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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

第7回いっせい配信企画「創作同人2018年7月」

7回目の開催

7月16日(海の日)に第7回目の創作同人電子書籍の「いっせい配信」企画「創作同人2018年7月」が実施されます。BOOK☆WALKERAmazon Kindle楽天Kobo その他様々な電子書籍ストアにてこの日の前後に作家が自ら配信する電子書籍が数多く出ます。

 

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現時点で企画には15名の作家の合計25作品の配信登録が確認されており、さらにエントリーは増える模様です。これらの本は現時点ですでに予約購入可能です。

今回は以前にも企画参加されて企画を再度活用されている作家さんが多く、また、はじめて電子書籍の配信に乗り出した作家さんが新たに2名加わり、企画が配信活動の普及への一助になっていることを嬉しく思う次第です。


「まるかふぇ電書」の本

 当方の「まるかふぇ電書」からは今回も、以下の4冊の本が企画エントリーで7月16日に配信されます。

 

 

 

 

 興味があるタイトルがありましたら、お好みの電子書籍ストアにて予約して下さい。特に、私としては砂虫さんが出した猫エッセイ漫画「ねこと」がお勧めですので、是非一度チェックを。

電子書籍配信に関連する動向

さて、まだまだ浸透の初期段階にあると言っていいと思われます「電子書籍の自主配信」という活動ですが、最近いくつか驚くことがあったので特筆しておきたいと思います。

まずは以前よりシステムの不良で使えない状況にありましたマグネット.VCが7月31日にサービスを終了することとなりました。

マグネット Publishing サービス終了のお知らせ

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出版業界では電子書籍の配信で最も使われているEPUB形式の漫画データを作成する上で最もビジュアルで分かりやすいシステムとして、以前より私も力を注いで紹介していたマグネットがついになくなります。とくに「パソコンを持ってなくてスマホiPadだけで手軽にEPUB漫画データの作成を試行したい」という作家さんにとっては、これは唯一の手段だったのでとても残念です。

ただ、パソコンを持っていてEPUBデータを簡単に作成したいと思われている作家さんには、他にもいろいろ手段がありますので、今後はそちらをご活用下さい。 

 もうひとつ驚いたニュースはAmazonKindleの中に「インディーズマンガ(無料マンガ)」というシステムを組み入れたこと。 

これまで日本の同人漫画家の世界とはどこか一線を画していた印象だったAmazonがどうやら同人作家の獲得に乗り出してきたようです。 

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  この新システムの新しいポイントはまず2つ

ひとつ目は「はじめて個人配信でKindleに無料の本を登録できるシステムが提供されたこと」。これまでKindleは「無料の本の配信は取り扱わない」というのが基本姿勢でした。しかし、Kindleには個人配信で無料の本はいくつかあります。これらはKindleにて有料で配信登録した後に他のストアで無料で配信し、「他店で0円」になっていることをAmazonに報告することで値段を下げるという裏ルートでした。今回のシステムははじめての「無料本」配信の正式ルートです。

ただし「すでに有料本として配信している本をこれで無料化」とか「一度こちらで無料で公開した内容を収録した本の有料化」は禁止としているようなので、他のストアでの無料化と違って、十分考えて使った方がよさそうです。

もうひとつ新しいポイントは、このシステムでは画像を1枚づつアップロードすることでKindle本が作れること。しかも、このシステムはスマホiPadでも使えます。なんだったらご自身のスマホのフォトアルバムに登録した画像を順番にアップロードして電子書籍に仕立てることもできます。(実際にそうしたと思われる本もいくつか登録されています)出版社が出している本と同じ土俵に自分の本を並べるたい方にとっては最もハードルの低い手段です。

ただし、実は画像を1枚ずつアップロードする際の待ち時間が結構かかるのでまどろっこしいです。30枚以上画像をアップロードする際はepub、mobi等のデータにまとめてからアップロードすることをAmazon側も勧めています。また、epubでアップロードすればできあがったKindle本にシステム側では作成してくれない「理論目次」がつけられます。

 

さて、ここまでは他の個人配信可能なストアでは当たり前についていた「無料配信」の方法にKindleも乗り出しただけの話に思えますが、Amazonはこのシステムで登録された無料本にランキングをつけて、月間の「上位20名」に選ばれた漫画家個人に10万円の分配金を払われるというルールを付け加えました。

こうなると、話の注目度がちょっと違ってきます。漫画を長らく描いているひとならひとつふたつ「これなら無料閲覧に公開してもいい…むしろ読者にお金を払ってもらうのは気がひける」という作品を抱えていることが多い。その作品を登録すればうまくいくと10万円もらえる、…という話です。Amazonはまずこの企画を半年続けるために2000万円の基金を用意しています。

これはいわば、少なくとも半年間出される電子雑誌「月刊漫画Kindle」の創刊です。そして、10万円獲得のために作品を出した作家さんはSNSを駆使してKindleの宣伝を拡散してくれるから「営業いらず」。そう考えるとこの「月刊漫画Kindle」は出版社の各社が出しているものよりも効率がよく、しかも低予算で済む電子雑誌です。

Amazonがどのようなカラクリで儲けるかについてはまた機会を改めて解説したいと思います)

「この波に乗らない手はない」と私も思いました。そこでこのシステムに登録してみたのがこちらの本です。

 実は以前はマグネットで無料公開していたものだった本ですが、マグネットが上記のような状況で、発行から3年も経ってると情報が古くなり、今さら有料では出せないと悩んでいた本でした。マグネットがなくなるので、ちょうど渡りに船でKindleの「無料マンガ」にして、他のストアにも無料本として登録しましたが、はてさてどうなるか。

いずれにせよ、まだまだ流動的な電子書籍自主配信の世界です。今後ともいろいろ注視していきたいと思います。