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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

漫画の電子書籍の作成に最適システムが完成

以前に私はこちらのブログで「漫画の作家が電子書籍の自主出版に乗り出す」際に問題となる「データ作りの難しさ」について言及しました。

 

漫画の電子書籍は「すべてのページを同サイズの画像データ」として作成し、それを「束ねただけ」の非常に簡単な原理のものです。しかし、それをリーダー端末やスマホなどに「電子書籍データ」として認識させ、ちゃんと表示させるには特殊な仕様が必要です。

 

その仕様のデータ作成に、これまではAmazon Kindleが公開している「Kindle Comic Creator(KCC)」が「最も使いやすいツール」という認識が広かったと思われます。しかしこの度、これを上回る「機能」と「使い易さ」のシステムが登場しました。

 

マグネット」が無料公開しているオンラインの電子書籍作成システムです。

 

 

マグネットはクリエイターのエージェントとして名高い株式会社コルク佐渡島庸平氏が代表取締役を勤める「漫画のオンライン公開」を請け負う会社です。一種の電子書籍ストアですが、ストア本棚を持たず、作家自身が作品の公開リンクをSNS等に貼って広報したり、作成されたデータを他のストアに登録することを主眼とした業態で、2013年より営業しています。

 

こちらの漫画データ作成システムの新たな更新が本日の7月26日に完了が確認され、これからの漫画自主出版の世界を大きく牽引していく仕様に仕上がりました。

 

新しい仕様となったシステムの特徴は以下の3つです。

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 1.すべての電子書籍ストアでデータが利用可能 

 電子書籍で世界的にもっとも標準とされるデータ仕様はEPUBです。EPUB楽天KoboApple iBook、角川BOOK☆WALKER等々の電子書籍ストアで、そしてAmazonKindleでも書籍配信の登録に使用できるデータ仕様です。出版社が電子書籍をストア登録する際に作成するデータもEPUBです。

 

AmazonKindleではこのEPUBの他に「EPUBを内包した」より大きなMOBIというデータも使います。KCCをはじめAmazonが公開している電子書籍作成ツールはこのMOBIしか作成できません。つまり、Kindleでしか使えないデータのみが作れる仕様なのです。電子書籍はストアごとに違う客層がいます。複数のストアで販売したい場合はEPUBが作成できる方が能率的です。

 

マグネットではどのストアでも問題なく使える国際標準に則ったEPUBデータが作成できます。

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2.書籍データに「目次」の埋め込みが利用可能 

電子書籍の標準仕様EPUBには「目次」を表示する機能があります。この「目次」はすべての電子書籍に共通の手順で表示され、目次項目のページに移動するには便利です。ある程度の厚みがある本にはついていて欲しい機能です。

 

出版社から出ている漫画単行本の電子書籍では各話に飛べるよう目次が用意されています。(中にはこの目次作成をおこたっている出版社もありますが(^^;))しかし、個人が自主出版した電子書籍の目次を見ると「表紙」しか目次項目がない本が多いことに気づくでしょう。

 

実はKCCをはじめ、個人が利用可能な多くの漫画電子書籍作成ツールではこの機能は活用されていません。薄い本の場合はこれで特に不便を感じませんが、バックナンバーの総集本を電子書籍で出す作家さんにとっては「指定のページ項目に自動的に飛べる」目次を「作りたくても作れない」状況は不便です。

 

マグネットのシステムでは簡単にこの目次を作成できます。

 

3.パソコンがなくてもiPadスマホで利用可能

電子書籍を読むのはリーダーやipadスマホさえあれば可能で手軽ですが、作るにはパソコンが必要…というのがこれまでの認識だったと思います。データを電子書籍にパッケージするのはちょっと入り組んだ演算で、その処理はスマホのアプリなどにはちょっと難しいからです。

 

しかし、自主出版をしたい漫画作品を持っている人は必ずしもパソコンを持っているとは限りません。漫画制作はまだまだ紙とGペンが主戦力という作家は多い世界です。トーン仕上げだけをスキャン取り込みでパソコンでやっている作家も、使っている機材は10年前のもので、最近のOSへのバージョンアップは既に非対応という場合も少なくないはず。古いOSの上ではKCCも動かないので、電子書籍進出を断念した作家さんも多いと思われます。

 

そういう作家さんでも実はスマホは最新の機種を持っているのが今の時代です。スマホ内のフォトギャラリーに自作のスキャン画像や写メ画像を収納して、擬似電子書籍を再現したりできます。

…いえ、それは「擬似」ではないのです。むしろそれが電子書籍の本質です。

そのフォトギャラリーのデータを「電子書籍仕様」にパッケージさえできれば、それは電子書籍ストアで堂々と売れる本物の「電子書籍」なんです。

 

マグネットはそのパッケージする機能をオンライン上で処理します。インターネットを見るブラウザさえ立ち上がれば、漫画原稿の画像をアップロードしてEPUBデータを作成し、それをダウンロードすることが可能です。

 

これらの3項目に加え、マグネットは一度お使いいただければ分かりますが「ビジュアルで感覚的に使いやすい」システム構成となっています。

  

システム更新の経緯

実はもともと2013年の公開当時からマグネットはデジタル知識を然程必要なく簡単に使えるシステムを提供していました。

 

しかし「機能を全て使うのに必要な登録承認に時間がかかる」「EPUBに収録する画像がアップロードに用いる元データよりボヤケる」「目次を生成する機能を装備してないので総集本には向かない」等の難点がいくつかありました。これらの難点を8月21日のCOMITIA117「紙&電子同時発行」企画に合わせて改善いただいたのが今回の更新です。

コミティアには現在の個人発行電子書籍の市場でも喜ばる作品を持っているものの、デジタルが不得手で配信に乗り出せていない作家さんが大勢います。もともとはこれらの作家さんたちが気軽に電子書籍市場に参入できるシステムが構築できないものか、私がBOOK☆WALKERに相談したことからはじまりました。

 

今年の3月の時点で相談したところ、BOOK☆WALKERは8月に間に合わせて独自にシステム構築するより確実な工程として、すでに使い勝手の良いシステムを公開しているマグネットと相談。その結果、2社の提携で「誰でも『出版社が出しているものと同等仕様の電子書籍データ』を簡単に作れるシステム」が今月完成した次第です。

 

この場を借りて、BOOK☆WALKER社、マグネット社の双方に熱く御礼申し上げます。

ありがとうございます。

 

このシステムをお使いいただければ、どなたにもその使いやすさに納得いただけるものと思います。すでにKCCで作成したデータをKindleで販売されている方も、マグネットで改めてデータを再作成し、さらには他の電子書籍ストアにも登録したくなるのではないか、と思います。

 

初心者の方は使用手順を当方の企画サイトのハウツーページや、BOOK☆WALKER作成の参考サイトでご覧いただけます。(ただいま新仕様にあわせて情報を更新中です)

企画サイト内「ハウツー」

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BOOK☆WALKER「あなたにも出来る電子書籍の作り方」 


しかし、実際に使ってみたら「なんの手ほどきの必要もなくepubを作成できた」という人も多く出るのではないかと思われます。

一度、マグネットにアクセスして、ぜひともお試し下さい。

 

https://magnet.vc/

 

 

<注意>

2016年7月24以前よりマグネットのシステムを使われている作家の皆様にお知らせします。各ページの画像データを現在のマグネットのシステムに再アップロードすることで、生成EPUBの画質が改善される可能性があります。
マグネットの画面に登録のデータに同じページの画像データをアップロードして並べてご比較下さい。画像が良くなってると判断できる場合は全ページの再アップロードをお勧めします。

 

<2016年8月4日追記>

申し訳ありません。

ブログ公開の7月26日の時点でのマグネットの更新では、1)生成されるepubにエラーが含まれ、電子書籍ストアへの配信に活用できない、2)epubのファイル容量が本来必要なサイズの2〜3倍に膨張する、3)「目次作成」の機能がスマホipadでは使用できない、というトラブルが後日発見されました。

 

8月4日にこれらのトラブルは解消されたとの連絡をBOOK☆WALKER側よりいただき、現在のマグネットで生成のepubデータは出版社が配信するものと同等の仕様で問題なくストア登録に活用できます。

 

ただ、一点、マグネットのシステムでは「現在『試し読みページ』の指定機能がスマホで使用できない」という問題点が確認されています。この機能はパソコンやipadでは活用できますが、サンプルページのページ数を作家が指定できるストアでの登録に必要なデータ作成に便利です。この機能をスマホでも活用できるよう以後も働きかけますが、しばらくお待ち下さい。

 

以降、これらの問題についてなんらか変化がありましたらこちらのブログ追記に反映させていただきます。