8月21日に開催されたCOMITIA117からはや2週間が過ぎ「紙&電子同時発行企画」にエントリーした電子書籍も販売開始後10日を越えて、そろそろ「販売状況」の評価できる時期となります。
こちらのブログでもそろそろ今回の企画の総括をしたいと思います。
まずは、今回の企画の実現には多くの方々のお力添えを頂きました。企画を技術的に支えて下さったBOOK☆WALKERとマグネットの2社、「企画応援」という異例な「部活動」を承認下さったコミティア実行委員会、企画に興味を抱いていただき、情報の拡散に協力して下さった皆さま、その企画にご自身の作品をエントリーさせて下さった作家の皆さま、そして、それら電子書籍をご購入ご購読して下さった皆さまに、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございます。
企画にエントリーした本の詳しい情報はこちらでご覧になれますが
>http://kami-densi-douji.jimdo.com/書籍リスト/
一覧をまとめると以下のようになります。
以上の34作品にエントリーいただきました。
年4回開催されるCOMITIAで毎回出る「新刊」の数は推定で3000冊以上。その全数のわずか100分の1程度ですが、漫画あり小説あり、読み切りあり続き物の最新刊あり、健全本あり18禁あり、個人誌ありグループ誌あり、イラスト集、技術レポート本、エッセイ本等々…バリエーション的には「コミティア本」の全貌を代表するに相応しいラインアップが実現できたと言えます。
しかし、企画全体の「成否」を考えると、残念ながら成功したと「言える部分」と「言い難い部分」がありました。実はこの企画はもともと3つの目的のために立案されたものです。
以下、これら項目ごとの成否について考えたいと思います。
1)「電子書籍に参入しやすい環境整備」について
電子書籍の市場は2012年より日本でも「出版社が出している書籍と同じ土俵」で個人が自作を配信できる場所になりました。しかし、個人が「出版社と同じ品質の電子書籍」を出すには「技術的ノウハウ」というハードルがありました。
原理的にはさほど難しくはないはずの「漫画本の電子書籍化」ですが、出版社と同一品質に仕上げる簡単なツールがないことが、多くの作家の参入を阻んでいました。まずは使用勝手のよい「漫画の電子書籍化」のシステムを整備することが企画の第一目的でした。
この目的は100%達成されたと言ってよいと思います。企画にあわせて整備いただいたマグネットのシステムは誰でも特別なノウハウなく「出版社と同様の電子書籍」が作れるシステムになったと言ってほぼ問題ありません。
このシステムについては以前のブログ記事で紹介しましたのでここでは割愛しますが、今回の企画にエントリーされた作家さんのほとんどがマグネットの使いやすさを実感された模様です。
y-nakase.hatenablog.com
2)「多数の創作同人作家による一斉配信」について
せっかく、どこの電子書籍の市場に出しても問題ない「創作同人」を手がけている作家さんが大勢集うCOMITIAなので、企画をなるべく多くの作家が電子書籍配信の実体験する機会にしていただきたい、というのが第2の目的でした。
マグネットの簡易な電子書籍作成システムと、さらにBOOK☆WALKERの簡易な配信登録システムは電子書籍市場の参入へのハードルを大きく下げるものでした。これは今回のエントリー34作中の31作までがBWで配信された点を見ても納得される話だと思います。さらには企画エントリー対象の「COMITIA新刊」以外の「既刊作品」を含めるとこの企画がきっかけに59もの作品が新たにBWに登録されました。
しかし残念ながら、この数値は企画の立案時の予想を大きく下回るものでした。実際、5月の東京コミティアを皮切りに関西、新潟、北海道、郡山と5箇所のコミティアおよび「グルメコミックコンベンション」で合計7000枚の企画広報チラシを配ったことを考えると、30人弱という作家数はちょっと寂しい数字です。
実は今回の企画でBOOK☆WALKERに協力を依頼する際に私が提示した看板は「作家100名のエントリーが望める企画」でした。結果的にその提示数には遠く及ばず、ご尽力に報いることができなかったことを大変申し訳なく思っています。
作家さんを企画に呼び込めなかった理由には「広報」の問題と「スケジュール」の問題があったと考えます。
広報の手段としてはチラシの配布と企画サイトの作成に重点をおきましたが、それだけでは作家の方々に企画参加のメリットや参加要領がなかなか伝わらなかった模様です。参加された作家さんの多くも参加要領に関する見落としが多く、その修正にもBOOK☆WALKERには多大なご迷惑をおかけする形になっていました。
スケジュール上の問題は、マグネットのシステムが「実質使える状況」に整う時期が8月にずれ込んだことでした。
これには実は、企画で活用する際のシステムの大きな問題点として「電子書籍化されたデータの画質がオリジナルの画像よりボケる」というトラブルが遅れて発見されたという経緯がありました。このトラブルを克服して「システムが問題なく使える」と企画のツイッターアカウントでアナウンスできたのは8月4日です。
もうこの時期には、多くの作家は8月12〜14日のコミケ、そして21日のコミティアに向けて傍目も振らずに原稿用紙に向かっている状況。イベント開催までにこの企画に心を傾ける余裕は到底なかったものと思われます。 実際に企画に参加したのは6割以上が企画に関する情報を随時配信していた私との面識のある作家さん、7割は早くより「企画応援部」の部員として企画参加を早くから決断されていた方たちでした。
参加作家数
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なかせの知人
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企画応援部員
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28人
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18人
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20人
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64%
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71%
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本来はその方たちが整備の終わった「システムの使いやすさ」を実感した上で「企画参加のメリット」とともに回りの他の作家さんたちに情報を波及していただけるつもりでした。しかし、今回これらの作家さんたちが自作の電子化を試みることで手一杯で、この2次的な情報拡散を図る猶予は到底ありませんでした。
3)「電子書籍の購買層へのアピール」について
コミティア作家の多くが同時に新刊を電子書籍配信すれば、その活動はSNS等で話題となり、電子書籍読者の目を引くことで「注目」と「売上」を個々の作家に還元する、というのが今回の企画の第3の目的でした。
しかし、残念ながらこの目的についてもあまり芳しい結果は得られていません。企画にエントリーで配信された本は、企画なしで個々でバラバラに販売された場合に比べれば「注目を集めた」ことは多分間違いないと思われます。しかし、その結果として現れるはずの売上げの伸びは予想したほどではありませんでした。
実は、この企画の手本となったのは今年の年始に行われた「餅まんが」企画でしたが、餅漫画の販売数に比べると、今回の企画でのうちでの本の売れ行きは10分の1程度でした。
y-nakase.hatenablog.com
当初は目標の作家数を集められなかったことによる広報力の不足のせいかと思ったのですが、更に確認すると、この企画との比較のためにうちで5月に5冊の本を出した時よりも今回の方が電子書籍の売上の伸びが鈍いことに気づきました。
y-nakase.hatenablog.com
どうやら今回の企画の販売戦略自体に大きな欠陥があったと認めざるおえません。
もともと今回の企画は、2週連続のコミケ&コミティアで「東京まで来れない」読者を電子書籍購入の「第一購買層」として想定していました。この読者たちが会場に来る代わりに電子書籍を買えばこれが販売の求心力となり、他の電子書籍読者にも「コミティア本」という新ジャンルに興味をもってもらえると考えていました。
しかし、前週のコミケの疲れが抜けきっていなかったのか、あるいは「紙の本」を次回以降のコミティアで入手することに重きを置かれたのか、この「第一購買層」の集中は見られませんでした。
あるいは、そもそもこの企画の存在自体がほとんどの読者が気づかれていないのかもしれません。実は、COMITIA当日の会場では「新刊を電子書籍で同時配信しているサークル」がいることに気づいた読者さえもが、背景としてこの企画が存在することを察知できていない状況が多々見受けられました。
いずれにせよ、第一購買層が動かない中では「コミティア本」「COMITIA117新刊」といったブランド名は一般の電子書籍読者の方々にはさほど魅力あるものとして写らなかった模様です。
企画の反省と今後の展開
このように、今回の企画は実行のタイミングや企画広報の内容およびその拡散に大きな問題がありました。そのため立案時の目標にはかなり届かない結果となり、立案した私にとっても大いに反省すべき材料となりました。
しかし、今回の企画に気づかれた方々からは多く「面白い試みだ」「会場に行けずともコミティア新刊が買えるのは有難い」といった好意的な意見が届きました。また単純に「買う際の選択肢が増えるのは嬉しい」という声もいただきました。
実際、今回のコミティアではうちの本について「電子でももう出てるの?じゃあ、そちらで買います」と言った読者さんも数名おられました。しかし、同時に「電子書籍で著書を知ったので紙でも買ってみたくて来た」という読者さんも数名来られて、結果としてコミティア当日の本の売れ行きは昨年の8月コミティアとほぼ同じ(誤差レベルでは少し多いくらい)でした。
また、イベント当日は多くの知人作家から「今回の企画に参加したかったけど、うちには新刊がなかった」といった声も寄せられました。コミティアの作家さんたちの間では電子書籍という市場への期待自体は大きいと思われます。
さしあたって「新刊・既刊」を問わずエントリーできる企画をツイッターアカウントで提言してみたところ、多くの方から反響をいただきました。
この新企画を今年の11月3日(木・祝)での実施で現在検討しています。
新たな企画では参加を募る意味でも、電子書籍の市場で企画に注目していただく意味でも、「企画参加の作家さん」による情報の拡散が今回の企画以上に大事な要素なると想像されます。
しかし、やるからにはなるべく多くの創作同人作家が気軽に参加できるものにしたいですし、また、創作同人の魅力をなるべく多くの読者にアピールできる形にしたいと考えます。今回の企画での問題や課題を吟味し、それを改善した形で実施したいと思います。
「創作同人」と「電子書籍」は本来は相性がとてもよいものです。
この二つの関係性をよりよいものにするために打てる手立てはまだあるはず。そして、そんな中で私にできることがあれば、骨身を惜しまず尽力したい所存です。
今後の企画にご期待をいただけますなら、もうしばらくお付き合いのうえ、よろしければこの活動の情報の拡散にご協力ください。次の企画がまとまりましたら、またこのブログ等で情報発信いたしますので、どうかよろしくお願いします。
今回の企画参加者への要望
最後になりますが、
今回のCOMITIA117「紙&電子同時発行」企画にご参加いただいた皆様へ、
お願いしたいことがあります。
できれば今回の企画に参加された状況をご自身のブログなどにお書きください。twitterでいくつかのつぶやきに分けて発言いただくのでもいいです。「企画参加を決めた経緯」「参加で苦労されたこと」「参加の際に気づいたこと」「参加で手応えが得られたか否か」「今後の企画に対しては希望を抱かれているか否か」…等々、企画に関わるご自身の印象を情報としてなるべく多く発信してください。
これらの情報は今後の企画を進める上での大きな手がかりとなり、今後の企画への参加を検討される方たちにとっても大事な判断材料となります。みなさんが今回の企画で得た情報は、今後「創作同人誌」が電子書籍の市場で広がっていくための大切な土台です。貴重な情報をご自身の中に止めず、なるべく拡散してください。
どうか、よろしくお願いします。
<2016年9月14日追記>
新企画のサイトを立ち上げました。
>「創作同人電子書籍」いっせい配信企画