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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

「創作同人2020年11月」レビュー

2020年11月3日に第14回目となります創作同人電子書籍のいっせい配信企画「創作同人2020年11月」に今回は13名の作家による15の書籍がエントリーしました。今回は少なめですが、せっかくなので全書籍についての紹介文とレビューを書いてみることにしました。

 

「作家個人による書籍の電子配信」に興味のある方には、他の作家がどのような本をどう配信しているかという情報は大変参考になると思いますので、ぜひこのレビューだけでも読んでみて下さい。

 

企画の詳細についてはTogetterのまとめもありますので、よければご参照ください。

togetter.com

私と砂虫さんの本を発行している「まるかふぇ電書」からの今回「いっせい配信」のエントリー作品はこちらでした。

5年3組のモジョリーナ 竜の飼い方教えます17 ねこのつめあわせ

画像クリックでサンプルページが見られます

 

以下が他の作家さんによるエントリー本の紹介です。書影以外で各紹介に添えられている画像は主に私の個人的な勉強のために挑戦してみた各作品の「模写」です。 

2020/11/04                                                                                                                                                                                                          

<紹介>
「一体でも多くピグマリオンを狩る 私がセズの作った最高の作品であるために」

残された時間が少ないアークはピグマリオンを狩り続ける。ツィツェーリアに続きミカを捕らえた彼はパンドラの秘密を知るが…。

セズ・デュマ博士が作り出したピグマリオンたち=「人間に近すぎる30体の人工生命体(HYBID)」は博士の遺言で互いを狩り合う。
愛憎交えて生きる彼らを描くシリーズのシーズン2ー第5巻。

2017年冬コミケット93にて「UMIN'S CLUB」より発行の冊子を電子書籍化。

<なかせ評>
個々に多彩な人格を持ち、様々な感情を抱く人口生命体たちが重厚な人間ドラマを演出する。体の限界を迎えて残り時間が少ないアークの焦りが対立に緊迫感を加える。

<蛇足>
第2シーズンは11月末に公開の6巻で完結とのこと。私自身は実はこのシリーズは無料公開の「STAND BY ME」と、このシーズン2ー第5巻しか読んでいないのですが、シリーズを通して読み進んできた読者にとってはこの巻は手に汗を握る納得のラス前エピソードであったと想像されました。

「遠雷」

 

 

2020/11/05                                                                                                                  

<紹介>
「それは小さいながらもてまひまかけるに足る面白さを秘めています」

一般公募で年刊発行の短編叙情マンガ集。
2001年創刊で20冊目の今年号には20の作家が参加。
「風が吹いている」「コロナ禍で」「星空に花束を」等のテーマごとに編集。
「メタ・パラダイム」より紙書籍版と電子書籍版を同時発行。

<なかせ評>
本文138ページに20の作家の短編。
1作づつ読んだ直後に作者のコメントと編者の秋元なおと氏&おかさんの感想が掲載されているので、それを読んですぐに読み返して同じ作品に違う印象を感じることを繰り返しました。本の厚さ以上の読み応えを感じられる一冊。

<蛇足>
私も参加している本ですが、半数以上が私も含め、「夜」を描いたお話。作家によって違う「夜の表現」に特に目がいきました。

「叙情派ひとつ2020」

2020/11/06                                                                                                               

<紹介>

「たまには体を動かして遊びましょ」

伊月と鏡夜の双子姉弟は方舟学園リベライアへの入学を1月後に控えて早い目に入寮。
その前日、鏡夜に朝稽古をつけるべく伊月はキリエとも傀儡を駆使して戦闘を繰り広げるが…。

9歳の少女の伊月と彼女を前世から溺愛する最強の吸血鬼のキリエ。2人を中心に皇国の守護たち、自動人形たち、異能者たちが繰り広げるアクション・ファンタジー・ストーリー。
WEB連載の長編小説「ろくでなしの花嫁とひとでなしの吸血鬼」の第104〜116話に加筆の上でまとめた第5巻。 伊月の点描エピソー1編、及び成人後の伊月とキリエのエピソード(口淫描写あり)4編も収録。

<なかせ評>

更夜(傀儡)に憑依したキリエに鏡夜と自分自身の体を預けて、それを他の傀儡とイチイバル(魔弾を撃つ巨大なライフル)で攻撃するという伊月の破天荒な「朝稽古」がすさまじい。 学園の入寮後は課外活動として用意されているメガラニカ(フィールド型プラント)の探索で得られる収入で寮生活を充実させる日常がRPG仕立て。探索にキリエが憑依したスレイブユニット2体を伴わせているのが少しチート。

<蛇足>

この巻は伊月、鏡夜、キリエの3人(および伊月とキリエが操る傀儡)のみが登場で(扶桑も一瞬だけ登場)日常的な目的でのみ行動しているお話なので少し物足りない感がありました。前巻の八坂家を取り巻く一族の諍いや弥姉弟のその後が気になるところ。 今回は全般的に鏡夜の目線で語られていたので幾分わかりやすかったのですが、同じ傀儡に憑依しているのが伊月だったりキリエだったり、いつ入れ替わったのかが分からなかったりで、読んでいて混乱しました。

「プライベイト・ヴァンパイア RE104-116」

2020/11/07                                                                                                               

<紹介>

「今の俺みたいにここで帰るのが、貴方のなりたい人間だよ」

同じクラスの白幡雪姫と氷川世奈。雪姫の弟の白幡恵斗。雪姫と恵斗が街中で出会った在日朝鮮人のイ・ソユン。4人は互いや周りとの関わりのなかで「なりたい自分」を探る。
学校内のコミュニケーション不全や街中での差別問題に直面する若者たちの群像劇。
2020年2月のCOMITIA131にて「千秋小梅うめしゃち支店」より発行の自主出版本を電子書籍化。

<なかせ評>

取り扱いが難しい題材をとりあげながら現在の若者たちが直面するリアルを描写する意欲作。「前編」とのことで、今後4人がどのように影響しあい、どう変わっていくかが気になる。

<蛇足>

警官が差別側に加担するような発言をするシーンを見て「え?こんなことあり得るの?」と思う一方で「いや、あっても誰もが話題にすることを避けるから、ただ自分が知らないだけかもしれない」とも思いました。差別問題は共通コンセンサスが得難いがゆえに取り扱いが難しい、と改めて考えさせられました。

「Relation and Bountary 結び目と境い目 前編」

2020/11/08                                                                                                                   

<紹介>

「どうあれ我々は彼を保護したのだ その体を崩すな」

汎宇連の特別巡察使としてイサギを連れ出したライラ。デア・ヌゥルに流れ着き、過ごしていたイサギの説明に彼女はどこか懐疑的。しかし、彼が「地上種」と意思疎通ができることに異様な興味を示す。

どんな言語もすぐ習得してしまう能力の少年が流れ着いた見知らぬ宇宙域で双子の妹を探し求めるSF冒険漫画第4巻。 2019年12月のコミックマーケット97にて「空風館」より発行の自主出版を電子書籍化。

<なかせ評>

デア・ヌゥルと地球の関係が少しだけ解き明かされるこの巻。しかし、ライラもイサギの世話をしていたルールーも彼に明かしていない情報があることが示唆され、謎は深まる。
妹のアサギはどこでどう過ごしているのか、どう探せばいいのかが気になります。
ライラがイサギを連れて行った先の汎宇連の事務局がまるで別世界。これまでで一番SF的な空間描写が楽しい。

<蛇足>

イサギの漂流仲間のプルートの登場シーンが衝撃的。しかし彼の存在もどうやらこの物語の核のひとつである模様。
巻末のおまけカットに登場するアサギの様子を見る限り「彼女は一応無事らしい」ので、少し安堵。

「CHAOS×COSMOS - LOST CHILD in the ASTROVEIN 04」

2020/11/09                                                                                                              

<紹介>

「今日は何の店なんですか」「んー、おもちゃ屋?」
お姉さんから日曜日の待ち合わせに誘われたわたし。 連れて行かれたのは雑居ビルの3階のあるお店だった。
1995年の中学生「わたし」と大学生「お姉さん」が当時のサブカルホビーを交えてデートする 「平成レトロホビー百合」シリーズの第3話を収録。「孟夏賦」の続巻。
2018年11月4日の九州コミティア2にて「うなぎむら」より発行の自主出版本を電子書籍化。

<なかせ評>

1995年のホビーの紹介が、当時を知っている読者なら「マジック:ザ・ギャザリング?」「ニフティー?」「PC-VAN?」等と想像を巡らせられますが、知らない読者にとっては未知の創作のように感じるでしょう。主人公も「お姉さん」がそれを楽しそうにやっている点でしか魅力を感じていない模様で、「紹介」としては少々物足りません。
文章自体は読みやすいですが、「百合好き」&「95年代のサブカルを知っている」読者限定の読み物…という感がありました。

<蛇足>

「お姉さん」が「わたし」を誘った理由、互いに「相手のどこを魅力的に感じるているのか」「どう好きなのか」は語られず、「わたし」が「お姉さん」に付き合う理由も「好き」の一言だけ。読者が2人をどのように「魅力的」と感じるべきかが見えないので「恋愛小説」としても少し物足りません。

「雨月風」

2020/11/10                                                                                                              

<紹介>

「なぜあのおっさんは一人なのに 二人の美少女にじゃれつかれてるような芝居をしているの?」
灼熱の太陽の下、気温36℃。主人公「犬」(キャラ名)は日が暮れるまで過ごせる涼しい場所を求めて目指したのは遠方の超大型スーパー。道連れは二人…ザックスちゃん(バイク)とiPadちゃん。
妄想美少女と会話しながら身の回りの出来事を綴るドット絵(ピクセルアート)描写のエッセイ漫画シリーズ第4話。英訳版も収録。 2020年11月23日のエアコミティア(COMITIA134)にて発行の冊子に収録予定のエピソードを電子書籍で先行配信。

<なかせ評>

酷暑の中で自力で修理した軽量バイクと熱暴走するタブレット端末に翻弄されながら過ごす苦難の道中。「妄想美少女」との会話とそれへのツッコミで作者の考えや心情が細やかに描かれた半日譚だが、楽しい読み物としても成立。

<蛇足>

ドット絵で描かれているのにコストコの店内や開発が頓挫したニュータウンのスケール感がダイレクトに伝わります。電子書籍ならではのカラー絵の挿入に心が震えました。

ピクセルデイズ4The day of hot as hell」

2020/11/11                                                                           

<紹介>

「フューロン分隊とジャムジイの名はさらに轟きそうだ」

猫巫女コルネーリアの予言では霧魔の出現に対応しきれず、戦線は拡大した。しかし、要所要所で霧魔の出鼻をくじき、本隊到着まで時間を稼いでいる部隊があった。

猫剣士たちの戦争と平和を描く長編ファンタジー電子書籍版:第10巻。 自主出版の冊子として2018年8月19日のCOMITIA125にて発行の5章(7)と2019年5月12日のCOMITIA128にて発行の5章(8)を合本の上、注釈などを加筆して電子書籍化。

<なかせ評>

2002年より書き続けられている大河ファンタジー漫画の最終章でこれまでの伏線が回収されはじめ、いよいよその佳境に突入。
多数の人物たちがそれぞれの立ち位置で選ぶ身の振り方がリアル。ちょっとした言動やそのほころびが大きく歴史を左右する事態へ連なる展開が見事。

<蛇足>

自主出版ベースでこれだけの広がりのある作品を展開している作家さんを私は他に知らない。この巻で電子書籍化が紙版の最新刊に追いついたとのこと。電子版でこの作品に出会いった読者はその膨大な配本ペースに慄いたと思われるが、この先は舞村氏の制作ペースにあわせて楽しめると思う。

「フューチャーデイズ5(7+8)」

2020/11/12                                                                           

<紹介>

「タコだって、宇宙へ行く夢をみます。」

海の中、海の生物にまつわるファンタジーイラスト集。 アナログイラスト31枚の一枚毎に短文と筆具紹介と作画解説を添えて構成。

2020年10月にinstagramtwitterで公開の1日1枚イラストのネット投稿をした#inktober作品を電子書籍化。

<なかせ評>

アナログ画材ならではの表現とメルヘンな文章が楽しい1冊。 ボールペンやサインペンのみならず、ホールパンチや綿棒なども繰り出して独特な表現を編み出しているのが面白い。

<蛇足>

「inktober」という活動がネットで広がっているのを私が知ったのは10月下旬で乗り損ねましたが、世界中で多くの人が参加した模様。藤村さんのようにそれを電子書籍化する方も増えればさらに訴求力の高いイベントになると思う。
当書はepubデータが非固定のリフロー型のため、文字の表示サイズによっては絵と文が見開きになったり、めくり返しになったりするのが少し残念。めくり位置指定のepubを簡単に作成できるツールの登場を期待したい。(BCCKSで購入すると作者の意図したページ配置で読める模様)

「神無月に絵を、三十一枚」

2020/11/13                                                             

<紹介>

「月の光にさらした水は毒薬になるのですって」

少女のままに美しく死のうと思い、黄色い月の下に瓶を置いた。
しかしできあがったのはレモネエド

浪漫チック短編漫画集。

1995年4月のCOMITIA32にて「卓上噴水」より発行の合同誌「カルピス」に掲載の表題作と2000年12月のCOMIKET59にて「まるちぷるCAFE」より発行の合同誌「Replicant Dream」に掲載の「真珠海岸」の2作を収録。

<なかせ評>

「はかなさ」を「死」と隣り合わせに語る「少女」性を描いた2作。 とりとめなく、着地点が曖昧なのにちゃんとまとまっている感があって面白い。

<蛇足>

わずか5年で変化した山名さんの顔の描写を見比べるのも興味深い。
「真珠海岸」…「なんかやたらと懐かしいな」と思ったら、私自身が発行した合同誌の収録作だったよ!(^^;) 

y-nakase.jugem.jp

「月とレモネエド

2020/11/14                                           

<紹介>
「じゃあなんでこんなもんを貼って回ってるんだい?」

「ドラコーの血法団」は惑星スカラブラエに潜入した涼子とリカオンをもう捕まえたも同然。しかし、「地下の青空市場」にプシケたちをつれて遊びにきたニュートは「血法団」が涼子の手配書をばらまいていることを知る。

「無限工作社」の謎を追い宇宙を駆けるジャーナリスト鎹涼子を描く長編ハードSFシリーズの第23編(多分)。衛星兵器の設定解説を収録。  
2020年5月のコミティア132にて発行予定だった冊子を6月に書店委託で発行後、11月に電子書籍配信。

<なかせ評>
表題の「地中に作られた『太陽光』発電所」の構築理由が面白く、わけがわからない。「血法団」と涼子(2人)たちのにらみ合いで緊迫した空気にもかかわらず、恋愛映画をみてふにゃけてるプシケが可愛い。

<蛇足>
涼子が2人いるのややこしいが、一緒にいるのがリカオンなのか美由なのかで見分けるような感じになっている。
長編シリーズですが、電子書籍の単話配信でこれが何作目になっているのか確認できる資料がどこにも見当たらなかったので、試しにリストアップしてみました。(これ以外にスピンオフ的な作品や解説本などもあります)

「人類圏 鎹涼子さんシリーズ」
01 ツォルコフスキーハイウェイ
02 幸運発生機
03 病院惑星
04 鞭打たれる星
05 囚人惑星
06 隕石落下なう
07 鳩の餌を作っている会社だけど何でも質問に答えます
08 星を見る顔
09 ワイルドファイア
10 受動的知性体
11氷の惑星にて
12 生物粘土
13 自由機械
14 漂流船ステアパイク
15 廃墟の住人たち
16 人工大陸にて
17 50年の休暇
18 人類の品種改良事業団
19 星間地政学
20 宗教デザイナー
21 惑星スカラブラエ
22 第2の入口
23 地中式太陽光発電

(2021/7/29注:リストの一部に誤りがありました。正しいリストはこちらでご覧ください)

「地中式太陽光発電所」

2020/11/15                                 

<紹介>
「はじめて同人誌を見た。そして自分で作れることも知った。」

マンガを描くことが好きなだった作者は自主出版の即売会を知り、一般公募による漫画集の制作に至る。短編叙情マンガ集「ひとつ」の編纂までの経緯を語る9ページのカラー漫画。

2020年9月のエアコミティアにてその日一日でかきあげるチャレンジ制作の作品を電子書籍化。

<なかせ評>
この仕上がりのカラー絵を9枚も1日で描き上げた作者の力量に感服です。
いきなりの展開といきなりのラストという感じもありますが、同人活動を開始したころの作家心持ちや大阪市の中央公会堂でのイベントの空気感がよく伝わります。 表題の文言は「自分も『たぶん』そう」と思ってられる作家さんも多いと思う。

<蛇足>
短編叙情マンガ集「ひとつ」には私も創刊から欠かさず参加させていただいてます。
私自身が作者の秋元氏と出会ったのは90年代半ばの「COMITIAin大阪(現:関西コミティア)」で、その頃の氏は同人活動で10年の先輩である上に偕成社のコミックFantasyで連載漫画を描かれている「プロ作家」というイメージでした。さらに氏は白井弓子さんと結婚されていて2人サークルで参加で他方、私はまだ独身(^^;)。
なのでラストページのちょっと寂しそうに描かれたイメージはちょっと不思議な感覚でした。

「自分の表現をしないと死んでしまうマグロのようななにかだ、たぶん。」

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以上が今回のエントリー本の紹介です。

私のレビュー中の<紹介>の部分には、それぞれの本の電子書籍ストアでの「内容説明」の文章を「私ならこういう書く」と思った内容で書かせていただきました。電子配信をされている作家さんはよければご参考にして下さい。