パブー閉鎖であたふた
2019年4月10日に長年使っていたパブーより思わぬメールがきて私はちょっと慌てました。
私が電子書籍の配信を本格的に開始したのは2012年のKIndleの日本上陸からですが、実はその少し前からパブーを用いて細々と作品の電子配信の方向を模索していました。その後、販路をiBooks、Kobo、BOOK☆WALKERへと広げた現在もパブーの活用をつづけ、現在配信中の自分の46作品と砂虫さんの32作品もすべて他ストアと同価格でパブーでも購入できます。
パブーはKindle、Kobo以降に主流となった電子書籍とは違い、書籍をオンライン状態のインターネットブラウザで読むか書籍データのファイルをダウンロードして読む形式。パソコンを常にオンラインにしてる人や、データの扱いに馴染みのない読者層にはとっつきにくい仕様です。ただ、イベントで会う読者に電子書籍を薦める「手元に購入物を確実に確保できないものにお金を支払うのには抵抗ある」という方に出会います。そういう人のためにPDFデータをダウンロードできるパブーという販路を確保していました。
とはいうものの、うちの電子書籍のパブーでの売上げは細々としたものです。時々思い出したようにパブーからの販売通知メールが届き、年間の販売数が私と砂虫さんの本をあわせても片手になるかならないか程度。その買った読者はたまたまパブーでその本に出くわしたのか、あるいは「ダウンロードできるデータ」にこだわって買ったのかわかりません。
それなら、パブー活用をやめてしまってもよさそうですが、実は私はパブーの持つ別の側面に注目していました。パブーは電子書籍の「試し読みページ(サンプル)」の表示がとても早い。どこにでもあるパソコンでも表示できる仕様に作られていてページ表記に特別なギミックを加えず、広告などの掲載もなく、とても軽いのです。表示形式は1ページずつの縦スクロールですが、むしろスマホなどでサンプルを表示させる際には最適でした。
ですので、私は自分のサイトやSNSに電子書籍の配信情報を記載する時はサンプルを読んでもらうためにパブーの中の書籍のサンプルページを開くリンクを貼っていました。また、自サイトのプロバイダー上のストレージを圧迫しないように、配信情報の書影もパブー上にのせた画像データを表示させたりしました。
そんな状況でいきなり降りかかってきたパブーの閉鎖。これは私がネット上に載せてる配信情報でリンクが切れたり書影が消える可能性のある危機です。即刻、代わりのサンプル画像表示へ切り替える必要がありました。
TumblrそしてDLsite、Boothの活用
いろいろ考えたあげく、パブーに代わる電子書籍のサンプル表示に私はTumblrを使うことを思いつきました。実は5年前に私はTumblrのアカウントは作ったものの、どう使っていいか放置状態。ただ、ここに画像を掲載すればパブーと似て軽い表示のサンプルページを作れることに気づいたのでした。画像を連ねた後に、書籍説明と販売ストアへのリンクを貼れば立派な販促画面ができあがります。
ただ、「Tumblrに新たに書籍のサンプル画像を貼り、自サイトのパブーURLをあらたにTumblrのURLに書き換える」という作業も80冊の電子書籍分となると膨大です。一気にやるには時間と気力を確保しなければなりません。
そこで考えたのは毎日1作品ずつ作業していくという手法。さらに、前々からちょっと気になっていたDLsiteへの作品登録と、まだ試しに1作しか登録していなかったBOOTHへの他の作品の登録をこれと同時並行に進行させることにしました。
パブーの閉鎖で「売る場所が1つ減るなら2つ増やそう」という攻めの姿勢。まずは「かぁぼん」をBOOTH、DLsiteに登録完了
https://t.co/5Va5hbK5rh #booth_pm
https://t.co/hX5yzhrLD0 #DLsite
— なかせよしみ(@yosimin) April 11, 2019
そんなわけで4月10日〜5月23日の間は毎日1作品ずつ配信情報を修正して、DLsiteとBOOTHに新規登録する作業でした。
DLsiteの思わぬ反響
配信情報の修正とDLsiteとBOOTHに新規登録は毎日だいたい同じ時間帯の早朝に行いました。BOOTHは書籍を登録してすぐに販売が開始ですが、DLsiteはストア側が販売物の審査をするので時間がかかります。DLsiteの新規作品公開は毎日16時と0時の2回ですが、早ければその日の16時、遅いと翌日0時かその次の16時の公開になっていました。(登録画面には「登録から5日以内に公開される」と表記されているので、翌日16時でも早いといえば早いです)
ところで、DLsite登録の際にはちょっと面倒な作業がひとつありました。これまでのBW、Kindle、Kobo、iBooks、そしてBOOTHでも書籍情報を登録するのに使う画像データは実際に販売する本の画像データをアップロードすれば済みました。ところが、DLsiteはストア内の商品画像にはなぜか横長(560×420)と正方形(300×300)の2種類を用意する必要があります。そして、この画像の出来不出来は商品の販売に直結するでしょう。
縦長の本を横長の画像で紹介するには工夫が必要で、ちょくちょく表紙画像の原稿データまで開いて画面をトリミング、タイトル文字をリサイズしたり、時には絵を大幅に変更したりする必要がありました。
再作成>
この作業に掛かる時間は原稿が立て込みはじめるとちょっと辛いので、COMITIAと関西COMITIAが迫る5月には1日1作品の登録ペースも時期をみて「ちょっと中断するかも」と当初思っていました。
ところが、DLsite登録をはじめて数日するとちょっと手応えを感じるようになりました。どういうわけか、うちの作品にレビューがつく率が高い。なかには4冊売れた時点で3つもレビューがつく本などもあらわれました。
レビューをくださる読者の存在は貴重です。自分の描いた本の評判自体は売れ行きからそこそこ判断できますが、レビューは本に作者がこめた意図を読者がどのようにとらえ、理解してもらえたかを読み取るのに大きな参考になります。
どうやらDLsiteでうちの作品を楽しみにしている読者がついたらしい。「これは途切らせてはならない『客の波』だ」と思い、1日1作のペースを少しでも長く続けよう、と思いました。
そして5月24日をもって他のストアにはすでに登録済みの自分の46作品全ての情報修正とDLsite&BOOTH登録が無事に完了しました。(砂虫さん作品の作業は5月24日より開始)
その間にDLsiteにてうちの作品にレビューをくださった、メギさん、 ト・クメイさん 、触手眼鏡さん、わっしー さん、ルードボーイさん、 梨もの さん …このブログをみていただけるかどうかわかりませんが、この場を借りて厚く御礼申し上げます。(DLsite内に作家とレビューアの交信できる機能などもあればいいなぁ、とちょっと思うところです)
「同人作品」の適正価格
ところでDLsiteに作品を登録する際に一つ気になったのは作品につける価格でした。
電子配信の際に作品につける価格には主に2通りの考え方があります。
- 電子書籍ストア内で販売される他の本の価格に揃える
- 紙書籍で販売した際の値段に揃える
私の出す本は30ページ程度が多く、即売会では紙の本を2〜300円で売っています。でも、即売会で売られる本は出版社の出す本と違って発行部数が少なく、単価が割高です。その割高の印刷費を買い手側が負担してくれる風習が根付いた結果、その値段で売れているものです。即売会になじみのない人には30ページの薄い本を見て100円以上で売ってるものとは思わないでしょう。もしかすると「無料配布の試供品」と勘違いするかもしれません。
私が電子書籍の配信を本格的にはじめたのはKindleでしたが、その際の客層は多分「即売会になじみがない」方だと思いました。KIndle内では「ストア内で販売される他の本」の大半は出版社から出ている本で、漫画なら「180ページの単行本」が600円。「それなら30ページにつき1/6の100円で売っても納得してもらえるかも」と思いました。ちなみに、うちの本は30ページに満たないものもちょくちょくありますが、KDPでつけられる最低価格は99円なので、30ページ以下の本は一律100円です。
Kindle以外のストアでも本を売りたかった私の場合、「Kindle専売」の場合の70%のロイヤリティはつかず、100円本が一冊売れた時の収入は35%の35円でさらに消費税も引かれます。それでも、Kindleでは「この薄さで100円なんてジャンプを買うのに比べてコスパが低い!」というレビューを書かれてトホホとなったりしました。
一方で、DLsiteは即売会文化の上にできた電子ストアでした。そこで販売される他の本の多くは同人誌で値段は即売会と同レベルです。ここで、作品を売る際の値段を私は紙本の値段に揃えるべきか、あるいは他の電子書籍ストアに揃えるべきか考えましたが、結局は後者、つまり30ページ100円の換算にしました。それでも、DLsiteは50%のロイヤリティをくれるので1冊売れるごとに50円の収益です。この収益は即売会で紙本を売る値段から原価を引いた価格に結構近いので、十分満足です。
ところでうちの本は他のストアでは15ページ増えるごとに50円プラスの値段設定にしてますが、DLsiteは100円単位の値段指定しかできません。仕方ないので他のストアで150円で売っている本がDLsiteでは200円にしました。
すると、ちょっと面白いことが起きたのが「でもくらの糸場」シリーズを登録した時期でした。シリーズの1〜2巻がそれぞれ200円となるのですが、3巻からは100円。実はその前日までは100円の本の発売がつづいて毎日3〜5人の読者が待ち構えたていたように購入してくれていたのですが、200円の1〜2巻が出た日にはピタリとを購入が止まって0人に。ところが、3巻が出た日には再び購入が再開し、慌てたように1〜2巻も購入されたのでした。
つまり「新しいシリーズが一冊200円の時は様子見に徹して、100円の3巻から手を出し、面白そうなので全巻揃えた」…という流れが生じたのでした。
思うに、確かにDLsiteでは「同人誌が同人誌の値段で売られている」ことは受け入れられていますが、やはりお金はお金で最低価格の100円以上を出す際には読者のみなさんもちょっと注意している、…ということではないでしょうか。
私の場合はKindleでの販売でつけた価格ルールをDLsiteに持ち込んだ形になっていますが、どうやらそれはそれでDLsiteの読者にも受け入れられたように思えます。
今後の配信活動
DLsiteにはまだ他のストアで配信済みの本を配信開始しただけで、まるっきりの新作を配信したのではないため、その真価を全て見たとは言えません。うちのつぎの新刊は7月15日に実施の「第10回いっせい配信 創作同人2019年7月」に出る予定で、その際にはまた何か新しい動きが見られるかもしれません。
ちなみに、現時点では DLsiteでうちは450件の購入を得られ、3万円近くの収益となりました。KindleやBWで得れた数に比べると全然少ないですが、予期しなかった収穫としては結構いい成績です。(一方で、BOOTHでは購入が2件で収益は200円ですが(^^;)。)
とりあえず成り行きで「43日間の43作品登録」というものをDLsiteで実施したところ、面白い結果を得られました。(パブー登録の46作中2作品は無料なのでDLsiteには登録せず、1作は英語版と日本語版を同梱)
これから、しばらく砂虫さんの作品の情報修正とDLsite、BOOTH登録作業が続きますが、それが終わったら、次はFanza、DiGiket、メロンブックス電子書籍、とらのあな電子書籍にも販路を広げてみようかと思っています。