として一念発起するが…。
海の見える診療所を営む異母姉妹と周りの人々の人生模様を描く「"海"連作」シリーズ第4作&完結編。2019年6月の新潟コミティア51にてサークル「千秋小梅うめしゃち支店」より発行の自主出版誌を電子書籍化。
<なかせ評>
お互いを一番に想う姉妹の思い入れが交錯する。魅力的な人物たちが織り成す恋愛&人生模様が人の「弱さ」「強さ」を問いかけたシリーズが完結。
<蛇足>
巻末見開きの集合絵には主要人物たち7人の数ヶ月後の姿が描かれているが、さらにもう少し先の未来も見せて欲しい気持ちが残りました。
<紹介>
「海に行ったあの日から あなたの声が波の音に聞こえる」
夏を過ごすうちに「あなた」の話の「わたし」への伝わり方が変わったことに気づく。
夏を過ごす恋人たちの情景を描いた短編マンガ2編。
2002年「貝殻」 1992年「ひかげ」
サークル「突撃蝶々」より発行の創作同人誌よりの再録を電子書籍化。
<なかせ評>
詩的でリリカル。ベタ&トーン多めで言葉多めの92年作品と余白多めで言葉少なめの02年作品。少女漫画家の「進化」が伺える2作品の比較が面白い。
<蛇足>
個人的には盛んに言葉のキャッチボールをしながらも肝心な言葉は隠している2人が好き。
<紹介>
「どこにでもいる ごく普通の 悪の組織です!」
「悪の組織」を名乗る黒いかぶりものの3人組が街中に出現。彼らは「悪」とは、「正義」とはを問いながら、基本的にはなにもしない。
物語展開等は特になく、作者が思いついたこと、考えたことをつらつら描く随筆的漫画。 2015年8月より漫画投稿サイトとnoteにて連載の(カラー4コマ漫画×4本&解説)×20話および雑誌投稿のプロトタイプ第00話を収録。
<なかせ評>
ポップでリズミカル、キュートで哲学的。 基本的に黒かぶりもの3人、市井の女の子1人(青髪とオレンジ髪の2バージョンあり)、悪の組織代表の「スメラギもと子ちゃん」の合計5人が「悪の組織って何?」を問答するだけの構成なのにそのバリエーションが豊かで驚きます。
美少女と異形の教授が奇想天外な研究を繰り広げる八木ナガハルSFの真骨頂が詰まった掌編。宇宙の背景に描かれる巨大昆虫や少女たちの姿はファンタジックで絵画的。
“SFC” stands for “Sirius” ,“Canopus” ,“Fomalhaut”. Those are the stars of the planets where the insects were found . We call them “The SCF Isolated Insects”.
The same insects were found on different distant planets . Mayuko as a little girl took part in it’s discovery , and grew up to participate the study of their species . But,,
A Sci-Fi short story manga , featuring the evolution of insects in space , and the amazing experiment done by a girl and a machine-human professor .
Digital release of a translation from a Japanese self-published book released at a manga convention “Comita96” held in May 2011. (Japanese version digital released in 2015)
One of the best of Nagaharu Yagi’s Sci-Fi manga featuring an outstanding research by a girl and cybernetic people . The composition of girls and huge insects drawn on a universel background is both picturesque and fantastic .
<紹介>
「警告。実行中の限定術式[傀儡回し]の対象が失われました」
桐生の呼び出しを受けた襲の護衛に、伊月は傀儡として操る黒姫奈で同行。しかし、桐生が連れてきた異能の子供の強力な一撃を黒姫奈は喰らい潰される。
9歳の少女と彼女を前世から溺愛する最強の吸血鬼の2人を中心に皇国の守護たち、自動人形たち、異能者たちが繰り広げるアクション・ファンタジー・ストーリー。 WEB連載の長編小説「ろくでなしの花嫁とひとでなしの吸血鬼」の第94〜103話に加筆の上でまとめた第4巻。
前世の黒姫奈時代のエピソード2編、及び成人後の伊月のエピソード1編も収録。 TSリバ(性転換攻受逆転)の性交描写を含む。
<なかせ評>
「俺様パワハラ野郎」として伊月が(黒姫奈としての記憶で?)毛嫌いする速水宿の桐生との初の対面からいきなりのバトル。桐生に操られていた異能者の弥姉弟のこれまでの経緯と今後の活躍が気になる。
<蛇足>
この作者の文体は無駄がなく、話の展開はスピーディー。しかし、ややもすると説明を省きすぎて、「場面状況」や「誰が誰に向かって言ったセリフか」を理解するため同じ文を繰り返して読み返すはめになり、読むのに時間がかかります。今回、私は1〜4巻まで通して読むのに4日かかりました。
(黒姫奈時代のエピソードの1つ目はこの読みにくさを逆に利用して意外な結末に誘導する展開が面白かった。)
個々の登場人物の呼称としていく通りもの名詞が単独に表記される点も読みづらい要因ですが、今回は読みながらそれらをメモ帳で箇条書きすることで幾分解消されました。ただ、現時点で私のメモに列記されたキリエの呼称は「グレード1」「混ざりもの」等々含めて27通りも並んでいます。
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<紹介>
キャノピー付きの前方2輪の電動トライシクル(三輪車)に乗った女性が竹林を抜けて訪ねた先は竹材を扱うお店だった。店の主人は彼女に竹製の合板を紹介するが…。
牧歌的ながら少し未来感のある日常風景を切り取った未来エコファンタジー漫画。本文6pフルカラー作品。
10数年前に構想した案を電子配信用に製作。構想時のラフ案も収録。<なかせ評>
景色の見晴らしに定評のあるリカンベントスタイルの乗り物で走り抜ける竹林の情景は爽快。ラフには表記されていた説明セリフを本編では一切排し、音楽シーン以外はサイレントに仕上げて、「音」要素の純度を高めている。どんな音色が奏でられているのか興味をかき立てられる。<蛇足>
ラフもラフなりに味のある作品なので、併録はよかったと思う。ページ数を増やしても印刷費のかからない電子書籍ならではの構成。<紹介>
「しょんぼりしたりもしてるけど、今のところ元気です」2020年の3月〜7月をあまり外出せず、知人友人ともほとんど会わず過ごす作者。 ステイホームの日常を4コマ漫画や1ページ漫画、描き下ろしのカラーイラストで綴る近況紹介を電子書籍で配信。
<なかせ評>
浮かない日々にもちょっとした笑いを見出し、前向きに過ごそうとするあちこさんの姿勢が好印象。マスク姿の女性(自画像?)を描いたカラーイラストにはファンタジー要素が加えられていて、本の中のよいアクセントになっている。<蛇足>
とり方によっては「ただの日記漫画」ですが、こういう時期の「日常」をちゃんと描いて読者に提示することにはとても意味があると思います。 この時期は歩行量が減ったというあちこさんに対して、私自身はむしろ増えている。私たちは何が正解かわからない生活の中で個々人が己の判断を懸命に引き寄せている状況を改めて実感。ーーーーーーーーーーーーーーー
以上で「第13回のいっせい配信」に参加された全作家さん作品を紹介させていただきました。複数作を配信された作家さんもいますが、個々の作家さんにつき1点ずつ紹介です。
ごらんの通り、今回のいっせい配信もバリエーション豊かなラインアップになっています。コロナで創作活動が不自由な中、新作を用意された方も旧作の掘り起こしに着手された方もいる状況でした。こちらのレビューを見て興味のあるタイトルを見つけられたら幸いです。
私の書いたこれらのレビューは他の方も書いたレビュー(主にクロ僕屋さん)とともに「いっせい配信」の企画サイトの「レビューページ」にも収録していますので、同じ本についての違った視点を見たい方は是非ご参考にしてください。
できればこの企画参加本のレビュー紹介の活動には他の方にも加わっていただき、「いっせい配信」企画の一環としたいところですが、各人の無理のない範囲でご協力いただければ、と思っています。
ちなみに、私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思った内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。
また逆に、書籍の説明内容として「自分ならこういう情報をこういう表現で必ず盛り込む」といったご意見などありましたら、是非お教え願いたく思います。そのようにしてノウハウの集合知が形成できれば、電子配信の活動をさらに進展させられるのではないか、と思っています。