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漫画家「なかせよしみ」がちょっとまとまった文章を公開するためのブログ

COMITIA117企画と6タイトルの配信

2月頃より半年をかけて準備をしていた8月21日のCOMITIA117がいよいよ明後日の開催です。この日を目標に「紙&電子同時発行」企画と言うものを立案し、方々に働きかけ企画の実現に尽力してきました。

 

詳しい企画の内容はこちらですが…

kami-densi-douji.jimdo.com

簡単に言うと…

漫画家中心にオリジナルな作品作りをしている作家が毎回3000人以上参加している東京で年4回開催のCOMITIAと言うイベント。…そのほとんどが、毎回新しい本を発行して「新刊」として会場内の「見本誌スペース」という空間に集められます。

 

でも、せっかくオリジナルなコンテンツならそれを会場内の限られたスペースに押しとどめるのは勿体無い。新刊を発行する方の中の「有志だけでも」同日に電子書籍として配信し、オンライン上の「見本誌スペース」を設けましょう…という企画です。

 

オンラインにすれば会場内でも見本誌スペースに立ち寄れない人も見ることができます。企画で推奨する角川直営の電子書籍ストア「BOOK☆WALKER」ならサンプルページを立ち読みすることも可能です。また、その日は会場に来られなかった読者さんも見ることができる上、気に入れば電子書籍版を即座に買うこともできます。

 

さらに、この企画に多くの作家が参加すれば、電子書籍市場としても注目を集めます。各人がバラバラに電子書籍を配信する場合より多くの読者の目に止まり、個人発信による電子書籍の市場に活力を与える結果となるはず

 …といった話です。


そして、そんな企画に現時点でエントリーしている電子書籍がこちらです。

>> 書籍リスト - COMITIA117「紙&電子同時発行」企画


 8月19日の16:00時点でのエントリー数は24タイトルですが、まだまだエントリーが増える模様。

 

 そして、このエントリーの中には、うちの「まるかふぇ電書」の本が3タイトル含まれています。また、その3タイトルと同時に「COMITIA117新刊」ではない本をさらに3タイトル…合計6タイトルの本が8月21日に配信開始になります。以下に紹介するのがその6タイトルです。表紙画像をクリックすればサンプルページが読めますのでご参照ください。

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで、今回のCOMITIA117に向けての準備はおおよそ整いました。今回のコミティア電子書籍の企画は、当日会場に来れれる方にとっても、来れない方にとっても、個人配信の電子書籍に興味がある方にとっても、あるいはこれまで興味なかった方にとっても、興味深いものになるものと思います。

 

よろしければ、このCOMITIAについて、またそこで開催の「紙&電子同時配信」企画について、情報を拡散の上でご注視願えればと思います。

 

どうぞ、よろしくお願いします。

漫画の電子書籍の作成に最適システムが完成

以前に私はこちらのブログで「漫画の作家が電子書籍の自主出版に乗り出す」際に問題となる「データ作りの難しさ」について言及しました。

 

漫画の電子書籍は「すべてのページを同サイズの画像データ」として作成し、それを「束ねただけ」の非常に簡単な原理のものです。しかし、それをリーダー端末やスマホなどに「電子書籍データ」として認識させ、ちゃんと表示させるには特殊な仕様が必要です。

 

その仕様のデータ作成に、これまではAmazon Kindleが公開している「Kindle Comic Creator(KCC)」が「最も使いやすいツール」という認識が広かったと思われます。しかしこの度、これを上回る「機能」と「使い易さ」のシステムが登場しました。

 

マグネット」が無料公開しているオンラインの電子書籍作成システムです。

 

 

マグネットはクリエイターのエージェントとして名高い株式会社コルク佐渡島庸平氏が代表取締役を勤める「漫画のオンライン公開」を請け負う会社です。一種の電子書籍ストアですが、ストア本棚を持たず、作家自身が作品の公開リンクをSNS等に貼って広報したり、作成されたデータを他のストアに登録することを主眼とした業態で、2013年より営業しています。

 

こちらの漫画データ作成システムの新たな更新が本日の7月26日に完了が確認され、これからの漫画自主出版の世界を大きく牽引していく仕様に仕上がりました。

 

新しい仕様となったシステムの特徴は以下の3つです。

f:id:y_nakase:20160718064833p:plain

 

 1.すべての電子書籍ストアでデータが利用可能 

 電子書籍で世界的にもっとも標準とされるデータ仕様はEPUBです。EPUB楽天KoboApple iBook、角川BOOK☆WALKER等々の電子書籍ストアで、そしてAmazonKindleでも書籍配信の登録に使用できるデータ仕様です。出版社が電子書籍をストア登録する際に作成するデータもEPUBです。

 

AmazonKindleではこのEPUBの他に「EPUBを内包した」より大きなMOBIというデータも使います。KCCをはじめAmazonが公開している電子書籍作成ツールはこのMOBIしか作成できません。つまり、Kindleでしか使えないデータのみが作れる仕様なのです。電子書籍はストアごとに違う客層がいます。複数のストアで販売したい場合はEPUBが作成できる方が能率的です。

 

マグネットではどのストアでも問題なく使える国際標準に則ったEPUBデータが作成できます。

f:id:y_nakase:20160718064722p:plain

 

2.書籍データに「目次」の埋め込みが利用可能 

電子書籍の標準仕様EPUBには「目次」を表示する機能があります。この「目次」はすべての電子書籍に共通の手順で表示され、目次項目のページに移動するには便利です。ある程度の厚みがある本にはついていて欲しい機能です。

 

出版社から出ている漫画単行本の電子書籍では各話に飛べるよう目次が用意されています。(中にはこの目次作成をおこたっている出版社もありますが(^^;))しかし、個人が自主出版した電子書籍の目次を見ると「表紙」しか目次項目がない本が多いことに気づくでしょう。

 

実はKCCをはじめ、個人が利用可能な多くの漫画電子書籍作成ツールではこの機能は活用されていません。薄い本の場合はこれで特に不便を感じませんが、バックナンバーの総集本を電子書籍で出す作家さんにとっては「指定のページ項目に自動的に飛べる」目次を「作りたくても作れない」状況は不便です。

 

マグネットのシステムでは簡単にこの目次を作成できます。

 

3.パソコンがなくてもiPadスマホで利用可能

電子書籍を読むのはリーダーやipadスマホさえあれば可能で手軽ですが、作るにはパソコンが必要…というのがこれまでの認識だったと思います。データを電子書籍にパッケージするのはちょっと入り組んだ演算で、その処理はスマホのアプリなどにはちょっと難しいからです。

 

しかし、自主出版をしたい漫画作品を持っている人は必ずしもパソコンを持っているとは限りません。漫画制作はまだまだ紙とGペンが主戦力という作家は多い世界です。トーン仕上げだけをスキャン取り込みでパソコンでやっている作家も、使っている機材は10年前のもので、最近のOSへのバージョンアップは既に非対応という場合も少なくないはず。古いOSの上ではKCCも動かないので、電子書籍進出を断念した作家さんも多いと思われます。

 

そういう作家さんでも実はスマホは最新の機種を持っているのが今の時代です。スマホ内のフォトギャラリーに自作のスキャン画像や写メ画像を収納して、擬似電子書籍を再現したりできます。

…いえ、それは「擬似」ではないのです。むしろそれが電子書籍の本質です。

そのフォトギャラリーのデータを「電子書籍仕様」にパッケージさえできれば、それは電子書籍ストアで堂々と売れる本物の「電子書籍」なんです。

 

マグネットはそのパッケージする機能をオンライン上で処理します。インターネットを見るブラウザさえ立ち上がれば、漫画原稿の画像をアップロードしてEPUBデータを作成し、それをダウンロードすることが可能です。

 

これらの3項目に加え、マグネットは一度お使いいただければ分かりますが「ビジュアルで感覚的に使いやすい」システム構成となっています。

  

システム更新の経緯

実はもともと2013年の公開当時からマグネットはデジタル知識を然程必要なく簡単に使えるシステムを提供していました。

 

しかし「機能を全て使うのに必要な登録承認に時間がかかる」「EPUBに収録する画像がアップロードに用いる元データよりボヤケる」「目次を生成する機能を装備してないので総集本には向かない」等の難点がいくつかありました。これらの難点を8月21日のCOMITIA117「紙&電子同時発行」企画に合わせて改善いただいたのが今回の更新です。

コミティアには現在の個人発行電子書籍の市場でも喜ばる作品を持っているものの、デジタルが不得手で配信に乗り出せていない作家さんが大勢います。もともとはこれらの作家さんたちが気軽に電子書籍市場に参入できるシステムが構築できないものか、私がBOOK☆WALKERに相談したことからはじまりました。

 

今年の3月の時点で相談したところ、BOOK☆WALKERは8月に間に合わせて独自にシステム構築するより確実な工程として、すでに使い勝手の良いシステムを公開しているマグネットと相談。その結果、2社の提携で「誰でも『出版社が出しているものと同等仕様の電子書籍データ』を簡単に作れるシステム」が今月完成した次第です。

 

この場を借りて、BOOK☆WALKER社、マグネット社の双方に熱く御礼申し上げます。

ありがとうございます。

 

このシステムをお使いいただければ、どなたにもその使いやすさに納得いただけるものと思います。すでにKCCで作成したデータをKindleで販売されている方も、マグネットで改めてデータを再作成し、さらには他の電子書籍ストアにも登録したくなるのではないか、と思います。

 

初心者の方は使用手順を当方の企画サイトのハウツーページや、BOOK☆WALKER作成の参考サイトでご覧いただけます。(ただいま新仕様にあわせて情報を更新中です)

企画サイト内「ハウツー」

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BOOK☆WALKER「あなたにも出来る電子書籍の作り方」 


しかし、実際に使ってみたら「なんの手ほどきの必要もなくepubを作成できた」という人も多く出るのではないかと思われます。

一度、マグネットにアクセスして、ぜひともお試し下さい。

 

https://magnet.vc/

 

 

<注意>

2016年7月24以前よりマグネットのシステムを使われている作家の皆様にお知らせします。各ページの画像データを現在のマグネットのシステムに再アップロードすることで、生成EPUBの画質が改善される可能性があります。
マグネットの画面に登録のデータに同じページの画像データをアップロードして並べてご比較下さい。画像が良くなってると判断できる場合は全ページの再アップロードをお勧めします。

 

<2016年8月4日追記>

申し訳ありません。

ブログ公開の7月26日の時点でのマグネットの更新では、1)生成されるepubにエラーが含まれ、電子書籍ストアへの配信に活用できない、2)epubのファイル容量が本来必要なサイズの2〜3倍に膨張する、3)「目次作成」の機能がスマホipadでは使用できない、というトラブルが後日発見されました。

 

8月4日にこれらのトラブルは解消されたとの連絡をBOOK☆WALKER側よりいただき、現在のマグネットで生成のepubデータは出版社が配信するものと同等の仕様で問題なくストア登録に活用できます。

 

ただ、一点、マグネットのシステムでは「現在『試し読みページ』の指定機能がスマホで使用できない」という問題点が確認されています。この機能はパソコンやipadでは活用できますが、サンプルページのページ数を作家が指定できるストアでの登録に必要なデータ作成に便利です。この機能をスマホでも活用できるよう以後も働きかけますが、しばらくお待ち下さい。

 

以降、これらの問題についてなんらか変化がありましたらこちらのブログ追記に反映させていただきます。

 

 

5月5日5タイトル同時発行の結果

8月21日のCOMITIA117「紙&電子同時発行」企画の実施に先立って、

 

一つの実験として、先月の5月5日のCOMITIA116の開催日に、「まるかふぇ電書」は以下の5つのタイトルの本を電子書籍で同日発行してみました。このうち「でもくらの糸場3」はその日の「コミティアの新刊」、つまり「紙&電子同日発行」の形をとりました。

以下に、その後1か月間のKindleでの販売状況を参考のために公開したいと思います。

 

 

 

 

 

 



  
https://itunes.apple.com/jp/book/id1076143016 
 http://bookwalker.jp/deae1b5f77-20a7-4ab2-8d0a-51915d710609/
 

 

5つの電子書籍Kindleでの1か月間の販売数は以下の通りでした。

 

でもくらちゃん book1    …53部

でもくらの糸場1     …67部

でもくらの糸場2     …56部

でもくらの糸場3     …52部

もの申さぬ肉たちとの戯れ  …65部 

 

販売の推移をグラフにまとめると以下のようになります。比較の対象として今年の1月に販売した餅漫画の「発売から1か月間」の推移と並べてみました。

f:id:y_nakase:20160606083712j:plain

 

 このように、1か月間の販売はどの本も継続的に続いているものの、やはり1月の餅漫画に比べるとかなり少ない販売数となっています。本の発行に関する情報の発信元が1個人だけの場合の限界かもしれません。

 

ただ、それまでの当方から配信された電子書籍の1か月間の販売数を比較してみると、意外なことも判明しました。

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1冊ずつ、単発で発信した場合に比べて、5冊同時に出した方が明らかに2倍以上の売り上げにつながっていました。

 

やはり、同日により多くの作家がなるべく多くの本を発信する方が、個々の販売数が伸びると考えて問題ないと思います。そんなわけで多くの作家が参加するであろう8月21日のComitia117企画には大きな成果が期待できそうです。

f:id:y_nakase:20160228142610j:plain

 

なお、Comitia117サークル参加申し込み期限は6月18日(オンラインの場合は21日)となっており、そろそろ迫って参りました。コミティアに参加を現在検討されている作家さんは、このデータを検討の一助としてください。

 

ちなみに、その5月5日のコミティアの新刊「でもくらの糸場3」の販売数は例年の数値を少し下回りましたが、下落幅は販売数の1割以下だったので、「誤差の範囲内」と考えて差し支えないと思います。

電子書籍の販売によって紙書籍の販売数が落ち込むことを懸念されているサークルには「心配いりません」と言って良いと思います。むしろ、電子書籍の同日販売がより多くの読者の獲得になることをご期待いただければ、と思います。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

5月5日に5タイトルを同時発行

 「紙&電子同時発行企画」のCOMITIA117は8月21日のまだ110日後ですが、その前の回の5月5日のCOMITIA116がもう目前に迫っています。

 

 実はこのイベント日に合わせて「まるかふぇ電書」では私と砂虫さんの電子書籍を同時に5タイトル発行しようと準備をすすめていました。そのうちの「でもくらの糸場」シリーズの3巻目は5月5日の新刊、すなわち「紙&電子同日発行」になります。

 

COMITIA117で大勢で同時配信する企画になっていますが、一個人の配信の場合でも「同日発行」がどのように影響するか確認したい意味もありますので、よろしければご参照下さい。

 

 

表紙をクリックするとサンプルページが表示されます

内容:61p
価格:200円
容量:12.4MB
  
https://itunes.apple.com/jp/book/id1076143016 
 http://bookwalker.jp/deae1b5f77-20a7-4ab2-8d0a-51915d710609/ 
 
 

双子から生まれた双子たちの子供たちがみな三つ子。…だから総勢12人。 その向かうところに敵は無し。1997年〜99年にかけて「まるちぷるCAFE」より発行の自費出版誌を中心にシリーズ総集の全4巻の第1弾。

 


表紙をクリックするとサンプルページが表示されます

内容:51p
価格:150円
容量:11.0MB
  
https://itunes.apple.com/jp/book/id1076143016 
 http://bookwalker.jp/deae1b5f77-20a7-4ab2-8d0a-51915d710609/ 
 
 

「あの子ら何人いるんだ?なんで同じ顔?」 
新米女工として糸場に訪れた少女たちが見たものは…。大正9年の「糸場」での少女たちの日常を描くコメディ漫画シリーズ第1弾。 2014年8月のコミティアにて「まるちぷるCAFE」より発行の自主出版誌。近代日本の製糸業について解説する「副読本」も収録。 

 


表紙をクリックするとサンプルページが表示されます

内容:42p
価格:150円
容量:8.7MB
  
https://itunes.apple.com/jp/book/id1076143016 
 http://bookwalker.jp/deae1b5f77-20a7-4ab2-8d0a-51915d710609/ 
 
 

「え?あたいらの糸繰り機はないの!?」
女工としての新しい暮らしをはじめたマーコとトーコの仕事は糸繰りではなかった。大正9年の「糸場」での少女たちの日常を描くコメディ漫画シリーズ第2弾。 2015年5月のコミティアにて「まるちぷるCAFE」より発行の自主出版誌。生糸と糸繰りについて解説する「副読本」も収録。

 


表紙をクリックするとサンプルページが表示されます

内容:35p
価格:100円
容量:9.1MB
https://www.amazon.co.jp/dp/B01F1HMSII 
https://itunes.apple.com/jp/book/id1076143016
 http://bookwalker.jp/deae1b5f77-20a7-4ab2-8d0a-51915d710609/  
  
 

「なんで思った通りに動かないんだ?」
 マーコとトーコが練り上げた秘密の糸繰り作戦はいきなり暗礁に乗り上げた。 大正9年の「糸場」での少女たちの日常を描くコメディ漫画シリーズ第3弾。 2016年8月のコミティアにて「まるちぷるCAFE」より発行の自主出版誌。富岡製糸場について解説する「副読本」も収録。

 


表紙をクリックするとサンプルページが表示されます

内容:25p
価格:100円
容量:5.1MB
  
https://itunes.apple.com/jp/book/id1076143016 
 http://bookwalker.jp/deae1b5f77-20a7-4ab2-8d0a-51915d710609/
 
 

「私の部屋はジャングルだった」
月下美人、雫石、グリーンネックレスセダム。「多肉」とよばれる可愛らしいが気難しい緑たちとのおつきあい。食漫画シリーズ「もぐもぐ」の砂虫隼が綴る「園芸」エッセイ漫画。2014年5月に「乱痴気事虫所」より発行の自費出版誌。

 

 

COMITIA117「紙&電子同時発行」企画を始動

「COMITIA116」にサークル参加を申し込まれた方は参加証を受け取り、イベント参加の準備を進められている頃合いと思います。コミティア史上2番目の規模の「5400サークル」の「創作ONLY同人漫画イベント」が5月5日にビッグサイトで開催されます。それから3ヶ月後の8月12日~14日にビッグサイトコミックマーケットが開催され、その翌週の8月21日に開催されるのが次々回コミティアつまり「COMITIA117」です。

 

 まだ5ヶ月も先のイベントですが…

 

実はここ1ヶ月あまり、私はこの夏コミティアに向けてある「企画」のために動きはじめていました。

 題してCOMITIA117「紙&電子同時発行」企画 

 

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これはコミティアに参加している作家さんに漫画電子書籍の市場参入をお勧めする企画ですが、実は「パソコンを持たないアナログ作画の作家さん」も参加できるお話です。

 

     ↓ 詳しくはこちらをご覧下さい。

kami-densi-douji.jimdo.com




 以下にこの企画の発足までの経緯と企画の概要を説明します。

 

「企画」発足の経緯

2012年より漫画の電子書籍化に乗り出している私ですが、…2013年に「コミティアX3」にて「電子出版書店」企画で20サークルの本のPDFデータを預かり、それをダウンロードできる「チケット」を手渡し販売する企画を立てたり、その後5つの電子書籍ストアで30タイトルの漫画を配信したこともあり、即売会などで会う人からちょくちょく相談を持ちかけられます。

 

そんな中で、時々来るのが…

「有償でいいから、自分の漫画を自分の代わりに電子書籍化してストアで売ってくれない?」というご相談。これには私はどう対応していいかちょっと困ってしまいます。

 

 実は漫画原稿の電子書籍化と複数のストアでの販売を代行する業者はすでに世の中に存在します。

 

 最近は見かけなくなりましたが、少し前はコミティアでもそういう業者の営業がサークルスペースを一つずつ回っていました。彼らは机に置かれた本を一切買おうとも開こうともせずに「電子書籍に興味ありませんか?」と尋ねていました。

 

 私はそういう業者を活用することには否定的です。

 

電子書籍化作業は要領を得れば誰でも単純にこなせる作業ですが、トライ&エラーの繰り返しも結構あります。そんな作業のたびに「お金をかける」のは漫画を描くのにペンをインクにつけるたびに「お金をかける」ことと同等です。

 

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 自主配信の電子書籍においては電子化作業は「創作活動の一環」として作家本人がやるべきと私は考えています。だから、相談をして来た相手には心を鬼にして「電子書籍化作業の要領を習得して下さい」と言えばいいのかもしれません。しかし、電子書籍をとりまく現況もそれほど生易しくはありません。

 

 電子書籍の配信登録はPixivにjpegの画像ファイルをアップロードして画像の説明を書き込むのと要領は同じです。ただ「jpegの画像ファイル」の代わりに用いるのが「epub電子書籍ファイル」。(Kindleではepubを内包したmobiを使用します。)この「epubの書籍ファイル」は構造が複雑で簡単に作れないのです。

 

 実はすでに電子書籍を個人配信している多くの作家さんもepubを詳しくは理解していません。私はepubを作成ソフト等活用せずに「自作」していますが、まだまだ理解しているとは言い難い状況です。そのせいで、電子書籍をダウンロードするとしばしば「ファイル作成を失敗している作品」を見かけます。

 

 失敗の原因はepubというファイル形式が「漫画」にも「小説」にも用いられるものなのに「漫画本作り」に特化したepubを制作できるソフトが少ないことです。市販の「漫画制作用ソフト」にはepub出力の機能を備えているものもあります。しかし、廉価なソフトにはその機能はなく、epub生成だけを目的にソフトを購入する場合は高い買い物になります。

 

 漫画家の間ではKindle用にmobiを生成する「Kindle Comic Converter」が比較的簡単だという評判です。しかし、これを使いながらもファイルサイズが異様に大きい作品や、ページの「のど」と「小口」を逆にしてしまっている作品を見かけます。

 

 epub(mobi)を失敗せずに作れるには結構の知識と経験値が必要です。

しかし、その知識と経験値を習得して電子書籍を出せたとしても、その販売状況はどうでしょう?

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個人配信の電子書籍についてはいくつか華々しい販売成績が話題として流れてきています。

 

しかし、ほとんどの個人配信の漫画電子書籍に読者の手は伸びていません。「配信を開始して半年でようやく10人目の読者が購入」などという話もザラです。2012年以降に私が配信した漫画電子書籍は30タイトルにもなりますが、累計販売数が3桁になっているものは全体の半数ぐらいです。

 

 「電子書籍ユーザーは個人配信漫画にはあまり興味がない」

…というのが私の印象でした。

 

「多分、同人で私を知っている人しか私の電子書籍は買っていない」
「だとすると、電子書籍同人活動の補助にしか使えないかも」
…と思っていました。

 

 たまには同人誌の世界とは縁がなさそうな読者の好意的な感想をネットなどで見かけました。しかし、私の漫画電子書籍の市場に対するイメージはだいたい上記の内容で固まっていました。

 

 「しかし、それでも、それは同人活動の補助としては使えるぞ!」…と思い、先日の1月開催コミティアでは私はセルシスのスペースで「コミティア作家のための電子書籍」という題材で講演をしました。(講演の内容はこのブログの以前の記事で紹介しています)

 

 実はこの講演は昨年12月に私がKADOKAWA直営の電子書籍ストアのBOOK☆WALKERから依頼を受けたものでした。講演内容を12月初旬に担当者と打ち合わせて決め、1月30日まで準備をすすめて行きました。

 

 しかし、実を言うと…

講演当日は、私自身が持つ漫画電子書籍の市場のイメージはもはや上記のものではありませんでした。2016年の1月に私のそれまでの自分の「電子書籍の売り方」の間違いに気づく出来事がありました。

 

 それは「餅マンガ」企画への参加です。

 

 この「餅マンガ」についての話もこのブログの以前の記事で紹介していますが、簡単に説明すると…

 企画自体は「1月8日に『餅』がテーマの漫画電子書籍」を一斉に売ろうというものでした。私は冬コミの新刊としてそれ用に24ページ漫画を作成し、それを電子化して企画にエントリーしました。

 

冬コミで紙の本はいつもよりちょっといいぐらいのペースで売れましたが、電子書籍は2週間で冬コミでの販売数を越え、現在は累計販売数が1500です。1月のコミティアでもこの本を販売しましたが、2月も電子の販売数は冬コミの数量を越えて「3ヶ月連続のコミケ」状況になっています。

 

 この同人誌漫画を買って読みたい読者が即売会の読者より多く電子書籍の市場の中に既にいたのでした。市場には「即売会の補助」程度ではなく、あきらかに「即売会に並ぶ」ポテンシャルがあったのです。私は今までそのポテンシャルを引き出せなかっただけです。

 

その理由は単純でした。 

 

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たとえば、コミケの有名サークルがある日、街中の大きな書店の前で即売会の机を置いて新刊を出した場合、どうでしょう?通りには1日のコミケを超える人口が通過します。有名サークルの活動を聞きつけたファンがちょっとした行列を形成するかもしれません。それでも、コミケの1日に比べたら本の売れ行きはサッパリになるはずです。

 

 これがさらに有名でもなんでもないサークルだったら売れ行きの差はさらに顕著になります。どんなによい本でも多くの読者に手にとってもらうには読者が自ら足をそこに運ぶ「イベント」が必要です。それは電子書籍の市場の中でも同じだったのです。

 

 「餅マンガ」企画にエントリーした電子書籍はわずか8タイトルでした。しかし、その8タイトルが「電子書籍市場」の「イベント」を形成、コミケコミティアに並ぶ購買ポテンシャルを引き出しました。私の本を買った読者は私の既刊の電子書籍にも手を伸ばして下さり、今までに見ないペースで売れています。これも即売会イベントで話題になる本を出した時の動きと同じです。

 

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個人出版電子書籍は「好きなタイミングで配信できる」ことも魅力の一つですが、個々人がバラバラに販売していては市場のポテンシャルを引き出せません。市場の中で「イベント」を作り、参加者全員でその「イベント」について広報することで読者を集め、購買をまとめる必要があります。みんなで足並みをそろえられる「イベント」を構成すれば電子書籍市場のポテンシャルを呼び起こせます。

 

 そんなわけで、電子書籍参入を周りの作家さんにオススメするには二つの課題があることに私は気づきました。

 

1)「多くの作家にとって漫画電子書籍は作るのが難しいこと」
2)「市場のポテンシャルを引き出す『イベント』が必要なこと」

 

 この2つの課題をコミティアに参加している作家さんたちで克服できないか考えました。コミティアの作家さんたちが揃って電子書籍配信できるコンテンツを持ち寄せられる日はいつか。

…それは間違いなく「コミティア当日」です。

 

 しかし、コミティア内には電子書籍に興味があるものの、技術的に難しいという(中にはパソコンさえも持ってない)作家さんも大勢います。そこで私はこの件をBOOK☆WALKERに相談してみました。

 

 BOOK☆WALKERは個人での電子書籍配信に自社ストアを使う作家さんを大募集しています。私は以下の3点を伺いました。

 

1)夏のコミティア直前に大人数の配信を受け入れ可能か?

2)集まった作品群をストア内でまとめてプレゼンテーションすることは可能か?
3)「Pixivでの画像登録なみに簡単」な漫画の登録システムを装備できないか?
(できればコンビニコピー機のスキャン画像とスマホだけでも登録できるシステム)

 

BOOK☆WALKER側はこれらのことが「可能」だと言われたので私は今回の「Comitia117『紙&電子同時配信』企画」を発足する決意をしました。


企画概要

企画はCOMITIA117で「新刊」を発行するサークルなら誰でも自由に参加できます。

 

以下の5つのステップに従って下さい

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
STEP1
COMITIA117にて発売予定の「新刊」を電子書籍のストアでコミティア当日(2016年8月21日)発売開始になるよう配信登録してください。

 

STEP2
電子書籍の書誌には「サークル名」「当日のスペース配置」そして『COMITIA117紙&電子同時発行企画』の文言を入れてください。

ー<実例>ーーーー
(書名)「でもくらの糸場3」
(著者)なかせよしみ
(書誌)
「なんで思った通りに動かないんだ?」。マーコとトーコが練り上げた秘密の糸繰り作戦はいきなり暗礁に乗り上げた。大正9年の「糸場」での少女たちの日常を描くコメディ漫画シリーズ第3弾。2016年8月のコミティアにて「まるちぷるCAFE」より発行の自主出版誌。(本文40ページ)

「COMITIA117紙&電子同時発行企画」参加作品。会場内スペース「お16a」。
ーーーーーーーーー

 

STEP3
電子書籍の「検索キーワード」または「タグ」に『COMITIA117新刊』と記入してストア内の検索で登録書籍がその言葉でヒットするようにしてください。

 

STEP4
ご自身のTwitterFacebook、Pixiv等のSNSやブログなどで新刊情報を発信する際には「COMITIA117紙&電子同時発行企画」参加の情報と企画サイトへのリンクを書き添えてください。「企画サイト」は現在準備中です。

 

STEP5
コミティア当日のサークルスペースで「紙&電子同時発行」ロゴを表示してください。

f:id:y_nakase:20160228142610j:plain

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「STEP 5」を実施するかどうかは各人の自由とします。
ロゴを使用する際のサイズは自由です。サークルで発行のペーパーや本の表紙や本文内や宣伝用web画像内やサークルのサイト内画像およびサークルカットなどでも自由にお使い下さい。

 

 

BOOK☆WALKERの企画協力

この企画に使用する電子書籍ストアの選択は各人の自由ですがKADOKAWA直営の電子書籍ストアBOOK☆WALKERからは以下のような協力が得られる予定です。

 

 1)BOOK☆WALKERに登録された企画参加本が一覧できる特設ページの開設。

8月18日までに登録された書籍の書影が表示されます。19日以降に登録された作品は配信準備が整い次第の表示となります。また、18禁作品の書影閲覧には年齢確認が必要なので全年齢向け作品とは別ページになります。

 

 2)電子書籍のノウハウがなくても利用可能な「epub生成システム」の装備。

epub生成システム」を使えば出版社が配信しているものと同様の漫画電子書籍を配信できます。パソコンがなくてもコンビニコピー機のスキャン画像とスマホだけで利用できます。使用法についてBOOK☆WALKERはわかりやすいマニュアルを用意する予定ですが、この企画サイトの方でもデジタル苦手の方でも簡単にこなせる形に紹介させていただきます。

 

<追記:7月26日のブログ記事でepub生成システムについて紹介しています>

→「漫画の電子書籍の作成に最適システムが完成
http://y-nakase.hatenablog.com/entries/2016/07/26

 

さらにBOOK☆WALKERは作家側で閲覧ページを指定できるサンプル閲覧機能を装備しています。こちらに書籍登録すれば、特設ページはWEB上のコミティア「見本誌スペース」として活用できます。

 

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 中には「紙と電子を同時に発行すると、紙の本の売れ行きが落ちるのでは?」と心配される方も多いと思われます。しかし、コミティアの読者さんは紙への嗜好が強いのでそれほど心配はありません。むしろ、電子書籍が新たな紙の読者を獲得する経路として機能することも期待できます。

 

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 また8月コミティアコミケの翌週で「2週連続で東京には行けないよ」という読者さんも多いです。そんな読者さんのために新刊本をコミティア当日に買える経路を確保できます。


企画応援の「部活動」発足

この企画の情報をより広く知ってもらうためにCOMITIA内の「部活動」を展開します。COMITIA117「紙&電子同時発行」企画 応援部

 …です。

 

 この企画はより多く「電子書籍」に興味のある作家さんに参加いただくことに意義があり、より多く参加いただくことで大きな成果が得られます。

 

この企画は8月21日の実施まで「企画サイト」や「チラシ」等での広報を行う予定ですが、「部員」はこれらの広報活動に各人ができる範囲で協力します。また、それ以外にも「企画」や広報活動についての様々なアイデアを出し合って、検討・実践できればと考えています。

 

応援部はこのような「部活動」に興味のある「部員サークル」を募集します。

 

 企画自体はCOMITIA117に新刊がある作家さんなら誰でも自由に参加できますが、企画情報の拡散活動等に興味のある方は是非、応援部の「部員サークル」としてご協力下さい。入部をご希望のサークルはエントリー・フォームよりご連絡下さい。

 

 なるべく多くのコミティアの作家に漫画電子書籍の配信に乗り出す「機会」を作り、さらに電子書籍市場の持つ購買ポテンシャルをみんなで享受するための企画です。

 

 どうぞ、ご協力をお願いします。

 

 なかせよしみ

 

 ※COMITIAコミティア実行委員会、BOOK☆WALKERは株式会社ブックウォーカー登録商標です。当企画はコミティア実行委員会、及び株式会社ブックウォーカーの了承を得て実施しています。

 

 

 追記:2016年4月1日 企画の公式サイトをオープンしました。

kami-densi-douji.jimdo.com

「餅マンガ」企画とKindle攻略

何度かこのブログにてレポートしています「餅マンガ」企画について、そろそろ最終的なまとめを書きたいと思います。

 

電子書籍情報のまとめサイト「きんどるどうでしょう」の「きんどう」氏による呼びかけで「『餅』がテーマの漫画電子書籍を1月8日に一斉に発売」という企画にうちのレーベル「まるかふぇ電書」からは、私と砂虫さん(私の嫁さん)が「餅がたり」と「もちもちのもち」でエントリーしました。そして、1ヶ月が経過。双方とも想像以上に多数の方々にご購入いただきました。

 

本当にありがとうございます。

 

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うちでも初めての試みとして同人誌即売会用の「紙書籍」と「電子書籍」がほぼ同時の発行としましたが、紙書籍版の「餅がたり」はA5サイズの冊子で200円、「もちもちのもち」はB5サイズの冊子で500円。100円で販売する電子書籍に購入が流れて紙の売れ行きが落ちるという懸念もありました。しかし、蓋を開けると紙の本は即売会での売れ行きがむしろ好調。そして、電子は2~3週間で累計販売数が双方とも紙書籍の発行部数を上回る…という思わぬ結果となりました

 

こちらが2冊の本の一ヶ月間のKindleでの販売数です。

 

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双方の本とも販売開始日の初動数が2桁という記録でしたが、…これは2012年より展開の「まるかふぇ電書」でははじめてのできごとでした。さらに、2日目以降の販売も好調を維持…ほぼ横ばい状態で1ヶ月間(徐々に変動幅が大きく、変動周期が長くなっていますが)いままでにない販売ピッチを記録しました。

 

ちなみに、「餅がたり」と「もちもちのもち」で販売数に2倍以上の落差が生じたのは電子書籍の登録ときの手違いのせいと思われます。「餅がたり」は2015年中に電子書籍データが揃い、年末から予約販売が開始されました(グラフのデータは予約数を差し引いた数値)。他方「もちもちのもち」はぎりぎりまで電子書籍データはそろわず、予約販売はできず、1月6日に事前登録したデータを手動で8日から販売開始という形になりました。

 

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このため「餅マンガ」企画のエントリーの中で「もちもちのもち」のみが1月6日付の記載になり、企画エントリー本として検索にひっかかりづらい状況が発生しました。

 

 

企画に参加した作家さんたちも全員また、この日の販売でいままでの電子書籍の記録を塗り替える結果を得た模様です。この初動数値の要因は「ネットでの情報の波及」だと思われます。まずは、企画を立てたのが電子書籍界では注目度が高い「きんどるどうでしょう」だったことは大きい。しかし、同サイトで作品を過去に紹介された作家さんたちもまた、今回は販売記録の塗り替えでした。

 

功を奏したのは「複数の作家」が「同時期」に「同企画」についての情報を発信した点にあると思われます。

 

個々の作家さんたちにはSNSやブログで個々のフォロワーの輪を保有しています。

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今回の企画はその作家たち全員のフォロワーに対して同時にアピールが行われ、企画への注目度をあげ、フォロワーの輪の外側にまで情報を広げる結果となったのでしょう。

 

作家さんたち漫画製作に掛かる長い期間中、「企画参加の決意」「漫画の製作過程」「企画エントリーの状況」「その後の販売状況」といった段階ごとにツイートしたりブログを書いたしていました。その繰り返し情報が「企画」の存在を周知させ、ネット上の話題となり、発売当日に大勢の読者を呼び込んで、大きな初動数を作り出したわけです。

 

参加した作家さんたちはこれで「ネット広報の威力」を再認識する結果となりました。

 

しかし、実は…

この企画がネット上で話題になっていたのは販売開始3日目くらいまで。それ以降は企画の参加作家さんたち販売状況報告以外でのネット上の取り沙汰はほとんでみられませんでした。

 

それなのに、その販売の影響はその後も1ヶ月間も維持されました。少なくとも、2週目でこれらの電子書籍を買われた方々はネットで「餅マンガ」企画の情報にその頃になって気づいて買ったとは考え難いです。これには別の要因が影響したと思われます。

 

おそらく2週目、3週目の時点で今回の「餅マンガ」の情報を読者に手渡したのは「Kindleそのもの」です。

 

Kindle電子書籍を読み終える際にはこんな画面が表示されます。

 

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本を読んだ印象を☆の数で入力する欄とオススメの図書情報が並んでいます。

 

評価の☆数を入力すると感想の記入欄が現れ、文章を記載するとアマゾン内の本のレビューに反映されますが、多くの読者は☆数をなにげなく入力してレビューは記載せずに閉じているでしょう。ところが、その際の☆数もアマゾンはデータとして蓄積している模様です。この画面に並ぶオススメ図書は、その蓄積データより推測される購入者が「次に購入しやすい本」のラインアップです。

 

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この「評価」と「オススメ」の連鎖が次の読者を生み、アマゾン全体の売り上げを増進させるわけです。

 

おそらく、1月8日前後に「餅マンガ」企画とは関係ない本を買われた読者が、後日この画面に到達し、買った日に販売好調だった「餅マンガ」のオススメ情報に接したのでしょう。そして、読んだ結果また好評価をつけて、オススメ情報を次の読者につないでいるわけです。

 

この連鎖に乗るにはそれなりの初動数が必要で、また連鎖の効果は初動数値に比例するものだと思われます。実際に「餅がたり」も「もちもちのもち」もこの連鎖の恩恵に預かれたようですが、初動の差がずっと維持されたことは上記のグラフから読み取れると思います。

 

以上より

Kindle電子書籍の購買を伸ばすにはまず「初動数値をあげる」ことが重要。そして、そのためには…「多くの作家が並行して同一の企画に参加して広報する」ことが有効な手段であることがお分かりになると思います。

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より、多くの作家が参加しやすい「電子書籍企画」を立てること、あるいは、そんな「企画」に参加することが、個々の作家さんがKindleで販売数を伸ばす近道となるわけです。

 

個人発信の電子書籍は何物にしばられず、自由気ままに発信できるのが大きな魅力ですが、たまには、他の作家と歩調を揃えた「企画」への参加も損はないと思われます。企画に参加して読者の目をひければ、すでに登録の他の電子図書にも手を伸ばす読者も増えます。

 

よければこの話を今後の電子書籍での活動の参考にしてみて下さい。

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「コミティア作家のための電子書籍」

注)この記事は2016年2月に書かれたものですが2016年8月より漫画の電子書籍化をとりまく環境に大きな変化がおきました。コミティア電子書籍の現状のご理解には以下の2つの記事もあわせてお読みください。


 

2016年1月31日 東京ビッグサイトにて開催されました創作漫画即売会のComitia115。会場内にセルシスは毎度、様々な「セミナー」が開催されます。この日も3つ行われたセミナーの3コマ目に、電子書籍BOOK☆WALKERの依頼で私が登壇し「マンガ家が電子書籍で稼ぐ方法」という題材で話をさせていただきました。

 

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内容はもっぱら、コミティアに参加されている創作漫画同人誌を自主出版されている方に「電子書籍の活用」を勧める案内でしたが、多くの方々にご参加をいただき、話を聞いていただけました。

 

ただ、即売の開催時間中の企画だったため、「聞きたいけど自分のスペースから離れられなかった」という作家さんも多くいたのではないかと思います。また、私もほぼ「ぶっつけ本番」の談話でしたので、説明が不要領な部分や、あとから補足すべきだったと思った話が多々ありました。

 

そこで、このセミナーのためにせっかくBOOK☆WALKERの担当(根岸氏)にパワーポイント・スライドを作っていただいたこともあるので、それを核にセミナーで私が話した内容を補完しながら再現した文章をイベント後に書き起こしてみました。

 

以下に、その文章をスライド画像とともに記しますので、興味のある方はよければ当日のセミナーを聞いているつもりでご一読ください。

 

 

「マンガ家が電子書籍で稼ぐ方法」

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こちらのセミナースペースにおこしいただき、ありがとうございます。

 

漫画家の中で私は「電子書籍」の配信に乗り出すのが早い方だったと思います。

しかし、断っておきますが、私は「紙の本」が大好きです。

小さい頃から紙の本を大事にするよう教えられ、並んだ本棚を「知」の塊と認識し、読み終えた本を積み上げた時の厚さに満足感を得ながら育った世代です。

 

だから書く方の立場になってもはじめて作品を収録した同人誌を手にした時も、

商業誌デビューした雑誌が本屋に並んでいるのをみた時も、

初の商業単行本が近所の本屋で平置きされているのをみた時も、

感慨はひとしおでした。

 

コミティアにこられている皆さんも同様に紙の本が大好きだと思います。

サークルは机の上に重ねた冊子の厚みに、読者はその日の戦利品をつめたカバンの重みに様々な感情を重ねていることでしょう。

 

しかし、そんな「紙好き」なコミティア常連に次の二つの質問をすると、

大概の人は固まります。

 

「あなたの書庫にはまだ本を追加して大丈夫?」

「3年前に買って読んで感動したあの本を5分以内に取り出せますか?」

 

電子書籍」を「紙書籍」と対峙するモノとして扱われることが多いですが

私は「紙書籍好きだからこそ、併用が活きる電子書籍もある」と考えます。

特にコミティアに参加の作家さんが活用できる「電子書籍」について話をさせていただきます。

 

そんなわけでこのセミナーは「マンガ家が電子書籍で稼ぐ方法」というタイトルのですが…

 

あらかじめ断っておきたいのは「電子書籍」の現況。

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残念ながら、電子書籍の市場は発展の「途上」です。

紙で流通する商業出版とはまだまだ大きな格差をがあります。

それでも現在はコミティアコミケで得られる「読者数」レベルには成長しています。そして電子書籍の普及にはまだまだ「伸びしろ」があります。

 

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現在は新しい携帯電話を買えば、まずは「スマホ」を入手することになります。

 

おかげで、通勤通学の電車の中で新聞や雑誌を読む人はめっきり減り

スマホ画面でSNSを覗いてるかゲームにのめりこんでいる人ばかりです。

これは出版業界にとっては打撃だったようで、現在は底が見えない出版不況になっています。

そのせいなのか、雑誌を離れた独自で作品展開をする作家さんはむしろ増えて、

コミケコミティアはむしろ安定した成長をつづけています。

 

しかし、よく考えるとスマホというのは立派な「電子書籍端末」です。

これは作家にとっては即売会と同様に読者に向けて作品を発表し「読者数」と「原稿料」を「稼げる」手段になりえます。

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即売会がどのように「作家」と「読者」をつなぐ「場」として機能しているかについてはコミティアの会場に通ってられる皆さんには説明する必要はないと思います。最近は商業雑誌と並ぶ新しい作家の登竜門とみることもできることもご存知と思います。

 

しかし、即売会が抱えるいくつかの難点には気づいてないかもしれません。

 

難点の一つはサークルスペースの問題です。

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即売会の参加者はなんと言っても「新刊」という言葉に敏感です。

サークルは「その日の新刊」があるかないかで本の売れ行きが俄然違いますよね。

 

できればコミティアには毎回参加の際は「新刊」を用意したいものです。

だから、まじめなサークルさんは年間4冊の本を出します。

コミケにも参加したら6冊。2年で平置きのA5本が机の表面を覆う面積です。

 

でも、スペースを有効活用しようとして本を立て置くとスペースを訪れた読者さんは立ってる本には手を出しません。

6冊×2列で本を並べた場合も前列の6冊にしか手を伸ばしません。

前列のうち1冊が売り切れた場所に後列の本を置きなおすと、途端にその本が売れ出します。

45センチ×90センチの机面の「売り場」としてのキャパは意外と小さいです。

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もう一つの即売会の難点は本の価格です。

「同人誌が市販の書籍より高い」のは誰もが知っている情報ですね。

 

少部数の本の印刷費は割高なのは当たり前ですが、

この差額をある程度本を買う側が負担する「暗黙のルール」が即売会では成り立っています。

「ある程度」を具体的に言うと「創作同人」の場合は1ページ10円くらいです。

20ページの本なら200円。さらに表紙がカラーなら100円上乗せで300円。

本がB5サイズなら400~500円になります。

 

この価格は200部以上を完売できるサークルには都合がいいです。

印刷費をペイできる上にイベントの参加費プラス、近距離の交通費まで出ます。

しかし、100部が売れるかどうかのサークルは結構苦しい台所事情になります。

料金の安い印刷所で早割キャンペーンを活用したり、コピーの手織り製本で出費を抑えます。

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この価格の問題にもう一つ絡んでくるのが「在庫」の問題です。

 

シリーズものを展開している作家さんは読者から「バックナンバーはないんですか?」と聞かれた経験が必ずあると思います。

完売した第1巻を重版するかどうかはサークルにとっては難しい判断です。

なぜなら初版以上の部数を重版することは滅多にないから。

 

大体は100部刷るかどうかを迷う場合が多く、初版より割高な印刷費になります。

でも「この本は重版なので」と言って販売価格に上乗せできません。

つまり、重版は初版以上に赤字リスクが高いのです。

 

さらに、「在庫」についてはもう一つ悩ましいのは本の販売ペースです。

発売開始して1年ぐらいになると本の売れ行きは著しく落ちます。

一回のイベントに搬入する宅急便の隅に3冊忍ばせて、そのうち2冊を持ち帰ることも多くなります。

 

こういう即売会の持つ難点を解決する手段として、私は電子書籍の活用を提案します。

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電子書籍を販売するためにストアに登録できる本の種類には上限はありません。

作者の名前で検索をかければ販売している本の全てが見やすい形で表示されます。

スペース机とは違い、買う側は本の存在を見落としません。

 

電子書籍を販売する際の価格は大概のストアでは「100円」あるいは「99円」以上なら1円単位で設定できます。

(アップルのiBooksのみ最低価格「50円」から「100円」「150円」「200円」と50円単になっています)

また多くのストアでは「0円」設定の無料本も出せます。

即売会で無料配布本を出す感覚で何か1冊登録して読者への「呼び水」にするのもありです。

 

そして、電子書籍には「在庫数」という概念はありません。

販売を登録してから、それをなんらかの理由で取り下げるまでいつでも本は買えます。取り下げなければストアが存続する限り本は半永久的に「入手可能」です。

ちなみに作家側が販売を取り下げても、すでに購入した読者の読む権利保障されています。そちらもストアが存続するかぎりいつでもデータをダウンロードして読めます。

 

では、電子書籍を即売会活動の助力としてどう活用するかですが…

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私が提唱したいのは、

まず、紙の本を刷る時は「1年以内に確実の完売できる」であろう部数のみにとどめること。そして、その本が売り切れる頃合いに電子書籍版の販売をはじめます。

紙の書籍が完売したら読者側に「電子書籍で入手できます」と案内を出すことができるわけです。

 

なんでしたら、自分が出してる電子書籍の一覧が見えるネットアドレス(URL)を記載した名刺を用意するのもありです。

 

こうすれば、売りにくい在庫を抱える必要なくバックナンバーを確保できます。

そして、このサイクルを繰り返せば、読者の方には「選択の幅」を示すことになります。

 

 「紙媒体で買いたいなら早い目にイベントで」

 「電子が欲しいならしばらく待ってからストアで」

 

 

 ところで、紙の本に比べて電子書籍にはいくつかの利点があります。

 

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電子書籍は紙の本に比べて、まず「ページ設定が自由」です。

紙の本を印刷所に入稿する場合はB5サイズなら本文が4の倍数のページ数、

A5サイズなら8の倍数ページとする必要があります。

電子書籍にはこのしばりはありません。

なんでしたら奇数ページの本を作ることも可能です。

 

また漫画の電子書籍の各ページはJPEGの画像データなのでモノクロでもカラーでもOK。

紙印刷の場合はカラーは割高ですが、電子書籍はカラーが使い放題。

なんでしたら電子書籍版をだす時はカラーページを増やしたり、

あるいは特定の1コマだけを際立たせるために着彩することさえできます。

 

これらの特徴を用いて紙版にはない特典カラーページなどを電子版につけ紙版を買った読者に電子版も「再度買ってもらう」ことも期待できます。

 

また、電子書籍はストア登録のデータをいつでも改定が可能です。

紙の場合は印刷所から刷り上がったのが届いたのを確認して、

その段階で誤字脱字や絵が変になってるコマをみつけてももう手遅れです。

あとは、本を売る際にせいぜい正誤表を挟み込むくらいしか手立てはありません。

 

電子の場合はすぐにデータ修正して登録しなおせます。

修正以降に買った読者には改訂版が届きます。

また、それ以前に買った読者に改訂を連絡して置き換えてくれるサービスのストアもあります。

 

さて、ここで少し電子書籍の仕組みを紹介しておきます。

実は「電子書籍」はかなり曖昧な定義の言葉ですが、

個人が書籍を登録できる最近話題の電子書籍のストア、例えば「アマゾンKindle」「アップルiBooks」「角川BOOK☆WALKER」「楽天Kobo」等々について、

いくつかの誤解がまかり通っています。

 

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一つ目は「専用端末がないと読めない」という誤解。

 

本日のセミナーのこのコマの主催のBOOK☆WALKERさんですが、

BOOK☆WALKERには「専用端末」なるものは存在しません。

前述したように、みなさんがお持ちのスマホ電子書籍端末になります。

 

全てのストアの本を読める無料のアプリがアプリストアで入手可能です。

(ただしiBooksだけはアップル端末専用なのでandroid版アプリはありません)

また、電子書籍をパソコンでも読める手段を用意しているストアも多いです。

おそらく、現在はご自宅に「電子書籍を読める器材が一つもない」という人はあまりいないと思います。

 

二つ目は「電子書籍はネットにつながっていないと読書できない」という誤解。

スマホタブレットのアプリの中にも電子書籍の専用端末の中にも「本棚」があります。読者はその本棚に書籍のデータをダウンロードして、そこから本を開いて読みます。一度、本棚のデータを取り込めば通信を切っても電子書籍は読めます。

 

でも、スマホなどではデータ容量には限りがあるので、

しばらく読まない本については本棚から削除しておいた方がいいでしょう。

本棚から削除しても、ストアの方ではデータは確保されているので、また読みたくなったら、いつでもネットにつないでダウンロードし直せます。

 

三つ目の「個人が電子書籍がストアに書籍を登録するには料金がとられる」という誤解。

自力でストアに本を陳列するところまでは一切お金は発生しません。

電子書籍ストアに並んだ本を読者が買った時点ではじめてお金が動きます。

 

読者が支払った金額の何%かが作者の印税(ロイヤリティ)となり、残りがストア側の取り分です。

印税の総額は月末に集計され、累積である程度の金額を越えれば印税はあなたの銀行口座に振り込まれます。「ある程度の金額」に満たない場合は支払いは翌月に持ち越されます。

 

つまり、赤字になるリスクは一切ありません。

作家は自分の財布から1円もだす必要はなく、1冊目の本が売れた時点でもう黒字です。

 

一時期「Amazonから振り込まれるロイヤリティは銀行の取次ぎ手数料で赤字になる」という噂がありましたが、これもまるっきりのデマでした。

 

では、本の売り上げに対する作家の取り分(ロイヤリティ)についてちょっと紹介します。

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本代が100円の場合の収入額を書いていますが、

商業出版で単行本が出た時の印税10%を考えるとかなり「いい金額」です。

 

「AmazonKindleの利率は70%」という話を聞いている方は多いと思いますが、

これには実は本の価格を250円以上に設定し、さらにAmazon専売に(セレクトに登録)する必要があります。

 

 

さて、ここまで説明した時点で、少し疑問に思われた方がいるかもしれません。

こんな「いいことだらけ」の電子書籍に乗り出す人がまだ少ないのはなぜか?

なぜ自分の周りの作家はこぞって電子書籍で本を売り始めていないのか?

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まず、一番大きいのは「技術的なむずかしさ」だと思います。

さきほど、漫画の電子書籍のページはjpeg画像だと言いましたが、

電子書籍jpeg画像やその他ファイルを詰め込んだepubというファイルを用います。(AmazonKindleではmobiが主流ですがepubでもOKになっています)

 

たとえば、pixivで画像を公開する際にjpegファイルをアップロードしますが

同様に電子書籍を公開する際にストアにepubファイルをアップロードします。

ところがこのepubファイルの作り方がなかなか難しい。

 

このセミナーの後半でBOOK☆WALKERの担当の方がクリスタでのepub出力を実演します。でも、私も実はコミスタ止まりでクリスタは使ってません。

epub出力可能なのは「クリスタEX」のみで「体験版」などでは試せません)

 

ネットを調べればでいろいろepub作成ハウツーを見かけます。

でも「ここの手順が簡単で、問題ないepubはこれでできる」と断言できるところはありません。実は私自身も自分のepub作成手順をネット公開してますが、「それを参考にして自分もできました」と言った人はまだ一人だけです。

 

このepub作成を代行してくれるサービスをしている会社もありますが、

そこらが「電子書籍を始めるのは初期費用が必要」という誤解を生む原因になっていると思います。

なるべくなら自力でやって、販売開始までは費用をかけない方がよいと思います。

 

そのうち、誰でも簡単にepubを作れるシステムが何か普及するか

あるいは電子書籍ストア側がpixivに画像登録をする手軽さで

電子書籍を登録できる登録画面を装備するようになるか…

(私はBOOK☆WALKERさんにこれを期待しています)

何かハードルを下げる動きがあるはずです。

 

もうひとつ、電子書籍に乗り出すのに抵抗感を生んでいるのはお金の流れかもしれません。

即売会では現金を目の前で授受するのに対して、銀行に売り上げが振り込まれます。必ず記録に残る収入は大きな金額になると所得税や消費税がからんでくるのでいろいろ考えないといけません。

 

ただ、幸いといえるかどうか、現在の電子書籍で得られる収入はイベント参加の際の収益レベルです。それ以上、儲かった時の心配は儲かった時点で考えても差し支えないと思います。

 

さらにもうひとつ、電子書籍に対する抵抗になるのは契約の存在ですね。

「契約」にやすやすと乗ってはいけないことは某魔法少女が教えてくれました。

でも、仮にも出版物を世の中に出し、売れた際の金銭を授受する関係をストアと築くわけです。

 

作家側は住所&電話番号&本名などはきっちり連絡し、売り上げを振り込んでもらう銀行口座を指定する必要はあります。とりあえず、信用できる会社が運営するストアだけを相手にすればいいと思います。

 

では、電子書籍を販売するストアをどう選ぶか…

そこらの判断は個々人によって違うと思いますが、参考のために私が選んだストアについてお話しします。

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まず私は2011年にGMOが運営するブクログのPubooで電子書籍の配信をはじめました。(ブクログは昨年末ブックオフが株式の全買取で親会社になってるんですね。…ちょっとびっくり)

ここの「電子書籍」は今、一般で言われる電子書籍とは別もので、オンラインでのブラウザ表示とPDFのダウンロードという形態です。EPUBもダウンロードできますが現時点でここのEPUBは右綴じの漫画誌にはなりません。

 

2012年の秋にAmazonKindleと楽天Koboが日本での電子書籍事業をはじめました。私はこれに真っ先に飛びついた作家の一人です。

Amazonは「専売」する本には高いロイヤリティをつけますが、当時はまだ電子書籍という事業への不信感が強く、PDFファイルを欲しいという人も多かった。だから、パブーの方の存続のためにも私は専売にせずに複数のストアで売ることを選択しました。

 

2013年にiBooksも日本での営業をはじめたので、アップルユーザーの私は即座に飛び込みました。

 

ちなみにKindleiBooksはアメリカの規格。Koboはカナダの規格です。

日本政府の外交政策に不安があったわけではないですが、日本国内の会社でも電子書籍を取り扱いたいと思い、目をつけたのがBOOK☆WALKERでした。

 

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その頃はすでにHonto、Renta、eBookJapan、Kinoppy、ニコニコ静画等々の国産ストアが揃っていました。しかし、いくつか零細ストアが潰れてそこでの購入者は本が読めなくなるという事案も発生していました。

 

BOOK☆WALKERは以前、仕事をした際に堅実な印象があった角川書店の営業するストア。ここなら「ストアがつぶれて電子書籍が読めなくなる」という心配はないと思いました。

 

もうひとつBOOK☆WALKERが良かったのは、

電子書籍専門」のストアでさらに漫画やライトノベルの販売に特化していたこと。

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Amazon楽天は紙書籍と、アップルは音楽やアプリと同じプラットホームで電子書籍を売ってます。

だから、パソコンで見ると書影の横にやたらに余分な情報が画面に表示されます。

でもBOOK☆WALKERでは買う人が買う前に欲しい情報をスクロールせずとも見ることができます。

売るためのキャッチコピー欄があるのもいいですね。

またシリーズの表示も端的で、全部で何巻あるか一目稜線な表示なのでいいです。

 

そんなわけで、私が今、本を取り扱っているストアは5社です。

新しく出た本を5箇所に登録する手間は結構大変で今はこれで手一杯ですが

要領に慣れればまたちょっと増やすかもしれません。

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さて、これまで説明しました通り、自作でepubファイルをストアに登録すれば、

コミティアに来た読者にバックナンバーを入手できる機会を簡単に確保できるわけですが、他にコミティアに縁のない「読者」にも入手のチャンスができます。

 

特に地方在住だったり日曜が休みではない仕事の方で東京のコミティア参加がむずかしい。それでもこの会場に売られている漫画には興味が有るという読者さんはいっぱいいるはず。せっかくならそういう読者にも本を買ってもらいたいですよね。

 

でも、実際に電子書籍を作ってストアで販売開始しても、イベントに参加して本が売れていくようには売れません。いくつか、イベント売りの本とは違う点に注目する必要があります。

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まず、注目すべきなのは本の値段です。

 

同人誌を電子書籍化している作家さんの多くは「電子で安く売ると、イベント会場まで来て紙の本を買っていった読者さんに申し訳ない」と考えて、同人誌の値段をそのまま電子書籍にも当ててます。

 

でもストアの中では大手出版社が出した本と個人が出版した本と区別なく並んでいます。

(…これは自主出版している者にとっての電子書籍のいい点の一つでもでもあるのですが)

そういう並びでは同人誌は異様に「薄いのに高い本」になります。

同人誌の値段は先ほど言いましたように「割高の印刷費を読者が負担する」という暗黙のルールで成り立っています。印刷費が掛からない電子書籍に同じ価格を適応するのは理にかないません。

 

また、現在の電子書籍端末にとって読みやすいデータのサイズは

例えば印刷所にデジタル入稿する際の原稿のデータサイズに比べて5分の1くらい小さいです。最近の同人印刷は市販の雑誌や単行本に比べても鮮明ですので、解像度が高い同人印刷と低い電子書籍を同じ値段にする必要はないと思います。

 

私の場合は、値段設定は商業の単行本の値段を参考にします。

たとえば160ページの漫画単行本が500円くらいで売られていますよね。

その比率で考えると、32ページ以下の本なら100円で売るくらいが妥当じゃないでしょうか。

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もう一つ注目すべきポイントは本の広報活動の必要性です。

 

即売会は「何月何日のどこの会場」と分かっているイベントに読者が足を運びます。そして、その会場を回っているうちにあなたの本にたどりつきます。

 

でも、個人発行の電子書籍は何月何日にストアに並びはじめるかは誰も知りません。「1日24時間、1年365日ストアに並べていればそのうち誰かが見つける」と構えていては毎日膨大な数が発行されている電子書籍の海の中に埋没してしまいます。「自分の電子書籍はここにありますよ」という情報を広める活動がとても大事です。

 

即売会で無料配布のペーパーや本の巻末に電子書籍情報をのせましょう。

即売会に来る漫画好きの読者は来ないけど漫画好きな友達につながっています。

面白い漫画を紹介された友達は電子で入手可能だと知ればストアの中から探し当ててくれます。

 

また、ネットでの広報活動しましょう。

ホームページ、ブログ、あるいはpixivで宣伝しましょう。

twitterfacebookやlineといったSNSにも電子書籍の存在をアピールしましょう。あなたに興味を持ってフォローしている人はあなたの著作にも興味があります。

 

また、作家情報を登録するcircle.msでも最近はKindle情報を書き込む欄ができてるのにはお気づきでしょうか?

 

電子書籍はネットとの親和性が強いメディアでもあります。

ネットでの活動が電子書籍の販売に影響を与えることが多いです。

たとえば、私が投稿した画像がpixivで好評価を得た日は電子書籍がちょっと多く売れたりします。

 

さらにはごく最近の話ですが、

昨年の10月に電子書籍情報のまとめサイト「きんどるどうでしょう」のサイト主「きんどう」氏が「2016年1月8日に「餅」を題材にした漫画の電子書籍を一斉に発売しよう」という企画を持ちかけ、8冊の漫画作品がこれにエントリーしました。その中に、私と砂虫さん(うちの嫁さん)も参加しましたが、

 

私は年末の冬コミの新刊用に、砂虫さんは本日のコミティアの新刊用に前倒しで「餅マンガ」を作成、その本を電子書籍化してエントリーさせました。このネット上企画が注目を浴びたようで、このエントリー作とともにうちが以前から登録していた本も売れ、今年の1月はそれまでの1ヶ月間の売り上げの平均の10倍の売り上げ記録となりました。

 

(この販売のカラクリについてはまた別途ブログにまとめます)

 

これから同様のネット上企画がこの先も出たりすると思いますので、注目していて損はないと思います。

 

 

では、最後にちょっと「経済活動」としてのマンガ出版についての話をしたいと思います。

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現在は漫画という文化を経済活動として行っている最大の主体はなんといっても出版社です。

 

出版社は雑誌を定期的に出して、作家に掲載料としての原稿料を払い、

その後に作品ごとの単行本をまとめて、作家には印税を払って書店に本を卸します。

 

10数年ほど前から出版業界では一部の大手週刊誌を除いて「雑誌は赤字を出しながら発行して、単行本の黒字で赤字を回収する」という形が主流になりました。

つまり「売れる作家の単行本」によって雑誌の経営が回るという形です。

 

どれくらいの作家がこの場合の「売れる作家」になるのか?

このところは初ロットが2~3千冊の単行本というのも見られるようになりましたが、たとえば5000冊刷られた単行本の場合、7割の3500冊が売れれば単行本自体は黒字になります。その黒字で印刷費、流通コスト、出版社内での編集や営業の人件費、そして作家の印税が賄われます。

しかし、それまで連載の原稿料は赤字のままです。

 

雑誌を発行した時の全作家の原稿料、印刷と流通のコスト、出版社の人件費など

すべて賄うにはもっと大きな黒字が必要です。

方々の話を聞くと、どうやら単行本の販売数2万部がラインのようです。

 

2万というのは実は現在、日本にある書店の数と同じです。

書店への配本数はマチマチですが、ざっと言えば、2万部発行の単行本とは

「発売日はどの書店に行っても漫画新刊の棚に1冊はある」というレベルです。

そんな漫画の連載が1本ある雑誌は存続し、2本以上あれば安泰、0本ならいずれ雑誌は消えます。

 

つまり、商業雑誌という経済活動は2万部を出せる作家によって支えられているわけです。それ以下の部数の作家はその2万部のいわば「ぶらさがり」な構図です。

 

他方、電子書籍という経済活動について考えてみましょう。

さきほど「36ページの電子書籍なら100円で売れる」という話をしました。

一番低いロイヤリティーのKindle35%で考えると100円の本が売れて得る収益は35円。つまり、1冊売れたら作家には1ページ1円の原稿料が読者から直接支払われるわけです。

読者10人が買えば原稿料は1ページ10円。

もし、あなたが商業原稿を1ページ8000円で書いてる作家さんなら、電子書籍が8000部売れれば自前で原稿料と同額を得られるわけです。(1万部売れれば商業単行本を出した時の印税額を超える収入が得られます)

 

「経済活動として成り立つポイント」が「2万部」と「8千部」では大きな違いですよね。もし、あなたは8千人以上の読者を得られる作家なら、同じ原稿料を得ながらも「2万部を出す作家にぶらさがっている状況」から脱することもできるわけです。

 

…とは言っても、残念ながら現在の電子書籍にはまだまだ8千人の読者がつく状況はありません。

2013年に単行本を個人出版で出された鈴木みそ先生が3万部売れたというのが話題になりましたが、まだまだレアケースです。

 

でも、電子書籍はまだこれからの媒体です。

スマホなどの端末はこれからどんどん使いやすくなるので購買力の伸びは期待できます。

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最近は日常的にツイッターに流れてくる動画を見て面白ければRTなんてことをしてる人が多いと思います。

 

でも5年前のことを思い出してください。そんなに動画って簡単に扱えましたか?

ネットで動画に出くわした時は再生ボタンを押すかどうか一瞬悩みませんでしたか?

 

IT技術の進歩は想像以上に早いです。

5年以内には雑誌を立ち読みする感覚で「電子書籍サンプルをザッピング」できる可能性は高いです。

 

その5年以内にまたオリンピックの影響をコミケコミティアは受けて、同人界も荒波にもまれます。

たぶん電子書籍に乗り出す作家さんがどっと増えます。

 

もちろん、電子書籍に参加する作家数、購入する読者数がそろってから参入するというのも一つの手です。その頃は、今のpixivや印刷所への原稿入稿なみに電子書籍の制作やストア登録も簡単になっています。

 

ただ、

現在、私はコミティアの中でそこそこ知られた作家ですが、これは多分にTRC時代に活動してその頃話題になる本が出せたことが大きいと思っています。たとえば、今のビッグサイト2~3ホール開催のコミティアから参加をはじめていたら、

私レベルの実力では、多分、今ほどの注目に到達できなかったように思います。

 

現在の電子書籍にはTRC時代のコミティアに似た雰囲気です。まだ、技術的なハードルがあり、電子書籍への馴染みが薄い現在はむしろ絶好のチャンスです。

 

ここで注目される作家になるには、参入すべき時期は今だと思っています。

 

ご静聴ありがとうございます。

 

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以上がセミナーで私がしゃべった内容でした。

これを読んでのご意見、ご感想などありましたら、是非お聞かせください。

 

                           なかせよしみ