2020年3月20日に第12回目となります、創作同人電子書籍の「いっせい配信」企画が無事に執り行われました。企画の詳細についてはTogetterのまとめにありますので、よければご参照ください。
「第12回いっせい配信」では私(なかせよしみ)と嫁さん(砂虫隼)の作品を電子化している「まるかふぇ電書」から6作品が配信開始となりました。
これらを含めて企画では現時点で(2020/3/20 10:30)20人の作家による33の作品が新たに電子配信となっています。
ところで現在、世界では新型コロナウイルスの感染がパンデミックに拡大しており、ありとあらゆる活動に影を落としています。日本の自主出版の方面でも同人誌イベントが次々と中止or延期となり、先々の開催が見通せない状況にあります。オフラインでの活動が難しい分、せめてオンラインでの活動を活発にしたいものです。
そんな意図で、少しでもこの「いっせい配信」というオンライン・イベントを活発にできればと思い、今回のエントリー本の紹介文を積極的に書いてみようと思いました。
<紹介>
「勝手に出しちゃうの何だか気がひけるな」「あら 着ない方がもっとかわいそうよ」
大学生になった砂羽は亡くなった祖母の家で一人暮らしをはじめる。その初日に彼女は着物姿の幼女を保護してしまう。しかし、翌朝起きると幼女は急成長。事態を砂羽が飲み込めないうちに志桜里と名乗るその女性は祖母の遺品の着物を押入れからひっぱり出すが…。
「女の子、桜、着物」を題材に現代を舞台にした和風プチファンタジー読切漫画。2015年3月コミケットスペッシャル6にて発行の冊子をリメイク電子書籍化。
<なかせ評>
作者の「着物」愛が前面に現れる掌篇。のんきな砂羽と凛々しい志桜里が姉妹のように和服人形のような姿ではしゃぐのが微笑ましい。
<紹介>
「お前さんは強い…きっと大丈夫だ」
切り株の根元で子供を拾った「大きな魔女」。彼女は子供を「レッサー(ちび)」と名付け、生きて行く為のあらゆる知識を伝授するが…。さえぐさ先生が30年あたためていた「ぴ〜とちび魔女」シリーズの2冊目にして第1話の前日譚。2019年6月のMGM2−26にて発行の合同誌「役に立たない魔女図鑑」よりピックアップして電子書籍化。
<なかせ評>
すべてのページが絵画のようで、すべてのコマがかわいらしい。短いページ数に「大きな魔女」がレッサーに注いだ愛情があふれんばかり詰まってます。
<紹介>
「遠いところに住む君をすきになって 僕は二つの天気を気にするようになった」
恋愛する男女の心情を描いた作品を中心に綴る短編少女漫画集。1992年〜2001年のコミティア等で「突撃蝶々」より発行の同人誌に掲載の作品を4編収録。
<なかせ評>
遠距離恋愛の2人が雨傘と日傘を介して気持ちを共有する描写が甘酸っぱい。 4編とも商業誌ではなかなか見られないとりとめのないお話。 しかし、そのとりとめのなさこそが恋愛を真骨頂で少女漫画の王道ではないか。
<紹介>
「みたことのないものがいっぱいー」
家庭料理店「どんぐり亭」を営む姉妹マーリ&ココは街の広場で外国のスパイス市に遭遇する。
いわみゆうこさんの個人誌「雪待月シリーズ」に続く「銀花シリーズ」の2冊目。 「どんぐり亭シリーズ」の第17話「SPICY DAY」、カラーイラスト多数、うどん会参加のレポ漫「◯十年ぶりのたこあげ」「新春うどん打ち会」の2編を収録。2019年8月のコミケ96にて発行の冊子を電子書籍化。
<なかせ評>
猫耳姉妹のおだやかな日常漫画、作者本人のにぎやかなイベント参加記録、 そしてipadで描いたかわいらしいパステルカラーのイラストの数々。 作者が過ごす時間と空間にゆったり浸れる感覚で読める一冊。 買ったスパイスの袋を握りしめて目を輝かせているココがかわいい。
<蛇足>
作者の「似てない」と言われている自画像について…「自画像が本人より2割り増し」はよく見かけるが、いわみさんは「本人が自画像より2割り増し」で珍しい。
<紹介>
「これが最後のチャンスなんです」
名門フラメル家に生まれたエルフの少女マドカは魔導錬金術の落ちこぼれ。 彼女は学位を得るための1年研修を受けに辺境に住むゴブリンの教員クロウリを訪ねるが。
知識と「エリクサー」があれば誰でも魔法を使える世界で繰り広げられるドタバタ・ファンタジー・コメディ。WEBで無料連載された第1〜5章に用語解説とおまけ漫画を多数加えた総集編の第1巻。2019年2月のCOMITIA127にて発行の冊子を電子書籍化。
<なかせ評>
誰もが「便利に使っている」が、ちゃんと「使いこなせている」人は少なく、「ちゃんと理解している」人はもっと少ない。 「現代のモバイルデバイス」のような技術として「魔導術」が描かれていて興味深い。 作り込まれた世界設定が物語に奥行きをあたえる。
マドカとクロウリの掛け合いが楽しい。 物語にどう絡んでくるかわからないフラメル家のメイドのアリスも妙に味のあるキャラ。 マドカが横着した結果クロウリの研究所を水浸しにする顛末はまさに「魔法使いの弟子」だ。
<紹介>
「どうして これに こだわるの」
10年間放置していたバイクを修理する男(こばこ)と作業に付き合う10年前の女友達(よほろ)の物語第3話。
エンジンが回るようにはなり、ついに こばこ は故障の要因だったパーツに手をつける。 しかし終焉を迎える修理作業に よほろ の心が揺れる。
2020年2月のCOMITIA131にて発行の冊子にカラーイラストを2点加えて電子書籍化。
<なかせ評>
クセの強いのクロ僕さんの描画だが、このシリーズのバイクと女性の描写に魅かれる読者は多いはず。今回はよほろ視点が多いお話で色っぽいシーンも多いめ。初登場のこばこの父親もシブい。 こばこがパーツ修理につぎつぎ繰り出す技術がすごい。…「え?それで大丈夫なの?」と思う場面も多いが(^_^;)。
物語は大きなターニングポイントを迎え、この状況がどう決着するかが楽しみ。
<紹介>
「遥の何かが変わったのかもしれない。」
美術館で知り合ってから2年目の都(みやこ)と遥(はるか)もいまは高校3年生。 2人で訪れた「国境なき美術展」で近藤幸夫の絵に触れた瞬間の遥の異変に都が気づくが…。
人生の節目を迎えて揺れ動く2人。 高校生2人の「美術館デート」を描くシリーズの最終巻。近藤幸夫、小倉遊亀、クロード・モネの絵にからめたエピソード漫画と画家紹介を収録。2018年10月の新潟コミティア50にて発行の冊子を電子書籍化。
<なかせ評>
小津端うめさんの描く少年少女たちは心がまっすぐで、かつ感受性が強いので読んでいて心地いい。 そしてこのシリーズは作者が実際に訪ねた美術展の印象に絡んで物語が進んで面白い。 最終巻とのことで、おしゃれな都の美術館賞用コーデがもう見られなくなるのがとても惜しい。
<蛇足>
自分でも描いてみて気づいたのですが「美術館で絵に対峙する人物たちのリアクションを描きながら、彼らをスタイリッシュに見せる」というのはかなり難解でした。そんなシリーズに挑んでいた うめさん に改めて敬服の念をいだいた次第でした。
<紹介>
電車の発車と同時に体調を崩して車内で倒れる先輩。 しかし、ホームに取り残され心配する後輩たちにその先輩からメッセージが届く。
「どーだった?」
演劇部部長の須原あんみつ先輩はどんな状況をも演劇に活用する。 才色兼備で「日々是練習」が座右の銘の先輩が繰り広げるギャグ4コマ漫画。 2019年12月のコミケ97にて発行の冊子を電子書籍化。
<なかせ評>
軽い気持ちで読める一冊。先輩は遊んでいるようだが、ちゃんと演劇の実績につなげているのが驚き。2人の後輩部員…フォロー役の ちろる とツッコミ役 とるて の配置が絶妙。フォローはするが自身の演劇を恥ずかしがる ちろる がちょっとかわいい。(個人的には一番のツボ)
<紹介>
「えーと 『ふわふわタイム』って良かったよな 『けいおん!』の」
放火事件のショックで終業式を休んだ緋呂の家を同じ部活のナオちゃんが訪ねる。2019年7月京アニの事件に心を痛める軽音部員たちを描く「Stop You Sobbin’」。
2019年10月に銘柄が販売終了になるタバコの買い占めを企む二人を描く「ドライビング・サウスorノース」。
大学で入る部活を漫研とスキー部のどちらにするかを迷っていたら「宿命の巫女」に選択した先の未来を教えられる「1991」。(新潟コミティア50回記念本『米百俵』の寄稿漫画を再録)
3編を綴った短編漫画集。2019年11月のコミティア130にて発行の冊子を電子書籍化。
<なかせ評>
なかなか扱うのが難しい時事的題材や人生テーマを独自の切り口で鮮やか、かつコミカルにまとめる舞村マンガの真骨頂。リアルとフィクションのさじ加減が絶妙でキャラクターたちの息吹がダイレクトに伝わる。
特に「1991」は作者自身が辿った30年弱を要約した話のようで、同様の経歴を経て新潟コミティアに参加する読者(私だ私!)にとってはたまらない。
<蛇足>
タバコ銘柄の販売終了のニュースについて私は聞き及んでいたが、その後の顛末とカラクリについては舞村さんのこの漫画を知ってすごく驚いた。
<紹介>
「今年も色々あったなー … … … … … … …?」
年末にお風呂に入ったメガネさんは湯船に浸かりながら一年を振り返ろうとする。
メガネをかけた女の子の日常を描く「メガネさん」シリーズの読切短編。2019年12月のコミケ97にて発行のコピー本にイラストを加えて電子書籍化。漫画は眼鏡が曇って目が見えない同作の「地味眼鏡版」も収録。
<なかせ評>
漫画ストーりーは7ページ。全ページがお風呂に入っているメガネさんなので当然ハダカ。なのに別にエロくないし、指定は「健全」全年齢向け。
「メガネさん」の間の抜けたエピソードを描くシリーズの中でこの本は群を抜いて間抜け。さらに目の表示を消しただけで同じ内容の「地味眼鏡版」の収録で間抜けさがアップグレード。
<蛇足>
漫画内容があまりにも短すぎて、評をどう書いたらいいか逆に迷いました(^^;)
<紹介>
「すみません!ホントすみません!」「ええ?なんで謝るんですかー!」
文具メーカーの人との会話で好きな製品の話をしたらいきなり謝られた。自分の一押しのこの製品はどうなるの?!
かつては文房具店員、一般企業事務職を経て現在はフリーランスの文房具ライター兼、主婦兼、同人作家の「あちこさん」。作者が日常や思い出のエピソードを4コマやショート漫画で綴るエッセイのシリーズ第5弾。家に導入したAIスピーカーのGoogle Home Miniとの会話エピソード「ぐーぐるほーむみにと暮す日々」も収録。
<なかせ評>
なにげない日常や思い出の4コマ漫画。オチがない話や、謎が謎のままの話もありますが、むしろそれがリアルな日常体験を表出。全体を通して「あちこさん」の人柄の良さがにじみ出てほんわかと読めます。
紙版発行前に電子配信されたとのことですが、この先の同人イベント開催がどうなるかわからない状況なので、早くこの本を並べた藤村さんのスペースを訪ねられる状況になってほしい。
<蛇足>
「同人誌にしたら売れる!」と褒めたのに「同人誌なんて小さい。これは出版社に持ち込む」と返された話。…ううむ、こういう認識の人って確かに多いかな〜。同人なら読者の生の反応を見られたり、実は商業でやるよりロイヤリティが高いことがあまり評価されていないのが残念。その人のコンテンツは持ち込んだ出版社の何社目で拾ってもらえるか見たい。
<紹介>
九歳の少女の八坂伊月が前世の記憶を取り戻すと前世の伴侶キリエが出現。 テイル・ナ・ノーグ総督で吸血鬼のキリエの強大な魔力と前世の異能を駆使できる身となった伊月。 彼女は八坂家が封じている「天使」をわがものとしようと考えるが。
少女と彼女を溺愛する強大な吸血鬼を取り巻き付喪神、仮想義体、自動人形が活躍する「いちゃラブ」ファンタジー活劇。WEB連載の長編小説「ろくでなしの花嫁とひとでなしの吸血鬼」の1〜25話を再編して電子書籍化。
<なかせ評>
主語がない記述や発言者を特定しづらいセリフが多く、何度も読み直さないと状況がつかめず、難渋します。でも、状況がわかると付喪神、自動人形、ウエラブル仮想端末等々が飛び交う世界観は魅力的。作者が好きなものを好きなだけ盛り込んで楽しんでいる小説だということがよくわかります。
<蛇足>
本当は「創作同人2020年3月」に出た3巻目をレビューしたかったのですが、1巻目を読むのに半日要してしまいました。(^^;) 襲が伊月の父親であることには1巻目の半ばまで気づかなかった(近所に住む馴れなれしい青年かと思った)。 表紙絵の少女はフリー素材を用いているようですが、これは伊月なのか?扶桑なのか?
<紹介>
「ここは…天国よ」
気づくと僕は異様な場所で空を飛ぶ船に乗っていた。僕を含めて乗客全員が自分の名前も過去も思い出せない。 しかし、他の乗客たちは降りるべき場所に気づいて下船していく。取り残された僕だけが連れて行かれたのは強制労働場だった。
記憶を無くし異世界で目覚めた少年は徐々にその世界の現実を知る。SFテイストの長編ファンタジー漫画。2019年3月よりAmazon kindle unlimitedにて公開のWeb漫画。
<「創作同人2020年3月」参加の第2巻の展開>
「ギンガ」という自分の名を思い出した主人公は「反天府軍」に加わる。超常の能力を身につけて成長させていくギンガだが、彼の失敗で一同は窮地に陥る。
<なかせ評>
正統派な少年漫画。主人公の能力の向上とともにストーリーが動く展開は読んでいて気持ちが良い。2巻ではシルエットだけの登場で、いずれ仲間となると思われるキャラたちの正体と来歴が気になる。
<蛇足>
作り込まれた世界設定はまだまだ謎に満ちているが、この本の作家さん自身もまた謎である。1冊が100ページ以上のこの作品を年1冊単位でAmazonに出している以外の活動は一切つかめない。どういうモチベーションでこの大作を描き続けているのか興味津々。
<紹介>
「親父の治めるこの町で勝手は許さない」
河童頭領「イワナ」の娘「ヤマメ」は父に代わり縄張りの治安を守る。くたびれた人間が尻子玉を変容させた「悪玉」を回収する一方で、真人間の健康な尻子玉を奪うヨソ者の河童を成敗する。そこにイワナを負かせて皿に変えた天狗が現れるが…。
現代を生きるJK河童とその一家の斗争を描く奇談任侠マンガ。Lineマンガにて連載された全20話を収録。
<なかせ評>
河童たちの設定紹介から因縁の戦いへと物語は無駄なくスムーズに進み、とても読み易い。任侠映画さながらの人物たちの言動は板に付いていて、この「現代妖怪」設定と違和感がない。バトルシーンもわかりやすくかっこいい一方で繰り出される技や武器の名称や解説が笑いを誘う。
数多くの短編でもっぱら散文的に「河童」を描いてきた斉所さんだが(本人の自画像も河童)、この一冊はストーリー完成度が高い。自主出版でこのレベルのものを描く人がいることをもっと多くの人に知ってもらいたい。
<蛇足>
ゴキの部下の姉弟コンビがかわいいのにあっけなくやられてしまって惜しい。この2人がなぜゴキを慕うようになって、その後どうなったかがとても知りたい。(一応、工事現場で働いているようだが)
<紹介>
「人間も家畜の一種だからね」
死刑宣告を受けた涼子。問題の鍵となる者に会いに「種の改良事業団」が支配する惑星スカラブラエにリカオンとともに降り立つ。移動中2人は屠殺場に向かう牛たち(事業団が造った食用人種)としばらく行動をともにするが…。
「無限工作社」の謎を追い宇宙を駆けるジャーナリスト鎹涼子を描く長編ハードSFシリーズ第?編。 2019年8月のコミティア129にて発行の冊子を電子書籍化。
<なかせ評>
世界設定とストーリー全体像を掴むのが難解な八木さんのSF作品ですが、奇異なシチュエーション展開とアクティブでダイナミックな描画でパラパラと拾い読むだけでも楽しめます。今回は自らの役割をおだやかに「常識」として受け入れる牛たちの話が面白くて読み込めました。また涼子とリカオンがほぼむき出し状態で大気圏突入するシーンがさりげなく描かれながらも迫力。
<蛇足>
実は結構前からこのシリーズの全体の流れから置いてきぼりを喰らいながら読み続けていた私(^^;)。同じく今回「いっせい配信」で出された2月コミティア本の「人類圏事始」(あらすじ本)にかなり救われました。この本おかげでこの紹介文も書けました。
<紹介>
「東西電磁内紛の頃は兵隊も商人も多くて港も栄えてたんですけどナ」
未来の戦後のほこりにまみれたヤミ市や酒場。そこでは無法者や浮浪児や底辺労働者たちが泥臭い日常を過ごす。
2015〜2016年にかけてコミティアにて発表の漫画5編を収録した「架空戦後未来漫画短編集」電子版。
<なかせ評>
太めの描線の丸っこく親しみやすい絵柄で描かれた不景気で半ばスラムと化した未来世界。 しかし、登場人物たちは妙に生命感にあふれてその世界で生き抜き、クダを巻いている。 ストーリー展開はどれも突拍子もないがなぜか納得が行って小気味良い。
<蛇足>
個人的には「中央政府標準時午後十時」でハンターたちに狩られるゾンビたちの設定が好き。 意表を突くオチもよい。
<紹介>
「再び症状が悪化して休職することになりました」
カウンセラーの勧めで自らの鬱についてまとめた前作の「鬱病休職の日々」。病状はよくなって仕事に復帰したものの再発したので、描かれたのが今回の続編。
再発した鬱症状の起伏、その日々の中で振り返る作者自身の話、大学時代に亡くなった作者の友人の話などを綴った日記的漫画。 2019年8月のコミティア129にて発行の冊子を電子書籍化。
<なかせ評>
再発して、前より輪をかけて厄介な鬱症状。治療には自分が思いを吐露するのが大事で、この漫画を描くことは作者自身にとって有益。また、読む側にとっても「鬱病」とはこういう病気なのだとわかり、同じ悩みを抱える人にも、そうでない人にも有益。 簡素で線が荒い描画だが、返ってその方が作者の素直な心情がダイレクトに伝わる良作。
<蛇足>
作者の心情には起伏がありながらも、全般的にポジティブなので読み勝手がいい。前作も今作も多くの人にとって役に立つ内容だと思う。「いっせい配信企画」がこの本を世に広める一翼を担えているとするならとても嬉しい。
<紹介>
「幸せな人にイタズラするから面白いんじゃないかー」
イタズラ好きな怪獣の斎藤さん、ポンポコ遊びに興じるタヌキたち、ルーコを殺しにきた未来人、奇妙な足音を奏でる足音奏者、人生を謳歌する幽霊ちゃん、砂漠の民のスジャータ、出来立てホヤホヤのモチの神様、万病に効く油の壺を運ぶ油人たち、地球人に勝ちに来た宇宙人、呪いのネコスーツを着てしまったイサハヤさん。様々な者と魔法使いルーコは出会い、語らい、そして考える。(時には何も考えない。)
フルカラーで各エピソードを11本の4コマ漫画&1枚イラストで構成したマンガボックス、ジャンプルーキー等にて連載のweb漫画シリーズのまとめ本の第8巻。ルーコが師匠のハープスに「時間」について問う書き下ろし短編モノクロ漫画も収録。日本語版と英訳版を合本。
<なかせ評>
内海さんのカラーリングはポップで、セリフやコマ運びはリズミカル。「漫画」と呼ぶより「アート」と呼びたい仕上がりですが、単純に「漫画」として読んでも愉快で、哲学的でもあり奥深い。高い評価を得るべき作品だと思います。
<蛇足>
スジャータのランプの内装が「かわいい魔女ジニー」みたいだったのが個人的にツボ。
英訳の部分は「ギリギリ通じるか?」と思われる訳も多いものの、なにぶんページ数が多いので一つ一つ指摘するのは困難(^^;)。ちゃんと英訳すれば英語圏でヒットする可能性も高い作品なので、真剣に英語校閲に乗りだそうかとも考えました(一応私は帰国子女)。とりあえず「うっそだー」の訳は「It’s a lie」より「You’re kidding」とした方がいいと思う。
<紹介>
「オレに宿った右足の一馬力!これからは人間を厄災から守るために使う!!」
右足が蹄のアオ(蒼前様)は農耕馬を守護する女神。しかし、農業機械化の波で馬神信仰が衰える中、アオは村の守り神への転身を図る。修行の旅に出て60年後の現代(2014年)、アオは鍛冶の神のヒトツメを引き連れて村に戻るが。
神道・土着信仰・民俗学をベースとして秋田を舞台に描かれる神と妖のバトル漫画。 2016年より作者のブログにて隔週〜月刊ペースで連載のフルカラー長編ストーリー。 第1巻には第1話〜7話及び連載中に寄せられたブログコメントへの作者コメンタリーを収録。
<なかせ評>
「第12回いっせい配信」参加の最新の第13巻には2018年12月〜19年5月に発表の94〜100話を収録。そして現在の最新話は第109話。
…すみません、短期間ではこの内容の全貌を把握しきれず、かなり見切りでこの紹介を書いています(^^;)。ただ、細かい設定説明を丁寧に織り交ぜながらストーリーが進行するので内容はとても理解しやすい。
この作品の作者さんはどんどん描くことで徐々に力をつけて行こうという姿勢のようですが、その通りに連載中にすごく画力をつけていったことがよくわかります。13巻のキャッチーな表紙絵を見てください!
文句なしの「大作」で自主制作漫画を語る上では知らずに通れない「力作」です。
<蛇足>
この作者は一度描いたプロトタイプを2016年にリブートして書き直している模様。(プロトタイプは現在、無料配信されています)。新版の連載はLineマンガインディーズやKindle無料マンガを含めて様々な漫画投稿サイトにも展開の上、総集編はAmazon、楽天KOBO、BOOTHにて自主配信しさらにマンガハックPerryを通じて多数のストアへ配信を広げています。様々な試みに積極的に挑んでられる姿勢がよくわかり、頭が下がります。
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まとめ
以上で今回の「第12回いっせい配信」 に参加の作家さん全員の(1人につき1作ずつですが)作品レビューを書かせていただきました。非常にバリエーション豊かなラインアップであることがお分かりいただけると思います。
ちなみに、レビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思った内容で書かせていただきました。どう書くのが「正解」というものでもないですが、書きようで本の売れ行きを大変左右することは確か。私の書いた文案を一案として皆さまの今後の配信活動のご参考にしていただければ、と思います。