なかせっとHatena

漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

エアComitia132extra

エアコミティアが開催されました

先日、2020年5月17日は創作オンリー同人誌即売会「Comitia132extra」の開催日でした。

年に4回、有明ビッグサイトで開催され数千人の作家が本を手売りする「コミティア」。その中で毎年5月5日前後にに開催される回が最大。今年はオリンピックの開催予定で8月から5月に変更の「コミケ」に押し出される形で「コミティア」は5月17日の開催予定でした。

しかし、新型コロナの影響でコミケコミティアをはじめ、大人数を集める漫画イベントがことごとく中止。代わりにその開催予定日にはtwitter上でイベントの公式アカウントや参加予定だった作家たちが「あたかもイベントが実施されている」という程(てい)で書き込みをする「エア開催」がつぎつぎと実施されました。

「#エア春コミ」「#エア名古屋コミティア」「#コミケ」のハッシュタグをつけた「会場に移動中」「設営完了…本日のスペースはこんな感じ(写真つき)」「開会しました〜」等々。もちろん、実際の会場には誰1人足を運んでいないわけですが、twitterの上ではあたかもイベントがにぎやかに開催されているかのように見えます。つまり「イベントを開催していますごっこ」です。

しかし「ごっこ」ながらも、これらの「エアイベント」あわせに作品の新刊を出すサークルは多数あります。ちゃんと印刷所に原稿を入稿してイベント期日に刷り上がった本を確保。そして、その新刊の「通販を開始しました情報」をエアイベントのハッシュタグつきツイートで開催時間中に発信。
 イベント中止が相次ぐ中で大きな打撃を受ける同人印刷の会社の経営を少しでも助けようと、少部数でも印刷しようと作家さんたちは頑張っています。5月17日の#エアコミティアでも多くの作家が新刊を用意した模様です。

エアイベント

まるちぷるCAFEの新刊

かく言う私もエアコミティアあわせで新刊を出しました。現在、その通販をBOOTHにて受け付けています。

nakasette.booth.pm

内容がこれなので、当然のようにこの本は電子配信も同日に開始しました。

エアイベント合わせに新しい本を出された作家さんもそのコンテンツを活用して少しでも資金を回収して今後の活動の一助とするため、その参考にでもなればと思ってまとめた本でした。

「いっせい配信企画」サイトの特設ページ 

しかし、エアイベントに参加してあらためて感じたのは作品の「売り難くさ」でした。エアコミティア当日に通販の依頼が来ましたが、その数はイベント会場で本を買っていく人の数には遠く及びません。「イベント会場に人が集まる」ことで発生する「購買力」は大きく、それこそがイベントの真髄。現物の書籍を目にした読者が「買いたい」と感じる衝動をオンラインではなかなか再現できません。

作品は読まれないことには評価はされず、買われないことには読まれません。まずは読者の購買意欲を後押しするものが必要です。イベントでは「人が集まる」ことがその役目を果たしましたが、オンラインでは「オンラインなりの販売戦略」が必要です。

オンライン用の戦略として私が考えたのは、オンラインで購入できるうえに「入手した手応え」を購入者が即時に感じられる「電子配信作品」にスポットをあてること。また「人を集める」ことができない今は、代わりに「情報を集める」ことでした。

 そこで思いつきですがエアコミティアにあわせて作成したのが「創作同人電子書籍いっせい配信」企画のサイト内の特設ページです。

 

 

 こちらのページに現時点で36点の電子配信作品が紹介にのぼっています。まだまだ、情報を募集しながらページに情報を追加しているので、よければこのブログをごらんの皆さんも「#創作同人電子書籍」のハッシュタグをご活用いただければと思っています。 

twitter.com

エアコミティア作品レビュー 

実は「エアComitia132extra」の「出品作品」を名乗る電子配信作品はBOOK☆WALKERでは13作品BOOTHでは892作品もあります。これらの中で私自身も数点買った作品の紹介を以下に書き綴ろうと思います。

 

2020/05/22記                                                                                    

<紹介>
「今年こそは嘘つくのやめて 好きって言いたい」

悠里は小学生の時についた「異性の唾液を摂取しないと死ぬ病気だ」という嘘で幼馴染の大志と毎日のキスを以来5年間つづけている。いまさら「嘘だった」と明かせない悠里は悩みながらも大志とイチャらぶな日々を過ごす。

「月刊まんがくらぶ」連載で竹書房より単行本化の漫画の追加エピソードを「おでんランチ」より自主出版発行するシリーズ4弾目。 中学3年〜高校入学にかけての過去エピソード「中学3年生のバレンタイン」「もうすぐ入学式」の2編、及びおまけ漫画&カットを収録。

<なかせ評>

客観的にはラブラブはっぴーな2人だが、自分の「嘘」で築いてしまった壁に苛まれる悠里の心情描写が細やかで惹き込まれる。シリーズ全体は「イチャらぶな幼馴染カップル」の小学生〜高校生エピソードに読者をほんわかニヤニヤさせながらも、ときおり悠里が見せるフェチ趣味や大志が見せる独占欲で読者をたじろがせる。その絶妙なバランス感覚こそがこの作者さんの真骨頂だと思う。

となりのバカと続く嘘 中学3年生の悠里ちゃん

  

2020/05/23記                                                                                    

<紹介>

「この家にいる動物は昔からこうでね」

13歳の少女の日毬は極端な人見知り。

彼女は父とともに犬2頭と猫2匹と一緒に暮らす祖父の家を訪ねるが、その家の動物たちは人に変身することができた。

「動物は好きだけど大きい人は恐い」な内向的な少女と犬猫たちの交流を描くコメディ4コマシリーズ。

2015年〜17年にかけて「夏草生産農家」より発行のシリーズ4冊子に加えてweb限定公開漫画、シリーズ開始前のラフ漫画、創作過程を綴るメモ等も収録した総集本。

<なかせ評>

基本的に1人でいることが苦にならない主人公であるながらも、時々「人見知り」を克服しようと見せる積極性に好感が持てる。キャラクターごとに書かれている最終設定に至るまでの過程の解説に創作時の作家さんの思考が垣間見えて興味深い。

女の子が行きずりで遊び相手になった犬と猫

 

2020/05/24記                                                                              

 

<紹介>

「自分が当事者になる可能性なんて まるで考えてなかった」

軽い気持ちで「同性愛?あたしは『アリ』だなー」と発言した とも子 はその直後に親友のサチ子に「好きです」と告白されてしまう。美少女の親友とこれからどう接していけばいいかとも子は悩む。

実際の同性愛に直面した女子高生の葛藤を描くコメディ漫画。2015年2月のComitia111に「馬鹿星人」より発行の自主出版誌をエアComitia132extraにて電子化。

<なかせ評>

軽はずみな発言で思わぬ事態を引き起こす展開がとてもリアル。

告白されたことはちょっと嬉しいながらも「親友としてどう対処すべきか」悩む とも子は真摯で好感が持てる。サチ子もまた親友思いのいい子。

話の展開はスムーズで描画も丁寧。100点満点の「百合漫画」。

もしも私が百合ならば

 

2020/05/25記                                                                               

<紹介>

「冗談じゃないわ もしアレがアメリカの街なかに降ってきて ニュースにでもなったら…」

地球付近に出現した宇宙戦艦は侵攻作戦を開始。

そのころ女子高生の芹沢理香はおじーちゃんが作った「全自動洗濯機」が洗濯物を空高く放出してしまい、彼女の下着はジェット気流に乗ってしまった。

作者が20歳前後の1992年に定期発行同人誌「MOON」に連載されたストーリー漫画(第2話で中断)。巨大ロボが出現するまでのストーリーと設定資料を収録。

<なかせ評>

90年ごろの同人活動を経験している者なら身に覚えのある作風と制作経緯。

しかし、その頃の自分の力量を考えると、この作家さんの描画も設定の作り込みも「ただならない」と気づくはず。

巨大ロボットが活動するまえに話が終わってしまっているのが残念。

爆裂電脳ドデガイン!1

 

2020/05/26記                                                                              

<紹介>

「いつまでも同人活動を楽しめたら良いなって思います」

AI技術の発展、出版の未来、電子決済、作家の高齢化。 10年後という「ちょっとリアルに近い未来」の同人活動を描いた4コマ漫画集。

2019年8月のComitia129にて「猫忍荘」より発行の自主出版誌をエアコミティアにて電子配信。

<なかせ評>

新型コロナ以前に書かれた本で、同人活動の未来像がぼんやり、のほほんと描かれています。 わずか6ページですが今あらためて読むとこれが描かれた1年前の起点がなつかしい。

このような「何気ない時代の何気ない思考」を残ることがある意味、自主出版活動の醍醐味。

2030年の同人活動

 

2020/05/27記                                           

<紹介>

引っ込み思案で都会の学校があわず田舎に転校してきた沙姫(さき)。

彼女に真っ先に声をかけてきたのは方言丸出しのみゃーこだった。

8編の1ページ漫画でつづる2人の女子高生の出会いの1日。

 

2019年5月のComitia128にて「APRICO*」より発行の自主出版誌をエアコミティアにて電子配信。

<なかせ評>

「連載の第1話のみで本編はこれから?」のような物足りなさはあるものの

百合少女漫画のエッセンスは十分につまっている。

人見知りの沙姫と人懐っこいみゃーこの対比がよいバランス。

絵も可愛く、みゃーこがまくしたてる方言は「声に出して読みたい日本語」。

都会JKと田舎JK【創作百合】

 

2020/05/28記                                           

 

<紹介>

「クリーニングしたばかりのシャツが形を崩したクリームとスポンジで肌と混じっていく」

クリーニング屋店員の日高さんは異様な汚れのスーツを持ち込んだ不動さんと知り合う。

互いに惹かれ合う2人は度々ともに食事(不動さんのおごり)をする仲に。

日高さんの誕生日に不動さんは手作りのケーキを用意するが…。

(18禁表現無しで)淫らな行為へと進展しいく2人を描く読み切り百合漫画。

2018年2月のComitia123にて「おおきめログハウス」より発行の自主出版誌をエアコミティアにて電子配信。

<なかせ評>

フェチズム漂う着衣エロ漫画。

物語の時系列が前後しながら進行するので因果関係が読み解きにくいが、淫靡な雰囲気がそれでむしろ増している。

作者のツイッターに全ページ掲載されているので内容はそれで十分読めるのですが、あえて手元にとっておきたいと思って購入しました。

あれは蜂蜜じゃなかった

 

2020/05/29記             

 <紹介>

「90年代の同人誌の熱気のようなものを少しでも感じていただけたら幸いです」

三蔵法師の一行は悟空の不在中に山中で縛られている女を助ける。その夜に三蔵は具合が悪くなり床に伏すが…。

西遊記をモチーフに描かれたバトルアクションの短編漫画集。

1992年〜1994年に合同誌サークル「ハーベストホーム」発行の「鉛の飛行船」に掲載されたシリーズ3作を収録。

<なかせ評>

緻密な筆致で描かれた圧巻のバトル漫画。 大友克洋先生、士郎正宗先生を敬愛する作者が20代の情熱を注ぎ込んで描き上げ、作者ご本人も「もう描けない」とあとがきに記すほどの至高の作。 特にイルカとして描いている沙悟浄のキャラデザインが独創的ですばらしい。

<蛇足>

この力作の存在をご存知だった方は結構いるようですが、私は知らずにいて「よくそれで創作同人を語れたなぁ」と気恥ずかしくなりました。さらにはそんな作品に100円で出会えたという驚き。電子でなければ有りえない値段だし、「エアコミティア」という機会がなければ発行されなかったであろうと思うので、いろいろ考えさせられます。

西遊真詮